六二三話 爆炎と雪華
その頃……
右手に紅い拳銃「ヒート・マグナム」を構えるソラに睨まれる「四条」の当主の四条美雪は指揮棒のようなものを取り出すとソラに警告した。
「そこをどいてください。
私はアナタに危害を加えるつもりはありませんが、アナタが邪魔をするのなら容赦しません」
「生憎だがオマエにその気がなくてもオレは最初からオレの前に立つ敵は潰すつもりだ。
特にオマエはここで倒す」
「何故です?
私がアナタに敵意を向けられる理由はないはずです」
「オマエに心当たりがなくても無理はない。
これは八つ当たりだからな。オマエの兄貴……四条貴虎が情報をカリギュラどもに横流ししたせいでヤツらは余計な力を身につけ、その力がヒロムやヒロムの周りの人間の日常を破壊するきっかけになったんだからその責任を取らせなきゃ気が済まないんだよ」
「兄の身勝手については謹んで謝罪します。
ですが間違えないでください。この騒動を発展させたのは十家会議に乱入して掻き乱した姫神ヒロムそのものです。
アナタは自分の仕える主とも言える相手が兄の被害に遭われたと言いますが、今現在この騒動を引き起こす引き金になったのは……」
「それもオマエの兄貴である貴虎の仕組んだウイルスのせいだな。
勢いで論点を変えられると思ったか?悪いがオレにはその手は通用しない。
仮に通用したとしても……オレがオマエを殺すことに変わりないから安心しろ」
構える紅い拳銃「ヒート・マグナム」の引き金に指をかけるソラ。
そのソラの構える姿を前にして美雪はソラにある質問をした。
「何故アナタは彼に仕えるのですか?
彼に仕えてアナタに何の利益があるのです?
アナタはその力を正しく使えば立派な……」
「うるせぇぞ女。
質問するためにここに来たってんなら邪魔だからその口焼き切るぞ。
グダグダ言ってねぇでやる気見せろや」
美雪の言葉に耳を貸すことも無くソラは美雪に戦意を示すように告げ、ソラの言葉を前にして彼女は深呼吸をすると全身に魔力を纏う。
「話し合い、それで解決するならどれだけ楽だったか……それを今理解させてあげましょう!!」
「話し合い?解決?理解?
ヒロムに対して迷いもなく敵意を向けたオマエがそれを口にするな!!」
美雪の言葉を聞いたソラの怒りは一定の限界に達したらしく、ソラは引き金を強く引くと巨大な炎弾を美雪に向けて撃ち放つ。
放たれた炎弾は美雪に向けて飛んでいくが、美雪が指揮棒のようなものを振ると彼女の前に障壁が現れて炎弾を防いでしまう。
炎弾を防がれたソラはそこで終わるはずもなく次から次に炎弾を撃ち放ち、放たれた炎弾は美雪の前に現れた障壁を消そうと襲いかかる。
……が、炎弾は障壁にぶつかると秘めているはずの力を発揮することも無く消されてしまう。
「あ?」
「無駄なことはしないで下さい。
アナタの攻撃は私には届きませんので」
「何言ってやがる……?」
「私は今、兄によって私の中に入れられた「ハザード」のウイルスとともに体内にデバイスシステムのデータを取り込んでいます。
兄がトウマさんの力で「ハザード」を増強させた際に私がトウマさんを制御できるようにと力の恩恵を受けるようになっています。
今の私にはこれまでアナタたちが戦ってきたその全てのデータが取り込まれ、そしてそれに対抗する力を生み出すことも出来る。
アナタがどれだけ頑張ったところで私には……」
美雪が話す中でソラは右手に持つ紅い拳銃を左手に持ち替えて構えると一発分の銃声を響かせ、銃声が響くと六発の炎弾が美雪の前に現れた障壁の一部分に集中するように命中していく。
速射、ソラの得意とする技の一つだ。だが命中しても障壁に傷はつかない。
それでもソラは速射を続けて次から次に炎弾を放って一点に集中させながら命中させていく。
何度も何度も炎弾が一ヶ所に命中させられる。何度も、何発も炎弾が同じところに命中しても障壁に変化はない。
炎弾を放ち続けたソラは引き金に引く指を止めると拳銃を下ろし、彼が諦めたと感じた美雪は彼に提案した。
「相馬ソラ、アナタのその力は素晴らしいものです。
ですがその素晴らしい力も姫神ヒロムという愚かな人物の前では存分に発揮できないはずです。
ここで私と敵対するのではなく、可能ならば手を取り合って戦うべき相手と戦いませんか?
私たちなら……」
うるせぇ、とソラが瞳を紅くさせながら美雪に冷たく言い、彼が冷たく一言を発すると美雪を守る障壁が粉々に砕け散ってしまう。
何が起きたのか分からない美雪、美雪が戸惑う中でソラは紅い拳銃「ヒート・マグナム」を右手に持ち直すと美雪に狙いを定めながら告げた。
「オマエら「十家」と手を組むくらいならオマエら全員を焼き殺した後に自害してやる。
オマエらは倒すべき敵、ヒロムが殺すなって事前に指示を出してなかったら今頃は全員殺してトウマも貴虎も殺して全て終わらせていた」
「争いでは何も解決しない、それでも……」
「争いは火種があるから起きる。
その火種を最初に生み出したのはオマエらだ。
オマエらが先にヒロムを陥れ、あろうことか全ての責任をアイツに押し付けた。
「竜鬼会」の一件で何もしなかったオマエらが咎められることなくアイツが全ての悪の元凶とでっち上げられながら世間に迫害された。
争いでは解決しない?なら戦う以外の方法で済む段階で対処しやがれって話なんだよ」
「それは時と場合、状況に左右されることです。
とくにその「竜鬼会」については私は……」
「知らねぇってか?
