六二九話 蹂躙されし能力者
トウマを睨むヒロム。両手に白銀のブレスレットを装着したヒロムは全身に白銀の稲妻を強く纏い、白銀の稲妻を纏うヒロムの姿にガイたちは戸惑いを隠せなかった。
何が起きてこうなったのか、そしてヒロムがガイたちの手助けを拒んで単独でトウマの相手をすると何故言い出したのか、彼らの知らぬところで起きた何かがヒロムをそうさせたとしか分からないガイたちはどうしていいのか分からなかった。
そんな中、突如として乱入してきた「月翔団」の団長である白崎蓮夜は魔力を纏いながらヒロムの方へ進もうとする。
蓮夜が動き出すとシンクは彼を止めようと構えるが、シンクが構える中ヒロムはトウマの方を見たまま蓮夜に忠告する。
「部外者はとっとと失せろ。
呼んでもいねぇのに来んじゃねぇよ」
「悪いがもうオマエらの好きにはさせない。
導一のためにもここでオマエらを倒してその首をアイツのもとへ献上する」
「失せろ。
次は言わせんなよ」
「なら教えてやろう。
オマエがいつまでも強いと思ってたら大間違·····」
ヒロムの言葉に強気で言葉を返そうとした蓮夜。
その蓮夜にヒロムが軽く視線を向けたその瞬間、蓮夜の全身がとてつもない何か強い力に圧倒され、圧倒された蓮夜の体から魔力が消えると彼は後退りしてしまう。
何が起きたか分からないシンクが不思議そうに蓮夜を見ていると、蓮夜はヒロムに問う。
「今のは……オマエがやったのか?」
「何度も言わせんなや……さっさと失せろ」
何度言っても去らない蓮夜に嫌気がさしたのかヒロムは彼のことを強く睨みながら告げ、ヒロムに強く告げられた蓮夜は全身に彼の発する強い何かに圧倒されて身体を震わせる。
このままではまずい、そう感じたのか蓮夜は早々に撤退し、撤退した蓮夜をシンクは追いかけようとした。
だがヒロムはそんな彼を止めた。
「追うな。
追っても時間の無駄だ」
「だが……」
「どうせ決着をつける相手だ。
そんなヤツよりも今は目の前のことを片付ける」
蓮夜が去ったことを気にも止めずにヒロムはトウマを見ており、ヒロムがトウマを見ていると彼のもとへと獅角、刃角、拳角が音もなくヒロムの邪魔をするように現れ、さらに他の角王も次々に現れる。
「トウマ様、ここは我々におまかせを」
「ゥゥ……」
「ご安心ください。
必ず我々があの憎き男を始末します」
「誰に言ってんだ?」
言葉すら発しなくなったトウマに礼儀正しく話す獅角の言葉が違和感でしかないヒロムは問い、ヒロムが問うと獅角は冷たく答えた。
「貴様には関係の無いことだ。
これはトウマ様への約束……貴様を倒すことでそれを果たしてここで全てを終わらせるという決意だ」
「約束だの決意だの……どの口が言ってんだよ」
「貴様が死ねば我々がこのようなことをしなくて済む話。
だからこそここで終わらせる!!」
構えろ、と獅角が叫ぶと角王全員が全身に魔力を纏い、魔力を纏いながらそれぞれの武器であり角王の証たるギアを展開していく。
獅角たち角王の完全な戦闘態勢、それを前にしてヒロムは……一切構えようとしない。
構える気配もないヒロムにガイたちは不安を隠せず、構えないのならばと獅角は角王全員に指示を出そうとした。
「総員、今こそ憎き「無能」を殺……」
「『クローズ』」
獅角が指示を出そうとしたその時、ヒロムは左を前に構えて呟き、ヒロムが呟くと左手の白銀のブレスレットが緑色に光りながら巨大な緑色の雷撃を放つ。
放たれた雷撃は視認出来ぬ速度で轟音を轟かせながら角王の一人に襲いかかり、雷撃を受けたその一人は痛みを感じることも悲鳴をあげることもなく塵と化して消滅してしまう。
ヒロムの一撃で一人が消えると獅角は驚いて言葉を止めてしまい、獅角が指示を出すのを途中で止めるとヒロムは首を鳴らして一瞬で別の角王の前に現れる。
「コイツ、速……」
「『インディグネイション』」
ヒロムの出現に角王の一人が驚いているとヒロムは呟くとともに左手の白銀のブレスレットを藍色に光らせて紅い炎を強く放出させ、放たれた紅い炎は驚く角王の一人に襲いかかると全身を飲み込んでそのまま焼き消してしまう。
「貴様!!」
ヒロムが二人目を消すと巨大な槌を持った角王の男が走ってきて大槌を振り下ろしてヒロムを殺そうとする……が、ヒロムは右手の白銀のブレスレットを紫紺色に光らせると周囲を冷気で包み、そして大槌を持つ角王の男の全身を凍結させる。
全身が凍結させられた男を睨むとヒロムは蹴りを叩き込み、蹴りが叩き込まれると凍結させられた男の体は粉々に砕け散って消える。
「なっ……貴様……」
「どうした?
