六四八話 罪翼飛翔
「もう、逃げない……!!
兄さんが立ち止まらずに進み続けていたのなら……ボクも同じように前に進む!!」
ソラとノアルの放った炎と闇が迫る中で覚悟を決め強い意志を抱くトウマ、そのトウマの意志に応じるかのように彼が纏う光が強くなり、強くなった光はトウマの背中で大きな翼の形を得ていく。
翼の形を得た光はそこからさらに大きくなり、翼の形をした光は実体を得ると翼となりて烈風を巻き起こすとソラとノアルの放った炎と闇を相殺する。
そして翼は再び光に戻ると光の翼となり、光の翼は青い輝きを発し始める。
光の翼の発する青い輝きを見たソラはノアルにそれが何を意味するのかを尋ねる。
「ノアル、アレがオマエの狙ってたものか?」
「ああ、そうだ。
八神トウマは闇を植え付けられたことで本来の心を封じられていた。
そのせいで八神トウマは「天霊」の力は不完全かつ闇に真価の発揮を妨げられていた。
だが今、本来の心を取り戻したことでその力は真価を発揮しようとする」
「なるほど。
その力で十神アルトを足止めするのか?」
「それもあるが……もう一つの狙いもある」
「もう一つ?
他に何を……」
ノアルの言葉にソラが疑問を抱いていると光の翼を広げるトウマの周りに突然闇が現れ、現れた闇は人に近いような形を得ていく。
いや、人ではない。形を得ていく闇が得る姿はトウマが使役していた機械天使・オーディンだ。
オーディンだけでなくトウマが使役していた機械天使・ロキやラグナレクも闇が変化すると彼の前に現れ、三体の機械天使が現れるとソラは慌てて三体の破壊を試みようとするが、ノアルはそんなソラを止めた。
「ノアル、何で止める!!
オマエ、これを狙ってたってのか!?」
「落ち着けソラ。
ここまではもう一つの狙いの過程でしかない」
「過程だと?」
「そう、過程だ。
あの機械天使はどれもトウマの中に残っている十神アルトが植え付けた闇の残滓が戦おうとするトウマの意志に反応して「天霊」の力とともに出てきたもの。
アレらには別段特出すべき力は備わっていないが、トウマの意思がここで折れてしまえばアレらはトウマの力を乗っ取ろうとするはずだ」
「オマ……!?
そんな危険なことを過程だとか言うのか!?」
「確かに危険だ。
だが、これまで八神トウマは闇に囚われていたせいで己で道を切り開くことをしてこなかった。
だからこれはそんな八神トウマへの試練だ。ヒロムが七つの大罪と七つの美徳に該当する感情と向かい合って理解したように八神トウマはここで己の心の弱さの象徴たるアレを打破しなければならない」
「まさかオマエ……」
「そうだ。オレは八神トウマをシンギュラリティに導こうとしてる」
ノアルの狙いに気づいたソラはトウマの前に現れた機械天使の破壊を考え直すとその一部始終を見届けるかのようにトウマに注目し、ソラとノアルが見守る中トウマは不安を抱きながら機械天使を見つめる。
「オーディン、ロキ……ラグナレク……」
『我々を求めろ……』
「え? 」
『我々の力を求めろ』
『さすればオマエはまた力を得られる』
『この場にいる誰よりも強い力を得たオマエは誰にも負けない能力者となる』
トウマを誘惑するように言葉を発する機械天使。その機械天使の言葉にトウマは困惑した表情を浮かべてしまうが、トウマは拳を強く握るとその誘惑を断ち切ろうとした。
「ボクはもう闇に頼らない。
闇に頼ることで同じ過ちを繰り返してしまうのなら、ボクはオマエたちを拒絶する」
『拒絶?
不可能だ』
『オマエは一度闇に堕ちた身』
『一度誘惑を知った者はもう戻れない』
「そんなことはない!!
