六一六話 狂刃、命断つ
黒い狼の精霊・空牙の力を身に纏いし真助は小太刀の霊刀から妖刀へと変化した刀「狂血」と空牙の力により変化した黒刀を構えると魔力を纏う貴虎を倒すべく走り出す。
真助が走り出すと貴虎は吐血してしまうほどに限界に達している体に白銀の稲妻を纏わせ、稲妻を纏うと貴虎は真助を迎え撃つべく魔力の弾丸と稲妻を放っていく。
貴虎の放つ攻撃を前にして真助は落ち着いた様子で向かっていくとそのまま回避し、敵の攻撃を回避した真助はそのまま貴虎に接近して黒い雷を纏わせた蹴りを食らわせる。
蹴りを受けた貴虎は仰け反り、貴虎が仰け反ると真助は両手の刀で斬撃を放つと貴虎を負傷させると共に斬り飛ばす。
斬り飛ばされた貴虎は負傷した箇所から血を流しながら倒れそうになるが、倒れまいと耐えて立つと白銀の稲妻を刃のようにして放とうとする。
「失せろ!!」
「はぁっ!!」
貴虎が白銀の稲妻を刃のようにして放つと真助は黒い雷を纏わせながら刀を振り、刀が振られると黒い雷は無数の狼となって飛ばされる。
紫色の狼となった黒い雷は貴虎が放った白銀の稲妻を破壊するとそのまま貴虎に迫っていき、貴虎に迫ると黒い雷狼は炸裂して貴虎に強い衝撃を食らわせていく。
「ぐっ……!!」
「オラァ!!」
強い衝撃を受けて完全に動きが止まった貴虎に対して真助は黒い雷を刀に纏わせながら巨大な斬撃を飛ばし、飛ばされた斬撃は黒い雷を纏いながら貴虎に命中する。
斬撃を受けた貴虎はまたしても吹き飛ばされ、吹き飛ばされた貴虎は倒れてしまう。
さすがに体は限界に近い、その証拠に倒れた貴虎は立ち上がろうとしてもなかなか立ち上がれない。
これまで数度見せた光の像のようなものを自らに重ねて一瞬でダメージを消す技を使う様子がないことからそこまでの余裕が無いことも見てわかる。
だがそれでも貴虎は身に纏う力を解くことは無かった。
それどころか貴虎は魔力を強めると真助を睨み、そして強引に体を起き上がらせるとフラつく体で構える。
「コイツ……まだ立てるのか」
『マスター、脳に仕組まれてるデバイスシステムとやらが電気信号のようなものを体全体に送ってるとすれば立ち上がるのは不思議ではない。
本来の人間の脳なら限界に達した体を動かすことは不可能かもしれないが、ヤツの頭の中には人には無いものが組込まれてる』
「なるほど……空牙の言う通りかもな。
戦いって点においてはデバイスシステムが組込まれてる分、アイツはどんな手を使ってでも戦えるって言ってるようなもんだしな」
『マスターの狙い通りに体を限界に追い詰めてもデバイスシステムが無理やり動かしている。
となれば殺す他道は無いのではないか?』
分かってるよ、と身に纏う力となっている空牙の言葉に一言返す真助だが、その真助は何故か面倒そうな顔をしていた。
『マスター、どうした?
