六三五話 ソウル・マジェスティ
「いくぞフレイ……ソウル・マジェスティ!!」
金色の稲妻を発せさせながら拳を強く握るヒロムが叫ぶと彼は金色の稲妻に全身が包まれ、稲妻に包まれたヒロムは金色の装束に身を包む。
金色の装束に身を包んだヒロムの瞳が金色に変化すると胴、肩、腕、脚に金色のアーマーが装着されていき、全身を金色の装いに変化したヒロムは稲妻を解き放つとルシファーを威圧する。
ヒロムが稲妻を解き放つと彼から離れた位置で倒れる四条美雪を見張るフレイの大剣が金色の装飾を得ていき、彼女自身も胴、肩、腕、脚に金色のアーマーを装着していく。
「……「天剣」改め「天帝」フレイ、この力をマスターのために使います」
「あれがフレイの霊装の力……!!」
ヒロムとフレイ、二人が金色のアーマーを装着した姿となったことにガイたちは驚き、驚く中でイクトはある疑問を口にする。
「けどフレイの霊装の力って大将の偽りの精神であったクロムを倒す時に発動してた「ソウル・リンク」じゃ無かったか?
あれはまるで別物みたいだけど……」
「当然ですよイクト。
あの時使っていたのは本来の霊装を得ていない私の力をマスターが使おうとしたことで無理やり生まれた力。
今マスターが使われているのは完全な霊装を得た私の本来の力、その力の強さは以前の不完全なものとは比較できませんよ」
「完全な霊装……」
「つまり、あのルシファーってヤツだけじゃなくてオレたちすら予測できないような力をフレイが得ているってわけか」
「トウマを救うためにヒロムはその力を纏った……。
「ソウル・マジェスティ」と呼ばれるあの力、どんな力を……」
完全なフレイの霊装の力「ソウル・マジェスティ」の未知数の力に興味を惹かれるガイたち。
そんな彼らとは異なりルシファーは禍々しいオーラを纏う中でヒロムを睨んでいた。
『マジェスティ……王の威厳と来たか。
王の威厳を纏おうと所詮人間、どんな力を纏ってもオマエは……』
「偉そうに語りたいなら語れよ、ルシファー。
その代わり、自分の愚かさを理解した上で語れ。今のオマエが偉そうに語ったところでオマエの言う所詮人間でしかないオレに苦戦している。
オマエがどれだけ吠えようとオマエが散々苦戦していた事実は変わらねぇよ」
『ほざけ!!』
ヒロムと言葉に強く言い返すとルシファーは禍々しいオーラを纏いながら一瞬でヒロムに接近して彼を殴ろうと拳撃を放つが、ヒロムは右手に何かを纏わせるわけでもなくそのままの状態でルシファーの拳を掴み止め、掴み止めるとそのまま力を入れてルシファーが拳に纏わせる禍々しいオーラを消してしまう。
拳を簡単に止められ、さらには拳の纏う禍々しいオーラを消されたことにルシファーは信じられないような反応を見せながらももう片方の手に禍々しいオーラを纏わせてもう一度拳撃を放とうとするが、ヒロムは掴み止めたルシファーの拳を手放すと次に放たれる一撃をも簡単に止めてまた禍々しいオーラを消してしまう。
『なっ……』
「どうした?
オマエの力はこんなものか?」
二度も止められたことにルシファーが動揺しているとヒロムは掴み止めた二回目の拳を放すとルシファーの腹に蹴りを食らわせて敵を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたルシファーは腹を押えながら怯んでしまう。
ルシファーが怯んでいるとヒロムは蹴り飛ばしたルシファーへと音も立てずに接近すると同時に回し蹴りを放って追撃を放ち、放たれた回し蹴りがルシファーの顔を直撃する。
ルシファーの顔、と言っても元々はトウマの体であるからトウマの顔だ。
だがヒロムはそんなことなどお構い無しに回し蹴りを食らわせ、回し蹴りを受けたルシファーが仰け反っているとヒロムは拳を構え直してすかさず拳撃を放って殴り飛ばす。
殴り飛ばされたルシファーは地を転がるように倒れるも何とかして立ち上がるが、立ち上がったルシファーの体は僅かにだが震えていた。
『なっ……何故……っ』
ルシファーは信じられなかった。
トウマの肉体を支配している今の自分の力は圧倒的だと自負している。その力はヒロムを一度は苦戦させ、数度の霊装の纏い直しを行ったヒロムの猛攻をも耐えるほどだった。
だが今、そのルシファーは今ヒロムを前にして体を僅かに震わせている。
震わせているのか、それとも無意識に震えているのかはルシファーでもハッキリわかる。そう、後者だ。ルシファーの体の震えは彼の意思に反する無意識から来るものだった。
何故なのか、そんな理由は簡単に分かってしまえるルシファーはただ悔しいと思うしかなく、同時に自らの体の震えを信じることは出来なかった。
『ありえない……ありえない……ありえない!!
何故だ!!何故オレがオマエ如きに恐れを抱かなければならない!!
オマエなど取るに足らない人間でしかないのに!!』
「分からないのか」
『何……?』
「分からないのかと聞いたんだよ。
オマエが何故オレに恐れを抱かなければならないのか、何故今のオマエの力がオレに通用しないのか、その理由が分からないのかってな」
『オレがオマエに恐れを抱いてるのに理由があるとでも言いたいのか!!
