七一話 圧倒的
ヒロムと葉王、二人の戦いは激しさを増していた。
「オラァ!!」
ヒロムは銃剣から炎弾を放ちながら葉王を牽制し、さらにそこへ槍から持ち替えたメイアのレイピアによる突きを放ち追い込もうとする。
が、葉王はその攻撃を避けるとともにヒロムの武器を破壊しようとするが、ヒロムは葉王のその攻撃を防ぐ。
互いに相手の一撃を避け、更なる一撃を放とうとする。
「やるねぇ……」
葉王はこれまでと変わらず気の抜けたような話し方で余裕のある表情を保っているが、内心ではヒロムの強さに驚いていたのだ。
(バッツとの戦闘から四日は経つが、さっきまではそこまで大したことの無い成長だと思ってが……この短時間で急激に成長し、オレのスピードとパワーに対応している……)
「どこにそんな力を隠してたのかなぁ!!」
葉王は右手の拳に魔力を集中させると殴りかかり、ヒロムはそれをギリギリで回避する。
だが葉王はそれを見越していたのか、左手に魔力を収束させるとエネルギー波をヒロムに向けて放つ。
「!!」
不意を突かれたヒロムは銃剣とレイピアに白銀の稲妻を纏わせて攻撃を防ぎ、エネルギー波の力に押し飛ばされながらも構え直し、レイピアを光に変え、そしてそれをユリアの持つ杖に作り変える。
「くらえっ!!」
ヒロムはその杖で地面を強く叩き、周囲に黒い魔力の球体を四つ出現させる。
出現した四つの黒い球体は勢いよく葉王に向けて動き出すが、その球体の速度は遅かった。
いや、普通に見れば速い方なのだろうが、ここまで戦いを続けてきたヒロムと葉王の繰り出してきた攻撃と比べると遅い方だ。
が、それを命中させるため、テミスとアルカ、そしてヒロムは武器を構え、葉王の動きを封じるように弾丸を放つ。
「……何のつもりだぁ?」
葉王は呆れてため息をつく他なく、迫り来る弾丸を避け、そしてそれに遅れて迫っていた黒い球体も何の苦労もなく避けてしまう。
「こんなのがオレに当たるとでも……」
「……弾けろ、重縛!!」
葉王が避けた黒い球体は葉王の背後でヒロムの合図とともに炸裂し、それとともに葉王は黒い魔力により地面へと押しつけられる。
「ぐぅ……!!」
葉王は何とかして体勢を立て直そうと耐えるが、黒い魔力による圧は強くなっていき、葉王の体は自身の意思に反して徐々に地へ跪くように体勢が低くなっていく。
「この……!!」
抵抗しようとすればするほど圧は強くなり、葉王は気づけば地面に手をついていた。
するとヒロムはその隙を逃さぬように杖を投げ捨てると銃剣に備えられた弾倉を左手で勢いよく回転させる。
五回、弾倉を五回転させるとヒロムは左手に白銀の稲妻を纏わせ、その手で弾倉を勢いよく回転させる。
六回目の回転、それと同時に銃剣は爆炎に包まれ、白銀の稲妻を帯びながら力を増幅させていく。
ヒロムは狙いを葉王に定めると構え、そして引き金に指をかける。
「くらってたまるかぁ……」
葉王はどうにかして回避行動に移ろうと試みるが、自身を押し潰そうとする重力の力は強まる一方で弱る気配がない。
そのため、動きたくても身動きが取れないのだ。
「終わりだ、葉王!! 」
「……くそったれがぁ……」
「フルバレット・バスター!!」
ヒロムが引き金を引くと同時にビーム状に炎と稲妻がエネルギー波として放たれ、葉王はそれに襲われ、ハオを襲うとともにその周囲はその一撃により生じた戦塵に覆われてしまう。
一撃を放った銃剣は光の粒子となって消えてしまうが、ヒロムは葉王の動向を警戒しながらマリアのガントレット、フレイの大剣を装備した。
フレイたちも葉王の動きを気にしながらもヒロムのもとへ駆けつけ、そしてヒロムを守るようにヒロムの前に立つ。
「マスター、大丈夫ですか?」
「ああ、問題な……」
「油断してんのかぁ?」
背後から声がし、その声に反応するようにヒロムが振り返るとそこには葉王がおり、葉王はヒロムが防御に移る前にヒロムの顔を殴る。
「!!」
「さすがにビックリだぜぇ」
驚いたことを伝えてくる葉王だが、その体には傷もなく、服にも汚れはない。
つまり、あの一撃を……
「防いだのか……!!」
「あの程度で倒せると思ったのかぁ?
