六二話 コネクト
不安に包まれつつあるパーティー会場。
徐々に響いてくる戦闘音は激しくなっており、それが余計に人の不安を掻き立てる。
「……まずいな」
この状況をよく思わないシオンはハルカの手を離させるとどこからか槍を出し、外へ向かおうとする。
が、シオンの行動を黙って見ていることも出来ないイクトはシオンの腕を掴み、それを止めた。
「離せ」
「今さっき遂行するとか言ってたばっかりだろ?
ここはアイツらに……」
「何かあればプランBに移る。
そういう話でもあった」
「それは万が一の場合だ。
今はまだ……」
ねぇ、とイクトとシオンの会話に横から割り込むようにエリカが話しかける。
「二人は外で何が起きてるかわかってるの?」
「それは……」
「ああ、わかってる」
エリカの問いにどう答えるべきか悩むイクトの隣で、シオンはなんの躊躇いもなく返事をする。
「シオン!!」
「今更言い訳して何になる?
それにこの状況ならそのうちバレる」
「だけど……」
シオンの言葉にイクトは何も言い返せなかった。
シオンに言葉が明らかな事実を述べていたからだ。
現にこの状況に対しておかしいと疑問を抱いている者も現れ、そして目の前でエリカが同じようにその感情を抱いている。
「誤魔化さないで説明して」
「言われるまでもない。
外で今ヒロムが敵と戦っている」
「ヒロムくんが!?」
「ああ、バッツとな」
待って、とシオンの話を遮るようにユリナが質問をした。
「なんでその敵の人と戦うことになったの?」
「敵だからだ」
「だって今日は愛華さんの誕生日パーティーなんだよ?
なのになんでその人が来るってわかったの?」
ユリナの質問はまさしくだが、それは事情を知らぬからそう考えることになる。
だが大体を把握しているイクトとシオンは違う。
そしてヒロムがパーティーに参加した理由もそれがきっかけだからだ。
が、その事情も確定した情報ではなく、ヒロムの予測だ。
だからここで言うのは……
「バッツの正体は姫神飾音だからだ」
「バカ……!!
それはまだ……」
ふざけないで、とシオンの言葉に対してユリナは反論するように口を開く。
ユリナが発したとは思えぬその一言にイクトは戸惑ってしまう。
「姫さ……」
「それじゃヒロムくんはお父さんと戦ってるって言いたいの?
ヒロムくんのことを守ろうとしてた人と!!」
「落ち着い……」
イクトがユリナを宥めようとしたの時、突然パーティー会場となっている屋敷の壁の一部が勢いよく崩壊し、そして勢いよくガイとソラが中へと吹き飛んでくる。
二人ともボロボロで、吹き飛んだ先のテーブルに激突してしまう。
「痛……!!」
「くそ……!!」
何が起きてるのか。
二人の姿を見た者、その場にいた者はすぐに理解した。
敵が現れたのだと。
話の途中ではあるが、二人が心配になったイクトは駆けつけ、何があったのか説明を求めた。
「大丈夫か!?」
「何とか……な」
「くそ……オレとガイで倒すつもりが敵に塩を送る形になるとはな……」
何があった、とシオンも駆けつけるなりソラたちに説明を求めた。
そしてその後ろから遅れてユリナたちも追いついてきた。
が、ユリナたちがいる前で説明していいのか迷うソラは口を開こうとしない。
それを見兼ねたシオンはため息をつくと単刀直入、つまり何の迷いもなく本題に入るように問う。
「バッツは姫神飾音だったのか?」
「……そう思ってたよ」
ソラはシオンの質問に対して舌打ち混じりに答えると拳を強く握った。
そしてどこか悔しそうに語り始めた。
「……バッツは飾音さんに憑依した精霊だった。
そして今、飾音さんの体を支配してヒロムを倒そうとしている」
「つまり?」
「……飾音さんはバッツじゃなく、利用されていたんだ」
ソラの口から語られた真相を聞いたシオンとイクトは驚きながらも現状を理解するとヒロムを探した。
この二人のように吹き飛んでいない。
だとすれば……
「ヤツはまだバッツと戦っているのか!?」
「……だからヤバい。
急いで行かねぇと……」
すると外から何かが炸裂したような轟音が響いてくるとともに、会場内に強い風が押し寄せる。
「きゃあ!!」
「うわぁぁ!!」
会場にいる他の参列者はその音と押し寄せる風に驚き、そして避難しようと慌ただしく動き始める。
押し寄せる風の中から感じ取れる尋常ではない殺気。
それを感じてしまったガイたちは焦り始める。
「ヤバい……!!
