六一九話 刀剣乱刃
イクトが五樹・F・ルルーナと二葉一葉を倒した頃……
ガイは刀を手にして三日月宗近の前に立っていた。
三日月宗近もガイと同じように刀を構えており、刀を構える宗近はガイの顔を見るなり不快感を顔に出して発言した。
「……雨月ガイ。
まさかオマエとここで会えるとは思いもしなかった」
「オレも出来ることならアンタと会いたくはなかった。
オレにはアンタと会う理由がないからな」
「笑止……。
こちらにはオマエに会う理由がある」
宗近の言う理由、ガイはそれについて大凡の検討はついている。
「オレが昔、何も知らずに「三日月」の先代当主を倒したことがそんなに許せないか?
その事実を隠してオマエは当主として最強の剣士とやらを名乗っているらしいが……何故オレが先代当主を倒したことを隠す?」
「当然のことだ。
「十家」同士の戦いによる敗北は隠せば咎められるが、オマエのようなどこの家のものかもハッキリしないような輩に負かされたことなど隠しても咎められはしない。
それにオマエみたいなヤツに負けたなどと知られれば「三日月」の名が汚れる」
「名前が汚れる?
勝負によって着いた勝敗を秘匿して事実を捻じ曲げることの方が名を汚してると思うがな」
「黙れ。
オマエが先代当主……オレの父を倒したことはオレかオマエしか知らない。
ならばここでオマエを倒せば……隠さなければならないようなことはなかったと堂々と語れる!!」
「……そう思いたいなら勝手に思え」
(コイツの口振りからして葉王が知ってることまでは把握してないようだな。
それよりも問題は……葉王が言った通りにオレがコイツを倒さなきゃならないことだ)
「別にオレは当主云々には興味無いしヒロムが上に立つだけならオレは不満もなかったんだけどな……。
オレがヒロムの隣に並ぶようなことはあまりしたくないんだよ」
「オマエ、何を言っている?
先程から一人でブツブツ……」
「オマエには関係ない事だ。
それに……オマエの言う通りここでオマエとオレのどっちが強いかハッキリさせれば住むだけの話だ」
「ふん……。
ならば試してやろう!!」
ガイの言葉に強く返すと宗近は刀を強く握りながらガイに接近して刀を振り、宗近が刀を振るとガイもそれに応じるように手に持つ刀で斬撃を放つようにして宗近の一撃を止める……が、ガイが敵の一撃を止めると宗近は刀を構え直して連続で斬撃を放ってガイの持つ刀を破壊してしまう。
「……」
「刀のない剣士は負けたも同然。
このままその首を……」
「あっそ」
刀を折られたガイは折れた刀を投げ捨てるとどこからか新たな刀を出現させて手に持ち、手に持った刀を鞘から抜刀すると同時に一閃を放つと宗近を吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされた宗近は咄嗟に受身を取って倒れるのを阻止すると立ち上がり、立ち上がった宗近は刀を構えながらガイが手に持つ刀を疑問視する。
「何だ……その刀は?」
「霊刀「折神」。
オレが剣士として戦う上で欠かせない刀だ」
「霊刀……!?
そんな刀、一体どこで……」
「オマエには関係ない事だ。
それに……霊刀は一本だけじゃない」
宗近の言葉に返すとガイはさらに刀を一本抜刀する。
霊刀「折神」と同じく彼が所有する霊刀、名は「飛天」。
その名は……
「ご主人!!」
ガイが二本目の霊刀を抜刀すると安全な物陰から何かがガイを呼ぶ。
ひょこっと顔を出したそれは……彼が宿す幼子の精霊・飛天だ。
小さな体にブカブカの青いコートを着、黄色いとんがり帽子を被った飛天は危険から離れるように隠れながらも顔を出してガイに向けて伝えた。
「ご主人!!
ボクたちの出番になったら早く呼んでね!!」
「あぁ、任せろ」
「オマエ……剣士の戦いに部外者を連れ込むつもりか!!」
「部外者?
勘違いするなよ……オマエを倒すのはオレだ」
ガイは霊刀「折神」と「飛天」を構えると地面を強く蹴って宗近に接近し、接近するとともにガイは二本の霊刀で攻撃を放つが、宗近はガイの攻撃を回避すると反撃の一閃を放つが、ガイはそれを霊刀「飛天」で防ぐ。
「オマエが霊刀を持つに相応しいかどうか……このオレが確かめてやろう!!」
「確かめられるまでもなくオレはこの霊刀に選ばれた持ち主だ。
オマエが判断するまでもない」
「ふざけたことを言うなよ?
オマエのような卑怯者がその刀に認められるなどありえん!!」
「卑怯者?
オレが?」
そうだ、と宗近は勢いよく刀を振り下ろし、ガイがそれを霊刀「飛天」で防ぐと宗近は刃と刃がぶつかる中でガイに話していく。
「ガキの頃のオマエがオレの父を倒した、そんな事実はオマエが不正を働かなければありえない話だ!!
オマエはどうやってか父を貶めて負けるように仕向けた!!
それしかありえない!!」
「デタラメを……!!
どこにそんな証拠がある!!」
「証拠などなくても分かることだ!!
オマエはそうしなければ剣士としての名を手に入れられない!!
だから父を嵌めたんだ!!」
「ふざけるな。
オマエの父親とオレは正々堂々戦った。
その上でオレが勝利しただけのことを部外者が言いがかりを付けるな!!」
「部外者だと?
都合が悪くなればそうやって逃げるのか?」
「逃げる?
