六四〇話 無の境地、覚醒
「見せてやるよ……これが「ソウル・レイジング」と「ディヴァイン・ドライヴ」を完全な力に完成させたオレの真の力だ!!」
全身に灰色の稲妻を強く纏うゼロがアルトに向けて言うと彼が今身に纏うアーマーに亀裂を入れながらその下から光が発され、発される輝きは強くなるにつれてアーマーに大きな亀裂を入れていく。
アーマー全体に亀裂が入ると今度はゼロがつける仮面にも亀裂が入り、ゼロが纏う稲妻の力をさらに強くさせると亀裂の入ったアーマーと仮面は砕け散り、アーマーと仮面が砕け散るとゼロの全身は眩い輝きに包まれていく。
輝きに包まれたゼロが纏う灰色のボディースーツは炎のようなものに焼かれると黒衣へ変化し、変化した黒衣に銀色の装飾を施すとゼロは両手を横に大きく広げると紫色のガントレットを装備、ガントレットを装備したゼロは両手を勢いよく振り下ろすとガントレットから光のようなものを足下へ落とす。
落とされた光のようなものが足下の地面に触れるとゼロの両足は紫色のアーマーを纏い、ゼロの素顔が輝きの中から現れると長く伸びたままの紫色の髪を靡かせながらゼロは輝きを体内に取り込む。
輝きが取り込まれるとゼロの右肩に灰色のアーマー、さらに左肩に紫と黒のアーマーが装備されると彼の紫色の瞳は赤く染まってアルトやリュクス、神機を強く睨む。
鎧を纏いし「ディヴァイン・ドライヴ」やヒロムの精霊を借りての「クロス・リンク」などのこれまでの姿とはまったく異なる新たな姿となったゼロ。
ヒロムが霊装の力を纏って装いを変えたかのようなその姿を目の当たりにしたヒロムは彼の新たな姿に目を奪われていた。
「ゼロ、その姿は……?」
「……ヒロム、オマエがシンギュラリティの覚醒に達して成長する中でオレが何もしなかったと思ったか?
生憎だが、オレにもプライドがある。仮初の命、仮初の居場所しかないオレはオレにしか出来ないことを考えた。
そしてこの姿……この完全に完成させたこの力の形に至るきっかけと出会った」
「きっかけ?」
「……まぁ、その話は後回しだ。
とにかく今は目の前の敵を潰すことに専念するとしよう」
気になる言い方をしたゼロはヒロムが聞き返しても答えようとせずに目の前の敵を倒そうとアルトたちの方を見ると歩を進め、ゼロが歩を進める中でアルトは余裕があるらしく彼に対して尋ねた。
「ゼロ、その姿は何だ?
先程までは力を纏い如何にもやる気があるような見た目をしていたのに……今のその姿はまるで何も感じない。
何を思ったかは知らないが、鎧を壊してまでその下から出現させたその新たな姿からは力を感じられない。
その力に何が秘められているか知らないが、そんな姿でオレの神機を倒せると思っているのか?」
「オマエには関係ないことだ。
一つ忠告するならオマエの神機の力を過信するのはその辺でやめるべきだな。
どうせオマエは神機がなければ何も出来ない、神機を動かさなければ戦いすらままならない」
「威勢だけは変わらないな。
いいだろう、そこまで言うなら試してやろう……アレス!!」
ゼロの言葉を受けたアルトは彼の言葉が本気なのかハッタリかどうかを確かめようと神機・アレスに確かめさせるべく叫び、アルトが叫ぶとアレスはメイスを構えてゼロに接近する。
ゼロに接近したアレスはメイスを強く握ると勢いよく振り下ろしてゼロの体を殴ろうと一撃を放ち、放たれた一撃はゼロの体に叩き込まれ……るが、アレスの一撃を受けたゼロは一切動じず、それどころかアレスの一撃を受けてもダメージすら受けていなかった。
『何!?』
「……何かしたか?」
『馬鹿な!?