心外だなぁ……実に不愉快だよ!!」
葉王は続けて殴ろうとしたが、フレイが大剣でそれを防ぎ、アルカとテミスも近距離で弾丸を放つ。
が、葉王は魔力を自身の前に盾のように展開すると弾丸をすべて防ぎ、そこからアルカとテミスのもとへと一瞬で接近すると二人を蹴り飛ばす。
「くっ……!!」
「同じ手で勝てると思うなよぉ?
オレに勝ちたいならもっと楽しませろ!!」
葉王は続けてフレイとディアナを殴り飛ばし、そしてランファンに攻撃するが、彼女は葉王の攻撃を防ぐと殴り返す。
が、その一撃は届かず、葉王はそれを掴んで止めていた。
「この……」
「その攻撃も当たらないなら意味はない」
葉王はランファンを遠くへと投げ飛ばすと勢いよく体を回転させ、その勢いを利用してヒロムに蹴りを放つ。
が、ヒロムは大剣を盾にしてそれを防ぎ、次なる一撃を喰らわせようとするが、葉王はその動きを読んだのか一瞬でヒロムの背後に移動するとヒロムを蹴り、そしてそこからヒロムの首を掴む。
「ぐぁ……」
「褒めてやるよ、「覇王」姫神ヒロム。
今のオマエは「十家」に属する上位クラスを凌ぐ力を持っている。
素晴らしいことだぁ」
「な、何を……」
「下手すりゃ「十家」の序列下位に位置する当主とやり合っても勝てると思うぜぇ」
けどなぁ、と葉王はヒロムを上空へと投げ捨てるとともに先回りするようにヒロムの行く先、廃工場の天井近くに現れ、魔力を一点に集中させるとそれをビーム状にして放つ。
エネルギー波、そう呼ぶのが妥当だろうか。
投げ捨てられたヒロムは避けることが出来ぬまま直撃を受け、そして地面に叩きつけられ、その力に飲み込まれながら地面に押しつけられていく。
「あああああ!!」
「オマエはオレを久しぶりに本気にさせてくれる強者だが……今のオマエはそれが限界だ」
エネルギー波が消えるとヒロムはボロボロになった状態で倒れており、その身に装備していたガントレットと大剣もすでに砕け散り、体を巡る白銀の稲妻も消えかけていた。
「……くそ……!!」
ヒロムは何とかして立ち上がろうとするが、今の葉王の攻撃によるダメージが大きく、上手く立ち上がれずにまた倒れてしまう。
「こんなところで……倒れられるか……!!」
「……無駄なことを」
葉王は宙に浮いたままヒロムを見下すように見つめ、そして必死に足掻こうとするヒロムのその姿をただ「無駄」と感じていた。
「オマエはたしかに強い……オレにここまで魔力を使わせたヤツは久しぶりだ。
そこは褒めてやるが、オレはオマエに少しガッカリしてる」
「……ああ?」
「オマエの強さの真骨頂はその精霊とともに戦うために磨き上げられた身体能力と連携によるものだ。
だが今のオマエはそれを発揮出来ていない、何故だろうなぁ?」
「知るか……」
「教えてやるよ……オマエは中途半端に力を借りることを覚えたせいで能力者特有の自惚れに毒されてるんだよ。
今まで持ってなかった圧倒的な一撃を借りれば放てる、だからこそオマエの心の中にその弱さが生まれる」
黙れ、とヒロムは葉王の言葉を否定するように言うと何とかして立ち上がると構えようとした。
するとヒロムの服のポケットから何かが抜け落ち、それはゆっくりと地面に着地する。
「……?」
何が落ちたのか?