オマエが親の敗北を認めずに今もそのことを無駄に根に持ってるだけの話だ」
ふざけたことを、と宗近は力一杯刀を振ってガイを押し飛ばすと刀に魔力を纏わせ、刀に魔力を纏わせると自身の周囲に無数の魔力の刀を出現させる。
「……!!」
「三日月流……!!
乱れ百華斬!!」
宗近が刀を振るとそれに呼応するように魔力の刀が一斉にガイに襲いかかり、ガイに襲いかかっていく魔力の刀は接近する中で斬撃を放ちながら確実にガイを仕留めようと迫っていく。
迫り来る宗近の攻撃、その攻撃を前にしてもガイは落ち着いた様子で刀を構える……いや、むしろ敵の攻撃が迫る中で何故か手に持つ二本の刀を下ろしてしまう。
「何!?」
「……オマエの技は認める。
だが、その技はオマエのその歪んだ心のせいで全てが台無しだ!!」
刀を下ろしたガイが叫ぶとどこからか青い光が飛んできて宗近の攻撃を全て弾き飛ばし、宗近の攻撃を弾いた青い光はガイのもとへ寄ると刀へと変化していく。
二本の霊刀に次ぐ刀、その刀を目にした宗近は自身の目を疑うしか無かった。
何故なら……どこからともなく現れたその刀は普通の刀とは思えぬ現れ方をした。
それを目の当たりにすればガイが何か言わずとも宗近もその刀が普通ではないと簡単に判断できる。
「その刀は何だ……!!」
「気になるのか?
この刀が何なのか……気になるか?」
「質問に質問で返すな!!
答えろ!!その刀は何なんだ!!」
「……うるさいヤツだ。
そんなに知りたいなら教えてやるけど……オマエがこれを知っても何も変わらないぞ?」
今現れた刀が何なのか答えさせようと声を荒らげる宗近に呆れながら話そうとするガイは手に持っている霊刀「折神」と「飛天」を手放し、手放された二本の霊刀は地面へ落ちるかと思われると青い光を纏いながら宙を舞うと共にガイのそばを飛ぶ。
三本の刀を自身の周囲に舞わせるガイ。
そのガイは現れたばかりの刀について話していく。
「今現れたのはオレの新しい刀……霊刀「希天」だ。
この刀はこの手に得たばかりであまりオマエに話せることは無い」
「霊刀……だと?
ふざけるな!!一人の人間がその手に複数本の霊刀を手にするなんてありえない!!
霊刀ではなくオマエが能力でそう見せてるだけの刀だ!!
それをあたかも選ばれたものの証のように語るな!!」
「……語るな、か。
悪いがそう思うだけで何もしないやつは黙ってろ。
それにオマエの言葉は幼稚すぎて聞くに耐えない」
「オレが幼稚だと……?」
「オマエはオレが霊刀を複数持つことがデタラメだとかふざけてるとか何とか言ってるけど、ヒロムの精霊についてはどう説明する?
アイツの精霊はアイツが選ばれたからああやって多くの精霊を宿している。
オマエはアイツの精霊すらアイツがでっち上げてると思ってるのか?」
「あの「無能」は今関係ない!!
今オレはオマエの……」
「関係あるんだよ。
オマエや他の当主のほとんどは自分が絶対だと信じて疑わない。
だからさっきのヒロムとの戦いでオマエらはヒロムを見下し、その結果無様に敗北したのが現実だ。
それなのにオマエはそれをまだ受け入れていない。それどころかアイツに劣るオレの力さえ信じようとしない。
自分の理解が出来ない事は受け入れようともせずに都合よく目を逸らしている、それがオマエという人間だ」
「何も知らないガキが!!
父を倒したことがそんなに誇らしいか?
他人を倒すことがそんなに誇らしいか!!」
「誇り?違うな……強くあることはオレがオレであるために必要な事。
そして、ヒロムの力になるために必要な事だ」
ガイが己の覚悟を口にするとひょこっと顔を出していた飛天がガイのもとへ走ってくる。
彼だけではない。彼より少し背の低い可愛らしい幼い女の子が飛天の後を追うように走ってくる。
白い髪、白いブカブカの服、色白の肌、そして額には小さな角が二本あるその幼い女の子は飛天に追いつくと飛天の手を掴む。
「……にーに」
「ご主人、ボクときーちゃんも頑張りたいです!!」
「ワン!!」
飛天がガイに元気よく言うと彼と彼の手を掴む幼い女の子の後ろから犬の可愛らしい鳴き声がする。
よく見ると二人の後ろにはシベリアンハスキーの子犬のような愛らしい子犬がおり、子犬の声を聞くと飛天は慌ててその子を抱き上げる。
「ご主人!!
鬼丸くんもいるよ!!」
「ワン!!」
「ありがとな飛天、希天……それに鬼丸。
オマエらはオレの誇りだ」
だから、とガイが全身に強い力を纏うとどこからか新しく四本目の刀が現れ、刀が四本となるとガイは全身に蒼い炎を纏いて霊刀「折神」を掴み取る。
ガイが力強く握ると霊刀「折神」の刀身全体に亀裂が入り、刀身の亀裂の隙間から勢いよく蒼い炎が溢れ出る。
あまりにも異様な光景を目の当たりにする宗近は言葉を失い、言葉を失う宗近にガイは告げた。
「三日月宗近、オマエはかつてのあの戦いを卑怯だの何だのと好き勝手言ってくれたな。
だから見せてやろう……オマエの親父ですら敵わなかった雨月ガイの覚醒した真の力を!!」