ヒロムが……!!」
ガイがボロボロの身体でヒロムのもとへ向かおうと走り出す。
***
振り下ろされたバッツの魔剣。
その魔剣より放たれし斬撃は魔力を纏いながら威力を増していく。
避けようにも間に合いそうにないヒロムは命の終わりをそこで感じてしまった。
「くそ……!!」
「……!!」
が、その魔剣が放った斬撃はヒロムから大きく逸れ、そしてまったく違う方向の地面を抉り、魔力が炸裂する。
炸裂した際に発生した衝撃がその轟音とともにヒロムを吹き飛ばすが、ヒロムに対してはダメージを与えるには至らなかった。
「……?」
何が起きたのか?
ヒロムは目の前で起きたことに対して理解できていなかった。
バッツは確実に自身の命を奪おうと魔剣を振り下ろし、そして斬撃を放った。
そしてその剣には魔力が纏われており、そして命を奪うことに対しての迷いなどなかった。
いや、そうするための一撃だからこそ魔力を纏わせて仕留めようとしたのだろう。
なのにバッツは外した。
確実に仕留めようと思えば仕留められる状況下でだ。
「どういう……」
「マスター!!」
ご無事ですか、とフレイたちが駆けつける中、それに反応を示すことなく、ヒロムはバッツを見ていた。
何が起きたのか、それを知りたいからだ。
が、すぐにその答えはわかった。
「……コイツ、オレの中で微かにある意識をもとに邪魔しやがったな!!」
バッツは誰かに対して怒りをぶつけるように話している。
が、ヒロムに向けてでもフレイたちにでもない。
では誰に対してなのか?
そこでヒロムは一人の男を思い出した。
バッツが依り代として選び、今憑依しているその体の本来の持ち主を……自身の父親の存在を。
「まさか、親父……!!」
「勝手なことをしやがってぇ……!!
おかげで仕留め損ねた!!」
バッツは飾音に対して怒りをぶつけるように叫ぶが、その一方でヒロムは助けられたことに対して自分の不甲斐なさを感じ、拳を強く握りながら自身を助けた存在に怒るバッツを睨んだ。
「……何だ、その目は?」
「オマエの中の親父をこれ以上悪く言われるのは腹が立つ……!!
だからここで必ず潰す!!」
「おいおい、頭悪いなぁ。
オマエはそんなキャラじゃないだろ?
何事も面倒で関わりたくない、本心でそう思ってるのがオマエだ」
「わかったような言い方すんな!!」
ヒロムは白銀の稲妻を全身に纏うとバッツに殴りかかるが、バッツはそれを片手で止める。
「事実だろ?
オマエは誰かが傷つくのを避けてきた。
だから自分が強くなれば誰も傷つかなくていい、そう思ってたんだろうが!!」
バッツはヒロムの拳を突き返すと魔剣で斬りかかるが、ヒロムはそれを避けるなり白銀の稲妻とともに音もなく消える。
「なのに「ハザード」の症状が進行し、仲間に迷惑をかけることに罪の意識を感じ、結局そうして強さを得たんだろ!!」
バッツはその場で回転すると自身の背後に蹴りを放つ。
何もないのに、と思われたが、気づけばヒロムがそこに現れており、バッツの蹴りが命中する。
蹴りを受けたヒロムは背後から攻撃を放とうとしていたらしく、拳に力を集中させていたが、バッツの一撃により大きく吹き飛んでしまう。
「がっ……!!」
「慣れれば何の苦労もない。
速いだけなら先を読めばいい」
「この……」
「さて、この程度ならもう終わりにしようぜ?
これ以上オマエの無駄な時間に付き合うつもりは無い」
バッツはため息をつくとヒロムを見ながら告げるが、ヒロムはそれを聞いても諦めようとはしない。
いや、できるはずがない。
それどころか、バッツに言われたことでスイッチが入った。
「たしかにオレは他人が傷つくのを見たくなかった……。
けどな、そんなオレがどれだけ拒絶しようとも受け入れようと歩み寄る仲間が、理解しようとしてくれる家族がいる!!
