六六〇話 白銀の決意
突然走り出すとことにアルトは戸惑いを隠せなかった。
完成したばかりのゼウスの攻撃を前にして為す術もないまま致命傷を負わされ今の今まで戦線を離脱していたヒロムの動きが見えなかったばかりか彼がしたとされる攻撃に一切反応出来ないまま右腕を吹き飛ばされたのだ。
あまりにも突然、そしてあまりにも信じられぬことにアルトは狼狽えてしまうが、狼狽える中で右腕を瞬時に再生させるとヒロムに次の行動を取らせぬように背後へ振り返って一撃を放とうとした……が、アルトがそうしようとした時、振り返ったと同時に白銀の稲妻がアルトの体に命中して彼を吹き飛ばす。
『!?』
「……どいてろ」
吹き飛ばされたアルトが地面に叩きつけられて倒れるとヒロムはカズキの前へと音も立てずに移動し、ヒロムの姿を目にしたカズキは何かを感じたらしく彼に何か言おうとするが、ヒロムはカズキに何も言わせないように冷たい眼差しを向けながら告げた。
「何も言うな、手も出すな。
コイツはオレが殺す」
「姫神ヒロム、何をするつもりだ?」
「何を?
オマエらの計画通りの展開なら理解してんだろ?
ここで全てを終わらせるんだよ」
「……そうか。
なら、好きにしろ。オマエがそれだけの大口を叩けるならオレは手出ししないで見届けてやる」
「偉そうによく言う。
どうせまだ本気じゃないんだろ?オレが来るのを待ってたんならそう言えよな」
「フッ、オレがオマエの想像の枠に留まると思うなよ?」
「……うるせぇよ」
カズキの言葉にどこか鬱陶しそうに言うとヒロムは彼の前から消え、続いてヒロムは葉王の前へ移動すると彼の顔を見るなり腰を下ろして話しかけた。
「よぉ、葉王。
いや……姫神葉桜って呼ぶべきか? 」
「……オレのことを女から聞いたかァ?
まァ、その名前のクソ野郎は死んでるから今まで通り呼べやァ」
「そうかよ。
……アンタには礼を言うべきか悩むんだよ。
一条カズキはどうせ目下自分のため、けどアンタは違うんだろ?アンタはオレが道を踏み外せば必ず現れた。アンタは……」
勘違いすんなァ、と葉王はヒロムの言葉を止めるように言うと続けて彼が思っていることについて、そして自身の思いを口にしていく。
「オレがオマエにヒントを与えたのは計画のためだァ。
今更昔創ッた家のことなんて気にしてらんねェしィ、オマエが壊したいんならァ壊してくれても構わねェと思うくらいだからなァ。
あの家はオマエが好きにすればいいィ、どうせ死人に口出しする権利は……」
「あるさ、葉王。
だからオマエはオレを助けてくれた。「姫神」の家に対しての思いがあるからこそオマエは母さんと父さんに手を貸してくれた。
オマエが手助けしてくれたから、オレは今ここにいる。だから……今度はオレが恩を返す番だ。アイツをオレが倒すから見届けてくれ」
「……その立派なセリフ、聴き逃してねぇから忘れんなよ?」
いつもの気の抜けた話し方ではなくどこか真剣さのある言葉で話した葉王の表情にヒロムはやさしく微笑みながら頷くと今度はトウマのもとへ移動して彼に手を差し伸べる。
「ボロボロだな、トウマ」
「兄さん……体は?」
「問題ない。
というよりは元々オレらがここまで大事にしたようなもんだから黙って寝てらんねぇよ」
ヒロムの差し伸べた手を取るとトウマは立ち上がり、トウマが立ち上がるとヒロムは咳払いをすると彼に相談した。
「この戦いが終わればオレは一条カズキの計画通りに事が流れて「十家」に変わるシステムの一つにされるだろう。
政治的にどこまで関与するとか生活がどう変わるかは知らねぇけど今のオレじゃまともに務まるかわかんねぇ。だから……弟のオマエに頼むは申し訳ねぇけど、力を貸してくれないか?」
「……もちろんだよ、兄さん。
ボクには自分の罪を償うためにやれることをやる。それに兄さんの手助けが含まれるならボクはいくらでも手を貸す」
「ありがとな、トウマ。
すぐに終わらせるから待っててくれ」
トウマとの話を終えるとヒロムはまた音も立てずに移動し、最後にガイたち仲間のもとへ移動すると彼はガイたちに伝えた。
「……悪いな、待たせて。
それと、ここまで力になってくれてありがとな」
「ヒロム……?」
「オマエ、何を……?」
「ああ、別に死ぬとかそんなんじゃねぇよ。
ただ……ここに来るまで色々手を貸してくれたからその礼がしたかっただけだ。あんま気にすんな」
「その言い方されるとかなり気になるんだけどな、大将」
「そうか?
まぁ……すぐに終わらせるから待っててくれ。全部終わったらちゃんと礼するからさ」
「死ぬなよ……ヒロム」
「……わかりきったこと言うなよソラ。
オレが死んだら何も意味ないだろ」
死ぬな、そう告げるソラに笑顔を混じえて返したヒロムはアルトの方を見ると稲妻を強く纏いながら歩き出し、ヒロムが歩き出すとアルトはヒロムを強く睨みながら彼に問う。
『姫神ヒロム……!!