ヒロムはオマエが貴虎に騙されてウイルスを仕組まれたと誤解していたが、オマエは今さっき自ら望んで受け入れたような言い方をしたろ。
つまりオマエはトウマがどれだけの罪を重ねたのかも知っているし、何なら「竜鬼会」に加担してるヤツについても知ってるってことだろ」
「何を根拠に……」
「貴虎は今やこの騒動の引き金を完全に引いた諸悪の根源。
そしてオマエはその貴虎の悪行に加担するようにヤツの行いを受け入れた共犯者だ。
つまり……最初から何もかも知ってなきゃそんなこと出来ないんだよ」
ソラの推理、四条美雪は兄の四条貴虎によってウイルスを秘密裏に仕込まれたとヒロムが考えるのに対して彼女は自らが望んで仕込まれることを受け入れたことと彼女は貴虎がカリギュラに手を貸してること、そしてトウマが犯した数々の罪について知った上で黙認していると考え、それらから彼女は話し合いによる和平交渉を望むような人間はないと判断して紅い拳銃「ヒート・マグナム」を構えながら彼女を強く睨む。
ソラに睨まれる美雪、その美雪は頭を抱えると突然笑い出してしまう。
「フフフ……ハハハハハハハハハ!!」
「あ?
何がおかしい?」
「……せっかく人が善人を演じて平和的な解決に導こうとしたのに、報告通りにアナタは容赦がないのね。
いえ、元々アナタが他人の交渉を受け入れるような優しさはなかったと言うべきかしら」
「それがオマエの本性か?」
「アナタの推理通りよ、相馬ソラ。
私は兄……貴虎の考えを知った上でここにいる。
そして、トウマが何をしたのかも全部知っているわよ」
人が変わったかのように兄である貴虎はもちろん許嫁であるはずのトウマですら呼び捨てにする美雪が発する雰囲気からは優しさなどなく、ただただ悪としての本性を曝け出した女と化していた。
本性を曝け出した美雪、その美雪はソラに冷たい眼差しを向けると彼に問う。
「どのタイミングで気がついたのかしら?
タイミング的に私を怪しむには情報が足りないはずなのに、アナタは迷いもなく真っ先に私を相手に選んだけれど何故なのかしら?」
「……別に。
つい最近ヒロムの身内が手の平返ししてるのを話で聞いてるから貴虎と血縁関係のあるオマエのことも怪しむ方が手っ取り早いと思っただけだ」
「考えるのが面倒でその方法に至っただけなのね。
何とも気に食わない理由ね」
「で、オマエの本当の狙いは何だ?
何で貴虎に加担する?」
「貴虎に加担?
間違えないでもらいたいわね……そもそも、貴虎は自分で計画を立ててなんていないわ」
「何?」
突然の美雪の告白、これまで貴虎が行ってきた全てが貴虎自身の考えによるものではないという言葉にソラは疑問を隠せなかった。
「どういう意味だ……?
貴虎はオマエが当主を務める裏で軍事力の発展のために動いていたんじゃないのか?」
「あら?そこまでは想像してなかったのかしら?
そうね……分かりやすく、理解しやすく話してあげると、貴虎を操っていたのは私であって私は一切操られていないわ」
「なっ……!?」
「元々軍事力の発展については先代当主である亡きお母様の悲願でもあったから私が何とか完成させようとしたけど、このご時世に当主の女が軍事力を独占しようとすれば怪しまれるでしょ?
だから貴虎の記憶を私の替え玉になるように改竄して「軍事力の発展という野望のためなら国家すら敵に回しかねない思想の戦士」に仕立てあげたのよ。
でも……それだけだと不安だから私はある対策を投じたわ」
「対策?」
「私が主犯だとバレないように私自身の力をデバイスシステムのデータでロックし、貴虎の中にそのロックを外すためのプログラムを隠しておいたのよ」
「……ッ!!
貴虎にウイルスを仕込まれたように演じていたが、実際は貴虎を洗脳して操る上で自分に都合のいいように何もかもでっち上げてたのか?」
「そういうことよ。
アナタのカンがそこまで鋭いと思わなかったから上手く誤魔化すために貴虎に協力してる風にしようと思ったのに……それも全て台無しね」
人が変わったかのように次々に己の企みを明かしていく美雪は手に持つ指揮棒のようなものに魔力を纏わせるとそれを禍々しいオーラを纏った大鎌に変化させ、大鎌を手に持つ美雪はソラに取引を持ちかけた。
「相馬ソラ、私と取引しない?
この騒動を止められるのは今では私だけ。八神トウマをどうにか出来るのも私だけ。
アナタが協力するというなら「ネガ・ハザード」は撤退させるし他の当主に仕込んだ洗脳用のプログラムも消してあげるわ」
「洗脳用のプログラム?
まさか「ハザード」ではなくそんなものを仕込んでいたとはな……」
「さて、取引の話をしましょうか。
そうね……相馬ソラ、アナタの手でゼロを殺して私のもとへ届けなさい。
そうすれば私が全て終わらせてあげるわ」
「オマエ……!!」
「アレは元々私が利用するはずだった闇、その闇を私の野望を知った飾音が盗んだのよ。
だから……それを取り返せれば何もかも終わらせてあげる。
どう……悪い話じゃないでしょ?」