こんなものはただの偶然でしか……』
「その偶然にオマエは苦しめられている。
ならそれは偶然でカタをつけていいものではない。
オマエがその恐れを抱く理由……それは、オマエ自身が負けることを経験していないからだ」
『何!?』
「オマエはこれまでトウマを傀儡のように操り、ただ力を得るために利用して高みの見物をしていた。
そのオマエが今ここで自らの手で攻撃して攻撃される戦いに臨んでいる。
そこで起こるあらゆることを前にしてオマエはこれまで経験していないが故に感じる肉体の痛みや追い詰められる苦しみを思い知った。
その苦しみや痛みはオマエが望んでいたものでは無いだろう。だからこそオマエの本能は恐怖を感じて逃げようとしている」
『逃げる……?
このオレが……ふざけるな!!』
ヒロムの言葉に激怒するルシファーは禍々しいオーラをさらに強くし、禍々しいオーラを強く纏う中でルシファーは闇を強く放出しながら叫んだ。
『オレは最強の力を得た!!
貴様の力を理解し、その力をこの身に受けても耐える力と破壊するだけの力を宿している!!
そのオレが……貴様に勝てぬと逃げるわけが無い!!』
「逃げるのは恥ではない。
だがな……他人を利用し、利用し続けて自分が強くなったと勘違いして周りを壊すだけの愚かな行いは恥でしかないんだよ!!」
来い、とヒロムが叫ぶと天より流星の如き一筋の光が舞い降りてきて金色の装飾を持った大剣となり、ヒロムはその大剣を手に取ると金色の稲妻を全身に強く纏う。
稲妻を強く纏うヒロム、ヒロムが稲妻を強く纏うと大剣は眩い金色の輝きを放ちながら力を増していく。
力を増すヒロムの大剣、それを前にしてルシファーは禍々しいオーラをさらに強く纏う中で禍々しい魔剣に自身の纏うものと同じオーラを纏わせると闇を上乗せし、さらに漆黒の雷撃と炎をも纏わせていく。
『貴様に敗北するなどオレの存在を否定する恥そのもの!!
貴様だけは……オマエだけは……ここで殺す!!』
「やれるもんならやってみろ。
それよりも先にオレが……オマエを倒してやるよ」
『ほざけぇぇぇぇ!!』
もはや絶対的な強さを見せようとしていた最初の面影はなく、ただルシファーは禍々しいオーラを纏いながら走り出すとヒロムは殺そうと魔剣を構えて迫っていく。
魔剣を構えて迫るルシファー、そのルシファーが近づく中でヒロムは深呼吸をすると大剣を強く握り、大剣を強く握るとヒロムは勢いよく横に振ることで一撃を放ってそれを魔剣にぶつける。
力を増している大剣の一撃を魔剣が受けるとその力の強さに耐えられずにルシファーの武器は砕かれ、ルシファーの武器を砕いたヒロムはその場で一回転して勢いをつけるともう一度攻撃を放ってルシファーの体に命中させる。
ヒロムの二度目の攻撃を受けたルシファーは大きく仰け反ると共に纏っていた禍々しいオーラや闇が消え、ルシファーは苦しみ出す。
『がっ……あっ……』
「残念だなルシファー。
この「ソウル・マジェスティ」には敵の力を拒絶して消滅させる力が備わっている。
今の二撃でオマエの纏う力を拒絶して消滅させた。これで……終わりだ」
『ば、バカな……バカな……オレは、オレは……!!』
苦しむルシファーに終わりを告げたヒロムは金色の稲妻を強く纏うとともに大剣を振り上げて敵の前に一瞬で移動し、そして情け容赦なく大剣を振り下ろすと共に金色の稲妻を纏いし斬撃を放ってルシファーに食らわせる。
金色の稲妻を纏う斬撃をルシファーが受けると漆黒の鎧が次々に砕け散り、鎧が完全に砕けて消えるとトウマの体が姿を現し、そしてトウマの体から勢いよく闇が飛び出ていく。
『嫌だァァァァァ!!』
「さよならだ……「八神」の怨念!!」
トウマの体から追い出されるように飛び出ていく闇の中にあるルシファーの意識に向けてヒロムはもう一度大剣を振って攻撃を放つとルシファーの意識を闇ごと両断し、両断されたルシファーの意識は闇と共に金色の稲妻によって塵も残すことなく消滅させられる。
ルシファーの意識と闇が消滅するとトウマの体から禍々しい紋様が完全に消え、紋様が消えたトウマはその場で倒れそうになり、ヒロムは大剣を片手に持ったまま彼の体をもう片方の手で倒れぬように支える。
「トウマ……」
「……兄、さん……」
ルシファーに体を支配されていたトウマ、激しい戦いの中であったにもかかわらずトウマは意識を保っており、トウマはヒロムに体を支えられながら彼に謝罪した。
「兄さん……ごめん。
ボクは兄さんに迷惑をかけた。
兄さんだけじゃない……ボクは多くの人の命を……」
「……オレに謝っても終わらねぇ。
その思いがあるのなら……これからは償うために生きろ」
「……うん……!!」
ヒロムの言葉を受けたトウマは涙を流し、たった一人の弟のトウマの涙を見たヒロムはどこか安心したような様子で彼を見ていた。
が、そんな空気の中鬼桜葉王がヒロムたちのもとへ現れると彼に問う。
「姫神ヒロムゥ、ゼクスはどこにいる?」
「ゼクス?
見てないが……」
「おかしいぞォ。
八神トウマを利用していたはずのゼクスが一切姿を現さないなんてよォ」
葉王の言葉に緊張が走る。彼の言葉を受けたガイたちはまだ終わりじゃないと感じて武器を構え、ヒロムもトウマの体を支えながら周囲を警戒しようとした。
その時……
突然、天より二機の人型の機械兵器が現れるとヒロムたちの前に着陸する。
全長は機械天使と同じくらいの三か四メートル程で見た目は鎧を纏った騎士のようなデザインだった。
「コイツらは……一体……!?」