オマエはオレに何をした!!』
「あ?」
『今のオレはゼウスとハデスを取り込み、そしてオレは二つの神の力と他の神々の力を取り込んで人を超えた神にしてクロノスと同格の神に進化した。
そのオレが……オマエの攻撃に反応出来ないわけがない!!』
「……自信があるのは大いに結構だが、あまり自惚れるな。
今のオマエとオレの間には力の差はほとんどない。少しの油断と一瞬の気の緩みが死を招くんだから集中しとけ」
『ご忠告、どうも。
だが……力の差がないと言うのはオマエが自惚れている証だ!!』
ヒロムの言葉を受けたアルトは彼の言葉に反論するように言うと禍々しいオーラを強く纏いながら動き出し、動き出したアルトは一瞬でヒロムの前に移動すると手刀で彼を貫こうとした。
「……」
『反応が遅れたな!!終わりだ!!』
終わりだ、とここですぐ勝負をつけようとするアルトの放つ手刀はヒロムに迫っていき、アルトの手刀はヒロムの胸を貫く。
「ヒロム!!」
『フハハハハ!!
脆い、脆いぞ姫神ヒロム!!この程度でこうも簡単に終わるなど……』
「……満足したか?」
誰もがヒロムがアルトの一撃により胸を貫かれた、その目でその瞬間を捉え、ヒロムが襲われてしまうとガイは思わず彼の名を叫んだ。
アルトも容易くヒロムを仕留めたと手応えを感じる中で笑い声を上げていたが……アルトが手刀で胸を貫いたと思われたヒロムはアルトの手刀を避けた位置で立っており、そのヒロムの胸には貫かれたような傷は一切なかった。
『!?』
貫いた、アルトはたしかにその手応えを感じていた。なのに……なのに彼の手刀は何も貫いておらず、それどころか貫いたことで付着していてもおかしくないヒロムの血が手に一切付着していなかった。
『ば、バカな……!!』
「どうした?
オレを殺すイメージトレーニングに気を取られて現実での動きに乱れが出たか?」
『オマエ……何をした!!』
何が起きたかは分からないアルトはヒロムに向けて叫ぶと手刀を横薙ぎに勢いよく動かしてヒロムの首を落とそうとする。アルトのその思惑通りにヒロムの首に手刀が命中して首が斬られ……ると思われたが、気がつけばヒロムは手刀を避けた位置で立っていた。
『あ、ありえない……!!
たしかに攻撃は……この手に手応えはあったんだぞ!!』
「現実と妄想の区別もつかなくなったか?」
『……オレに何をした!!』
何かをヒロムがしている、それを感じる中でアルトは己の理解出来ぬ力が働く現状に苛立ちを隠せず禍々しいオーラをヒロムに向けて解き放ち、放たれた禍々しいオーラは炸裂するとヒロムやその周囲の地面を破壊してしまう。
さすがにこの一撃はヒロムも避けられない、そうアルトは確信していた……が、禍々しいオーラが破壊した地面の上で同じように襲われたはずのヒロムは無傷の状態で平然と立っていたのだ。
『なっ……!?』
「……何かしたか?
あまりにオマエの攻撃が雑すぎて何されたか分からなかったんだが……教えてくれるか?」
『……オレを馬鹿にしてるのか!!』
余裕、それがあるからこその一言をヒロムが発していると考えたアルトは禍々しいオーラを強く纏いながらヒロムには何もさせまいと攻撃も能力の使用も封じるべく連撃を放って追い詰めようとするが、ヒロムは難なくアルトの連撃を避けていくと連撃の途中で彼の手を素手で掴むと力いっぱい握ってアルトの手の骨を砕く。
『がっ……!!』
「遅い」
手の骨を簡単に砕かれたアルトが怯むとヒロムは白銀の稲妻を右足に纏わせた蹴りを放つとアルトを蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたアルトが何とかして体勢を立て直そうとすると蹴りとともに叩き込まれた白銀の稲妻が炸裂してアルトをさらに吹き飛ばしてみせた。
『がぁぁあ!!』
蹴りの一撃と稲妻の炸裂により勢いよく吹き飛ばされたアルトは地面を転がるように倒れてしまい、アルトが倒れるとヒロムはゆっくりと敵を倒すべく歩を進め始める。
「……これが神の力か?
この程度でオレたちを圧倒するとなると……姑息な手段として疲弊したところを襲うしかないか?」
『バカな……!?
何故だ!?何故オマエの力にオレの神の力が負ける!?』
「簡単な話だろ。
オマエが弱くてオレが強い、それだけだろ」
『ふざけるな……!!
オレはオマエの力を……精霊と霊装の力を得てオマエを超えたんだ!!
そのオレがオマエに負けるわけがない!!』
ヒロムに手も足も出ないことと自身が神と謳う力が通用しないことに腹を立てるアルトは禍々しいオーラを右手に強く纏わせるとヒロムに接近して彼を殴り飛ばそうと一撃を放つ。
アルトが一撃を放とうとする中でヒロムは避ける素振りも見せずに右手に白銀の稲妻を強く纏わせると拳撃を放って殴り返し、ヒロムの拳がアルトの拳にぶつかるとアルトは力負けして押し返され、押し返されたアルトが無防備な状態でいるとヒロムは彼の顔面を強く殴った。
『!?』
殴られたアルトは倒れてしまい、アルトが倒れるとヒロムは彼を見下ろすような視線を向けながら彼に告げた。
「オレの力を得たからオレより強くなった、と本気で思ってんのか?
オマエは単にそう思い込んでるだけだろ。オマエは別にオレの力の全てを得てはいない」
『何……?』
「教えてやるよ……十神アルト。
ここからが姫神ヒロムの本領だ」