六五一話 一条VS十神
戦場……
変貌を遂げて他者を圧倒するほどの力を得たと思われたアルトだったが、そのアルトは今一条カズキの前に為す術もないまま追い詰められていた。
『くっ……!!』
気がつけば武器が現れ、気がつけば攻撃されている。
そんな状況の中でアルトは防御すらさせてもらえぬまま一方的に攻撃されている。
『何故だ……!?
何故オレはこんな一方的に……!?
ありえない……オレはどの能力者も凌駕する神の力を得たはずなのに……こんなのは現実では……』
「おしゃべりとは余裕だな」
一方的に攻撃されること状況が受け入れられないアルトが困惑して現実から目を逸らすように独り言を語っているとアルトに向けてカズキは右手を向け、カズキの右手がアルトに向けられると数千の砲門が現れる。
数千の砲門が現れるとアルトは禍々しいオーラを強く纏って砲門を破壊しようと……するが、アルトが禍々しいオーラを強く纏うと同時に砲撃音が轟き、砲撃音が轟いたと同時に数千の弾丸がアルトに直撃する。
『バカな……!?』
砲撃音が轟いてから着弾までの時間があまりにも早すぎる。数千の弾丸の直撃を受けるも纏う禍々しいオーラが防弾チョッキに近い役割をしたことでダメージを軽減させたアルトはカズキのこの砲撃にアルトは体がよろけながらも疑問に思っていると彼はある事に気づいた。
『……奇妙だな……?
何故オマエの攻撃は全て認識してから着弾までの時間が極端に短い?
いや、言い方を変えるなら何故認識してから着弾までの間の動きが一切確認できない?』
「……なるほど。
さすがに今の数千の攻撃はヒントになりすぎたか」
『ヒントになりすぎた、ということはやはりそういうことか。
一条カズキ……オマエは全ての攻撃とそれに直結する武器攻撃に用いられる武器に「神速」の力を付与しているな。
認識出来ぬ速度となれば光速や音速があるが神となった今のオレが反応できないなら神速と言うのが適切だろう。
いやはや、原理が分かればどうということは無い』
「理解しところで変わらない。
そのことを身を持って思い知れ」
カズキの能力についての推論を語るアルトに対して冷たく言うと続けてカズキは数基の超電磁砲を出現させると攻撃を放とうとする。
だが、アルトはその瞬間に音も立てずに移動するとカズキの背後に現れ、カズキの後ろにアルトが現れると数基の超電磁砲が一斉に破壊される。
超電磁砲が破壊されるとアルトは不敵な笑みを浮かべながら禍々しいオーラを強く纏って次なる行動に移ろうとした……が、アルトが行動を起こそうとした次の瞬間、彼の右腕が勢いよく吹き飛ばされてしまう。
『!?』
「戯けが。その程度でオレを理解したと思うな」
右腕が吹き飛んだことにアルトが驚いているとカズキは右足で地面を強く蹴り、カズキが地面を蹴ると大地から無数の刃が隆起するようにアルトに襲いかかって敵の体を貫いていく。
無数の刃に体を貫かれたアルトは刃に貫かれた体のまま後退りし、後退りするアルトの方へカズキは体を向けると後退りする彼に問う。
「神となった今のオマエは人間程度の力に臆するのか?
神となったオマエは一人間でしかないオレに負けることを恐怖してるのか?」
『……オレが負ける……?
たかが片腕を吹き飛ばしたくらいでいい気になりやがって!!』
カズキの言葉にアルトが声を荒らげると彼の吹き飛ばされて失われた右腕が禍々しいオーラを纏いながら再生され、右腕が再生したアルトはオーラを強くさせるとカズキに接近して拳撃を放とうとする。
力に頼らぬ正面切っての純粋な格闘、今更とも言えるその攻撃をアルトは行おうとするが、カズキは気がつけば小太刀を両手に持ってアルトの攻撃を防いでいた。
『くっ……!!』
「ご自慢の神の力は温存するつもりか?
ここに来て何を企んでるか知らないが、オマエの他者の力を取り込むそのメカニズムは既に把握してる。オマエがオレの力を取り込むのは不可能だ」
『メカニズムだと?』
「オマエのその取り込む力は取り込みたい対象の力とその性質を理解しなければ取り込めない。
姫神ヒロムのシンギュラリティに達した力を早々に取り込まなかったのはその力の全容を理解していなかったからだ。
ルシファーという闇の意志とその力を八神トウマの中で育てておきながら姫神ヒロムが倒すまでその力を回収しなかったのはオマエも把握していない成長を遂げていたからだ」
そして、とカズキは小太刀を音も立てずに大太刀に変えるとアルトに一閃を放つ形で吹き飛ばし、吹き飛ばしたアルトが斬撃を受けて負傷する中でカズキはアルトの力の問題点を話していく。
「オマエのその力は一見すれば便利に見える。
だが、ただ便利なら相馬ソラや雨月ガイたちのシンギュラリティに達した者の力も取り込めば強くなれるはずなのにオマエはあえて取り込む力とその相手を慎重に選んでいる。
それは何故か?その答えはオマエ自身のキャパシティの問題だ」
『キャパシティ……だと……?』
「取り込んだ力を保存するオマエの中のストレージがな。
オマエ自身の中には取り込んだ力を保存するストレージが用意されているようだが、そのストレージ自体がそこまで大きくないのだろう。
だからオマエは慎重に選ぶ必要があった。そして目をつけたのが姫神ヒロムの力だ。一人の人間が精霊の力を間接的に扱うことで複数の能力を自由に扱えるという状態に目をつけたオマエは姫神ヒロムを狙いに定めた。
複数の能力を取り込むのに大幅にストレージを消費するよりも個人で複数扱える姫神ヒロムの力を一だけで取り込めるならオマエにとっては迷う理由がないからな」
『そこまで理解しているとはな……。
だが八神トウマの力はどう説明する?