オレを殺すんだろ?ならさっさとやってみろよ」
「くっ……」
「ふざけるな!!」
ヒロムの力に気圧された獅角がうろたえる中拳角は全身に炎を強く纏うとそれを不死鳥のように変化させながら解き放ち、放たれた不死鳥の形の炎はヒロムに襲いかかる。
「……『オルタナティブ』」
迫り来る不死鳥の形の炎を前にしてヒロムは左手の白銀のブレスレットを水色に光らせながら手をかざし、ヒロムの左手がかざされると不死鳥の形の炎がヒロムの手の中に吸収されて消えてしまう。
「何!?」
自身の放った炎が吸収されたことに驚く拳角にヒロムは呆れながら彼を冷たい目で睨んで告げた。
「最初に会った時、オマエは案外まともなんだと思っていた。
けど、実際にまともだったのは狼角の方だった。
オマエは……ボクサーをやめた時点で終わってた」
「オマエ……!!
オレを侮辱するな!!」
ヒロムの言葉に拳角は炎を強く纏うと彼を黙らせようと走り出して攻撃を放とうとするが、ヒロムが左手を拳角に向けると彼の手から水色の稲妻を纏った不死鳥の形の炎が放たれて拳角を吹き飛ばしてしまう。
「がはっ……!!」
「今のは……拳角の技!?」
「オマエらの技ってのは大した事ねぇな。
『ジェノサイド』」
拳角が倒れ、そしてヒロムが拳角と同じ技を放ったことに刃角が驚いているとヒロムは黒い稲妻を無数の刃にして放ち、放たれた刃が刃角や他の角王三人の体に数本ずつ刺さる。
が、黒い稲妻の刃が刺さっても大したダメージにはならなかったのか刃角たちは平然としていた。
「あん?「無能」が何かしたか?」
「ああ、それなりのことをな」
「なら教えてやらないとな……!!
能力者が力を使うとどうなるか……」
ヒロムに対して能力者が力を使えばどうなるかを教えようと刃角は全身に魔力を纏おうとした……が、刃角が纏おうとする魔力は一向に現れる気配がない。
彼だけではない。刃角同様に黒い稲妻の刃を受けた三人の角王も魔力を纏おうとしても纏えないでいた。
「な、何で……!?」
「いいことを教えてやるよ角王ども。
オレの黒い稲妻……オウカの霊装である「ジェノサイド・ソウル」の力は稲妻が負傷させた相手の魔力を吸収してオレに還元するんだよ。
オマエら四人は三本ずつ受けた。単純な計算では三本も刺されば体の中の魔力は明日にならない限りは回復しないレベルまで吸収されるんだよ」
「なっ……魔力を……奪ったのか!?」
そうだ、とヒロムが言うと薙刀が現れ、現れた薙刀をヒロムが掴み取ると薙刀が黒い稲妻をヒロムの身の丈の十倍はあるであろう大きさで纏いながら力を増していく。
「オマエらの力を奪った。
そしてこれが……オマエら角王四人の魔力だ!!」
膨大な力を纏う薙刀を勢いよく振るととともにヒロムはまず魔力を吸収された三人の角王を斬り殺し、続けて刃角に一撃を放つが、刃角は刀を構えると何とかして防ぎ止めてみせる。
「ぐぅぅ……!!」
「あ?
抵抗するだけの力は残ってたのか?
