六七二話 今の心の在り所
屋敷に戻ったヒロムはすぐにある場所に向かった。
警視総監の千山のもとで話をし、そして関係性の悪化していた「姫神」と「月翔団」に全てを伝えて一応は関係性を修復したヒロムは次にやるべきことをやるために自分の所有するこの屋敷のある一室に向かっていた。
「……」
向かう中でヒロムは少しの緊張感と不安に苛まれていた。
これから向かう場所、これから行うことは些細な事だ。早ければ数分もかからずに終わる。下手をすれば分もかからないかもしれないが、それだとヒロムが気持ち的に納得いかないから少なくとも数分はかけるだろう。
だが、これから向かう場所にいる人物に対してはヒロムは少しばかり口下手になってしまう。
相手の気持ちを考えるが故にそうなり、そして言葉を選ぼうとして上手く話せなくなる。
「……上手く話せるといいけどな」
今から話すことに正解も何も無い。何を話して話の終わらせ方も何でもいいくらいに正解がない。
それでもヒロムは不安に悩まされる。
そんなこんなで自分の中の思いに悩まされているとヒロムは目的となる場所……部屋の前まで来た。
部屋の扉の前にはガイが立っており、ヒロムが来るとガイは彼に伝えた。
「みんな揃ってるよ。
一応、「姫神」や「月翔団」のとこに話に行ってるから遅れるとは伝えてあるけど……もう少し様子を見るか?」
「何故だ?」
「顔、緊張してるってのがバレバレだぞ。
なんならもう少し気持ちの整理してから始めるか?」
「いや……今すぐに始めるよ。
オレが話さなきゃ何も始まらないだろ?」
「……それもそうだな」
頑張れよ、とガイは部屋の扉を開け、ガイが扉を開けるとヒロムはゆっくりと部屋の中へと入っていく。
部屋の中に入ると……そこには姫野ユリナ、桃園リサ、愛神エレナ、美神ユキナ、朱神アキナ、狂美レナがいた。
「……待たせてごめん」
「ううん、大丈夫だよ。
その……ヒロムくんも大丈夫?」
「大丈夫だよ。
それよりも……何となくで話は聞いてるよな?」
「……うん。
ヒロムくんが警察の人のお願いを聞いてセンチネル・ガーディアンっていうのになるみたいなのはガイから聞いたよ」
「ヒロム、本当に警察の犬になるの?」
「縛られることを嫌うアンタらしくないわね」
ヒロムに尋ねられるとユリナはどこか心配そうに答え、続くようにアキナとレナが彼の意図を確認するように問い返す。
だが問い返されたヒロムは首を横に振ると彼女たちに分かりやすく説明した。
「警察の犬になるとか上に誰かがついて縛られるとかではないよ。
可能なかぎり頼んでオレは今まで通りの生活を送れるようにしてもらってるし、センチネル・ガーディアンに所属するってのも形式上の話だ」
「どういうこと?」
「……オレがその話を受ける上で出した最終条件は普段の生活には干渉しないことと有事の際にセンチネル・ガーディアンとしての権限で戦闘介入する権利だ。
アキナとレナが言うようにオレは縛られるのは嫌いだから、その辺を考慮した上でユリナたちを心配させずに普段通りの生活を送ろうとしたらそれしか方法はなかった」
「えっと……どういうことなの?」
「簡単に言うとオレは別に警察とか政府のどっちに属することなくこれまでみたいに何かしらの戦闘になったらセンチネル・ガーディアンの権限で戦闘行為そのものを正当化できるようにしてもらったんだよ。
これまでは「十家」の権力があったから「一条」や「七瀬」が匿ってくれてたけど、これからはその後ろ盾もない。オレたち「天獄」は何かに狙われて戦うってなって敵を倒しても誰にも守られない。だからオレは「天獄」のメンバーとオレの安全を確保するために属さない上で与えてもらえるだけのものを確保したのさ」
「じゃあ……これからヒロムくんが変な人と戦っても「竜鬼会」の時みたいにはならないの?」
「まぁ、大丈夫だよ。
アレは派手にやりすぎたってのもあるけどあん時みたいにはなることは無くなるのは確かだ。
これからは戦いになってもそれを正当化出来るから後から咎められることも無い」
「でも……そんなことする必要あるの?」
ヒロムが話していく中で疑問を抱いたユキナは彼に問う。彼女の抱いた疑問は当たり前のことだ。
センチネル・ガーディアンになるにあたって色々と条件の提示をしているようだが、それならば最初からヒロムやガイたちが戦わなくて済むように交渉すればいいだけではないかと普通は思ってしまう。
だが、ヒロムはそれではダメだと分かっているから交渉し、何故そうしたのかをユキナやユリナたちに話していく。
「オレは十神アルトを倒した。その事はもうメディアのカメラを通して全国に広まっている。
この間の十神アルトと関係のあったギルドの人間が襲撃してきたように十神アルトと関係を持つヤツらがオレたちを狙う可能性がある。だからこそオレはそうなった時のために自衛する手段と正当性を確立したかった」
「じゃあ、本当に自分たちのためにそのセンチネル・ガーディアンを引き受けるのね?」
「心配してくれるのは分かるよユキナ。
だけど……オレたちは自らこうなる道を選んだ。その上でユリナやユキナたちに少しでも心配させない方法がそれしかなかったんだ。
もっと方法はあったかもしれない、だけどそれを模索してるほどの時間は与えられないのもたしかなんだ」
「……いいのよ、ヒロム。
私たちはヒロムが納得した上で決めたのなら何も言わないもの」
「私もです。
ヒロムさんが決断されたのなら私も応援します」
ヒロムの意見に理解を示してくれるユキナとエレナ。アキナとレナも同じように頷き、ユリナはそんな彼女たちの気持ちをまとめるようにヒロムに伝えた。
「私も皆と同じようにヒロムくんを応援したいと思ってる。けど……これだけは約束してほしいの」
「……十神アルトの時の件か?」
「それもあるけど、ヒロムくんはいつも私たちに何も言わないで無茶して傷ついてるから……これからは何か大変なことをする時は事前に相談してほしいの。
もう、何も知らないで待つのは嫌だから」
「……そうだな。
ユリナたちに帰りを待ってもらうのがいつの間にか当たり前になって、それに甘えるのも当たり前になってたな。
ごめん……ってのもおかしい話だけど、これからは何かあればユリナたちにすぐ相談するよ」
「約束だよ?」
「約束するよ。
こんな風に誰かに想われて愛してもらえるのは有難いことだ。それを無下にはしたくないからな」
ユリナの言葉に返すように話していくヒロム。そのヒロムが話しているとユリナたちは何故か恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「……どうした?
