六四一話 覇王と無帝
アルトを倒すべくゼロが奮闘する中、負傷して治癒されていたはずのヒロムが戦いに舞い戻るようにゼロの隣に並び立つ。
次々と重なる連戦、それを乗り越えてもアルトの神機・アレス一機に手間取っていたヒロムの復帰をゼロはあまり喜ばなかった。
「……足でまといが増えるだけならゴメンだぞ。
どうせならこのまま終わるまで見てればいいものを」
「バカ言うなよ。
オマエに任せて終われるなら楽に越したことはないが、今回ばかりはオレもやらなきゃダメなんだよ」
「あ?」
「……おかしいと思わないのか?
アイツはオマエの力が神機より上なのにあえてそれを上回る手を打とうとしない。
口や顔はオマエの言葉や態度に腹を立ててる風だがまるでオマエを試すかのように手の内を少しずつ晒してる。
ゼクスにしてもそうだ。何かを企んでるのは確かだが敢えて下がらせてるのが気になる」
「あん?
オマエはオレの詰めが甘いってのか?」
「甘いのはオレ譲りだろ。
詰めが甘いオレに宿ったんだからな。
オマエのおかげで休む時間は十分出来た。セラとユリアに最速で治癒してもらったから万全の状態だ。
ガイたちも順番に治癒させてるからアイツの力を削げるだけ削いで全員で終わらせるぞ」
バカか、とヒロムの提案に対してゼロは冷たく言い返すと彼に提案し直した。
「オレとオマエで終わらせる。
他のヤツらの完治を待ってるようじゃアイツに余計な時間を与えることになる。
下手に力を強くされる時間を与えるくらいなら二人で終わらせるのがベストだろ」
「へぇ、派手で分かりやすいじゃないか。
オマエらしくていいよ」
「なら答えはイエスだな。
作戦……て程ではないが神機の欠点について教えてやるからしっかり覚え……」
「必要ない。
さっきまでは冷静さを失っていたから見落としていたが、オマエが交代して戦ってくれてたおかげで神機のパターンと問題点は見抜いた。
いちいち教えてもらわなくてもなんとかなる」
「そうか……なら、足は引っ張るなよ!!」
ヒロムの言葉を受けたゼロは強く言うと灰色の魔力をビームにしてアルトに向けて放ち、放たれたビームがアルトに迫る中で神機・アレスがメイスで防ぎ止めるとヒロムは白銀の稲妻を強く纏いながらゼロとともに走り出す。
「いくぞ、ゼロ」
「任せろよヒロム」
「「オレたち……滾らせろ!!」」
アルトを倒すべく走り出したヒロムとゼロ。ゼロが先程放った一撃を防ぎ止めたアレスと他の神機は各々の持つ武器を構えるとアルトを倒そうと迫るヒロムとゼロを倒すべく動き出し、神機が動き出すとゼロは先陣を切るように高く飛び上がると灰色の稲妻を神機に向けて強く放ち、ゼロが稲妻を放つ中でヒロムは藍色の光を強く纏うと「インディグネイション・ソウル」を発動して藍色の装いとマフラーに身を包んで二丁の銃剣を装備すると紅い炎を次から次に神機に向けて撃ち放つ。
ヒロムの撃ち放つ紅い炎とゼロの放つ灰色の稲妻をアレスとポセイドン、アテナが武器を構えて防ぎながら二人に迫ろうとするが、ヒロムはさらに二丁の銃剣を出現させるとマフラーの一部を拳に変化させて装備させると四丁の銃剣で紅い炎を強力なビームにして撃ち放つ。
強力なビームにされた紅い炎をアレスとポセイドン、アテナは防ごうとするが、ヒロムの放った攻撃を武器で止めようとすると三機の武器は炎に触れると焼き消され、さらに紅い炎はそのまま三機の半身を焼き潰してしまう。
『!?』
「出力上昇率云々はさておいて知能レベルは低下してるようだな。
最初の時に比べて知能が低下してる。七人の能力者を圧倒していたアレスってのは強さ以上に機械兵器とは思えぬ思考速度があって危険を感じたが今は違う。
まるで与えられた一つの行動ルーチンに従ってるような動きしかない」
アレス、ポセイドン、アテナが半壊されるとヒロムは四丁の銃剣に紅い炎を強く纏わせてさらなる一撃を放とうとするが、神機・アルテミスは弓を構えるとヒロムの邪魔を……しようとするがヒロムは四丁のうち両手に持つ二丁の銃剣から先に炎を勢いよく放つとアルテミスの両腕を焼き潰し、さらにマフラーの拳が構える銃剣から炎を放つとデメテルの半身を破壊してしまう。
「遠距離支援と組成係はもう終わりも同然だ」
アルテミスとデメテルの半壊を確認するとヒロムは「インディグネイション・ソウル」の力を解除し、ヒロムが力を解くと神機・ペルセウスとアポロンがヒロムを倒そうと迫っていく。
が、ゼロは首を鳴らすと灰色の稲妻を纏いながら二機の神機の前に立つと灰色の稲妻を鋭い槍にして放って神機の胴体を貫かせる。
「まぁ、思考レベルの低下の理由は簡単だがな」
「知能レベルな」
「同じだろ」
揚げ足取りにも近いヒロムの言葉に冷たく返すとゼロはペルセウスとアポロンに向けて灰色の魔力のビームを放ち、放たれたビームがペルセウスとアポロンの上半身を消し飛ばし、二機の神機の上半身が消し飛ぶとヒロムは左手首の白銀のブレスレットを緑色に光らせると他の神機に向けて空間をも歪めるほどの強力な雷撃を放ってトドメをさす。
トドメをされた六機の神機は次々に破壊されていき、七機が破壊される中アレスだけは瀕死に近い状態で生き延び……ていたがヒロムとゼロはそれぞれの宿す稲妻を手に纏わせて解き放つとアレスにトドメをさして完全に破壊する。
八機の神機の破壊、ヒロムとゼロは行く手を阻むものが無くなるとアルトを倒そうと迫っていくが、アルトは不敵な笑みを浮かべると指を鳴らして新たに二機の神機を呼び出す。
灰色の装甲の神機と黒い装甲の神機、二機の神機の出現とともにアルトはヒロムとゼロに新たな神機について話していく。
「紹介しよう、アフロディーテとヘラだ。
オマエたちにこの二機を出すとは思わなかったが……こうなったら手段は選んでられない。
オマエたちを潰すためならこの二機の力も迷わず使ってやる」
「アフロディーテとヘラ……。
となると残るはゼウスとハデス、ペルセポネ、ヘスティア、ヘルメス、ディオニュソスか?」
「待てヒロム。
そもそもギリシア神話かどうかって話をするならペルセウスが神機に含まれてる時点で多少狂ってくる。
ペルセウスはゼウスの息子、ハデスとペルセポネは十二神に含まれない冥界の王だ」
「やたらお詳しいようで何よりだ。
ならどう考える?」
「……ヤツは今アフロディーテとヘラを出現させた際に手段は選んでられないと話した。
つまり、神話に出る神云々はさておいてヤツが今出せるのはアレで最後ってわけだろ。
でなきゃわざわざ手段選ばない云々を口にする必要ないからな」
「ミスリードの可能性は?」
「ここに来てか?
