六五九話 最悪の神王
一方、十神アルトと戦う一条カズキと鬼桜葉王は敵との戦いをなかなか思い通りに進められていなかった。
無数の刀剣を出現させるカズキはそれを矢の如く撃ち放つとアルトを貫こうとするが、アルトは右手を軽く動かすとカズキか撃ち放った刀剣を触れることなく破壊してしまう。
カズキの攻撃をアルトが防ぐと葉王は刀を手に持って接近するとアルトの首を切り落とそうと一閃を放つが、葉王の一閃が迫る中でアルトは首を鉄のように硬化させると彼の一撃を弾き防いでしまう。
「この野郎ォ」
『どうした?
オレを倒して終わらせるんじゃなかったのか?』
「言われなくともそのつもりだァ。
つうかよォ、いちいち抵抗すんなよォ?」
『敵を前にして何もするな、と?
オマエが望むならそうしてやってもいいが、無抵抗な状態でもオマエじゃオレは殺せない』
「ほざけェ。
本当にそうかァ……試してみるかァ?」
アルトの挑発に乗ることなく葉王は刀に魔力を纏わせると刀身を鋸のように変化させてもう一度一閃を放ち、首を落とすだけでなく首の肉を削ぎ落とそうとする。
が、葉王の鋸のように変化させた刀が迫るとアルトは全身を霧のように変化させて攻撃を空振りさせる。
葉王の刀が霧のようになった体を通り抜けるとアルトは全身を元に戻し、右手に稲妻を纏わせると葉王の刀に向けてほんの少し飛ばすとその稲妻で刀を粉々に破壊する。
「!!」
『オマエはあの姫神ヒロムに一度は敗れている。
その姫神ヒロムを追い詰め、その力を得たオレがオマエに負けるわけなかろう?』
「てめェ……!!」
『苛立つか?
残念だが……それは事実、受け入れるのが楽だぞ』
アルトは右手に纏わせる稲妻を鋭くさせると刃に変化させて葉王の体を引き裂こうと攻撃を放ち、アルトが攻撃を放つと葉王は魔力を手刀に纏わせながら慌てて防いでいく。
ワンテンポ、アルトの攻撃に対して慌てて防ぐ形を取るしか無かった葉王は攻撃の流れにワンテンポ遅れてしまい、その遅れによって葉王は防戦一方となりアルトに攻撃の主導権を明け渡してしまう。
「この野郎……!!」
『どうした、どうした?
オレを倒すんじゃなかったのか?このままじゃオレを倒すどころか傷をつけることなくオレに倒されて終わるぞ?』
「調子にィ……乗んなよォ……!!」
『威勢だけは認めてやろう。
だが、そんなもので勝利するなど……』
葉王を追い詰めるべく連撃を放つアルトが言葉を発する途中で青い光が接近し、接近した青い光は青い光の左翼を背に有した白銀の騎士の精霊・パーシヴァルとなり、パーシヴァルはアルトの連撃を止めるように蹴りを放つと葉王から引き離すように彼を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたアルトはパーシヴァルの攻撃を受けても何ともないらしく平然とした態度を見せ、自身を蹴ったパーシヴァルを見ると彼は精霊に向けて言った。
『邪魔をするのか、片翼の精霊。
オマエのその力、ほんの一瞬オレに通用する程度でしかないのに無謀にも挑むつもりか?』
『貴様がいるかぎり我が主に勝利は訪れない。
まして私の出現により強化された我が主の力を貴様に利用されたこと、この屈辱はこの手で貴様を倒さねば晴れぬ』
『……なるほど、主人に仕える従者とて一時の感情で私怨を胸に秘めるか。
だが、オマエでは勝てない。オマエの力は一条カズキや鬼桜葉王には及ばない。そんな力でオレが倒せるわけないだろ?』
「なら、試してみるか?」
パーシヴァルの言葉を否定するようにアルトが話していると青い光の右翼を広げる八神トウマが光の剣を構えながらアルトの前に立ち、トウマが立つとアルトは何か可笑しいのか笑い出した。
『精霊だけならまだしもオマエもか?