ヒロムはその正体を確かめるようにそれに目を向け、そしてそれが何かを確認した。
「あ……」
ヒロムが落とした物、それはユリナたちから受け取った御守りにも似たキーホルダー。
四人から受け取り、そしてそれを入れていたのだ。
自分の身を案じた彼女たちからの優しさ。
それは自身に対しての思いやりでもある。
「……負けるわけには……いかねぇな」
ヒロムはしゃがむとそれを拾い上げ、天を見上げてその先にいる葉王を睨んだ。
その瞳には未だ闘志は漲っている。
「……まだやる気かぁ?
オマエじゃオレには……」
「たしかにオレは弱い。
オマエの言う通り、オレは力を借りなきゃオマエと戦えない……」
だけど、とヒロムは消えかけていた白銀の稲妻を大きくして続けるように葉王に告げる。
「そんなオレに力を貸し、オレのことを何よりも思ってくれるかけがえのない存在がいる……!!
その気持ちに応えるためにも……オレはどんな結果であろうと進み続ける!!
それがオレのすべてを犠牲にすることになってもだ……!!」
大丈夫です、とフレイはヒロムのもとへ駆けつけると、ユリナたちから受け取ったキーホルダーを持つヒロムの右手に重ね合わせるように手を乗せる。
「マスターを一人にはさせません。
私たちは咎められることとなってもマスターのそばを離れることはしません」
「フレイ……」
「それがマスターに仕える私たちに出来ること……。
だから、誰に何を言われようともマスターはマスターのやりたいことをやってください。
私たちはそれを全力でサポートします」
「……ありがとうな」
フレイの言葉を聞いたヒロム。
ヒロムは彼女に感謝の言葉を述べると深呼吸をする。
「オレはどんな道でも進む……。
その先にあるものを見るため、仲間を、大切なものを導くために……オレはこの魂を燃やす!!」
ヒロムの決意の言葉とともに白銀の稲妻は今まで以上に大きくなり、そしてフレイたちにも同じように白銀の稲妻が現れる。
その白銀の稲妻の勢いが増すとともにヒロムから発せられる闘志はさらに大きくなり、それを感じ取る葉王は一瞬ではあるが恐怖を感じてしまった。
「コイツ……」
「オレは……オレたちは前に進む!!
その道の先で邪魔するものはすべて潰す!!」
ヒロムたちが身に纏う白銀の稲妻はさらに大きくなり、もはや別人の力と言っていいほどにまで強力になっていた。
と同時に今のヒロムを見た葉王はある確信を得た。
「……間違いないなぁ」
(姫神ヒロム……オマエは特別すぎる。
精霊を複数体も平然と宿すだけじゃない……。
本来能力者は経験と力の制御を積み重ねることで段階を踏むことで強くなる。
だがオマエは違う……これまで鍛え上げてきたその身体能力と精霊と、その精霊より借りし力を……己の意志、そして他者を思うその感情、そして主としてではなく仲間として精霊とともにあろうとするその互いを思い合う絆……感情論で済まされかねないようなそれらだけでオマエは……)
「オマエたちは限界を越えようとしている……!!」
葉王は今のヒロムの姿を見ながら、拳を強く握り、そしてその身に纏う魔力を大きくする。
「感情論とか嫌いなんだがなぁ……認めるしかねぇだろうがぁ……!!
コイツは何よりも特殊で特別だってな……!!」
「何の話か知らねぇし、特別扱いされたくねぇが……オマエを倒せば関係ない!!」
いくぞ、とヒロムはフレイ、そして今駆けつけて来たディアナに告げると光を纏う。
それに合わせてフレイとディアナは光となり、ヒロムと重なり合う。
「ソウル・ハック……クロス・リンク!!
「天剣」フレイ、「星槍」ディアナ!!
光とともにオレを導け!!」
光が一つとなり、大きくなるとともに輝きを放つと、そこからフレイとディアナの力を身に纏い、装いを新たにしたヒロムが現れる。
バッツを倒したあの姿だ。
「クロス・リンク、完了……「天剣流星」!!」
「出しやがったか……」
葉王はこれについて知っていた。
圧倒的な速度とそこから放たれる連撃。
バッツとの一戦では認識することすら出来ぬヒロムのその速度は脳による思考と身体による動きの連動を超えており、バッツは一方的にやられていた。
どれだけ強くても加減しながらの状態で簡単に対処出来るレベルではないのだろう。
が、葉王に多少なりとも加減されている今のヒロムが発動したということはこれを使わなければ勝ち目がないと悟ったのだと葉王自身は察していた。
つまり……
「加減されている今のうちに倒して、オレの本領見る前に終わらせる気かぁ?」
「どうかな……?