まさかだが殺すことを本当に躊躇って……』
「躊躇ってはねぇよ。
ただ……気に食わねぇのさ。
ここまで確実な手を使って戦っていたアイツが今になってそんな無理やりなやり方をするのが不可解に思える。
何か裏があるとしか思えないし……」
未だに倒れずに戦おうとする貴虎に不信感を抱く真助。
貴虎を見ると共に彼の思惑が何なのかを真助は考えようとしたが、それが無駄だと思ったのか真助は刀を強く握ると貴虎に向けて斬撃を放つ。
「いや、考えるのはやめだ。
デバイスシステムに体を操作されてるとしたらアイツは機械に操られる程度の男。
そんな男の考えを理解する必要もなければ気に食わないなんて思う必要も無い。
手っ取り早く……倒すだけだ!!」
真助は妖刀と黒刀を構えると貴虎に向けて走り出し、真助が先程放った斬撃を避けた貴虎は迫り来る真助の姿を視界に捉えると全身に白銀の稲妻を纏いながら走り出す。
限界に達したはずの貴虎、無理やりに動かされているであろうその体からは限界に達していることを感じさせぬような動きを見せるが、体の至る所からは限界に達したことを表すかのように血が流れている。
そのような体で戦おうとする貴虎の姿に真助は刀を強く握ると彼を終わらせようと斬撃を飛ばす。
真助の飛ばした斬撃を貴虎は白銀の稲妻を強く解き放つことで相殺し、斬撃を相殺した貴虎は白銀の稲妻の上に紫色の稲妻を重ねるように纏うと真助に殴りかかろうとする。
が、真助は黒い雷を全身に纏うと狼のようなヴィジョンを浮かび上がらせると同時に貴虎の前から姿を消し、そして貴虎の背後に現れて彼に蹴りを食らわせると周囲を駆けるように走りながら次々に斬撃を放って貴虎に食らわせていく。
「がっ……!!」
「はぁっ!!」
狼のヴィジョンを浮かばせる真助は斬撃を食らわせると貴虎に数度蹴りを放ち、全ての蹴りを命中させた真助は浮かばせている狼のヴィジョンを黒い雷へと変化させて右足に収束するとそれを狼の頭のような形に変化させながら更なる蹴りを放つ。
放たれた蹴りが貴虎に命中すると狼の頭のような形に変化した黒い雷が貴虎に襲いかかり、獲物に食らいつくように狼の頭のような形をした黒い雷は貴虎に噛みつくと炸裂して貴虎を吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされた貴虎は地面に伏すように倒れ、さすがの貴虎もこれで終わりだと真助は思いたかった。
だが貴虎は終わらない。
全身から大量の血を流しながらも貴虎は立ち上がり、立ち上がった貴虎は白銀の稲妻を強く纏うと真助のことを睨みながら彼に告げた。
「これで……終わらせる」
「……もう終わってる。
今のオマエじゃオレには勝てない」
「黙れ……!!
オレの作り上げたこの力が……ここで終わるわけが無い!!」
真助の言葉を強く否定すると貴虎は白銀の稲妻を強く纏いながら高く飛び上がり、高く飛んだ貴虎は真助に狙いを定めると急降下しながら真助に飛び蹴りを食らわせようと迫っていく。
だが真助は黒い雷を妖刀「狂血」に強く纏わせて一撃を飛ばすと貴虎の蹴りを防ぐと共に彼の纏う白銀の稲妻を消し飛ばす。
「なっ……」
「ここで終わりだ、四条貴虎。
他人の力を利用するだけのオマエの積み上げてきたその全ては……ここで終わらせる!!」
妖刀の一撃により攻撃を防がれた貴虎に対して真助は黒い雷を放ち、放たれた黒い雷は狼となって貴虎に何度も突進しながら貴虎を天高くへ打ち上げていく。
黒い雷の狼が貴虎を天高くへ打ち上げる中で真助は妖刀と黒刀に黒い雷を強く纏わせ、そして全身に黒い雷を纏うと周囲に無数の黒い雷の狼を出現させる。
「空牙!!」
『御意!!』
真助が空牙の名を叫ぶと無数の黒い雷の狼が天高くへ打ち上げられた貴虎に向かって飛び立ち、飛び立った黒い雷の狼は目にも止まらぬ速さで貴虎に接近すると次々に貴虎に突撃しながら炸裂して貴虎を追い詰めていく。
