六六一話 覇王と神
顔面を殴られ倒れるアルトを見下ろすような視線で見るヒロム。
そのヒロムの視線を受けるアルトは何かを感じ取ると身体を震わせながら光となってヒロムの前から消えると彼から離れた位置へ姿を現して負傷した体を再生させていく。
距離を取った、その行為にヒロムはため息をつくとアルトに冷たく言った。
「どうした?
神の力があるなら逃げずにかかってこい。それとも神の力ってのは見てくれだけのハリボテか?」
『黙れ……!!』
「黙ってほしいなら黙ってやるけど、黙ってやったら本気になってくれんだろうな?」
『……黙れ黙れ黙れ!!
たかだか数回オレを追い詰めたくらいで調子に乗りやがって!!』
ヒロムの言葉に腹を立てるアルトは禍々しいオーラを強く纏うと紫、青、赤、藍色、黒、緑、緋色の稲妻をオーラに重ねるように纏うとヒロムに接近して攻撃を幾度と放つことで大口を叩いているヒロムを倒そうとする。
だがヒロムは白銀の稲妻を纏うことも無く落ち着いた様子でアルトの攻撃を見切ると迫ってくる攻撃を次々と順に焦ることも無く淡々と体を軽く逸らす形で避け続けるとアルトが攻撃を放ったスキを逃すことなく拳を叩き込んで怯ませる。
『がっ……』
アルトが怯むとヒロムはすかさず蹴りを連続で食らわせるとアルトの首を掴んで逃げられなくし、首をつかんだ状態からヒロムはアルトの顔を何度も何度も殴る。
殴られるアルトはヒロムに殴られている中で右手に稲妻を集中させて至近距離でヒロムに撃ち込もうと企んだ……が、ヒロムはアルトが稲妻を集中させていく右手に蹴りを放って稲妻を散らすと攻撃を阻止して首を掴む手を離すとアルトを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたアルトがフラつきながらも立て直そうとするとヒロムは音もなくアルトの背後に移動して後ろからアルトの頭を蹴り、さらに勢いをつけるとアルトに踵落としを叩き込んでアルトを地面に叩きつける。
『!!』
地面に叩きつけられたアルトが倒れるとヒロムは踵落としを放っていない方の足に白銀の稲妻を纏わせて敵の顔を蹴るとともにアルトを無理やり起き上がらせるように体を浮かせると休む間もなく連撃を叩き込んでいく。
『こ、この……!!』
黙れ、アルトが何度もヒロムに向けて口にしたこの言葉に従っているのかヒロムは一切声を発することもなくただ黙々とアルトを攻撃し、アルトを攻撃するヒロムの何も言わずに攻撃するその姿は一種の恐怖を感じさせる。
黙々と攻撃を放つヒロムのその姿にアルトは少なからず恐怖を感じており、恐怖を感じると共にアルトはそうさせるヒロムに対する怒りが抑えられなくなって禍々しいオーラを強く纏うとヒロムの攻撃を何とかして避けると距離を取るように離れた位置に移動すると禍々しいオーラをビームとして撃ち放つ。
撃ち放たれたビームをヒロムは避ける様子もなく右手を前に出してビームに近づけていくとそのまま掴み、握り潰して消してしまうとアルトに迫ろうと走り出す。
『バカな……何なんだその力は!!』
今起きることが信じられないアルトは現実を否定するようにヒロムに向けて次から次に禍々しいオーラをビームとして撃ち放っていくが、ヒロムはアルトが次々に放つビームを素手で払い除けるように防ぐとアルトとの距離を縮めていく。
近づいていく距離、気づけばその距離はヒロムが一撃を放って命中させられるレベルまで近づいていた。
だが同時にそれはヒロムがアルトの攻撃を受けてしまう距離でもあった。
『クソがああああああああぁぁぁ!!』
自身の放つ攻撃を簡単に防ぐヒロムに苛立ちを隠せないアルトは禍々しいオーラを強く放出させながら右手に集めると大剣に変化させて装備し、装備した大剣にいくつもの色の稲妻を纏わせながらヒロムに一閃を放つべく大剣を振り下ろす。
