六一二話 堕天の天霊
化け物に変貌したトウマに向けて叫ぶんヒロムは白銀の稲妻を強くさせて走り出し、走り出したヒロムはトウマとの距離を詰めると拳撃を放つ。
が、放たれた拳撃はトウマに命中せずにその直前で止められ、拳撃を止められたヒロムは突然何かに吹き飛ばされてしまう。
「ぐぁっ!!」
吹き飛ばされたヒロムは慌てて受身を取って体勢を立て直すと白銀の稲妻を纏ったままトウマに向けて動き出そうとした……が、ヒロムが動こうとしたと同時に衝撃波が飛んできてヒロムに襲いかかる。
「!?」
襲いかかってきた衝撃波をその身に受けたヒロムは勢いよく吹き飛ばされ、ヒロムが吹き飛ばされるとトウマは一歩も動くことなく一瞬でヒロムが飛ばされた先に移動し、移動したトウマは手をヒロムに向けてかざすと闇を強く放出し、放出された闇は吹き飛ばされてきたヒロムをさらに吹き飛ばすように襲いかかる。
闇を受けたヒロムは吹き飛ばされた際の衝撃と闇を受けた際の衝撃、二つの衝撃を体に同時に受けることによって全身に激痛が走り、全身に痛みが走る中ヒロムはその場に倒れてしまう。
「マスター!!」
ヒロムが倒れるとフレイたちは彼を助けようと走り出そうとしたが、トウマはそんな彼女たちのもとへ一瞬で移動すると翼を大きく広げて闇を解き放ち、解き放たれた闇がフレイたちを吹き飛ばしてしまう。
「きゃあ!!」
「この……!!
ソウル……」
フレイたちが吹き飛ばされる中で立ち上がったヒロムは全身に何か力を纏おうとするが、ヒロムは何故かそれを途中で止めると何故か全身の力を抜く。
全身の力を抜くとヒロムはトウマの動きを気にしながら後方で待機している葉王に向けて尋ねた。
「葉王!!
ゼクスはまだ現れないのか!!」
「オマエの作戦だとそいつを倒さなきャ現れねェんだろォ?
それならそいつが倒れてない限りは現われねェよォ」
「チッ……。
そうだったな!!」
ヒロムは舌打ちをするとトウマの動きを警戒しながらもう一度構えようとするが、ヒロムがそうしようとした時、トウマは額の角に闇を集めるとヒロムに向けてビームにして撃ち放つ。
放たれたビームをヒロムは白銀の稲妻を纏うと慌てて回避するが、ヒロムがそれを回避すると避けられたビームは乱回転しながら十家会議の会場となっている国技館を破壊するかのように建物を襲っていく。
「アイツ……!!
オレたちを皆殺しにするつもりか!!」
トウマがやろうとすることを察したヒロムは白銀の稲妻を強く纏うとトウマに接近して殴りかかろうとするが、トウマは尻尾を用いてヒロムの拳を掴むと彼の体を勢いよく地面にたたきつけ、地面に叩きつけるとそのまま天へと投げ飛ばして闇を天に集めるとヒロムにぶつける。
ヒロムにぶつけられた闇は巨大化しながら彼の全身を襲い、闇に襲われたヒロムの全身は負傷してボロボロになってしまう。
ボロボロになるヒロム、だがヒロムは体が負傷する中で何事もないかのように意識を保っていた。
「これがオマエの力か……!!
なら……この力を使う!!