黒い雷の狼の衝突と炸裂により追い詰められる貴虎に向けて真助は地面を蹴って彼のもとへ向かうべく高く飛び上がると体を何度も回転させながら嵐を巻き起こすと黒い雷を強くさせながら貴虎に接近していく。
「受けろ……狂雷嵐武狼撃!!」
貴虎に接近すると同時に二本の刀で斬撃を放ち、真助が斬撃を放つと嵐と黒い雷が貴虎にトドメをさすように襲いかかる。
真助の強力な攻撃を受けた貴虎は全身ボロボロに負傷すると地面に勢いよく叩きつけられ、叩きつけられた貴虎は倒れるとそのまま地に伏してしまう。
地に伏す貴虎のもとへ来るかのように真助は着地すると刀を彼に突きつけるように歩み寄り、もう立ち上がらないであろう貴虎に刀の切っ先を向けると彼に終わりを告げる。
「ここまでだ。
ここまでやればどっちが勝ちか分かるはずだ」
「……ふ……。
殺せ……。オマエの一族を、殺したオレに恨みがあるのなら……」
ねぇな、と真助は貴虎の言葉に対して否定する意志を見せると身に纏う力を解き、力が解かれると精霊・空牙が真助のそばに現れる。
力を解いた真助、その真助は地に伏す貴虎を見下ろすような視線を向けながら彼に告げた。
「オマエを殺したいとか殺されたヤツら仇を取りたいとかはねぇ。
ただ、オレはオマエが壊したヒロムやアイツの大切なヤツらの日常を平然と壊したことが許せなかっただけ。
オマエに壊された日常はオマエを殺しても戻らないし、オレからしたらオマエを殺すメリットもない」
「……オマエ……!!」
「悔しいなら立てよ。
まだ立てるってなら殺してやるよ」
「……判断を誤ったな……」
殺す気は無いこと、ただそれでもまだ戦うなら今度は殺してやると貴虎に告げた真助だが、貴虎は地に伏す中で不敵な笑みを浮かべると真助に教えた。
「……オマエは殺さなかったことを後悔する。
オレを殺さなかったことで全てが無に帰すのだからな」
「どういう意味だ?
オマエはもう動けない。なのに何を……」
「八神トウマの機械天使に細工を施したのはオレだ。
そしてその機械天使の中に仕込んだあるウイルスが八神トウマの能力によって当主たちの中に組み込まれている」
「ウイルスだと?
まさか……「十家」の当主を皆殺しにするのか!?」
「違うな……。
八神トウマの「天霊」の力は機械天使の力と繋がっていることによりそのウイルスを取り込んでおり、その力を用いた治癒術で姫神ヒロムと戦闘して負傷した当主や能力者を治していたが……オレの仕込んだウイルスは「ハザード」の作用を引き起こすものだ」
「!?」
「当主どもは強い力故に抵抗するだろうが、遅かれ早かれウイルスが回れば八神トウマの傀儡となる。
だが抵抗力のない能力者は「ハザード」の作用を引き起こされると同時に機械天使の力をも与えられて「ネガ・ハザード」となって暴れる……この国技館を中心に八神トウマの憎悪が広がる」
「オマエ……!!
ふざけたことすんじゃねぇ!!
止めやがれ!!」
無駄だ、と声を荒らげる真助に対して貴虎は一言言うと続けて彼に全てを話していく。
「オマエがなかなか殺さないおかげでオレの中のデバイスシステムの中で制御プログラムを削除しておいた。
オレを殺したところでもはや止められない。
止めるには八神トウマを殺さなきゃ何も止められない」
「ふざけんな……!!
何のためにこんなことを!!」
「決まっている……。
世界にオレの築き上げた軍事力の力を証明するためだ……」
「……クソが!!
空牙!!ヒロムのところに行け!!」
任せろ、と空牙は黒い雷を纏うと慌てて走っていき、真助は貴虎に対して怒りを抑えられずに刀を強く握ると切っ先を突きつける。
「オマエを殺さなかったオレもオレだが……オマエだけは生かしておけねぇ」




