六二二話 静と動
瞳の色を変化させたシオンが放つ異常なまでに強い力、それを受けたマサキとシンゴはその現実を信じられなかった。
「な、何だこの力は……!?」
「こんな異常な力を持ったヤツが当主のオレたち以外にいたのか!?」
「オレたち以外?
何勘違いしてやがる?」
「何?」
「そんな力をオマエらが持ってるならさっさと使いやがれ。
オレが手加減しててもまともに戦えないようなオマエらが加減してる暇ねぇだろ」
「コイツ……!!」
「ハッキリ言ってやるが、そんな力がないからボロボロになるまでやられてんだろ?
それなのにこのタイミングでありもしない力に頼ろうとする……浅はかすぎて笑えねぇ。
しかもこの程度で臆するところを見るかぎり……オマエらが当主になったのもただのまぐれだろ?」
「黙れ!!
貴様がどこの誰であろうとオレたちを侮辱するのは許せん!!
オレたちが当主に選ばれたのはそれ相……」
「『それ相応の実力と先代に認められるだけの素質があったからだ』だろ?」
「なっ……!?」
シンゴが言おうとした言葉を全て把握してるかのようにシオンは彼の言葉を先に全て言い、自身の言いたい言葉を先に言われたシンゴは動揺を隠せなかった。
シンゴが動揺する中でマサキは動こうとしたが、そのマサキに対してもシオンはあることを話した。
「やめておけ、バンダナ野郎。
どうせそこの自意識過剰が動じてるのが元に戻るまで時間稼ごうとか考えてるなら無駄だ。
オマエがやろうとしてる大地の一部を媒体にした分身人形の造形なんざオレには通用しない」
「なっ……」
「どうした?
自分たちのやろうとしたこと全てが見透かされてるみたいな反応してるが……まさかそんな単純なことで驚いてるのか?」
「……オマエ、オレたちに何をした!!」
「吠えるなよバンダナ。
オマエが吠えたところで未来は変わらない。
次にオマエがどう動くのか、何を言うのか教えてやった方がいいか?」
「何を……」
「ふざけたことってか?
悪いがオレが持つこの力……「晶眼」の力は未来を見通す力がある。
数秒先の未来、複数に分岐する未来を全て見通し、そこからオマエらがどの未来に進むかも手に取るように分かる。
それがこの「晶眼」にのみ許された力だ」
「未来を見通す力……!?」
「そんな力、あるわけ……」
「現実を見ろよ、自意識過剰とバンダナが。
オマエらは自分たち当主の力が天井のような価値観で言葉を発してるが、現実は違う。
オマエたちが自分の地位が第三者に壊されることを恐れて目の前から自分の都合の悪いものを取り払っているだけ。
ご都合主義、オマエらにピッタリの言葉だろ」
「ご都合主義だと……!?
オレたちは当主になると決めて誰もが通る学生時代すら捨てたんだぞ!!
それを……オマエの勝手な解釈で否定されてたまるか!!」
シオンの言葉に我慢が限界に達したシンゴは走り出し、走り出したシンゴは魔力を纏うと右の拳を構えようと……したが、シンゴが拳を構えようとしたその瞬間にシオンが手をかざすと彼の構えようとした拳は槍のように鋭利に尖った雷に貫かれ、拳を貫いた雷が強い電流をシンゴの腕に流すと彼の右腕はひどい火傷を負ったように焼け焦げ、腕が焼け焦げるとシンゴは苦痛から悲鳴をあげてしまう。
「がぁぁぁぁあ!!」
「六道シンゴ!!」
「加減はしておいた。
でなきゃ感電のショックで全身焼きかねないしオマエを殺しかねないからな」
「ぐぅぅぅ……ふざけるな!!」
シオンは手を抜いた、それを聞いて黙っていられないシンゴはまだ無事な左足に魔力を纏わせてシオンに蹴りを放とうと地面を強く蹴って勢いをつけようとした。
が、シンゴが地面を強く蹴ると何かが炸裂し、炸裂した何かによってシンゴの左足は右腕同様にひどい火傷を負って負傷してしまう。
片足を負傷したことにより立つことが不可能となったシンゴは倒れてしまい、倒れたシンゴを見下すような視線を向けるシオンは彼に手をかざすと雷撃を放ってシンゴの全身をさらに痛めつけていく。
「がぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「言ったはずだ。
未来を見通す力があるってな。
オマエがオレの言葉で心を制御出来ずに真っ先に仕掛けてくることも、魔力を纏わせた後に右の拳でオレを殴ろうとするのも、右腕を封じられたら痛みに耐えながら即座に切り替えて左足で蹴りを放とうとするのも全部見えてんだよ」
「ば……バカな……!!
本当に未来が見えて……」
「何度も言わすな。
オレは未来を見通す、それ故にオマエらには負けない!!」
雷撃に襲われるシンゴに対してシオンはさらに強力な雷撃を撃ち放ち、放たれた雷撃はシンゴに命中すると炸裂してシンゴを吹き飛ばしていく。
吹き飛ばされたシンゴの全身はひどい火傷に見舞われ、全身に火傷を負ったシンゴはもはや意識を保つことすら不可能となってしまいそこで倒れてしまう。
シンゴが倒れるとマサキは大槌を握る手に力を入れて地面を強く叩き、マサキが地面を強く叩くと大地より無数の土の人形兵が現れる。
現れた土の人形兵は大地から剣や槍といった武器を出現させて装備すると構えてシオンに迫ろうとするが、シオンは首を鳴らすとただ一度指を鳴らして終わる。
指を鳴らしたシオン、シオンのその行動の直後に響いた音が土の人形兵にまで届くと土の人形兵は一斉に自壊するように崩壊していく。
「なっ……!?」
「理解してないのか?
