六四七話 導くためのきっかけ
「オマエを殺して思い知らせてやる……誰が一番強いのか、誰が真の強者かを!!」
「それはオマエじゃない」
アルトの言葉を否定するように放たれる言葉、その言葉の聞こえた方へとアルトが視線を向けると……そこには東雲ノアルが立っていた。
何故ここにいるのか、それが不思議で仕方なかったイクトがそれを顔に出しているとガイがノアルに問うように叫んだ。
「ノアル!!
何でオマエがここにいる!!」
「悪いなガイ。
オマエたちに頼まれて屋敷の守りを担っていたが、テレビの中継というのでヒロムが倒されるのを放送されたせいで屋敷内はパニックを起こしている」
「それとここに来たことに何の関係が……!?
まさかオマエ……!?」
「……オレたちに守られるだけの彼女ではない。
彼女たちも何かの力になってくれると判断してここに連れてきた」
ノアルの口から告げられた言葉、それを聞いたガイは仲間である彼に向けて声を荒らげてしまう。
「ふざけんなノアル!!
オマエは……オマエはこんな危険な場所にユリナたちを連れて来るような真似をしたのか!!
ヒロムにとって大切な存在である彼女たちを守るように言われたオマエが……彼女たちを危険に晒す真似をして何のつもりだ!!」
「危険だということは百も承知だ。
だがガイ、彼女たちの気持ちを無視してまで押しつけるものなのか?」
「何……?」
「ただ帰りを待つだけなら彼女たちも耐えれたはずだ。
だが彼女たちを守ろうとするヒロムの無茶をするその姿はテレビという身近なものに映し出され、彼女たちは見たくなくともそれを見るしかない。
そんな状況の中で見ることしか出来ない彼女たちに何もするなと言うのか?」
「状況を考えろ!!
今ここは……」
「戦場だ。そしてここで戦うのはオレたちの役目だ。
だが……傷ついたヒロムの支えとなることの出来る彼女たちにはヒロムのそばで彼女たちにしか出来ない戦いを挑むことだって出来る」
「ユリナたちにしか……?」
「それに無防備に連れてきたわけじゃない。
ある仮説が立証されるまでは「七瀬」の傘下の能力者が護衛についてくれているし、ヒロムの傷の手当を最適に行える人物も同行している」
「それって一体……」
「そこはどうでもいい。
とにかく今は一刻も早く誰かがヒロムを彼女たちのもとへ連れていく必要がある。そのためにオレがここに来た」
待てよ、とノアルが話を進めていく中、アルトは不機嫌そうな顔で彼を睨み、彼を睨む中でアルトは苛立ちを言葉に乗せていく。
「急に現れたと思ったらオレが真の強者じゃないだと?
偉そうな口を……。人の優しさも知らず、人に見捨てられた「魔人」が偉そうな言葉で語りやがって……。
オマエは何様のつもりだ?」
「……東雲ノアル、オマエが言うように「魔人」の人間だ」
「人間を名乗るのか?
人間らしさを知らないオマエが?」
だからだ、とノアルは両腕を「魔人」の力で黒く染め上げると爪を鋭くさせ、爪を鋭くさせるとノアルはアルトに告げた。
「オレは人間とはどうあるべきか知らない。誰かに教えてもらって納得出来る事じゃないかもしれない。だからこそオレは……人間とはどうあるべきなのか、人間に何が出来るのかの答えをオレの手で掴み取る。
オマエがその答えの前に立つのなら……オマエを倒してそれ知るだけだ!!」
自らの意志を強く持つノアルはその思いを強く語るとともに走り出し、走り出したノアルはアルトの肉体を抉ろうと爪で一撃を放つが、アルトはイクトが消したはずの稲妻を強く纏うとノアルの一撃を防ぎ止める。
「……オマエがどうしたいかは別にどうでもいい。
だが、その答えを知ってもオマエは変わらない」
「変われなくてもいい……いや、変わることが答えなんかじゃない。
オレを一人の人間として受け入れ、オレを一人の仲間として認めてくれた人がいるのならその人たちのために出来ることをやるだけだ!!」
「よく言ったじゃん、ノアル!!」
アルトに攻撃を止められるノアルの言葉を聞いたイクトは彼の思いに賛同するようにアルトに接近すると漆黒の大鎌で斬りかかろうとし、イクトの攻撃をアルトは避けるとノアルとイクトから距離を取るように後ろに飛ぶ。
アルトが後ろに飛ぶとイクトは大鎌に黒炎を纏わせながら斬撃を飛ばし、ノアルは闇を強く纏うと「魔人」の力を体に広げていくと全身を黒い鬼のように変化させ、姿を変化させたノアルは闇を一点に集めるとビームのようにしてアルトに向けて放つ。
斬撃と闇のビーム、二つの攻撃が迫る中アルトは六色目となる杏色の稲妻を纏って二人の攻撃を両手でうけとめる。
アルトが攻撃を止める中、イクトはガイたちに伝えた。
「ここはオレたちが時間を稼ぐ!!
今のうちに大将を連れて行ってくれ!!」
「オマエら……」
「頼むぞ……!!
ヒロムはオレたちの……希望だ!!」
「……ッ!!