ありえな……』
「うるせぇよ」
一撃を受けても動じずダメージもないゼロを前にして狼狽えるアレスに対してゼロ一蹴するように冷たく言葉を返すとメイスを蹴り飛ばし、さらにゼロはアレスに手をかざすと触れることなく勢いよくアレスそのものを吹き飛ばしてみせる。
『!?』
吹き飛ばされたアレスは倒れ、アレスが倒れるとポセイドンとアポロンが入れ違いになるように構えるとゼロに接近して攻撃を放つが、二機の神機の放った攻撃が命中してもゼロは微動だにしない。
まるで何も起きなかったかのように平然とした態度で首を鳴らすとゼロは両手に魔力を収束し、収束した魔力をビームにして撃ち放つとポセイドンとアポロンに直撃させて吹き飛ばしてしまう。
「なっ……ありえん!!
ペルセウス!!アルテミス!!ヘパイストス!!」
アレスだけでなくポセイドンとアポロンをも簡単に吹き飛ばして倒したゼロ。
そのゼロの力に目を疑うアルトは彼の力を否定するかのように神機・ペルセウスとアルテミス、ヘパイストスに指示を出す。
指示を受けたペルセウスとヘパイストスは走り出し、アルテミスは二機の支援をするかのように弓を構えると光の矢をゼロに向けて次々に放っていく……が、ゼロは首を鳴らすなり右手に灰色の魔力を纏わせながら宙に何かを描くように手を動かすとアルテミスの放った全ての光の矢を消滅させてしまう。
それだけでは無い。
ゼロがさらに右手を動かすとアルテミスの持つ弓が破壊され、弓が破壊されると同時に弓を握る手も破壊されてしまう。
アルテミスの武器と手が破壊されてもペルセウスとヘパイストスは止まることなくゼロに接近して彼を攻撃しようと武器を振り下ろすが、ゼロは灰色の魔力を纏わせた右手でペルセウスの剣を殴り防ぎ、ヘパイストスの持つ大槌に至っては拳に力を入れた拳撃をぶつけることで殴り潰してしまう。
二機の神機の攻撃も寄せ付けぬゼロは灰色の魔力を右足に纏わせるとペルセウスに蹴りを入れて蹴り飛ばし、その魔力を右手に集約して魔力の剣を形成させるとゼロはヘパイストスの両足を切断して動きを封じると体を縦に両断して破壊する。
破壊されたヘパイストスのツインアイから輝きが消え、両断されたヘパイストスの体は火花を数度散らすと爆発して消滅してしまう。
「バカな……!?
六機現界している神機の戦闘力で歯が立たないだと!?」
ヘパイストスが破壊された、それが信じられないアルトが狼狽しているとゼロは灰色の魔力の剣を消すなり彼にいくつか質問し、彼が質問に答える前に冷たく告げた。
「どうした?
たかが神機を一機破壊されて根を上げるのか?
それとも……精霊のように再び現界させられなくなって困ってるのか?
……この程度で世界を支配するなんてクソみたいな理想を語るならオマエには才能なんてない」
「……ッ!!黙れ!!
