六一一話 揺らぐソウル
緋色の装束に身を包んだヒロムはトウマに向けて剣を構えると彼に向けて言った。
「トウマ、オマエは己の罪を知ってるか?
オレは無知だった。無知ゆえに罪を犯していたし、それを気付かされて理解しようとした」
「罪?無知?
オマエの罪はオマエの存在そのものだ。
それを今になって都合よく言い換えるなど片腹痛い!!」
「そうか……オマエのその解釈の仕方も都合がいいけどな。
まぁいい……オマエを追い詰めて闇を根こそぎ引き出してゼクスを誘き出さなきゃならない。
オマエに拒否権はないから付き合ったもらうぞ」
トウマの言葉にどこか呆れ気味に言うとヒロムは地面を強く蹴って走り出し、ヒロムが走り出すと機械天使・オーディンはヒロムを迎え撃とうと両手に闇を纏わせながら攻撃を……放とうとしたが、オーディンが攻撃を放とうとするとヒロムは何故か蜃気楼のように姿を消してしまう。
ヒロムが消えたことによりオーディンの一撃は空振りに終わり、オーディンが攻撃を空振りさせるとフレイ、ラミア、マリアは全身に稲妻を纏いながらオーディンに一撃を叩き込んで敵を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたオーディンは国技館の壁に激突して壁を深く凹ませ、オーディンが吹き飛ばされたのを目の当たりにするとトウマは信じられないと言わんばかりに困惑していた。
「バカな……オーディンはアイツの精霊の力を上回っていたんじゃないのか!?」
「それはオマエの認識上の話だ」
トウマが困惑していると消えたはずのヒロムが気配を感じさせることなくトウマの背後に現れて剣で一閃を放とうとするが、ヒロムが攻撃を放とうとすると機械天使・ロキとラグナレクがトウマを守るかのようにヒロムに迫っていく。
迫り来るロキとラグナレク、二体の機械天使が迫り来る中でヒロムは剣を天にかかげると剣に緋色の稲妻を纏わせ、剣が稲妻を纏うとヒロムの影が突然浮き上がり、浮き上がった影は実体を得るとロキとラグナレクに拳撃を放って二体を殴り倒す。
「影が肉体を!?」
「ファントム・ソウル、この力は強欲を司る。
可能性を導くとともにその欲深さはあらゆるものを奪おうとする。
それ故にオレの影を奪ってオレの力となっている」
「……ふざけたこと言うな!!」
「ふざけてないさ。
現にオレはオマエの理解の外に出た」
ヒロムの力を信じぬトウマは彼を倒そうと全身に魔力を纏うと闇を放とうとするが、ヒロムは剣を横薙ぎに振ると同時に実体を得た影と同じようなものを数体出現させてトウマに襲いかからせる。
トウマに襲いかかる数体の実体を得た影のようなものは敵を何度も殴ると一体化していき、全ての影のようなものが一つになるとそれはヒロムと姿形が似た黒い何かへと変化し、変化したそれは回転するなりトウマの顔を蹴る。
「!?」
「紹介してなかったな。
そいつはグリード、オレの欲望が形を得たものだ」
「欲望が形を……?」
『こういうことだ』
ヒロムの言葉に理解が追いつかないトウマに向けて影のようなもの・グリードは言葉を発するとトウマの腹を蹴り、腹を蹴られて怯むと続けてトウマの頭を掴むとグリードはトウマを地面に叩きつける。
「がっ……!!」
『ようやくオマエを倒せるんだ。
あっちのオレがオレを解き放ったのなら好き放題させてもらうぜ!!』
グリードは地面に叩きつけたトウマの顔面を蹴るとそのままヒロムの方へと蹴り飛ばし、蹴り飛ばされたトウマが向かってくるとヒロムは剣を構えるなり数人に分身して斬撃を飛ばしてトウマに直撃させる。
「!!」
「そしてこの「ファントム・ソウル」はオレの望んだ形を体現できる」
やれ、とヒロムが言うと現れた数人の彼の分身が自我を持つようにトウマに襲いかかり、トウマが分身をどうにかしようと光を放とうとするとグリードが接近して彼の顔を蹴る。
「ぐっ……!!
邪魔を……」
『ノリが悪いな、雑魚!!