ボクは必ずやり直す!!オマエたちを拒絶して自分の道を進む!!兄さんが復讐の道から光射す方へ進んだように!!」
『不可能だ』
『オマエにその才能はない。
だからオマエはその程度の力しか宿らない』
『精霊に恵まれたあの男とは違いオマエは出来損ないだ。
その運命を受け入れて今一度我々を使役しろ』
「ボクは……ボクは!!もう二度と同じ過ちを繰り返したくないんだ!!
兄さんを傷つけ、兄さんの仲間を傷つけ、兄さんの大切な人を悲しませるような愚かな人間になんて戻りたくないんだ!!」
誘惑を断ち切ろうとしても次から次に言葉巧みに闇に誘おうとするオーディンたちを前にしてトウマはこれまでを懺悔するとともに同じことは繰り返したくないと強く叫ぶ。
すると……
『その言葉を聞きたかった』
トウマの叫びに呼応するように光の翼が眩い輝きを放ち、眩い輝きを放つ両翼のうちの左翼がトウマから分離される。
分離された光の翼の左翼はオーディンたち機械天使を吹き飛ばし、そしてトウマの前で形を得るとその姿を現す。
青い光の片翼を背に持ち、全身を白銀の騎士鎧に包み、頭も騎士の兜をしっかり被って守っている体長二~三メートルはあるであろう戦士へと変化する。
機械天使や神機のような機械感は感じられず、どちらかと言えばヒロムの精霊に近いものを感じられる。
青い光の片翼の戦士の出現にトウマが驚いているとその戦士はトウマの方を向くと片膝をつき、そして頭を下げるとトウマに話しかける。
『私はずっとこの時をお待ちしてました。
アナタが己を取り戻し、そして己の心に従って前に進まれる時をずっと心待ちにしておりました』
「キミは……?」
『名乗るようなものではありません。
ですが、アナタのために戦う剣となることは約束すると決めております』
「ボクのために……」
『ですから私に渡してください。
アナタがその身に宿す深き後悔から来る罪の半分を私に背負わせてください。
一人で背負いきれなくとも私と共にならば背負えるはずです』
「ボクの罪を……」
そうです、とトウマの言葉に戦士が頷くとトウマの残っている右の光の翼が青い光の片翼へ変化していく。
変化した青い光の片翼は無数のエネルギー体の大きな羽根によって構築されており、その翼を見たトウマは戦士に問う。
「この翼なら……ボクは飛べるんだね?」
『飛べます。
アナタの片翼と私の片翼は互いを支え合いながら自らも支える翼。この翼はアナタが望めばどこまでも飛べるようになります』
「なら……頼みがある。
ボクと一緒に十神アルトを倒して欲しい!!」
『……おまかせください。
私の力でアナタを勝利に導きましょう』
させぬ、と吹き飛ばされたオーディンたち三体の機械天使は起き上がるとトウマと戦士を倒そうとするが、トウマは青い光の右のみの片翼を広げると翼を構築するエネルギー体の大きな翼の数枚をビットのように射出して飛ばし、飛ばされたエネルギー体の大きな羽根は光を纏いながらオーディンたち機械天使を一瞬で破壊してしまう。
「機械天使を……一撃で!?」
「あれが八神トウマのシンギュラリティの力であり、本来の「天霊」の力が生み出した精霊」
一撃で機械天使を倒したトウマの力にソラが驚く隣でノアルは冷静に解説し、トウマは戦士に名を尋ねた。
「名前を教えて欲しい。
これこらキミと戦うのならキミの名前を知りたいんだ」
『私の名前……。
ならば主たるアナタという王に仕える騎士・パーシヴァルと名乗らせてもらいましょう!!』
青い光の左翼を大きく広げた戦士……いや、騎士の精霊・パーシヴァルはどこからともなく白眼の剣を出現させて装備すると勢いよく飛翔し、そして飛翔したパーシヴァルは一瞬でアルトに迫ると剣撃を放つ。
「コイツ……!!」
突如接近してきたパーシヴァルに対してアルトは驚きながらも身に纏う六色の稲妻を強くさせた手刀で防ぎ止め、攻撃を止めたアルトは後ろに飛んでパーシヴァルと距離を取ろうとした……が、そんな彼にすかさずガイとシオン、イクト、バッツが一撃を放って彼を吹き飛ばす。
「!!」
吹き飛ばされたアルトは勢いよく倒れ、倒れたアルトは口から血を流しながら起き上がるとパーシヴァルを強く睨む。
「オマエ……!!