アテナ!!デメテル!!」
ゼロの言葉を受けたアルトは怒りを抑えようともせずに叫ぶと新たに二機の神機を呼び出す。
銀色の装甲に身を包み剣と盾を装備した神機・アテナ、ピンク色の装甲に身を包み杖を持ちし神機・デメテル。
現れたアテナは光を身に纏うとゼロを倒そうと走り出し、デメテルは杖に光を纏わせるとヘパイストスが破壊された残骸の方へと杖を向ける。
デメテルが何かする、そんなことは一目瞭然で分かったゼロは今すぐそれを止めるべく走ろうとしたが、アテナは行く手を阻むと斬撃を放つ。
「どけ」
ゼロは灰色の魔力を全身に纏うと同時に灰色の魔力の剣を出現させて装備して構えるとアテナの一撃を防ぎ、攻撃を防ぐと続けてゼロはアテナを破壊しようと攻撃を放つ。
が、アテナは片手に持つ盾でゼロの一撃を止め、攻撃を止めるとゼロの魔力の剣を弾いて自らの剣でカウンターの一撃を食らわせようとする。
アテナが放つカウンターの一撃となる剣撃に対してゼロは防御ではなく回避を選ぶと魔力を強く纏いながら加速してアテナの背後へ一瞬で移動し、アテナの背後に移動すると神機が気づく前に仕留めようとした。
だがタイミングが悪かった。
ゼロがそうしようとした時、デメテルの杖から光が消え、光が消えると先程ゼロが破壊したはずのヘパイストスが何事も無かったかのように現れて大槌でゼロの攻撃を邪魔してしまう。
「蘇生したか。
けど……無意味だ!!」
復活したヘパイストスに邪魔されたゼロだが、邪魔された事を気にするどころかヘパイストスの大槌を魔力の剣で再び破壊するともう一度ヘパイストスを破壊しようと一撃を放とうと……したが、ゼロがヘパイストス一機に集中しようとしていると他の神機……アレス、ポセイドン、アポロン、ペルセウス、アテナ、アルテミス、デメテルがゼロを包囲するように接近して彼を仕留めるべく同時に攻撃を放とうとする。
だが……そんなことでゼロは動じない。
「八機の神機が揃ってもこの程度か。
想定していたより……大したことないな!!」
七機の神機に包囲され同時に攻撃を放たれようとする状況下でゼロは余裕がある強気な口調で叫ぶと全身に纏う灰色の魔力を炎のように滾らせ、さらにそれを灰色の稲妻と同化させるようにして炸裂させると強い衝撃を生み出し、生み出された衝撃はゼロを包囲する七機の神機を襲うとそのまま吹き飛ばしてしまう。
そしてゼロは灰色の魔力を再び強く纏うとそれを巨大な龍に変化させながらヘパイストスに向けて放ち、放たれた魔力の巨大な龍はヘパイストスに食らいつくとその半身を噛み砕いて破壊してしまう。
「バカな……!?
八機の神機を現界させた状態での戦闘力が通じないだと……!?」
八機の神機がゼロに為す術もないまま一方的に追い詰められている。
その奇妙な状況が信じられないアルトはそれを言葉にしてしまい、それを耳にしたゼロは指の関節をポキポキ鳴らすと彼に告げた。
「オマエの神機の相乗効果はある程度ラーニングさせてもらった。
一体増える度に現界中の神機の出力はそれぞれ二〇パーセントほど上昇し、今の段階で一機が他の七機から受けている相乗効果の上昇率はおおよそ一四〇パーセント。
一機単独の時の二倍以上の出力になった程度なら大した問題ではない」
「なっ……!?
神機の出力上昇率を導き出したというのか!?」
「簡単すぎたがな。
新たに現れるたびにその力を記憶しておけばラーニングするのも簡単な話だ」
「ラーニング?
何を言っている……?」
「残念だな十神アルト。
カリギュラと手を組んでいたそこのリュクスの詰めが甘いせいでオレは「ディヴァイン・ドライヴ」の元となるシステムを葉王に与えられ、そしてそれをオレの持つ力と合わされたことでオレはデバイスシステムすら超えるであろうラーニング能力を得ることが出来た。
だから神機の力も容易に測れたし、何ならそいつらの欠点も見つけられた。
「ソウル・レイジング」と「ディヴァイン・ドライヴ」を合わせて完成させた完成し続ける新たな霊装の力……これが「ディヴァイン・レイジング」の力だ」
「新たな力だと……?
デタラメを……!!」
言ってろ、とアルトの言葉に強く返すとゼロは灰色の稲妻を強く纏い、魔力の剣を構えると殺気を発しながらさらなる言葉を告げた。
「デタラメかどうか、オマエの神機の全力がオレのこの力に及ばないかどうか……ここで試してやるから本気で来い。
オレが全力で相手に……」
「オレたちが、だ」
ゼロがアルトに向けて告げる中、ゼロの後ろからヒロムが被せるように言うとゼロの横に並び立つ。
「オマエ……」
「……一人で終わらせられると思うなよゼロ。
オレたちでやるぞ」