振り下ろされた大剣、それはヒロムを両断するように振り下ろされて彼に命中……したかのように見えたが、アルトが攻撃の命中を確信した時にはヒロムは大剣の軌道から逸れた位置で拳を構え、大剣の攻撃を避けたヒロムは白銀の稲妻を拳に纏わせるとアルトの顔面を強く殴る。
顔を殴られたアルトの鼻っ柱はへし折れ血を流しながら倒れてしまい、倒れたアルトはまた光となってヒロムの前から消えると離れた位置へ移動するように現れてキズを直そうとした。
しかし……
アルトが離れた位置へ移動したと同時にヒロムは白銀の稲妻を両足に纏わせて敵の背後へ移動して宙で体を回転させており、アルトがそれに気づく瞬間にヒロムは回し蹴りを食らわせる。
回し蹴りを受けたアルトは蹴り飛ばされる形で倒れてしまい、アルトを蹴飛ばしたヒロムは足に纏わせる白銀の稲妻を解き放つとビームとして撃ち放ち、ヒロムの放った攻撃は倒れるアルトに追い打ちをかけていく。
『がぁぁぁあ!!』
圧倒的、もはやヒロムの戦い方はそう言い表す他なかった。
一条カズキや鬼桜葉王ですら追い詰めることに苦戦した敵を今のヒロムは何の躊躇いもなく追い詰め、そして一方的にアルトを苦しめている。
その姿はまるで……彼が異名としてその身に持つ「覇王」そのものだった。
『がっ……ありえない……!!』
ヒロムの度重なる猛攻を受けたアルトはこの不測の事態に困惑を隠せないでおり、アルトは負傷した体で立ち上がるとヒロムから逃げるかのように後ろに数歩下がってしまう。
無意識からなのか、それとも意図してヒロムに対して何かを仕掛けたいがためにそうしたのか。本来こういう場合は行動を起こした当人にしか分からないことなのだが、今回ばかりは誰がどう見ても分かってしまう。
十神アルトのこの行動は……ヒロムに対する恐怖から逃れようとする防衛本能から来るもの、つまり十神アルトはこの戦いにおいてヒロムに対して勝てないと感じて負けを認めつつあるということだ。そしてヒロムに負けることを恐怖して戦いから逃れようとしている。
十神アルトはおそらくそれに気づいていない、だがヒロムは違う。
「……オマエ、オレに負けるのが怖いのか?」
『……何?』
「その後退はオレに対する恐怖の表れだろ。
オマエは本能的にオレに力で適わないと理解して逃げたんだ。戦って勝てないと分かったオマエは逃げることを選んだってわけだな」
『逃げる……?オレが?オマエから?
ふざけるな……!!これはまだオレが人間である証拠!!真の神となれば本能も何も無くなってオレは完全無欠となる!!
その時が来ればオマエなど……』
「ならさっさと見せろやクズが。
そうやって時間稼いでまた他人の力を奪わなきゃ強くなれねぇオマエなんかの相手をしてる暇はねぇんだよ」
『何……!?』
「……オマエの相手はストレスが溜まるだけだ。
オマエみたいなヤツに一度は苦戦した自分が情けない、オマエなんかに力を利用されたことが情けない、何よりこんな無様なヤツのやることを見抜けなかった自分が情けなくて仕方ない」
『何とでも言え!!
所詮オマエは負けて戻ってきた身!!強さを得てようやく神に挑む権利を得た程度でオレに完全勝利するなんざ……片腹痛いんだよ!!』
ヒロムの言葉に腹を立てるとアルトは叫ぶように言葉を発し、アルトが言葉を発すると彼の全身から闇が勢いよく放出され、放出された闇はアルトの体にまとわりつくと彼の体を覆うような形の禍々しい鎧へ変化していく。
禍々しい鎧を身に纏うとアルトはさらに強い力を全身から放ってヒロムを威圧しようとするが、アルトの変化を前にしてもヒロムは未だに平然としていた。
『見ろ!!これが神の力!!