オマエの兄ですら倒せなかったオレは今では「十家」最強の一条カズキすら凌駕している。
それなのに実力で完全に劣るオマエたちが出てきて何になる?』
「……アンタが一条カズキや鬼桜葉王に対して優位なのは単純に二人の力の使い方を把握した上で最適解を出して能力を使ってるからだ。
仮にボクとパーシヴァルが介入してその流れを壊せば……アンタのその流れはどうなると思う?」
『……つまり、囮になるということか?
決定打に欠けるオマエが間に入ってオレを乱して二人の攻撃を効果的にさせようって算段か?』
「そうだよ。
罪に汚れたボクにはアンタを倒してどうにか出来るような力はない。
だけど、時間稼ぎと一瞬のスキを生むための囮としてならこの身を犠牲にすることに迷いはない」
『面白い……。
なら、そのくだらん罪悪感を抱きながら死ね!!』
トウマの覚悟を笑うようにアルトは禍々しいオーラを身に纏うとトウマに無数の稲妻を放ち、放たれた稲妻が迫るとトウマは飛翔するとともに回避しつつもアルトに接近していく。
アルトがトウマに攻撃するとパーシヴァルはアルトに接近して連撃を放っていくが、アルトは避ける様子もなくパーシヴァルを睨むと彼の放つ攻撃全てを目に見えぬ何かで防ぎ止める。
パーシヴァルの攻撃が止められる中でトウマはアルトに接近して光の剣でアルトを刺そうとする……が、アルトは右手をトウマに向けると掌から禍々しいオーラを衝撃波とともに解き放ってトウマを返り討ちにすると吹き飛ばし、左手にいくつもの色の稲妻を纏わせるとそれをパーシヴァルに向けて解き放って彼をも吹き飛ばしてしまう。
トウマとパーシヴァル、二人は吹き飛ばされるも光の片翼を羽ばたかせて立て直すと再度攻撃しようとするが、アルトが指を鳴らすと何の前触れもなく爆撃がトウマとパーシヴァルを襲い、爆撃に襲われたトウマとパーシヴァルは負傷しながら吹き飛ばされて倒れてしまう。
『ぐっ……!!』
「ぐぁ!!」
『囮になるつもりが何も出来ずに倒されて終わりか?
身の程知らずにも程が……』
「まだだ……!!」
トウマとパーシヴァル、二人が呆気なく倒れたことにアルトが落胆しているとトウマは立ち上がって光の剣を構えると光を強く放出させ、放出させた光を無数の光刃にして飛ばすとアルトを倒そうとした……が、アルトは稲妻を身に纏うとその一部をトウマに向けて飛ばすと龍の形を与えて光刃を破壊させ、光刃を破壊させた龍にトウマを噛みつかせようとした。
龍が迫る中パーシヴァルが立ち上がると光の剣を二本装備して斬撃を飛ばすと龍を破壊してトウマを守り、トウマを守ったパーシヴァルは光を強く発しながら巨大な斬撃を飛ばす。
パーシヴァルの飛ばした斬撃を前にしてアルトは稲妻を全身に強く纏う中で禍々しいオーラを重ね、稲妻に重ねられたオーラを大剣のようにして手に持つとアルトは対抗するように斬撃を飛ばしてパーシヴァルの攻撃を破壊してしまう。
『所詮はその程度だ、精霊。
オマエでは勝てない。ましてオマエの主であるその男でもな』
『……なら、彼らに委ねよう』
『何?』
「万罪宿せし囚えの縛り、後光閉じせし終わりの世の中より来たれ……万鎖封縛!!」
パーシヴァルの言葉にアルトが反応すると葉王が何かを唱え、葉王が何かを唱えると無数の鎖がアルトの体を拘束していく。
鎖に拘束されたアルトはため息をつくと力任せに自身を縛る鎖を破壊しようとした……が、アルトが鎖を破壊しようとすると次々に鎖が飛んできてアルトに巻き付くと彼の動きを完全に封じようと拘束していく。
『何……!?』
「……よくやッたァ、八神トウマァ。
おかげでヤツの動きを封じられたァ」
『貴様……鬼桜葉王!!』
「あァ?何だァ?