オレが出力上昇率云々話した上で一気に出さなかったんだからそれはない」
それに、とゼロはアルトを見るなり彼にある事を告げる。
それはアルトのこれまでの行動と言動からゼロの中で導き出された一つの答えだ。
「十神アルト、オマエの宿すその神機はヒロムの精霊とは違う。言うならばトウマに寄生してた機械天使と同じ人造兵器だ。
元々オマエが宿してるものなら現界している数で力の増減があるのはおかしな話だし、数が増えれば増えるほど知能レベルが低下するのは奇妙だ。
それらから導き出される答え……オマエが宿すそいつらは力を求めたオマエが生み出した人造兵器ってことだ」
「……」
「なるほど。
「ネガ・ハザード」やら機械天使に散々戦わせてデータを収集し、そのデータを元手に自分だけの都合のいい兵器を生み出したってわけか」
「唯一の欠点はヒロムの精霊のように複数を現界させると知能レベルが低下してしまうことだ。
だからアルト本人がある程度は情報を与えながら使役する必要がある。現にヤツは自ら動くことはしない。
自ら動けば神機どもの低下した知能レベルを補えなくなる。己の動きを制限することでしか神機の知能を維持出来ず神機も相応の判断が出来ない 」
神機とそれを操るアルトについて自身の推論を語るゼロ。
そのゼロの推論を聞いたアルトは拍手をすると高らかに笑い、ひとしきり笑うとアルトはゼロを褒めた。
「素晴らしいぞ、ゼロ。
ただの器が力を得るだけではなく、そこまでの知恵を働かせて考察するとは。
オレのために力を生み出すようにしか作っていないのにそこまでの自立と成長を及ぼすなんて……オマエの存在をもっと早く認識して理解していれば神機は完全になったかもしれないな」
「つまり……」
「オマエの推理は全て正しい。
オレは元々オリュンポス十二神全てを体現する神機を作り出そうとしたが、完成して現在の形を維持するのに成功したのはペルセウスを含めたたったの十機だけだ。
他の十二神は肉体を与えられた時に拒絶反応で消滅するか魔力を与えて従えようとしたら抵抗したから破壊したんだがな」
「……力のためなら何でもするってか」
「今更だが飾音に感謝しなきゃな。
こんなクズに利用される前にヒロムの中に宿るようにしてくれたことをな」
「八神飾音……今思えばあの男はいつも邪魔をしてくれたな。
オレが精霊を宿す姫神ヒロムを狙ってると知っていたのかあえて実の息子を絶望するように仕向けてその真価を奥底に閉ざし、未完成で不安定な闇のそいつを持ち出して勝手な真似をしてくれた挙句、ヤツ自身は全てを隠すかのように自らの肉体を消滅させた。
まったく持って……いい迷惑だ」
ヒロムとトウマの父親・八神飾音について話すアルトは全身に魔力を強く纏い、魔力を纏うアルトの体から強い殺気が放たれてヒロムとゼロを圧しようとする。
が、二人は動じない。
「ヒロム、どうする?
ヤツは動くつもりだぞ」
「どうするも何もない。
ヤツが動くなら相手になるだけ、オレたちの邪魔をするなら潰すだけだ。
元々全ての元凶たるアイツは倒すつもりだったんだから今か後かってだけの差だ」
「そうなるわな、結局。
なら神機はオレが引き受ける。オマエは全てを歪めたアイツをぶっ潰してこい」
「……そのつもりだ」
神機二機の相手を請け負ったゼロは灰色の稲妻を纏うと高く飛び上がり、ゼロが飛んでいくとヒロムは首を鳴らすとアルトを睨んだ。
「十神アルト、言い残したいことがあるなら聞いてやる」
「言い残すこと?それはオマエの方だ。
ルシファーの完成した闇の力とオマエの霊装の断片の力を取り込んだオレがこれまで動かなかったのは必要がなかったからだ。
オマエがオレを狙うと言うなら徹底的にやるだけだ」
言ってろ、とアルトに冷たく言い返すとヒロムは白銀の稲妻を身に纏う。そして……
稲妻を纏うヒロムの体から光の粒子が溢れ出る。
「オレも……本気でいく」