オレは未来を見通せる。それは個人の未来だけでなく複数人が関与する未来だろうとこの目は逃さず全て見通す。
自意識過剰な当主が倒れた場合、オマエはそうやって人形兵を生み出すのも目に見えていた。
だから自意識過剰な当主が左足で地面を強く蹴る際に炸裂させて足を潰すための雷を仕込む際にオマエの周囲の地面にも人形兵を内側から破壊するために必要な雷を仕込んでおいた」
「仕込んでおいた……?
バカを言うな!!その言い方、まるでオレたちとここで戦うことすら予見していたかのような言い方だが、あの「無能」と呼ばれる男がオレを倒していた場合その仕掛けは無意味だったんだぞ?
未来を見通す力とは言っても結局……」
「バカか?」
「何……?」
長々と話すマサキに冷たく一言告げたシオン。そのシオンの言葉に意表をつかれたのかマサキが驚いていると突然地面を伝って雷撃がマサキに向かっていき、マサキに接近した雷撃はマサキ本体ではなく彼の持つ大槌に向かって襲いかかるとそのまま彼の武器を破壊してしまう。
突然の雷撃によって破壊される大槌、大槌が破壊されるとマサキは破壊された大槌の残骸を慌てて投げ捨て、丸腰となったマサキに向けてシオンは自身の「晶眼」について話していく。
「オレの「晶眼」が見通すのは数秒先の未来とその未来が分岐する全ての未来だけだ。
一分を超える未来を視ることは不可能だし、仮にそれを知れたとしてと数秒の間ですら無数に分岐するんだからそれを超える規模の分岐した未来を把握するのは不可能だ」
「なら何故オマエは……」
「ヒロムの目的はオマエらを倒すことじゃない。
自分の力を証明して弟である八神トウマとの因縁に終止符を打つことこそがヒロムの目的だ。
目的云々を差し引いてもそもそもヒロムのやり方は甘い。
出会ったばかりの頃なら躊躇いもなく相手を潰すのが姫神ヒロムという男だったが、今のアイツは目的に不要な犠牲は極力出したがらない。
目的を成しても犠牲が伴っては意味が無い、ある意味で上に立つものには相応しい考えだ」
「じゃあ、オマエは……あの男がオレたちをあえて野放しにすると分かっていたのか!?」
「当たり前だろ。
そもそもオレがガイたちとここに来たのはヒロムが目的を果たす上でオマエらが邪魔すると分かってたからだ。
ヒロムもトウマを止めるのに専念するだろうからその手助けに来ただけ。
後はその場の流れに沿って相手を選んで即興で策を投じればいいだけだ」
「だがどうやって……どうやって地面の中に雷を仕込んだ!?
オマエに未来を見通す力があったとしてもオレたちの動きを封じるために雷を事前に仕込むなんて……」
「それは今オマエに見せたろ?
今見せたのが全ての答えだ」
「答え……?
まさか……!?」
「そう、オマエらに雷撃を放っていたのは注意を逸らすためだ。
雷撃を放った真の狙いは見通した未来通りに動くオマエらを効率よく倒すための仕掛けを設置することだ。
雷撃を放った際にその一部を地面へと伝導させて帯電させてしまえばいいだけのこと、深く考えなくともオマエらを倒すためなら造作もなく行える」
「ま、待て……!!
オマエは数秒先の未来と言ったはずだ!!
それなのにどうして!!」
バカか、とシオンは右手を天に向けてかざすとかざした手に雷を集めながら巨大化させ、巨大化させた雷の力を増させるように激しく轟かせるとそれをマサキに向けて放とうとする。
「オレは「晶眼」による未来視は一回とは言ってねぇ」
「くっ……!!」
シオンが巨大な雷の塊を放とうとするとマサキは避けようと咄嗟に後ろに飛ぼうとした。
飛ぼうとして地面を蹴った瞬間、地面で何かが炸裂し、その何かが炸裂するとマサキは全身に電撃を浴びてしまう。
「しまっ……」
「終わりなんだよ、もう。
オマエらの未来をオレが見通したその時点でこの戦いの結末は見えていた!!」
全身に電撃を浴びるマサキに対して強く告げるとシオンは右手に集めた雷を解き放ち、解き放たれた雷は無数の雷の龍となってマサキに襲いかかる。
「ヴァーミリオン・フルバースト!!」
シオンが叫ぶと無数の雷の龍は雄叫びを上げながらマサキに噛みつき、雷の龍に次から次に噛み付かれたマサキは全身に電撃や雷撃を受けると負傷し、そして全身負傷したマサキは倒れてしまう。
シンゴを倒し、そしてマサキをも倒したシオンは二人の当主が戦闘不能になったのを確認すると瞳の色を銀色から鮮血のような赤へと戻し、全身に纏っていた雷をも消すとシオンは不満があるように意識のない彼らに向けて言った。
「これが当主の力だと言うなら拍子抜けだ。
国を動かすほどの力、それはオマエたちが他者を寄せ付けぬために用意した偽りの威厳。
真の強者の戦いを見てきたオレには通じない」
二人に向けて告げるシオン。そのシオンの脳裏にはこれまで幾度となく強敵に挑んで勝利してきたヒロムの姿が浮かんでいた。
「ヒロム……オマエに出会えたことはオレの誇りだ。
だからこそ、オマエはオマエのやるべき事をやれ」