気分が悪いのか?」
「ち、違うの……その……」
「ヒロム、少しは恥ずかしさを持った方がいいわよ」
「?
何の話だユキナ?」
「その……想ってくれてるとか愛してくれてるって言ってくれるのは嬉しいのだけど、あんまり堂々と言われると恥ずかしくなるわ」
「何がだ?」
「……いえ、いいのよ。
無自覚でも言えるようになってるってことは私たちとしては喜ばしいことだから」
「そう、いうものなのか?
よく分からないな……」
おい、といつの間にか部屋に入ってきていたソラがヒロムたちの話を終わらせるかのように割って入るとヒロムに告げた。
「惚気けるために集めたんならとっとと終わりにしろ。
もはやそんな余裕はないからな」
「……何かあったんだな?」
「この間オマエを襲ったギルドの葛城ってヤツの尋問の結果を千山さんの部下が報告に来てくれてな。
どうやら葛城ってヤツは近々国外逃亡を計ると同時に安定し切ってない状態の日本を陥落させるためにテロリストを招いて暴れさせるつもりだったらしい」
「そいつは身柄を拘束されてんだろ?
なら逃げる心配はないだろ?」
「葛城ってヤツはな。
問題はテロリストの方だ。十神アルトと関係のある葛城ってのが呼んだってんなら……「世界王府」に関与してる可能性が高い。そして、そのテロリストと思われるのが乗ってるであろう船が日本の領海内に侵入したらしい。
日本未登録の船で他の国にも登録がないらしい」
「日本に到着するまでの時間は?」
「早くて一時間。
おそらくオマエの復活を耳にして警戒してるだろうから準備万全で来るはずだ」
「……分かった。
オレたちがそいつらをどうにかしろってことだな?」
「そういうことだ。
オレたちはもう準備が出来たから先に出てる。遅れるなよ?」
分かってるさ、とヒロムが返事をするとソラは何も言うことなく部屋を出ていき、ソラが出ていくとヒロムはユリナたちに伝えた。
「……話の途中だったのにゴメンな。
すぐ終わらせてくるから待っててくれ」
「うん、気をつけてね」
「ちゃんと帰ってきなさいよ?」
「分かってるよ。
絶対に帰ってくる。ここが……オマエらがいてくれるここが今のオレの帰る場所だからな」
******
数十分後
テロリストと思われる者たちが乗っている船が向かってるとされる港に来たヒロムはソラ、ガイ、イクト、シオンと物流用のコンテナの陰に隠れて敵の出現を待っていた。
「……距離的にあと五分で上陸しそうだな」
双眼鏡すら使うことなく裸眼で敵を視認して距離を目算するソラ。
あと五分と聞いたガイたちは武器を構え、ヒロムは拳を強く握ると前に出ようとした……が、そんな彼のそばに彼が宿す精霊・フレイが現れて彼に言った。
「マスターは成長されましたね」
「あ?
そりゃオレも十六だからな」
「違いますよ。
心が成長されたという意味です。以前のマスターなら目的のためなら誰かのためになんて思われませんでしたし、ユリナたちに何を言われてもそこまで気にしなかったでしょ?」
「まぁ、な。
それについてはオマエの言う通りだ」
「でもマスターは多くを経験される中で成長され、今では誰かを思うことを知り、誰かのために戦うことが出来るほどに強くなられました。
そんなマスターのために私やラミアが宿れていることはとても誇らしいです」
「……ここまで来れたのはオレ一人の力じゃない。
ガイたち仲間やユリナたちのように支えてくれる人がいて、そしてフレイたちが一緒に戦って一緒に進もうとしてくれたからこそオレは成長できた。
そして……その成長はまだ終わってない」
「そうですね。
これからも前に進む限り成長は続きますね」
「ヒロム!!
来るぞ!!」
ヒロムとフレイが話している中ソラが叫ぶと港に着いた船の方から次々に攻撃が飛んでくる。
距離があるからか攻撃が命中するようなことはないが、ヒロムとフレイは構えるなり走り出した。
「いくぞフレイ……!!」
「行きましょう、マスター!!」
ヒロムとフレイが走り出すとガイたちも走り出し、そして敵は武器を構えると姿を見せてヒロムたちを迎え撃とうと動き出す。
動き出した敵を前にしてヒロムとフレイは稲妻を強く纏うと地を強く蹴って加速するように敵に迫り、敵に迫った二人は高く飛び上がると力を溜めて一撃を放とうとする。
「いくぞ……オレたちの未来を掴むために!!」
敵に向けてヒロムは一撃を放とうとし、放とうとした一撃が眩い閃光となって周囲を照らす。
ヒロムたちは戦おうとする。その先にある未来を掴むために……
その戦いは、この先も続いていく。
新たな道を進みながら……
-to be continued-