六二六話 お呼び無き軍勢
美雪の口より出た言葉。「十家」最強に等しい力を持つ人物が今暴走するトウマを止められる術を手にしていると言うのだ。
だが、その情報がソラを悩ませる。
「どういう事だ?
「十家」最強に等しいってのはどう意味だ?」
紅い拳銃「ヒート・マグナム」を美雪に向けて構えるソラ。
返答およびそれに対する態度次第ではソラは容赦しないと形で示そうとした。
だが、今のままではソラは彼女を撃てない。
彼女が言う「十家」最強に等しい力を持つ人物が一体誰を指すのか、それを答えさせなければソラは美雪をどうにも出来ない。
彼女をここまで追い詰めたのはたしかだが、あと一歩のところで美雪がソラに明かした衝撃の言葉が彼の手を止めさせているのだ。
「答えろ。
今言った「十家」最強に等しい力を持つ人物は誰のことだ」
「あら……そこまで教えなきゃダメなのかしら?
てっきりアナタは自分で答えを見つけるのだと思ったけど……そこまでは出来ないのかしら?」
「御託はいいから答えろ。
時間が無い、ヒロムが相手をしてるトウマに万が一があったらオマエを……」
「諦めなさいな……。
アナタでは止められない……仮に私の協力した人物が誰なのかを言い当てたとしてもアナタたちは止められない。
アイツの力を前にして……潰されるだけよ」
「オマエが協力した……!?」
「ソラ!!」
美雪の言葉にソラが困惑していると彼のもとへとガイが駆けつけ、続けてシオンとイクトもやってくる。
全員が無事に標的となる「ハザード」のウイルスを受けて敵対心をむき出しにヒロムを襲おうとした当主を倒してここに集まったのだが、ガイたちが駆けつけてもソラの中の疑問は解決しない。
それが表情に出ていたのか、それとも長い付き合いだから気づいたのかは分からないがガイはソラに何かあったのではないかと尋ねた。
「ソラ、何かあったか?」
「あ、ああ……。
最悪のパターンがな」
「最悪のパターン?」
「……今のトウマを暴走させたのは四条貴虎ではない。
ここにいる四条美雪が全ての元凶だ」
「「!?」」
「待てソラ、何を言って……」
ソラの言葉にイクトとシオンが驚き、ガイも突然すぎて信じられないと言った反応を見せる中でソラは彼らに向けてこれまでに得た情報の全てを彼らに話していく。
「四条貴虎は自ら軍事力の発展を望んだ男ではない。
アイツはそうなるようにこの女に操られていたんだ。
トウマを裏で操り、自分が「十家」の上に立って支配するための力をコソコソ隠れて集めるための囮にされていたんだ」
「じゃあトウマのあの姿は……」
「貴虎がそうさせたと思わせて実際はこの女があの力を自分の駒にするためにわざと自我を暴走させたんだよ。
オレたちがここに加勢に来なかったらこの女は悪行を暴かれることも無く頃合いを見て自分の計画を進めていたかもしれねぇ」
「そんなことが……」
「だがソラ。
それだと不自然な点がある」
「不自然?
何がだシオン」
「オレとノアルがヒロムと行動してる時に初めて貴虎とリュクスに遭遇した時、リュクスはその女を人質にして貴虎を操るような素振りを見せていた。
仮にこの女がその本性を表してオマエに話をしたとしても過去に起きたことは……」
「それすらもこの女の仕組んだことなら?」
「まさか……」
「それもこの女の演技だよ。
たしか……リュクスがこの女の命を握ってるかのように言って貴虎を連れて行ったんだな。
この女の本性が分からないままならその辺はスルーして貴虎が後からリュクスと手を組み、さらにはカリギュラに加担したと考えて終わったが、今となったは違う。
この女は最初からリュクスと繋がっていた可能性がある。
そしてオマエらの前で貴虎がリュクスに連れていかれるところを目撃させることで全ての視線を自分からより確実に遠ざけたんだよ」
「マジかよ……」
「でもソラが真の黒幕の四条美雪を倒したなら一件落着だろ?
はやく暴走してるトウマを止めさせて大将の加勢に……」
それは無理だね、と何かがソラたちのそばを勢いよく横切り、何かが横切ると倒れる四条美雪の体が何かに連れていかれてしまう。
四条美雪の体を連れていく何か、それは動きを止めると姿を現し、姿を現した紅い髪の青年は彼女を抱えながらソラたちに話す。
「彼女にはもう少し役に立ってもらわなきゃ困る。
まだオマエたちにあれこれさせるわけにはいかない」
「オマエは……」
「リュクス!!」
やぁ、と美雪を抱える青年……リュクスはソラたちに向けて陽気に手を振りながら微笑むが、ソラたちはリュクスを前にして構えてしまう。
彼らが構える中、リュクスは余裕があるのか落ち着いた様子でソラたちに美雪について話していく。
「悪いけどまだ利用価値が残ってるからこの子は殺らせない。
計画のためにも彼女は必要だからね」
「オマエ……!!
テロリストであるカリギュラに加担したと思えば「十家」の支配を目論むその女とも手を組んでいたのか!!」
「それは違うな、相馬ソラくん。
オレは彼女とは手を組んでいない。
オレはオレと契約を結んだ相手の計画を手助けするためにこの子を守らなきゃならないんだよ」
「その契約を結んだ相手ってのが「十家」最強に等しい力を持った野郎なのか?