こい、セツナ!!」
ヒロムが叫ぶと闇を引き裂くように無数の斬撃が放たれ、闇が引き裂かれるとヒロムのそばに長い銀髪を束ねた袴のような服装に刀を持った少女の精霊・セツナが現れる。
「トウマ、オマエがオレに教えてくれて助かった。
オレに対する感情……力を持つ自分が持たぬはずのオレを嫉み潰そうとするその感情はオレが知るべき嫉妬の感情そのものだ!!」
ヒロムが強く言うと白銀のブレスレットは水色の稲妻を解き放ち、解き放たれた水色の稲妻がセツナの全身を包み込んでいく。
水色の稲妻に包まれたセツナは蒼い炎を刀に纏わせながら稲妻を取り込むと舞踊を披露するかのように舞い、その中でセツナは装いを変えていく。
袴のような衣類から袖が無くなり、袖が無くなるとセツナの両手には籠手が装備され、水色の布を首に巻くと同時に蒼い炎と水色の稲妻を一つにして羽織を生み出してそれを羽織ると刀を構える。
「天醒、「天斬」セツナ!!
マスターの力になるべくこの全てを解放します!!」
「修羅」の名を冠していたセツナは真価を発揮せし変化である天醒に達して「天斬」の名へ改めると全身に水色の稲妻を纏い、セツナが水色の稲妻を纏うとヒロムは白銀のブレスレットから同じように水色の稲妻を解き放つ。
「オルタナティブ・ソウル!!」
ヒロムが叫ぶと解き放たれた水色の稲妻は彼の体を包み込み、稲妻に包まれたヒロムは水色の装束に装いを変えると羽織を纏い、籠手を手に装着すると二本の刀を装備して構えた。
新たな力、天醒して「天斬」の名を得たセツナの霊装の力を纏ったヒロムは水色の稲妻を刀に纏わせると走り出し、ヒロムが走り出すとセツナも彼に続くように走り出す。
走り出したヒロムとセツナは水色の稲妻を刀に纏わせる中で蒼い炎を身に纏い、蒼い炎を纏った二人はそのままトウマに斬りかかる。
二人の接近に対してトウマは何かしようとすることも無くただ立っており、何もしていないはずのトウマに刀が命中する瞬間に刀は何かに止められてしまう。
普通ならそこで終わる、だが今のヒロムは違う。
刀に纏わせた水色の稲妻を強くさせると刀を強く握り、ヒロムが刀を強く握ると止められたはずの刀は振り払われてトウマの身を抉るように斬撃を食らわせる。
ヒロムの斬撃がトウマに命中するとセツナの止められていた刀も動きを取り戻して斬撃を放ち、放たれたセツナの斬撃が追撃となってトウマを怯ませる。
トウマが怯むとすかさずヒロムは水色の稲妻を纏わせた刀で連撃を放ち、放たれた連撃はトウマの体に命中にすると彼の体の肉を削ぐように負傷させていく。
が、刀の連撃を受けて負傷したトウマの体は闇に包まれると何事も無かったかのように元に戻ってしまい、ヒロムが連撃を放ち終わったタイミングでトウマは瞳を光らせると強い衝撃を撃ち放ってヒロムに直撃させて吹き飛ばそうとした。
強い衝撃を受けたヒロムはそれによって倒れそうになるも刀を支えの代わりにして倒れるのを防ぎ、倒れるのを免れたヒロムは水色の稲妻を纏いながら刀を構え直すと一閃を放ってトウマに向けて斬撃を飛ばす。
飛ばされた斬撃はトウマに向かっていくが、トウマは翼を大きく広げながら体に浮かんでいる化け物の瞳のような模様を光らせて斬撃を跡形もなく消滅させる。
「なるほど、見た目通りで中身も化け物ってわけか」
「マスター、どうしますか?」
「オレたちの攻撃を受けて負傷するなら話は早い。
アイツに攻撃を続けて闇と同時にアイツの魔力と力を尽きさせてあの皮を剥がす」
「不可、能だ……」
セツナにどうするかを問われたヒロムはトウマを倒すべく今できることをやろうと彼女に伝えて構えようとするが、そんなヒロムの言葉に被せるように変貌してから口を開かなかったトウマがゆっくりと口を開く。
「オマエ、じゃオレは倒せな、イ。
オレは、ようやくオマエを超える力を、手に入れタ」
「その人間離れした姿がか?