神になッたんならさッさと解いてみろよォ。
もッともォ、その鎖を解こうとすれば鎖が無限に増え続けるから無意味だがなァ」
『こんな……こんなふざけた真似を……!!』
「おいおいィ。
この程度で狼狽えんなよォ。こんなもんで狼狽えてたらよォ……せっかくの一撃が台無しだろォ」
全くだ、と葉王の言葉に重ねるようにカズキは言うと無数の刀剣と銃器、弓や槍、斧などの武器を出現させるとその全てに強い力を纏わせ、力を纏わせた武器全ての照準をアルトに定める。
「受けろ……アルテマ・バースト!!」
カズキが叫ぶと全ての武器が光をも超えるような速度で一斉に放たれ、放たれた武器は次々にアルトを貫き、そしてアルトの体を襲って追い詰めていく。
カズキの攻撃を身動きも出来ないアルトは全身をひどく負傷して追い詰められ、追い詰められたアルトは全身から血を流していく。
全ての武器が放たれてアルトを襲うとカズキは左手に大剣を持ってトドメとなる一撃を放とうと……したが、アルトの瞳が妖しく光るとアルトの全身を拘束する鎖が消滅し、そして負傷しているはずのアルトは無傷の姿でカズキの攻撃を止めてしまう。
「……何!?」
『……これほどの力を隠していたとは驚きだな。
だが、そんなものでオレを殺せるなど甘い考えだ』
「力を隠していたのか……!!」
その通り、とアルトが呟くと無数の稲妻がカズキに直撃して彼を吹き飛ばし、さらに稲妻が降り注ぐと葉王も倒されてしまう。
稲妻を受けたカズキと葉王は大したダメージを受けることは無かったが、倒れたことによりアルトは彼らを倒す絶好のチャンスを与えられる。
禍々しいオーラを右手に集めると巨大なエネルギー体へ変化させ、変化させたエネルギー体を球体にするとカズキの方へ向ける。
「くっ……」
『さらばだ、一条カズキ。
ここでオマエを倒せば……世界はオレのものだ!!』
カズキを殺そうとエネルギー体へ変化した禍々しいオーラを解き放ってビームとして撃ち放ち、放たれた禍々しいオーラのビームはカズキに迫っていく。
「こうなったら……!!」
迫り来る攻撃を前にしてカズキは何か秘策があるらしくそれを発動しようとした……が、その瞬間カズキの前に白銀の輝きと粒子が無数に舞うとアルトの一撃が何かに弾かれて消滅してしまう。
『!?』
「何……?」
突然のことにアルトもカズキも驚きを隠せず、二人が驚いていると天高くより何かが二人の間に入るように降りてきて着地する。
降りてきたそれが勢いよく着地したことにより戦塵ぎ舞い上がり、舞い上がった戦塵が晴れると中からヒロムが姿を現す。
「姫神ヒロム……無事だったか」
「……さぁな」
「その様子だと……」
『姫神ヒロム、無様にまた倒されに来たのか?
兄弟揃って学習能力が無くて情けないな!!』
カズキの言葉を遮ってヒロムの出現を笑うアルトは禍々しいオーラをビームとして撃ち放ってヒロムを倒そうと右手を構えたが、アルトが右手を構えるとヒロムは音もなくアルトの背後へ移動すると右手に白銀の稲妻を一瞬走らせ、稲妻が彼の手を一瞬走るとアルトの右腕が吹き飛ばされる。
『!?』
「学習能力?
それはその低脳な力を言うのか?」
『オマエ……何を……!?』
「オマエが知る必要のない事、そしてオマエが理解する前に全てが終わる」