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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
天醒乱舞編・双王撃終
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六五三話 いざ参らん


 負傷した体を起き上がらせたヒロムが精神の中に有する精神世界へ向かうようゼロに伝える愛華。

何故今精神世界に向かうのかヒロムが不思議に思う一方でゼロは舌打ちをすると愛華の言葉に否定的な態度を示す。

 

「精神世界に行けってか?今更?

あんな所に今行って何になる?ヒロムの精神世界はたしかにこっちでの一秒が向こうでは一日、下手すりゃ一週間に相当するレベルで時間の密度が違う。

だが今ヒロムを連れてきたのはコイツの傷を治療するためであって精神世界に行く時間稼ぎと安全な場所への避難じゃねぇ。

まして精神世界に行くってことはオレもヒロムも無防備になるのも同義、オマエを野放しにすることと大差ないんだよ」

 

「ゼロ、話を聞いて……」

 

「時間の無駄だな。

精神世界に向かっても何も無い。ヒロムの中にあるとされる力は既に全て精霊の霊装となって宿ったんだから……」

 

「ゼロ、それは違う」

 

 愛華の話に聞く耳を持とうとしないゼロが語る中、ヒロムは彼の言葉を止めるように言うと続けて愛華が精神世界に向かうように行った理由についての考察を話していく。

 

「オレは……全ての霊装を使えるわけじゃない……」

 

「何……?」

 

「正確に言うなら、オレ自身のこの白銀の霊装たるブレスレットの力は断片的にしか使われていないんだ。

白銀の大剣も白銀の稲妻もオレが何とかしてようやく引き出せるようになった程度の力、本来の霊装の力とは程遠いんだ」

 

「何だと!?

オマエ、何で今まで黙ってた!!」

 

「……十神アルトが勘づくのを防ぐためだ。

オレはかつてこの人のパーティーを荒らしたバッツのやり方を思い出し、十神アルトもそれを狙ってると仮定して出せるだけの霊装の力を出してヤツにオレは本気だと、勘違いさせた。

おそらく……今の段階でガイたちの中の誰かか一条カズキと鬼桜葉王が完全なオレの力を取り込んだと勘違いした十神アルトの力を上回る戦いをして一度は優位に立ってる頃だ」

 

「それが外れてたら?」

 

「……今頃十神アルトが勝って街は破壊されてる。

けど、破壊されてるような兆しはないから、ガイたちはまだ倒されていない」

 

「……なるほど。

だが、だとしても納得いかないな。何のためにオマエの精神世界に向かう必要がある?」

 

「それは……一条カズキも教えてくれなかった事を理解するためだ」



 ヒロムの言う理解するためという言葉。何を指しての言葉かは定かではなく、そしてヒロムが何を理解したいのかゼロには理解できなかった。

 

「何を理解するつもりだ?

一条カズキの特訓でオマエは七つの大罪と七つの美徳を冠するそれぞれの感情と力を理解したんだろ?

なのに今さら何を……」

 

「……家族、だ」

 

「……は?」

 

「オレは……今までこの人や飾音はもちろん、トウマや「姫神」の人間すら受け入れていなかった。

けど、そんなオレはオマエを受け入れ、オマエはオレを理解してくれた。

オレにとっての家族はフレイたち精霊だけだったが、今ではオマエもその中にいる。だから……」

 

「悪ふざけはよせ。

オマエのふざけた話を最後まで聞く時間も勿体ない。

精神世界に行く理由がハッキリしないなら傷を治して戻るぞ」

 

「……ゼロ、ハッキリしてるんだよ。

オマエは……その答えを出してるんだ」

 

「あ?」

 

「……ゼロ……。

オマエは……自由にオレの精霊の力を使えるのか?」

 

 ヒロムの問い、それは至極簡単なものでゼロがヒロム自信の宿す精霊の力を扱えるのかというものだった。

その問いの内容をゼロは当然理解しているが、何故か答えようとしなかった。答えないゼロ、そのゼロの反応を見たヒロムは深呼吸をして呼吸を整えると彼に告げた。

 

「ゼロ……オマエはもう、オレに宿る精霊ではなくなってる。

シンギュラリティの進化を遂げ過ぎたオマエは一人の人間として変化しつつあるんだ。そのせいで……オマエは精霊として繋がることで扱えていた精霊の力を使えなくなり、自分の力で戦う戦士として強くなっているんだ」

 

「オレが……人間に……?」

 

「……オマエが「ディヴァイン・ドライヴ」を発動した時がその始まりだ。

この人の話から察するに葉王はオマエがこうなると予見してその力の素となる設計図をオマエに与えたんだ。結果としてオマエは……その力を形にし、そして十神アルトと戦う中で誰も予想していない形へ進化させた」

 

「ば、バカ言うな……。

オレはオマエの……」

 

「その想いが強すぎたんだ……ゼロ。

十神アルトが言ってたろ?オマエは……アイツが力を得るためにその力を蓄えるための器だって。

オマエはその器としての才能を自らの成長の糧に変換し、変換したその才能で今の強さに到ったんだ。

だから十神アルトはオマエから力を奪うのをやめて倒そうとした……オマエが一人の人間として確立されているから奪えなかったんだ」


「……!?」

 

「……この人が言う精神世界に行くってのはおそらくオレとオマエの霊の繋がりを断ち切って個々の人間となることでそれぞれの強さを得ようとすることだ。

お互いが独立することでより高みを目指せるようになり、それにより十神アルトを二人で越えようって話だろうな」

 