そいつが唯一トウマを止める術を持ってるとその女は言っていたが、オマエは教えてくれるのか?」
「へぇ、この子を追い詰めてそこまで話させたとはね。
でも残念だけど教えられないな。
ここで教えたらあの人がわざわざ一条カズキより自分が劣るように仕向けた意味が無くなるし、一条カズキとその下僕に存在を悟られるわけにはいかない。
どうしても知りたいなら……力づくで聞き出すしかないが、そんな暇はないだろ?」
「あ?」
「どういう意味だ?」
「今や八神トウマは完全な暴走を遂げて破壊衝動に身を委ねて姫神ヒロムを消そうとしている。
そんな彼に加勢せずにオレみたいなヤツの相手をしてていいのかな?」
「オマエ……分かってて今現れたのか」
「まぁ、それもあるかな。
でも……本当の狙いはここからだよ」
リュクスの言葉、本当の狙いという言い方に何かがあると感じたガイが警戒しているとどこからともなく炎や雷が飛んできてガイたちに襲いかかる。
飛んできた炎や雷が襲いかかってくる中ガイたちは武器を構えて迫り来る攻撃を全て破壊し、被害を未然に防ぐと攻撃の飛んできた方を向く。
彼らが向いた先……その先にはこれまで何度も見た男たちがいた。
「アイツらは……!!」
「こんな時に!!」
視線の先にいた男たち……全員が統一された黒い軍服のような衣装を身に纏い、その中心には民族衣装にも似た軍服の男が指揮を執るかのように立っていた。
黒い髪の前髪の一部のみメッシュが入った男は冷たい眼差しでソラたちを睨むと彼らに告げる。
「……オマエらに告げる。
もはやこれ以上は野放しにしておけない。
抵抗せず投降しろ」
「それをオレたちが従うとでも思うのか……蓮夜!!」
「……導一の指示だ。
「十家」すら凌駕するオマエたちを野放しにしていては危険すぎる、従わないのなら始末しろってな」
指揮を執るかのように中央に立つ男……白崎蓮夜は冷たい眼差しで睨みながらソラたちに告げ、蓮夜が冷たく告げると軍服のような衣装を身に纏う男たちは一斉に魔力を纏っていく。
完全な戦闘態勢、それを前にしてソラやガイは構えようとするが、イクトは構えようとせずにソラたちに言った。
「アイツら「月翔団」の相手をするのはいいけどリュクスが四条美雪を連れていったらおしまいだぞ。
どうにかしてアイツの足止めもしないと……」
「そんなのは分かってる。
だが問題はリュクスを逃がさないようにしつつ「月翔団」を迎え撃ち、いかに早くして素早くヒロムを助けに向かうかだ。
このままじゃどれも遂げられないまま終わるぞ」
イクトの不安を同じように感じるシオンはさらなる問題点を彼やソラとガイに話し、それを聞いたソラたちはどうすべきか考えてしまう。
そんな時……
ソラたちが考えていると蓮夜たち「月翔団」のもとへ無数の氷柱が放たれ、放たれた無数の氷柱が蓮夜が引き連れてきた男たちを襲うとそのまま吹き飛ばし、さらに無数の氷塊が蓮夜に襲いかかる。
「!!」
突然の氷塊の襲撃に蓮夜は魔力を纏うと素早く躱して離れた位置へ移動し、男たちが吹き飛ばされる中で蓮夜のもとへ一人の少年が現れる。
「懲りないヤツらだな、オマエら「月翔団」は。
己の無知を知らないようだな」
「貴様……」
「シンク!!」
蓮夜の前に現れた少年……氷堂シンクに蓮夜は苛立ちを混ぜたような顔で睨み、ガイたちは彼の登場に安心していた。
「シンク、いいタイミングで来てくれた。
頼みが……」
「蓮夜は任せろ。
オマエらはオマエらのやるべきことをやれ」
「……ああ!!」
「なら二手に……」
白崎蓮夜の相手を引き受け、そしてガイたちにやるべき事をやるように伝えるシンクの言葉を受けたガイたちはそれぞれリュクスの足止めとヒロムの加勢の二手に分かれようとしたが、そうしようとした時どこからか勢いよく何かが吹き飛ばされてリュクスの横を通り過ぎていく。
吹き飛ばされた何か、それをガイたちが見るとそれは暴走し機械天使三体を取り込んで変貌したトウマだった。
吹き飛んできたトウマは血が出るほどの負傷を負っているが、その傷も徐々に消えようとしていた。
何が起きたのかはガイたちには分からない、だが誰が何かをしたかは彼らには分かった。
トウマが飛んできた方へとガイとソラが向くとその方向からヒロムがこちらに向かって歩いてくるのが見えたのだ。
「ヒロム……」
こちらに向かってくるヒロムはいつも着ているジャージの上着がボロボロになって脱ぎ捨てたのか上はシャツ一枚だけとなっており、肌を露出させる両腕は少しだが負傷していた。
そして、彼の右手は強い光を纏っていた。
「……ヒロム?」
「誰も手を出すな……。
コイツはオレが相手をする」
「待てよヒロム。
いくらオマエでも……」
トウマを一人で相手すると言うヒロム、そのヒロムを止めようとガイは彼に言葉を発するが、言葉を発したと同時に彼はヒロムから発せられる異質な何かを感じ取ってしまう。
異質なその何かを感じ取ったガイは言葉を途中で止めるとガイはそれ以上何も出来なかった。
それはガイだけでなくソラたちも同じだった。
ヒロムに加勢しようとしていた彼らはガイと同じようにヒロムの発する何かを感じ取り、感じ取ると共にそれに触れて問うことも出来なかった。
「……トウマ。
オマエがそうすると決めたなら仕方ない……けどな!!
だからって何もかも滅茶苦茶にしていいって話じゃねぇんだよ!!」