オマエにとっては無駄だろうけどな、そいつらにとっては意味があるものなのかもしれないんだ!!」
だから、とヒロムがさらに白銀の稲妻を大きくするとともにアリア、メイア、ユリア、イシスが姿を見せる。
これでヒロムは十一人の精霊すべてを召喚した。
「相変わらず理解力のない男だ……。
いくら数を並べても……」
「教えておいてやるよ、バッツ。
ソウル・ハックの本来の目的をな」
「何を……」
「ソウル・ハック……「コネクト」!!」
「「はい!!」」
ヒロムが叫び、白銀の稲妻を周囲に放出すると同時にフレイたち精霊全員が白銀の稲妻をその身に纏う。
「何!?」
目の前の光景に驚くバッツは、フレイたちの身に起きていることを疑うしかなかった。
なぜならバッツはヒロムの「ソウル・ハック」は「ハザード」を糧にして生み出したと思っていたからだ。
「ハザード」を利用した強化、それが白銀の稲妻だと考えていたのに、フレイたちがその力を纏っているのだ。
「何を……」
「バッツ……。
怒りも、憎しみも、闇も、殺意も……!!
その身に宿す魂燃やしてオレを……オレたちを滾らせろ!!」
ヒロムが走り出すと同時にフレイたちが一斉に姿を消す。
ヒロムはそのまま加速してバッツに接近すると殴りかかるが、バッツはそれを避けるなりカウンターのパンチを放とうとする。
が、音もなくメイアが現れるとレイピアでバッツを突き、さらにエリスが二本の刀でバッツを斬る。
「この!!」
「甘い!!」
バッツが魔剣を振ろうとするとアリアが剣でそれを防ぎ、すかさずアイリスとフレイが現れてバッツに斬りかかり、そしてバッツを吹き飛ばす。
「ぐおおお!!」
吹き飛んだバッツに狙いを定めたアルカとテミスは次々に弾丸を放ち襲おうとするが、バッツは立ち上がるとそれを防ごうとする。
しかし、バッツがそうするより先にユリアが現れるなり杖で地面を強く叩き、それを機にバッツが地面に押さえつけられるように倒れ、そのまま地面に食い込んでいく。
ユリアの能力による重力操作だ。
「ぬおおおお!!」
(バカな……!!
コイツらの力が格段に上がっている……!?)
アルカとテミスの弾丸もその影響を受けるが、それが標的に向けて誘導するきっかけとなり、すべてバッツへと命中する。
さらにシズカが現れると苦無でバッツの影を貫き、バッツを影ごと地面に拘束するとともに、マリアが現れ、さらに叩きつけるようにバッツを殴る。
「がはっ!!」
バッツが次々にその身に襲いかかる攻撃に苦しむ中、バッツは黒い霧に包まれていく。
「!?」
「今です!!」
イシスが現れるなり合図をし、それと同時にヒロムは右手を前にかざしながら走り出した。
そして
「借りるぞ、フレイ!!」
ヒロムが右手に魔力を集めるとそれは形を変え、フレイの大剣と同じ姿となる。
そして
その大剣に向けてアルカ、テミス、エリス、メイアがそれぞれの能力を放ち、大剣はそれを吸収していく。
そして吸収した力とともに強大な魔力を放出しながら大剣を覆い、ヒロムはそれを振り上げる。
雷、炎、風、氷。
四つの力が一つとなり、さらに白銀の稲妻が大剣を強化していく。
「受けろ!!
スピリット・パニッシャー!!」
ヒロムが大剣を振り下ろすと、黒い霧に包まれ、動けぬバッツに四つの力を宿した白銀の稲妻と斬撃が放たれ、それが標的であるバッツを襲い、そしてそのバッツを吹き飛ばす。
「……悪いなバッツ」
ヒロムは大剣を消すと、吹き飛んだバッツを見ながら話した。
「この「ソウル・ハック・コネク」トはオレを媒体にフレイたちのすべての力を底上げする技だ。
そして「ソウル・ハック」はオレの魂をフレイたちと同じ……精霊と同質のものへと一時的に昇華する力だ」
だから、とヒロムはテミスの銃剣を右手に、アルカの銃を左手に持つと構えた。
「今のオレはオマエの知るオレの限界を超えているんだ!!」