分かってる!!」
ノアルの言葉を受けたガイは強く返事をするとヒロムを抱えようとした……が、ガイの邪魔をするようにゼロはヒロムを抱き抱える。
「ゼロ……?」
「今のヒロムに万が一のことがあればオレが精神世界に行って命を繋ぎ止める。
だからオマエらはここであの男を倒してくれ」
「……頼むぞ、ゼロ」
ヒロムを託すようにガイが言うとゼロは音も立てずにヒロムを抱えたまま消え、ゼロが消えるとガイはアルトを倒すべく前に出ようとする。
ガイが前に出ようとすると先にソラが前に出、さらにアルトを倒そうと先に仕掛けて返り討ちに遭って負傷しているシオンも立ち上がるとアルトを強く睨む。
「……この程度の傷で倒れるほど戦闘種族の体は脆くない!!」
「ヒロムのため、オレはオレがやるべきことをやる。
十神アルトを倒すことがヒロムのためになるなら……オレはオマエを殺す!!」
「……無駄なことを。
紅月シオン、オマエの力はオレには通用しない。まして相馬ソラも雨月ガイもオレの前では何の役にも立たない。
今更介入してきた東雲ノアルの力も程度が知れているし、ハデスの力を得た黒川イクトの力がゼウスを身に纏う今のオレに通用すると思うな。つまり……今のオマエら「天獄」に勝算はない」
「……いいや、勝算はまだ残ってる」
この場で自らを倒すせる者はいないと主張するアルトに対して異論があるような言い方をするノアル。アルトに対して言い返すノアルは闇を強く纏う中でトウマに視線を向け、ノアルの視線がトウマに向けられるとソラは紅い拳銃「ヒート・マグナム」をトウマに向けて構える。
「えっ……」
「何の真似だ?そいつは姫神ヒロムが救いたくて救った弟だろ?
まさか当人が消えたからって今のうちに殺すのか?そいつを殺しても何も変わらな……」
「ガイ、シオン、イクト……そいつを黙らせろ」
任せろ、とノアルの言葉に三人は返事をするとアルトを倒そうと迫っていき、三人とアルトが交戦状態に入ろうとするとノアルはソラに尋ねた。
「ソラ、オマエのやるべき事はヒロムの力になることとヒロムの敵を排除することだな?」
「ああ、異論はねぇ。
そのためにオレはここにいるんだからな」
「……その気持ちに変わりがないなら問題ない。
八神トウマ、オレはキミに問いたい」
「何を……」
「今のキミは……どうしたい?」
ノアルからの問い、トウマ自身がどうしたいのかという問いにトウマは戸惑うしか無かった。
別にノアルの質問の意味が分からないわけじゃない。単純にノアルの質問の意味するに対して自らがどう答えたいか分からないのだ。
「ボクは……」
「ヒロムは守りたいもののために強くなり、守りたいものや仲間のために前に立っている。
ソラやガイ、イクトたちもそんなヒロムの力になろうと己を犠牲にしてでも今やれることをやっている。
だが……キミはどうだ?十神アルトの呪縛から逃れたキミは言わば中身のない人形同然に見ているしか出来ない。
そんな状態のまま終わりを迎えていいのか?」
「終わりを……迎える……!?」
「ノアルの言い方は間違ってねぇぞトウマ。
ヒロムに救われた今のオマエはこれまでみたいな憎悪は感じられないが、同時に戦意すら失ってる。
十神アルトを前にして……オマエは戦おうとしていないのが何よりの証拠だ」
「ぼ、ボクは……」
「だからトウマ……オマエに聞くが、オマエは何のために戦いたい?」
ノアルの問いに戸惑うトウマに対して今の彼の姿について語ったソラはノアルと似たような質問をし、質問されたトウマはまだ言葉を詰まらせる。
そんな時……
「……オマエの心に……従え」
トウマが迷っているとアルトにより負傷させられ倒れているシンクが掠れるような声でトウマに伝える。
「オマエがやりたいことを……やればいいだけだ。
これまでの事を後悔するのは間違いではない……だが、今をどうにかしてからでも遅くはない……。
オマエ自身がどうしたいか……オマエの心が望むことをやればいい……」
「シンク……」
「……ヒロムはオマエを救いたいと思い、行動した。
だから……オマエはオマエのやりたいと思ったことをやれ……」
掠れるような声で伝えられたシンクの言葉、その言葉を受けたトウマの瞳にはやる気にも似た強い何かが秘められたように見え、トウマは立ち上がるとソラとノアルの問いに答えるように二人に伝えた。
「ボクは……兄さんのために戦いたい!!
兄さんに助けてもらった恩を返したい……!!自分が滅茶苦茶にしてしまった「八神」をもう一度一からやり直して皆に認めてもらうような一族に再建したい!!
ボクは……ボクたちの敵であるあの男を倒したい!!」
「そうか……」
「ならトウマ、その覚悟を見せてみろ」
トウマの決意を聞いたノアルとソラは彼の言葉に納得する中で力を強く纏うと紅い炎と闇を解き放ち、解き放たれた炎と闇はトウマを消し去ろうと向かっていく。
炎と闇が迫る中、トウマは動じることも逃げようとすることも無く立っており、堂々と立つ中でトウマは拳を強く握ると光を身に纏う。
「もう、逃げない……!!
兄さんが立ち止まらずに進み続けていたのなら……ボクも同じように前に進む!!」
炎と闇が迫る中で覚悟を決め強い意志を抱くトウマ、そのトウマの意志に答えるかのように彼が纏う光が強くなり……