七〇話 激闘
オラァ、とヒロムは大剣を振り下ろすが葉王は拳でそれを防ぎ、さらに大剣を殴ってヒロムの手元から弾いた。
「ち……」
「こんなもんかぁ?
もっとやれるだろうがぁ!!」
葉王はヒロムに対して何度も殴りかかるが、ヒロムはそれをすべて余裕を見せながら回避し、そして新たにマリアと同じガントレットを装備し、そのまま葉王に殴りかかる。
葉王はその一撃も拳で弾こうとしようとしたが、何かを感じ取ったのかそれをやめて、迫る一撃を避けた。
「危なっかしいなぁ」
「避けるってことは効果ありそうだな!!」
葉王の行動によりヒロムはこの一撃に可能性を見出し、そしてガントレットを装備した拳で何度も殴る。
葉王は先ほど同様にヒロムの攻撃を避けていき、ヒロムの隙をつくと距離を取ろうとした。
「逃がすか!!」
ヒロムはガントレットを装備したままテミスの銃剣とアルカの銃を手に持ち、葉王に狙いを定めると次々と魔力の弾丸を放つ。
が、葉王は距離を取るように移動する中で次々に迫る弾丸を避け、その上で避けれそうにない弾丸を素手で弾き壊した。
「数撃てば当たるとでも?
甘いなぁ……」
「はぁ!!」
余裕を見せる葉王だが、その右側からフレイが迫り、勢いよく大剣が振り下ろされる。
無駄なことを。
葉王はまたしても大剣を殴り飛ばそうとしたが、咄嗟に大剣から何やら異変を感じ取る。
「なるほど……!!」
フレイの大剣はヒロムと同じように白銀の稲妻を帯びていた。
葉王は殴るのをやめると回避することを選び、そしてフレイの大剣を避けるとすぐにフレイに攻撃をしようとした。
「じゃあな……」
「はっ!!」
すると何かが葉王に襲いかかり、葉王もそれを避けるように高く跳び、そして無数の何かが葉王に襲いかかるとともに葉王を吹き飛ばす。
「!?」
「……大丈夫?」
フレイの前にディアナが現れる。
それを見た葉王はきれいに着地するとともに服の汚れをとるように手で払い、そして何が起きたのかを整理し始めた。
「……「ソウル・ハック・コネクト」でオマエたちはその力を増している。
さっきの大剣もその影響で同じ力を纏っていた。
そしてそこの精霊はバッツを翻弄するほどのスピードを単騎で発揮できる……となると今のもオマエだな」
「ええ、でもダメージがなさそうなのが大変残念ですが……」
「効くわけねぇだろぉ?
オマエらの……」
葉王の言葉を遮るように頭上にヒロムが現れ、ヒロムはエリスの持つ黄金の装飾を有した二本の刀で斬りかかる。
「……ま、分かれば十分だ」
葉王は拳を強く握ると刀を弾き返し、そしてヒロムの腕を掴むとそのまま勢いよくフレイたちの方へと投げ飛ばした。
ただ投げられたため、ヒロムは何の苦労もなく着地すると刀を地面に突き刺し、新たにアイリスの持つものと同じ槍とディアナと同じ槍を出現させ、両方とも手に取ると構えた。
「二槍流ってかぁ?
数増やせばどうにでもなるとか思ってるなら間違いだぜぇ?」
「呑気なこと言ってる暇あるなら構えろよ。
こっちはまだ全力出し切ってねぇんだからな!!」
ヒロムは走り出すと片方の槍で突きを放つ。
葉王は槍の一撃を避けるが、ヒロムの攻撃は止まらず、ヒロムはもう一方の槍を横に薙ぎ払って襲いかかる。
その一撃も葉王は避け、すかさずヒロムへの攻撃に移ろうとした。
しかし、左右より無数の魔力の弾丸が葉王に襲いかかり、葉王は攻撃できずに回避することを迫られた。
「!!」
葉王は攻撃のチャンスを奪った弾丸を避けるとまたしてもヒロムから距離を取るように離れ、弾丸が飛んできた二方向に何があるのかをその目で確認した。
先ほど自身がいた場所から離れた位置、右側にテミスが、左側にアルカがいたのだ。
双方ともに弾丸を放てる武器を構えていた。
「……自由自在か。
あえて自分にオレの意識を集中させ、その隙をつかせるために別の精霊を呼び出したとはなぁ」
「感心してるのか驚いてるのか分かりにくいやつだな……」
「どっちだと思うよ?」
知るか、とヒロムは葉王を倒そうと構えようとするが、そうしようとした時には二本の槍が何の前触れもなく壊れてしまう。
「!?」
「さて……準備運動は終いにして、軽くやるかぁ」
余裕のある話し方に変わりはない。
だが、目の前の葉王はその一言を境に今まで見せていなかったであろう威圧感を放ち、そしてその中に殺意にも似たものが混ざっていた。
外見に変化はない。
能力者で魔力を有していればできる、魔力をその身に纏うということもしていない。
つまり、単に今まで……
「手加減されてたか……!!」
「オレがバッツをオマエらに倒させたかったのはバッツに劣ってるからだと思ったかぁ?
