六三七話 アレスの猛攻
本性を現し、そして自らの目的と「世界王府」に仕える事を明かしたアルトが強い力を放出し、ヒロムたちを潰そうと現れた人型の機械兵器。
戦うしかない、その状況はヒロムが十家会議乱入からルシファーの出現に至るまでと何ら変わりはないことだが、唯一違うとすれば彼らの消耗だ。
ガイたちはこの場を抑えるために当主たちと戦うとともにトウマに憑依したルシファーの力で負傷を避けれず、一連の流れその全てにほぼ参戦しているヒロムの体力はもはや限界に近いものだし、突然の力の覚醒による体への負担も懸念される。
十家会議乱入と同時に七人の当主を相手にし、トウマに寄生するルシファーとの激戦……それらはヒロムが今まで経験してきたどの戦闘以上に彼を追い詰めている。
精神的にも体力的にも、今のヒロムには万全とは程遠い状態で誰よりも多く戦っているその反動が襲っているのだ。
そんな中での十神アルトの出現と真実の暴露、それらを前にしてヒロムは戦いに背を向けるなど出来なかった。
「……オマエが全ての黒幕なら……!!
ここで潰す……!!」
機械兵器に蹴り飛ばされたヒロムは負傷しながらも立ち上がると大剣を構え、ヒロムが戦う意志を見せるとガイ、ソラ、イクト、シオン、も構え、真助もヒロムのもとへ駆け寄ると武器を構える。
が、アルトは彼らのその姿を前にしてため息をついてしまう。
「……そこまで愚かとは思わなかったな。
多少の抵抗はそれなりに考慮していたが、まさか全員が全員愚かにも楯突くとはな」
「うるせぇ。
オマエをここで倒す……それで終わるのならオレは戦うことをやめない!!」
「……ヒロムが戦うならオレたちも戦う」
「コイツとここまで来たからには最後まで付き合うのが筋ってもんだろ」
「大将の長い戦いがここで終わらせられるなら喜んで手伝うさ」
「オマエが強いのなら倒してオレが強いことを証明するだけだ」
「悪いが貴虎程度じゃ物足りないんでな。
楽しませろ」
ヒロムに続くようにガイ、ソラ、イクト、シオン、真助が各々の思いを口にしていく中アルトは彼らに不敵な笑みを向けるとメイスを手に持つ機械兵器に指示を出す。
「アレス、オマエの力でヤツらを捩じ伏せろ」
『……了解』
アルトが指示を出すとメイスを手に持つ機械兵器は返事をし、返事をした機械兵器は全身の装甲を赤く染めて頭部にツインアイを出現させるとメイスを強く握って構え、武器を構えるとヒロムたちに狙いを定める。
そして……装甲を赤く染めた機械兵器・アレスは地面を強く蹴るとヒロムたちを倒すべく動き出し、アレスが動き出すとヒロムたちは武器を構えて走り出す。
「ヒロム、作戦は!!」
「ガイ、オマエらは援護を頼む!!