人であることを捨てればそれだけで神の力は増す!!これで本能という無駄なものは消し去った!!
恐怖を感じることもなければ臆することも無く情け容赦なくオマエを倒せる!!』
「……くだらねぇ」
『……何?』
「それが神の力なら名前だけで残念すぎる。
神を名乗るだけの人造の力を憎しみに任せて高ぶらせても所詮は人のままだ」
『オマエ……!!
まだオレの力を理解していないのか?ならば……』
理解させてやるよ、とアルトの言葉を奪うかのようにヒロムは言うと全身に白銀の稲妻を強く纏い、ヒロムが白銀の稲妻を全身に強く纏うと彼を中心に天高くへ昇っていく白銀の輝きの柱が現れる。
現れた白銀の輝きの柱の中でヒロムは白銀の稲妻を強くさせ、ヒロムが白銀の稲妻を強くさせる中でアルトは何が起きているのか分からぬままヒロムを見てしまう。
『何だ……それは……?』
「見せてやるって言ってんだよ。
その上で理解させて思い知らせてやる。オマエはオレの力を完全には奪っていない。オマエはオレの本当の力を知らないってことをな」
ヒロムが拳を強く握ると白銀の稲妻が強く輝き、白銀の輝きの柱は眩い輝きを発するとヒロムを飲み込むように大きくなっていく。
輝きの柱が大きくなると天より無数の光が降り注いでヒロムのもとへ向かっていき、輝きの柱の中でヒロムは白銀の稲妻を強くさせながらその光をその身で受け止めていくと装いを変えていく。
全身を黒のボディースーツのようなものに包んでいくとヒロムは胴、肩、腰、脚に美しく輝く結晶が施された白銀のアーマーを装備していき、両手首の白銀のブレスレットに光を集めるとブレスレットの形状を変化させてガントレットにして両手に装備し直すと自身を包む輝きの柱に手を伸ばしてその輝きを体内へ取り込んでいく。
次々に取り込まれていく輝き、その輝きがヒロムの中に取り込まれると彼の瞳は白銀へと輝き、そして彼の赤い髪は長く伸びると白銀へと変色していく。
白銀の装い、そう呼ぶに相応しいヒロムの新たな姿が表に出ると同時に強い力が大地を駆け巡り、その力が大地を駆けると更なる力を纏ったアルトを威圧する。
『!?』
「……まさか、自分だけが完全な本気じゃないと思ってたのか?」
『そんな……まさか……』
「そのまさかだよ十神アルト。
これが……これこそがオレ本来の力でありオレの白銀の霊装が宿す霊装の力・「ビヨンド・ソウル」だ。
オマエが死に追い詰めてくれたからこそ手にできた本来の力、そのお礼にオマエが死ぬまでこの力を味わせてやるよ」
『ふん、霊装の力とは笑わせる。
所詮は霊装の力、オマエからある程度得たこの霊装の力に比べれば……』
無理な話だ、とヒロムが指を鳴らすとアルトが身に纏った禍々しい鎧が次々に音を立てながら崩壊して消滅してしまう。
何が起きたのか分からないアルト、そのアルトにヒロムはある事実を告げた。
「オマエが手にしたその霊装はもはやこの世界には存在していない。
そしてこの瞬間……今オレの中にはオマエの知る精霊も霊装も全て存在していない」
『な……何を……』
覚悟しろ、とヒロムは白銀の稲妻を強く纏いながら冷たく呟くと驚きを隠せないアルトに告げた。
「ここから先、オマエの未来は閉ざされる。
オレの掴む未来の前ではオマエの未来は無きものとなる」