それともオレが手を出すまでもないからだと思ったかぁ?」
「オマエの考えなんて知らねぇよ!!」
ヒロムは砕けた武器を投げ捨てると葉王に殴りかかるが、葉王はその拳を止めるとヒロムの腕を掴み、そしてヒロムとの距離が近づいたこの状況下でその答えを述べた。
「オマエと八神トウマを本格的に戦うように仕向けるためだ。
オマエらが争えば「一条」にとっては好都合、だから当初から消すつもりだったバッツという存在を利用したんだよ」
「……それがオマエの言う計画か?」
「いいや、それは計画のための段取りでしかない。
これまで角王を倒されても動じない八神トウマも信頼を寄せるあのバッツをオマエが消せば否が応でもオマエを危険視するしかない。
その結果で生まれるものこそがオレたちの……カズキの求めるものだ!!」
葉王はヒロムを強く押し飛ばすと同時に少し跳び、そして蹴りを放ち、それを命中させたことでヒロムを蹴り飛ばす。
「がっ!!」
「オマエの力はこの程度かぁ?
違うよなぁ?」
「……この……!!」
ヒロムは立ち上がると白銀の稲妻を全身に走らせ、そして葉王を睨みつける。
そのヒロムの視線を気にすることもなく、葉王はヒロムに「ソウル・ハック」について語りかける。
「第一段階の「ソウル・ハック」はオマエの魂を精霊たちと共鳴しやすくなるようにと昇華させる。
人でありながら精霊と同列、つまりはバッツがなろうとした人と精霊の両方を一時的とはいえ体現している」
「……だからなんだ?」
「第二段階の「ソウル・ハック・コネクト」は単純な出力アップとともに精霊と共鳴するわけだが、その数の精霊の武器を自在に操れるなら脅威だ……が精霊の武器を借りるだけでその本来の力を発揮出来ていない」
「……無駄だって言いたいのか?」
「オマエはそれで能力者になった気でいるんだろ?
間違えるなよぉ?
オマエのそれはただ強い武器を装備して勘違いしてる素人のゲーム好きと同じだ」
「……だったら見せてやるよ」
するとヒロムはテミスの銃剣を手に持ち、そして狙いを葉王に定めると引き金に指をかける。
が、今の今で無駄だと言ったはずなのに、同じことをしようとするヒロムに葉王はため息をつくしかなく、そして呆れる他なかった。
「理解してるよなぁ?
まさか力を手にしただけで頭の中は悲しいくらいに無知なのかぁ?」
「だから教えてやるんだよ。
……「ソウル・ハック・コネクト」の真価を!!」
銃剣の引き金が引かれ、そして弾丸が放たれる。
が、それは魔力によるものではなく、炎で出来た弾丸だった。
「……何!?」
葉王の反応、それは予想もしていなかったものだ。
魔力による弾丸は先ほど見たが、こうなることは予想していなかった。
「バカな……!!」
葉王は想定外のその攻撃を慌てて避け、ヒロムはそれを追うように炎の弾丸を放つ。
さらにアルカとテミスも追い詰めるように弾丸を放ち、ヒロムはもう片方の手にアイリスの槍を装備し、弾丸を放ちながら距離を詰めるように走り出した。
「どういうことだ……!!
オマエのその力は形を真似てるだけじゃ……」
「そんなもん誰でも出来る!!
だからこそオレにしか出来ないことをやろうとした!!