何故オマエのような精霊が……!!」
『不思議なものだ。
私は一度闇に飲まれて消えるだけの身と成り果てるはずだった。
だがそんな私を……私と我が主を闇から救ってくれた者がいた。
そんな彼らのおかげで私はこうして現界できた』
「ふざけるな……!!
オレは八神トウマの中に精霊の存在がなかったからルシファーを植え付けて育てたんだぞ!!
それなのに……それなのに何故今になって精霊が現れるんだ!!」
『簡単な話です。
我が主の決意が私を呼び覚ました。我が主を利用することしか考えなかった貴様が見落とした私今こうしてここにいる!!』
パーシヴァルは青い光の左翼を大きく広げながら飛翔するとアルトの周囲を飛び回りながら連撃を放ち、パーシヴァルが連撃を放っているとトウマは青い光の右翼を広げながら飛翔し、飛翔する中でトウマは右手に光をあつめる。
「そうだ、ボクは前に進むと決めた!!
たとえ一度は闇に堕ちたこの魂、その魂が犯した罪をパーシヴァルと二人で償ってでも未来へ進む!!
兄さんたちに恩を返すため……この力の全てを発揮する!!」
「……八神トウマァァァ!!」
パーシヴァルの連撃を受けるアルトはパーシヴァルの連撃の一部を何とかして避けるとトウマに向けて禍々しいオーラをビームにして撃ち放ち、撃ち放たれた禍々しいオーラのビームをトウマは華麗に避けると左手に弓を出現させ、右手に集めた光を光の矢に変えるとアルトに狙いを定める。
「なっ……」
「これがパーシヴァルとボクの……「天霊」の力だ!!
セイクリッド・シン・シュート!!」
トウマの構える弓から矢が放たれ、放たれた光の矢は光を強く発しながら力を強くさせると加速し、加速していく中で発する光の一部を翼のようにしながらアルトに襲いかかる。
力を高めた光の矢を前にしてアルトは禍々しいオーラをビームにして次々に放っていくもその全ては光の矢に消され、そして全てを消し去った光の矢はアルトの体を貫こうと襲いかかる……が、アルトが纏うアーマーとなっているゼウスの装甲が光の矢を防ぎ止め、防ぎ止めた反動でアルトは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「がぁぁぁあ!!」
「止められた……!?」
仕方ねぇよ、と攻撃を防がれたトウマにソラは励ますかのように言うと彼の横に並び立ち、ノアルもトウマの隣に立つと彼に話した。
「キミは真の力を解放したばかりだ。
力にリミットがかかって肝心なところで一手足りなくなったんだ」
「リミットが……」
「まぁ、んな急に強くなって簡単に倒されたらヒロムの苦労が台無しだからな。
十神アルトを追い詰めたって意味ではオマエもよくやったよ」
「ソラ……。
でもまだだ。アイツを倒して終わらせないと」
分かってるさ、とソラは紅い炎、ノアルは闇を強く纏うと構える。
「ノアルがオマエを導いたのは「天霊」と「魔人」の相反する者同士が呼応して引き起こす互いを越えようとする共鳴反応だ。
十神アルトがさらに強くなるなら……こっちは三人で共鳴反応起こしてそれを超えるぞ」
「キミがやる気になってくれなかったらこの手は使えなかった。
利用して申し訳ないが、付き合ってもらうぞ」
「それでこれまでの事が少しでも償えるなら何でもするさ。
だから……ボクに力を貸してほしい!!」
力を貸してほしいと言うトウマの言葉にソラとノアルは頷くと構え、話を聞いていたであろうガイ、シオン、イクトもトウマの頼みに応じるかのように構える。
五人の能力者が力を貸してくれることにトウマは気を引き締め直すと飛翔し、そしてアルトを倒すべく迫っていく。
だがアルトは……