オマエの言う話の通りだとして、何故姫神ヒロムに劣った八神トウマの力を取り込んだのか。それについてはどう説明するつもりだ?』
「簡単な話だ。
姫神ヒロムを追い詰めたゼウスを身に纏うオマエを追い詰めるほどに急速な成長を遂げた八神トウマの力を取り込むことでオマエはルシファーの力とゼウスの中にある神機のスペックを底上げしようとした。
その結果オマエの力は増し、そしてハデスを取り込めるほどになったということだ」
アルトの問いに対してカズキは淡々と答えると大太刀に雷を纏わせながら斬撃を無数に飛ばし、アルトは禍々しいオーラに剣の形を与えるとそれを構えて雷を纏う斬撃を次々に破壊していくが、カズキの攻撃をアルトが防いでいるといつの間にか炎の龍が無数に現れてアルトに襲いかかっていた。
『がぁ!!』
「残念だが長話はここまでだ。
オマエを倒す、その一点に置いては覆ることは無い」
『くっ……!!』
炎の龍に襲われたアルトは全身に火傷を負ってしまうと膝をついてしまうが、膝をついたアルトの体についた傷は徐々に消えていく。
これが神々の力を得たが故の力なのか、それともトウマの力たる「天霊」を取り込んだが故の恩恵なのかは分からないが、カズキが与えたダメージをアルトは無かったことにするように回復している。
「再生するとはな。
楽にしていればすぐに終わるものを、抵抗するのなら苦痛が長引くだけだ」
カズキは大太刀を投げ捨てると大剣を出現させて装備し、そして一切の音もなくアルトに接近すると彼が気づく前に大剣の一撃を喰らわせようとした……のだが、カズキが大剣を振り下ろそうとしたその時、アルトは目にも止まらぬ速さで何かをするとカズキの大剣を破壊してしまう。
「!?」
『……助かったぞ。
オマエが長々とオレの力について解説してくれたおかげで運はオレに巡ってきた』
カズキの大剣を破壊したアルトは禍々しいオーラを強く纏うと手刀でカズキを殺そうとするが、カズキはどこからともなく剣を出現させて装備するとアルトの手刀の一撃を切り払おうとした。
しかし……アルトの手刀を防ごうとしたカズキの剣は敵の攻撃を弾くと刀身が砕け散り、刀身が砕け散るとカズキは脚に力を集めて蹴りを叩き込むことでアルトを一旦自分から突き放す。
蹴り飛ばされたアルトは倒れる様子もなく禍々しいオーラを翼のようにすると体勢を立て直し、立て直したアルトは瞳を怪しく光らせると無数の稲妻をカズキに向けて放つ。
放たれた稲妻はカズキに向けて飛んでいくが、ほの稲妻がカズキに迫る前に葉王が指を鳴らすと稲妻が音も立てずに消えてしまう。
『ほぅ……』
「ずいぶんと楽しそうじャねェかァ。
どうせならオレも混ぜろよォ」
『邪魔をするのか、鬼桜葉王。
オマエの主人たる一条カズキはまだ戦えるようだが……それでも邪魔するのか?』
「悪いがカズキはオマエと戦うのを楽しんではいねェ。
ただ単純にオマエがカズキと戦うのを楽しんでるッてだけの話であッてカズキからすればオマエは始末すべき対象でしかないんだよォ」
『始末すべき対象か。
神を始末しようとは大きく出たものだな』
「オレからすればオマエなんざ神でも何でもねェんだよォ。
罪を重ねているだけの咎人ォ、それが今のオマエだァ」
『咎人ねェ……ならオマエたちはどうなる?
「十家」というシステムの中でその権力を利用して己の計画を進めていた。
そんなオマエたちは何の罪も背負わないのか?』
「罪ねェ。
背負わしたいなら背負わせばいいだけの事だァ。
ただなァ……自らのやることに責任を持たないようなオマエのやり方は心底気に食わねェんだよォ。
他人を利用するだけ利用して何かあれば責任を他人に押し付けるオマエのやり方がなァ」
『責任?
今のオレはもはや最強の神だ。
この世界を一から創造し直すことも可能となるであろうオレが責任など気にするわけないだろ』
「だから気に食わねェんだよォ」
アルトと言葉に葉王は嫌悪感を顔に出すとどこからともなく刀を出現させ、出現させた刀を手に持つと葉王はそれをアルトに向けて構えるとカズキに告げた。
「悪いがオレも混ぜてもらうぜェ。
このままじャ埒があかねェだろうからなァ」
「そうだな。
そろそろオマエの力を借りるとしよう。ヤツの力もある程度把握出来たことだし……終わりに向けて策を投じるか」
「まァ、事が上手くその方向に流れればの話だけどなァ」
「……やるぞ」
「あァ」
カズキと葉王は魔力を強く纏うと走り出し、そしてアルトを倒そうと一撃を放とうとする。
まるで何かを企み、そのために何かを用意しようと二人は確認をし、そして……