 ヒロムから明かされた可能性の話。それはあくまで可能性の話なのだが明かされた内容の全てを遡ってもゼロ自身の急激な成長の理由としては説明がつくものが多く、否定したくても否定する要素がないことからゼロは言葉を詰まらせてしまう。

 

言葉を詰まらせるゼロ、そんなゼロにヒロムは負傷した体でゆっくり歩み寄ると彼の肩に手を置いて優しく言った。

 

「精神世界での繋がりが消えてもオマエはオレ、オレはオマエだ。

光と闇はどこにいても一緒、だからこれからはお互いが持つ力を強くさせてお互いを助けよう」

 

「ヒロム……」

 

 ヒロムの話を聞いて少しばかり冷静さを取り戻すゼロ。

ゼロが冷静さを取り戻すとヒロムは愛華から詳細を聞き出そうと彼女の方を向き、ヒロムの視線を受ける愛華は精神世界に向かわせたい理由について明かしていく。

 

「ヒロムさん、アナタの考察は間違いではありません。

ですが、精神世界に向かうのには別の理由があります」

 

「別の理由?」

 

「オレとヒロムの繋がりを断ち切って個々の人間にしたいんじゃないのか?」

 

「繋がりを切ってしまえばゼロの存在を保つ力が消えるのと同じ。つまり、ゼロの存在を消すことになります」

 

「なら何をすれば……」

 

「ヒロムさん、頭のいいアナタならこの話を聞けば察しがつくと思いますが……ゼロは元々十神アルトが自らの力を得るために利用しようとしていた存在であり、その体の中には力を貯える性質があります。今の段階まで成長したゼロの力は変異して成長を続ける力となっています。

そしてヒロムさんが持つ「ソウル・リンク」の力は自身と精霊を繋げて力を高める効果を持ちます」

 

「まさか……オレとゼロを一時的にリンクさせてゼロの「ディヴァイン・レイジング」の力をオレの中に流し込むってのか?」

 

「その通りです。今のヒロムさんの急激な成長に精神世界にあるとされる残りの力の成長が追いついていないからこそ取る奥の手です。

ですが……」


「?」

 

「何かあるのか?」

 

「これを精神世界で行うのはヒロムさんの力を確実に成長させると同時にそれを完全覚醒させることが目的なのですが、リスクは伴います」

 

「どんなリスクだ?」

 

「……ヒロムさん、この方法でその白銀の霊装の力が完全になった場合、霊装を持つ精霊たちはその存在を保てるかもしれませんが……他の霊装を持たない精霊はその全てをアナタの力にするべく消滅する可能性があるのです」

 

「……!?」

 

 愛華の口から明かされた衝撃の内容、その内容を受けたヒロムは言葉を失う他なかった。

精霊が消える、後にも先にもそうなることを考えたことの無いヒロムはただただ動揺するしか無かった。

 

「……消えるってなんだよ?

また封印されるってのか?」

 

「いいえ、言葉通りの意味です。

その肉体も名前も能力も全てがヒロムさんの霊装とその精霊の力と近い性質を持つ霊装の力となる代わりにヒロムさんの中から姿を消してしまうということです」

 

「霊装を持つ精霊は十四人、持たない精霊は二十八人……アンタはオレに二十八人とのこれまでを忘れるようにして別れろって言いたいのか?」

 

「この言い方はしたくありませんが、元々精霊たちはヒロムさんの力から生まれた存在でありヒロムさんの力が形を与えられたのが精霊なのです。

その精霊を本来の姿に戻す、というのが精神世界でこれから行ってほしいことです」

 

「ふざけるなよ……!!

オレは……オレたちは家族としてこれまで過ごしてきた!!

それを今ここで簡単に忘れて力のために存在を消させるなんて……オレには出来ない……!!」

 

 愛華の話す言葉に強く反論するヒロムだが、あまりにも強い思いが彼の言葉をつまらせ、そしてその言葉はどこか辛さを感じさせる。

 

 そんなヒロムを見たゼロは今自分が言える言葉を頭の中で探ると声に出してヒロムに伝えた。

 

「ヒロム、やるしかない」

 

「ゼロ……!?」

 

「姫神愛華が言ってることはあくまで想定の範囲内での仮説だ。

仮にオマエが力を覚醒させるために精霊を犠牲にしたとして、それでその精霊が終わるとは限らない。

オマエと精霊との間にある絆と思い出、それらをどうにかして残せるのなら……精霊という存在が消滅してもそこにいた証は残せるはずだ」


「……結果が違うだけでやることは変わらないじゃねぇか

 

「ああ、変わらないな。

だが変わることもある。結果が全てではないし、これからやることの結果も消滅一択という道しかないわけじゃないはずだ。

何かあればオレの力も使う。オマエの家族として過ごしてきた日々の恩を返すために……オマエとオレの家族を失わないためにオレはオレに出来ることをやってやる」

 

 だから、とゼロはヒロムに手を差し伸べると彼に伝えた。

 

「ここで絶望するな。

オマエが絶望すれば全ての希望が終わる。オレたちに残された勝利へ続く希望はオマエだけなんだ」

 

「……勝利へ続く希望……」

 

「オマエは精霊をクロムに奪われて絶望する中でオレと出会い、そして新たな可能性を手にしてヤツを倒した。

精霊が消えるかもしれないと言うなら何とかしてそれを阻止して希望に繋げるぞ。

十神アルトを倒すためにオマエの力が必要なら、オマエがここで諦めるのは違うからな」

 

「あぁ……そうだな。

なら、やるしかないよな」

 

 ゼロの言葉を受けたヒロムは気持ちを引き締めると深呼吸し、そして……

 

「行くぞゼロ。

オレたちが……最後の希望だ」

 

「ああ、望むところだ」

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