ヤツの力が未知数なら……オレが動きを止める!!」
作戦の有無をガイに問われるとヒロムは自らが相手をすると伝えて金色の稲妻を強く纏いながら加速し、大剣に稲妻を纏わせたヒロムは機械兵器・アレスを倒そうと一撃を放とうとする……が、アレスは魔力を腕に纏わせるとヒロムの一撃を簡単に弾き防ぎ、さらにメイスを振るとヒロムの持つ大剣を粉砕してしまう。
「なっ……」
『身の程を知れ、人間』
大剣を砕かれたことにヒロムが驚いているとアレスはメイスに光を集め、光が集められたメイスは輝きを発すると雷撃を解き放ってヒロムに直撃させる。
雷撃の直撃を受けたヒロムは勢いよく吹き飛ばされると倒れてしまい、倒れたヒロムが纏うルシファーを消滅に追いやった力を持つ「ソウル・マジェスティ」の力が解除されてしまう。
「ヒロム!!」
『他人の心配か?』
吹き飛ばされ倒れたヒロムの名を叫ぶガイに冷たく告げるとアレスは一瞬でガイの背後へ移動し、ガイの背後へ移動したアレスは拳を強く握るとメイスではなくあえてそちらでガイを殴り飛ばす。
「がっ……!!」
『この程度で我らの邪魔をするつもりか?』
アレスの拳を受けたガイが殴り飛ばされるとソラは全身に紅蓮の炎を纏いながらアレスに接近して炎を喰らわせようとするが、アレスは光を全身に纏いながらメイスで地面を強く殴って衝撃波を発生させると炎を纏うソラの動きを止めてしまう。
「!?」
『「魔人」の力を持つ人間よ。
その程度で我らを淘汰できると思うのは大きな間違いだ』
アレスは自身の放った衝撃波を受けて動きが封じられたソラを倒そうとメイスを振り上げて一撃を放とうとするが、ソラが狙われる中でイクトは影を操って無数の腕を生み出すとアレスの動きを封じようと影の腕に敵を掴ませようとする。
が……
イクトの操る影の腕に気づいたアレスはメイスを勢いよく振ると影の腕を全て破壊し、破壊すると共に強い衝撃を飛ばしてソラとイクトを吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁ!!」
『脆弱な能力者が、邪魔をするか。
その身で己の非力さを……』
「ガタガタうるせぇぞ」
吹き飛ばしたソラとイクトに更なる一撃を放とうとするアレスが語る言葉を遮るようにシオンは言葉を発するとともにアレスに接近し、兎の精霊・ライバを変化させた大型ガントレットを装備した右腕の拳に雷撃を纏わせながら敵の顔を殴る。
『……未来を見るその瞳があっても所詮はこの程度か』
不意打ちにも近いシオンの顔面への攻撃を受けたアレスは一瞬仰け反るかのように見えたが、仰け反ることも無く静かにシオンを視界に捉えると裏拳でシオンを殴り、メイスの柄で突くようにシオンを攻撃して彼を吹き飛ばす。
アレスの一撃により吹き飛ばされたガイ、ソラ、イクト、シオンは何とかして立ち上がると構えようとするが、四人が立ち上がるとアレスはメイスに光を纏わせながら一振りして衝撃波を撃ち放つと四人を吹き飛ばして倒してしまう。
衝撃波を受けた四人は大きく吹き飛んで倒れると身に纏う力が消えてしまい、ガイたちが倒れるとヒロムはボロボロの体で立ち上がると別の霊装を身に纏おうとした。
「ソウル……」
『させると思うか?』
ヒロムが力を纏おうとしたその時、アレスはメイスで地面を強く殴ると共に天より雷を落とし、落ちた雷はヒロムに直撃する。
「がぁぁぁぁあ!!」
雷の直撃、それによりヒロムはさらにボロボロになるように追い詰められ、いつ倒れてもおかしくない状態となってしまう。
アレスの一撃、それを受けたヒロムは倒れようとするも何とか持ちこたえようとして地に手をつき膝をついてしまうも諦めようとしなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
『まだ倒れぬか。
しぶとい人間だな』
「うるせぇ……ぞ。
オマエを……オマエらを倒さないかぎりは……倒れる訳にはいかねぇんだよ……」
『ふん……無駄な努力だ。
所詮オマエは出来損ないの人間、潔く散るのが運命だ』