オマエの求めた力はそんな醜いものなのか?」
「姿など、関係ナい。
オレは……オレは……ボクハ……オレは……強さを得た」
「……ッ!!」
トウマの口調が一瞬変わった。
これまで「オレ」と自分のことを言っていたトウマが一瞬だが「ボク」と言った。
それについてはヒロムは「天獄」の戦力増強のために別行動していたガイたちから聞かされていて知っており、それを知ったが故にヒロムはトウマをただ倒すのではなく闇から救うことを選んだのだ。
そして今、化け物のように変貌したトウマの心は不安定なのか口調がかわり、それを受けたヒロムは深呼吸するとトウマを強く睨みながら走り出した。
「オマエのその醜い化けの皮、その闇とともに剥がしてやる!!」
トウマを救おうと走り出したヒロム。
だがそのヒロムの行く手を阻むように無数之魔力の弾丸が襲いかかり、迫り来る魔力の弾丸に気づいたヒロムは刀で魔力の弾丸を切り払うと弾丸が飛んできた方に視線を向ける。
視線の先には男が一人立っていた。
その男を、ヒロムはよく知っていた。
「オマエは……四条貴虎!!」
「オマエの思いどおりにはさせないぞ、姫神ヒロム」
立っていた男、軍服のようなものを身に纏う四条貴虎は首を鳴らすとヒロムに向けて次々に魔力の弾丸を放ち、ヒロムは魔力の弾丸を切り払いながらトウマに接近する隙を探ろうとする。
が、そんなヒロムの考えを読んだかのように貴虎はヒロムにあることを告げる。
「八神トウマを助けたいと考えるなら諦めろ。
今のその男は精神が不安定になればなるほど三体の機械天使に施した細工が機能して闇に墜ちる」
「細工だと?」
「仮面の男に頼まれてな。
八神トウマの精神が不安定になった場合は三体の機械天使が体内に入り込む形で強制的に「ネガ・ハザード」に変貌させて外部から全ての支配を行うシステムを組み込んだのさ」
「仮面の男……だと!?
オマエ、ゼクスってヤツを知ってるのか!?」
「当然だ。
仮面の男とオレは利害の一致故に手を組んでいる。
そしてその見返りとして八神トウマを最強の能力者に進化させることを約束した。
その約束の形を体現したのがこの姿……ルシファーとなった姿だ」
ふざけんな、とトウマに好き勝手仕組んだことを話す貴虎に向けてヒロムは殺意を込めて言うと彼を睨みながら刀を強く握る。
「オマエらクズは人の命を何だと思ってんだよ!!
無実の人間の命を弄び、そして今は精神が安定しない人間を人形のように操るってのか!!」
「全てはオマエが招いた結果だ。
そしてオマエが招いた結果は仮面の男の思い描いたシナリオ通りに事が進んでいる。
オレにとっても好都合、このまま進めば仮面の男もオレもこの日本を変えるだけの力を得られる」
「それは聞き捨てならねぇなぁ」
怒りを隠せぬヒロムに余裕があるのか語っていく貴虎の言葉に対してどこからか誰かが異を唱える。
誰が言ったのか気になったヒロムが振り向くとその先には……右の頬に黒い痣を持つ茶髪の少年がいた。
二本の小太刀を構えた少年はヒロムのもとへやって来るように歩を進め、彼の姿を見たヒロムは意外そうな反応を見せる。
「真助、オマエ何でここに……」
「そこは気にするなよ、ヒロム。
こっちとしては……その男に用があるんだよ」
意外そうな反応を見せるヒロムをよそに少年は……鬼月真助は首を鳴らすと小太刀を貴虎の方に向けながら貴虎に対して言葉を発する。
「よぉ、四条貴虎。
こうして間近で顔を合わせるのは初めてだよな?
でも……オレはこの時をどこかで心待ちにしていた」