六三六話 裏切りの黒幕
トウマに取り憑いていたルシファーが消滅してトウマを闇より解放して取り戻せたヒロムの前に突然現れた人型の機械兵器。
機械天使にも似た鎧を纏った騎士のような風貌のその兵器を前にしてヒロムはガイたちとともに構え、葉王はルシファーから解放されたばかりのトウマ。機械兵器について問う。
「八神トウマァ、アレはオマエの生み出したものか?
いや、ルシファーが生み出したのか?」
「……分からない。
ボクが知ってる機械天使はルシファーの力となるために生み出されたオーディン、ロキ、ラグナレクだけ。
その三機はルシファーと同化したまま兄さんが消したから存在しないはずです」
「ならアレは何だァ。
アレはどう見てもオマエの言う機械天使とそっくりじャァねェかァ」
「それは……」
「とにかく、ここで言い争ってても仕方ない。
アレが何かは関係ないが、オレたちの敵だって言うなら破壊するだけだ」
突然現れた二機の機械兵器を前にしてヒロムは敵なら倒すだけだと葉王に伝え、葉王自身も最初からそのつもりだったのかため息をつくと魔力を纏っていく。
葉王が魔力を纏うと……一瞬、空気が凍りつく。
「……我々の計画の邪魔をするとは、愚かな者へと堕ちたものだな、鬼桜葉王」
空気が凍りつくと同時に二機の人型の機械兵器のもとへ一人の男が現れる。
バイザー状の仮面をつけ、全身をマントで覆う男。
その男の出現に葉王は魔力を強くさせる。
「オマエはァ……ゼクス!!」
「鬼桜葉王、「一条」の下僕でしかないオマエが我々の計画の妨げになるとは想定外だ。
いや、想定外と言うなら姫神ヒロムの力だな。よもや「無能」の名を与えられて絶望とせずにルシファーを倒すにまで至るとは……実に興味深い」
「傀儡のように操ってたトウマを倒されてようやくご登場か。
トウマを操り、「八神」をめちゃくちゃにした罪滅ぼしをしてもらうぞ……ゼクス!!」
トウマをゆっくりと座らせたヒロムは大剣を強く握ってゼクスに告げるが、ヒロムの言葉を受けたゼクスは動じることも無く平然とした様子で話を続けていく。
「罪など感じる道理はない。
元々我々に利用された脆弱な「八神」が悪いだけのこと。
罪と言うならば我々の存在を警戒しなかった「八神」がその身でケジメをつけるべきだ」
「オマエ……!!
それがオマエの本心ってわけか!!」
ゼクスの言葉に我慢が出来なくなったヒロムは大剣を勢いよく振ると斬撃を飛ばし、飛ばされた斬撃はゼクスの仮面に命中するとそのまま仮面を吹き飛ばしてしまう。
吹き飛んだ仮面、その下の素顔が晒されると思われたが、ヒロムたちは絶句するしか無かった。
「なっ……」
「バカな……」
「こんなことって……」
仮面を吹き飛ばされたゼクス、そのゼクスの仮面の下には顔がなかった。顔どころか首すら人とは思えない機械的な断面が見えている状態だ。
明らかにおかしな光景、それを前にしてヒロムたちが言葉を失っていると吹き飛ばされたはずのゼクスの仮面が胴体まで戻ってくると首に繋がれる。
空洞と考えられる仮面の中身、ゼクスは首とそれを繋ぐと首を鳴らすように関節をはめ込み、そして何事も無かったかのように立つ。
あまりにも異様な光景にヒロムは大剣を強く握る手から力が抜けてしまい、ガイはハッキリさせるべく何か知ってるであろう葉王に尋ねた。
「葉王!!
ヤツは何者だ!?アレは一体どういう事だ!?」
「分からねェ。
だが一つ言えるのはァ……ヤツの外見はゼクスで間違いねェわけだが中身は別人、もしくは替え玉の可能性があるゥ」
「替え玉?」
「何のための替え玉なんだよ?」
「それは分からねェ。
だがァ、それ以外に考えられることは……」
「他にもあるはずだ」
ガイとソラに問われた葉王が己の中で考えられる可能性を語る中、話に割って入るかのように誰かが言葉を発する。
声がした方をヒロムたちが振り向こうとするとヒロムたちのそばを風が吹き抜け、風が吹き抜けると精霊・フレイが見張っていたはずの四条美雪がゼクスのそばへ移動させられる。
「「!?」」
今確かに何かが起きた。それが何かは分からないヒロムたちはゼクスが何かしたと考えたが、彼らの考えを否定するように国技館の中から鬼月真助が慌てて走ってきてヒロムたちに向けて叫んだ。
「ヒロム!!葉王!!
そこにいるゼクスは囮だ!!本物のゼクスは……あの会議の会場にいたんだ!!」
「な……!!」
「おいィ、それはどういう……」
こういう意味だ、と葉王の言葉に冷たく返されるとゼクスのそばに風が集まり、風が集まるとそこに一人の男が現れる。
赤い髪の青年、ヒロムと葉王はその人物について知っていた。
「何で……アンタが……?」
「どういうことだァ、十神アルトォ?