まだ闘志の消えていないヒロムの言葉を一蹴するような言葉を吐き捨てるとともにアレスはメイスを振り上げてヒロムを殴り殺そうとするが、アレスがメイスを振り上げると黒い雷が刃となって飛んでくるとアレスに命中してそれを邪魔する。
アレスの動きが一瞬封じられると小太刀の霊刀「號嵐」を両手に構えた真助が自身の能力である「狂」の黒い雷を纏いながらアレスに迫っていき、真助がアレスに迫る中で無数の氷塊がアレスに襲いかかる。
氷塊が飛んできた方にアレスが視線を向けるとリュクスの相手を引き受けたはずの氷堂シンクが氷の翼を羽ばたかせながらアレスの方へ迫っており、真助とシンクは互いに自身の能力である力を身に纏いながらアレスに迫っていた。
『小癪な……』
「好き勝手やってくれてるじゃねぇか、鉄クズ野郎」
「これ以上は好きにはやらせん。
ヒロムに仇なすというのなら……オマエはここで終わらせる!!」
アレスに迫る中で真助は小太刀の霊刀「號嵐」に黒い雷を纏わせて刀身を数十倍にまで大きくさせ、シンクは全身に強く冷気を纏うと吹雪を竜巻のように巻き起こしながら突進しようとする。
ヒロムを襲おうとするアレスを倒すべく真助とシンクは持てる力の全てをぶつけようとした。
しかし……
『茶番もいいところだ。
これに付き合わされるとは時間の無駄でしかない!!』
真助とシンクが迫る中でアレスは全身に強い力を纏うと背中に赤い光の翼を広げ、赤い光の翼を広げると共に烈風を巻き起こすと真助とシンクが纏う力を消し去り、さらにアレスは光の翼を羽ばたかせると衝撃波を飛ばして二人を地面に叩きつける。
「「ぐぁっ!!」」
「なっ……光の翼、だと……?」
「どうして、あの機械兵器が……」
真助とシンクを倒したアレスが背に纏う赤い光の翼を見たヒロムはもちろん、ヒロムにより救われるも負傷して戦いを見るしか出来ないトウマはその事に驚きを隠せなかった。
ヒロムとトウマが驚いているとアレスはメイスを構え、アレスが構える中でアルトは赤い光の翼について明かしていく。
「アレスのその光の翼はオマエたちの知る光の翼とは違う。軍神アレス、その名を体現するために与えられし神の力。
その力が織り成す光の翼は「天霊」の力とは次元が違う……つまり、オマエたちではアレスを止めることは不可能だ」
「神の力……?
随分と偉そうな言い方だな……」
「まさかアレスが機械天使と同じだと思ったか?
アレスはオレが使役する神機の一体、精霊も機械天使も凌駕する完全な力を持った戦いの神だ」
神機、聞いたことの無い言葉にヒロムとトウマが言葉を失っているとアルトは指を鳴らし、アルトが指を鳴らすとアレスはメイスに光を強く纏わせながら二人に一撃を放とうとする。
『さらばだ、愚かな兄弟よ。
オマエたちの死で我らの悲願は達される』
「まずい……!!」
何とかしなければ、そう思うヒロムの体は動こうとしない。
ヒロムがどうなっていようとお構い無しに攻撃しようとするアレス、もはや絶対絶命だと彼が諦めかけたその時……
灰色の稲妻がどこからともなく飛んできてアレスに襲いかかり、灰色の稲妻に襲われたアレスはこれまで見せなかった怯む姿を見せると攻撃を中断してしまう。
何が起きたのか、アレスもアルトも理解出来ていなかったがヒロムは違った。
灰色の稲妻、それの意味するものを彼は知っている。
「……随分派手にやられてるじゃねぇか、ヒロム」
灰色の稲妻が飛んできた方からゆっくりと少年が歩いてくる。
紫色の髪、そしてヒロムによく似た顔立ちの少年。
その少年の登場にヒロムは思わず安心した表情を浮かべてしまう。
「オマエがいてくれて……助かった……ゼロ」
「勘違いすんなよヒロム。
オマエが死んだら女が悲しむから助けただけだ」
それに、と紫色の髪の少年・ゼロはアルトの方を見ると不敵な笑みを浮かべながらヒロムに伝えた。
「調子乗ってるヤツを潰すのは楽しいからな。
トウマをこの手で潰せなかった代わりにオマエらの人生を壊したコイツを潰して憂さ晴らししてやるよ」