つまんねぇな……ったく」
ヒロムが舌打ちをすると共に薙刀を大きく動かすと刃角の持つ刀全てが破壊され、そして刀を持っていた刃角の両腕が切断されてしまう。
「がぁぁぁぁあ!!」
「うるせぇな。
『クローズ』」
両腕が切断された刃角が痛みにより叫んでいるとヒロムは薙刀を投げ捨てて左手を構え、構えた左手から緑色の巨大な雷撃を撃ち放つ。
撃ち放たれた雷撃は空間を歪めるようにしながら力を増しながら迫っていき、刃角に迫ると大きく炸裂して彼を襲う。
雷撃に襲われた刃角の全身は悉く焼かれ、雷撃に焼かれた刃角の体は炸裂した雷撃の衝撃によって粉々になるように吹き飛ばされてしまう。
「刃角……!!」
「貴様……!!」
「我々の仲間をよくも!!」
許せない、と言わんばかりに刃角が倒れると五人の角王の能力者がヒロムを倒そうと走ってくるが、ヒロムはため息をつくと左手の白銀のブレスレットを紫色に輝かせ、さらに右手の白銀のブレスレットを琥珀色に輝かせる。
「『ブレイク』、『ランペイジ』」
白銀のブレスレットが紫色に輝きを放つと五人の角王の能力者は闇に全身を拘束され、白銀のブレスレットが琥珀色に輝きを放つと琥珀色の稲妻が龍や虎、獅子となって五人の角王の能力者を襲っていく。
琥珀色の稲妻の獣に襲われた能力者たちは全身をひどく負傷し、負傷した彼らにトドメを刺すように拘束する闇は蛇に変化すると五人の角王の能力者を噛み殺していく。
あまりにも残忍すぎる角王への攻撃、それを前にした獅角がうろたえる中、拳角は起き上がるとヒロムに接近して殴りかかろうとする……が、ヒロムは右手の白銀のブレスレットを杏色に光らせると拳角の前から背後へと一瞬で移動し、移動すると無数の魔法陣を出現させて次々に光の力を拳角の背中に叩き込んでいく。
「がっ……」
「『コズミック』。
いくらオマエが強かろうとそれは身内の中だけだ。
それを痛感したのなら……とっとと失せろ」
「……黙れ!!
オレは……オレは覚悟を決めてオマエを殺すと誓ったんだ!!」
ヒロムの攻撃と言葉を受けても拳角は諦めようとせずにヒロムの方を向くと彼に炎を纏わせた拳で殴ろうとした。
その瞬間……ヒロムの両手の白銀のブレスレットが白銀の輝きを強く発していく。
「……ッ!!」
「……『ビヨンド』」
ヒロムが一言呟くと白銀の輝きはさらに強くなり、輝きはヒロムと拳角を包むと数秒で彼らのもとから消え去り、輝きが消えると拳角は全身血だらけになりながら白銀の稲妻に全身を貫かれたまま倒れていく。
「なっ……拳角!!」
「逃げ……ろ……獅角……。
この男は……もう……」
「『インヴァーション』」
獅角に何かを言おうとした時ヒロムは右手の白銀のブレスレットを紫紺色に光らせながら拳角にかざし、ヒロムの手がかざされると拳角の両腕が凍結させられるとそのまま砕かれてしまう。
だがすでにボロボロな拳角は叫ぶことも無くそのまま倒れ、拳角が倒れるとヒロムは彼の頭に足を乗せて強く押し付けながら獅角に告げた。
「これが当主に仕える角王ってやつか。
散々見下してきた相手に成す術もなく殺されてる無様なコイツらと今のオレ……どっちが「無能」だ?」
「貴様……!!
調子に……」
「……もう終わってる。
『インディグネイション』、『ブレイク』、『アメイジング』……トリニティーバースト」
獅角が叫ぼうとした時、ヒロムは左手の白銀のブレスレットを藍色、紫色、桃色に光らせ、白銀のブレスレットが光ると獅角の全身は紅い炎に襲われ、炎に襲われる獅角を闇の刃が次々に串刺しにするように襲い、そして天から流星群が獅角に降り注がれる。
「がぁぁぁぁあ!!」
次々襲いかかる攻撃に為す術もない獅角。
その獅角をヒロムは……