何故オマエがそこにいるゥ」
「……存外簡単な答えだ。
オレがここにいるのは必然、オマエたちと対立しているのも運命なのだよ」
「必然?運命?」
「何言ってやがるゥ……?」
「オマエたちは敷かれたレールの上で起こる激動の物語を前にして立ち向かい、それらを乗り越えてレールの先の道を進んできた。
そして今日、オマエたちは憎き相手である八神トウマとそれに宿るルシファーを見事倒し、そして姫神ヒロムは完全覚醒を遂げた」
現れた赤い髪の青年……十神アルトは淡々と語るは不敵な笑みを見せ、不敵な笑みを見せるアルトが右手を天にかざすと彼の手もとに何かが集まっていく。
黒い何か、炎でも雷でも風でもない何か得体の知れないもの。それはアルトの手もと一点に集まると球体となり、その球体を手にしたアルトはヒロムに礼を言う。
「礼を言うぞ、姫神ヒロム。
オマエのおかげでルシファーの力は完全覚醒を遂げて完成し、こうしてオレの手中に収まった」
「手中に……?
まさか……!!」
「さすがに気づいたか、姫神ヒロム。
そう、八神トウマにルシファーの種を植え付け機械天使と一体化させて完全体にさせるための布石を用意したのは四条美雪でも彼女が傀儡のように操っていた貴虎でもない……このオレだ」
「「!!」」
衝撃の告白、アルトの口から出た言葉にヒロムとトウマ、ガイたちは驚きの表情を見せ、葉王でさえ信じられないような反応を見せてしまう。
「オマエが……全ての黒幕だと?
どういうことだ?オマエとゼクスは……」
「あまりの事で口調が変わっているぞ鬼桜葉王。
まぁ、無理もないか。オマエや一条カズキはゼクスが「八神」を裏で支配する黒幕だも考えていた。
だから「八神」と八神トウマに憎しみを抱く姫神ヒロムとその協力者にゼクスを誘き出すための鍵にする必要があったわけだ」
「最初から「一条」の狙いに気づいてやがったのか」
「当然だ。
いや、そうさせたのはオレだからな」
「何?
オマエが?」
「そう、全てオレが……」
自らがそうさせたと語るアルトが全てを話そうとしたその時、どこからともなく無数の大剣が飛んできて彼を切り裂こうと襲いかかる……が、機械天使を思わせる二機の人型の機械兵器はそれぞれ剣とメイスを構えると飛んでくる大剣を全て破壊する。
「……あまり邪魔をするなよ」
「貴様の話に興味も関心もない。
あるのは一つ……「十家」のバランスを崩したその外道な心に裁きを与えるのみだ」
二機の人型の機械兵器がどこからともなく飛んでくる大剣を破壊すると真助の後ろから一条カズキが姿を現し、姿を現したカズキが敵を睨むとアルトは何故か面白おかしく笑ってしまう。
「はっ、これは傑作だな。
元々ありもしない「十家」のバランスとやらを保つために再建を図っていたのは予想していたが、ここに来てもまだその考えを曲げないのか」
「果たさなければならない事だからな。
それに、オマエをここで倒せばまだ間に合うだけのことだ」
「間に合う?何がだ?
もはやルシファーの力の一部の影響でオマエとオレ、七瀬アリサ以外の当主はもはや使い物にならず、四条美雪に至っては兄すら利用する外道ぶりが露呈したのに間に合うと?
もう手遅れだ……ここでオレが「十家」という存在を抹消し、新たにオレがこの世界を統べる王となる瞬間を全国民に目撃させれば新たな時代が幕を開ける。
オマエも、オマエが信じる姫神ヒロムもオレが潰して何もかもを無に帰せば……オレは「世界王府」に大きく貢献することになる!!」
「……貴様、「世界王府」に属していたのか」
「元々はオレがゼクスの名で行動していたが、オマエや鬼桜葉王はカンがいい。
「八神」の問題にゼクスが関与していると知ると色々と調べ始めたからな。
だからオレはオレが来るべき時まで本来の姿を隠すためにゼクスという機械戦士を生み出した。
仮面をつけた闇の戦士、こんな玩具程度の戦士で撹乱できるのも驚きだったがな」
ふざけんな、とヒロムは大剣を強く握るとアルトを強く睨みながら走り出し、走り出したヒロムはアルトに接近すると彼を斬ろうと大剣を振……るが、ヒロムが大剣を振るとメイスを持った機械兵器がヒロムの大剣を防ぎ止め、大剣を弾くとヒロムを蹴り飛ばしてしまう。
「がっ……!!」
「ヒロム!!」
「ふざけてるのはどっちなんだろうな、姫神ヒロム。
ただの人間風情で力を宿したオマエが偉そうに救うだの倒すだの……身の程を知れ。
そして、オマエたち兄弟の愚かさを理解しろ」
アルトが右手に持った球体を天にかざすと周囲の大地から金、赤、青、琥珀、紫紺、杏、白、紫、緋、黒、藍、桃、水、緑の十四色の光が出現し、出現した十四色の光がアルトの持つ球体の中に取り込まれていく。
「姫神ヒロム、オマエが弟を倒し、ルシファーを消したおかげでオレはこの手に闇の力を得た。
そしてオマエが目的を果たそうとしたことで覚醒したその力がオレに更なる力を与えた」
「まさか……アイツ……」
「ヒロムの霊装の力をも手中に収めやがったのか!?」
「正確には力の残滓、所有者のいなくなった残りカスだがそれで十分。
怒りに身を任せて力を使ってくれたおかげでその残りカスですら十分すぎる量が蓄積され、そして今こうしてオレが回収して力として得られるまでになった」
感謝するぞ、とアルトが呟くとヒロムたちを包囲するように次々に人型の機械兵器が現れ、アルトは手に持つ球体を自分の胸に押し当てるとそれを体内に取り込み、全身から強い力を放出するとヒロムたちに告げた。
「オマエたちは歴史に名を刻む。
このオレの偉大なる力を世に示すために身を犠牲にした愚か者としてな!!」