その結果が……これだ!!」
ヒロムはアルカとテミスの放つ弾丸の間を走り抜けると槍で斬りかかり、葉王はそれを手で止める。
が、槍を止めた手は冷気に襲われ、そして凍りつき始める。
「な……二人の精霊の力を同時に……!?」
「確かにオレは力を借りることしか他に選択肢はないのかもしれない。
だからこそその力を最大限に発揮出来ていない……けど、オレだからこそこうして多くの力を借りれるのなら、オレはそれを効率よく運用して少しでも引き出す!!」
「この……!!」
葉王は槍を弾くと距離を取ろうとしたが、ヒロムは銃剣に炎を、槍に冷気を纏わせると同時に斬撃を放ち、葉王にダメージを与えようとした。
が、葉王は右手に魔力を纏わせるとそれを防ぐ。
ヒロムの一撃と葉王の力がぶつかることで大きな衝撃が生じ、それにより二人は引き離されるように吹き飛ぶ。
が、二人はすぐに立て直すと構えた。
「……ようやく、魔力を出したな」
「そうだなぁ……。
想定外のことで驚かされたが……少しは楽しめそうだなぁ」
葉王は全身に魔力を纏わせると、不敵な笑みを浮かべながらヒロムを見つめる。
「久しぶりに魔力を纏うから加減が効かねぇからよぉ……死ぬなよぉ?」
「余裕なのは相変わらずか……だったら!!」
ヒロムが全身に走らせる白銀の稲妻の一部を頭上に打ち上げると、それが青い光を放つとともに龍に変化し始める。
「……気高き闘気纏いし麗しき拳。
誇りを掲げし魂に宿りし龍とともに解き放て!!」
「……新たな精霊か!!」
ヒロムが何かしようとしていると察知した葉王は止めようとするが、白銀の稲妻を纏ったフレイとディアナがそれを阻み、さらに何度も攻撃を放つことで葉王の行動を制限しようとする。
葉王も攻撃を避けながら邪魔する二人を倒そうと攻撃するが、彼女たちはその攻撃を防いでしまう。
「……何!?」
魔力を纏い、先程と比べて力を増しているはずの葉王の攻撃が防がれている。
その結果に葉王は一瞬驚き、そしてその一瞬で答えを導き出した。
「……アイツが強くなったのと同じように強くなったのかぁ!!」
「ええ、そうよ!!」
葉王の言葉に返事をしたフレイは大剣を振り下ろし、葉王がそれを避けると飛び蹴りを放つ。
が、葉王はそれを拳で防ぎ、さらにディアナが槍で葉王を薙ぎ払い、吹き飛ばす。
「くっ……!!」
「マスターが強き意志を持ち、強くなるのならば私たちも同じように強き意志を抱き戦う!!」
吹き飛んだ葉王が体勢を立て直すと同時にディアナは突きを放ち、葉王を倒そうとする。
が、葉王はその攻撃を避けるとともに加速してヒロムのもとへ向かおうとしたが、龍へと変化した青い光が葉王に襲いかかる。
「!!」
葉王はそれを何とかして止めるが、龍は力を増していき、葉王は弾き飛ばされてしまう。
「な……」
「高まれ、「龍擊」ランファン!!」
ヒロムの叫び声に呼応するように龍は雄叫びを上げ、そして少女へと姿を変えていく。
青い髪に龍の角を思わせる装飾品をつけ、深いスリットの入った青いチャイナドレス、右肩には金色の龍の頭を模した肩当てをつけた少女。
彼女は深呼吸するなり、葉王との距離を詰め、拳での攻撃を放つ。
葉王はそれを避けるが、ランファンはすかさず蹴りを放ち葉王を襲う。
「私はランファン、マスターのためにあなたを倒します!!」
「へぇ〜……やってみろよぉ!!」
葉王は蹴りを防ぐと姿を消し、音もなくランファンの背後に現れるとランファンを蹴ろうとする。
が、それを予見していたかのようにマリアが現れ、葉王に拳をぶつける。
拳は葉王に命中するが、身に纏う魔力による防御によりダメージを消すことが出来た。
しかし、その葉王の体にランファンは掌底を押し当て、青い魔力をその手に纏わせる。
「!?」
「はっ!!」
青い魔力が弾けると葉王の体が宙を浮き、そして弾けた魔力が龍となって葉王を襲い、そのまま吹き飛ばしてしまう。
「うおっ!!」
葉王は勢いよく壁の方に飛ばされ、そして壁に衝突してしまう。
壁に衝突したことにより全身に激痛が走り、壁は大きな亀裂を生じさせる。
が、そこまでダメージはないらしく、葉王はため息をつくと立て直し、笑いだした。
「……面白い、面白いぞ!!
ここまで楽しめる相手は久しい、最高に盛り上がる!!」
「……悪いが、オマエを楽しませるつもりはない!!」
武器を構えるヒロムはそんな葉王を見ると白銀の稲妻をさらに大きくし、そしてフレイたちはヒロムを援護するように並び立つ。
「……いくぞ、鬼桜葉王!!
オマエの余裕ごとぶっ潰す!!」