これ以上時間費やすのも何だしな……さっさと決めれるなら決めたいだろ?」
「それもそうだなぁ……。
ま、オレとしてはもっと楽しみたいんだよ!!」
葉王は魔力を勢いよく放出するとヒロムに向けて迫ろうとしたが、それよりも速くヒロムが葉王との距離を詰めるように接近し、そこから拳の一撃を放つ。
「!!」
不意を突くかのようなそのスピードに反応が遅れた葉王は顔にその一撃を受け、少し仰け反ってしまう。
初めてだ。
この戦い、これまでヒロムが追い詰められる一方で葉王は攻撃を受けて動じることも攻撃を受けたが故に生じる隙もなかった。
だが今、その隙が出来た!!
「オラァ!!」
ヒロムは好機と思い、すかさず連撃を放ち、それらをすべて葉王に命中させる。
葉王も避けれずにすべて受けてしまい、それにより少しばかりダメージを受けてしまう。
だが、それでもダメージは少しばかりだ。
「まだまだぁ!!」
ヒロムは連撃の手を緩めない、いや緩めようとはしなかった。
この隙を逃せば次に優位に立てるタイミングが来るかわからないからだ。
相手は強い、それをわかっているからこその判断だ。
「オラオラオラオラオラオラ!!」
ヒロムの連撃は徐々に激しさを増し、そしてその一撃は速く、強くなっていた。
そのせいなのか、葉王はただ攻撃を受けるばかりで反撃の気配はない。
ならば好都合、ヒロムは全身に光と白銀の稲妻を纏うとさらに力を増しながら連撃を放つ。
倒すために、目の前の男を倒して勝つために……
「そんなもんかぁ?」
「!?」
連撃を放つ拳が突然、何の前触れもなく葉王に止められ、そして葉王はヒロムを地上へと蹴り飛ばす。
蹴られたヒロムは何とか体勢を立て直すと着地するが、葉王はヒロムを追うように降下し、ゆっくりと着地する。
「痛かったぜぇ。
さすがはバッツを倒した力だ」
ヒロムの攻撃に対しての言葉なのだろうが、それに反して葉王は何もなかったように平然と立っていた。
多少服に汚れがついたくらいだ。
ヒロムの攻撃で拳が命中したであろう痕跡があるくらいだ。
「この野郎……」
あのバッツですら追い込んだこの姿での攻撃を凌いだ葉王に少し苛立つヒロムだが、冷静になると槍を構えた。
「考えても仕方ない……だったらやれることやるだけだ!!」
『 マスター、援護します。
とにかく攻撃に専念してください』
ディアナからの提案、それを聞いたヒロムはただ頷くと光を身に纏い、狙いを葉王に定めた。
「……任せていいんだな?」
『 おまかせください、マスター。
私は機動力を制御し、フレイは攻撃と防御の制御をします。
ですからマスターは倒すことだけを考えてください』
「助かるぜ……二人とも」
『 この状態だと私もディアナもそれくらいしか役に立てませんからね。
思う存分やってください!!』
よし、とヒロムは走り出すとともに音もなく消え、葉王の背後に瞬時に現れるとともに一撃を放つ。
「へぇ……」
「オラァ!!」
槍での一撃、それが命中する瞬間に葉王は魔力を攻撃が来るであろう部分に集中させて防ぐ。
が、咄嗟の行動なのだろう。
槍の一撃を防いだ魔力は消え、葉王は無防備になってしまう。
「あらら……」
「気に入らねぇ、その余裕!!」
未だ崩れない余裕の葉王に対して力を込めた槍での攻撃を放つが、葉王は両手に魔力を纏わせると次々に来る攻撃を手刀で弾いて防いでしまう。
「コイツ……!!」
「さっきよりは出力上がってるみたいだなぁ。
でも、すぐに終わったら楽しくねぇよなぁ!!」
「はっ……!!
オレはさっさと終わって欲しいんだよ!!」