弟の分際なら黙ってオレの相手してろよ!!』
グリードに顔を蹴られたことによりトウマは光を放つことを不発に終わらされ、そしてグリードはトウマを殴る。
グリードに殴られたトウマが怯むと数人の分身が次々に剣を振ってトウマの翼を破壊し、翼を破壊されたトウマが怯んでいるとヒロムは緋色の稲妻を纏いながら残像を残すほどの速度で突進してトウマを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたトウマは勢いよく地面に数度叩きつけられるとそのまま国技館の壁に激突し、トウマが壁に激突するとヒロムはマントを翻して分身とグリードを光に変えて自身の中へと消してしまう。
自分一人となるとヒロムはマントを体から切り離して剣に巻き付け、マントは剣に巻き付けられると刀身を補強するかのように一体化し、マントが一体化した刀身は鋭利に尖ると刺突に優れた槍へと変化して緋色の稲妻を帯びていく。
緋色の稲妻を帯びた槍を地面と水平に構えるとヒロムは壁に激突して倒れようとするトウマに狙いを定め、狙いを定めると同時に稲妻を強くさせて力を解き放つ。
「グリーディー・イレイザー!!」
ヒロムが叫ぶと解き放たれた力は稲妻とともにビームとなってトウマに襲いかかり、ビームとなった一撃を避けられないトウマはそれを直撃で受けるとその力の余波によって壁を破壊する形で外へと飛ばされてしまう。
トウマが飛ばされるとヒロムは槍を下ろして剣とマントに戻し、マントを装備し直すと何故か「ファントム・ソウル」の力を解除してしまう。
敵を吹き飛ばして終わり……かと思われたが、ヒロムは琥珀色の稲妻を纏うと外へと飛ばされてしまったトウマを追うように走り出し、走り出すとヒロムは琥珀色の稲妻を解き放つ。
「慈悲の心、痛みを与えると共に安らぎを与え世界を導け!!
拳が砕くは悪行、そしてその拳が潰すは我が敵!!
王の拳に力を宿して我を導け!!」
放出された琥珀色の稲妻は虎のようになるとヒロムに食らいつき、虎のようになった琥珀色の稲妻はヒロムの全身を変化させていく。
両腕の肌を露出させるような琥珀色の装束を纏わせ、腰には翼を思わせるようなデザインの腰布を巻き、左肩には虎の頭のような造形の肩当、両手には宝玉が埋め込まれたガントレットを装備していく。
姿を変えたヒロムは拳を強く握り、ヒロムが拳を強く握ると彼の瞳は琥珀色に色を変えながら光り、ヒロムは地面を強く蹴ると全身に琥珀色の稲妻を纏いながら加速する。
ヒロムが加速すると会議の会場の外へと飛ばされたはずのトウマが闇を強く纏いながら現れ、トウマが現れるとヒロムは拳に稲妻を収束して拳撃を放つ。
ヒロムが拳撃を放つとトウマも負けじと闇を拳に収束して一撃を放ち、二人の拳はぶつかると稲妻と闇が激しく衝突して強い衝撃を周囲に放ち、あまりにも強い力の衝突にヒロムもトウマも互いに引き離されるように押し飛ばされ、二人は倒れることなく立て直すと相手を睨みながら構える。
ヒロムが構える中、その彼の姿を見たトウマは激しい憎悪の感情を顔に出した上で彼に言った。
「その力、オマエが最初からその力を使えていればオマエは何も苦労しなかった。
兄という立場でありながら何も出来ないオマエのせいでオレはオマエの代わりに何もかもやってきた。
そのオマエが今、恩を仇で返すかのようにオレに喧嘩を売っていることが何よりも気に食わない」
「恩を仇で返す?
オレはオレの代わりをオマエに頼んだ覚えはないし、オマエに喧嘩を売った覚えもない。
先にオマエが宣戦布告してきた、だからオレはオマエを倒そうとしてるだけだ」
「宣戦布告……?
訳の分からないことをほざくなよ「無能」!!
後から取ってつけたかのようにオレに押し付けて!!
そんなにオレが憎いか?そんなにオレの存在が気に入らないか!!」
オマエだろ、とトウマの言葉に対してヒロムは一言告げると続けて彼が言ったことに対して反論した。
「後から取ってつけたかのようにオレを都合のいい言い訳に使ってるのはオマエだ。
オレが憎いならオレだけを狙えばいいのにオレの仲間や戦いとは無縁な女まで狙い、挙句の果てには何の罪もない人間の命を弄んで人体実験にまで手を出しておいてオレを言い訳に使うのか?
自分の行いに責任を持てないようなヤツが偉そうに語ってんじゃねぇぞ!!」
「黙れ!!」
「今こうして責任を他人に擦り付けようとしてるのならオマエは今までも他人のせいにして逃げてきたんだろ。
他人のせいにして逃げるか、他人の言葉を鵜呑みにして行動して何かあればそいつのせいにして逃げてきたんだろ。
そんなヤツが偉そうに当主だの名乗ってんじゃねぇよ!!」
「黙れ!!」
「都合が悪くなれば黙らせるのか?
そうやって抵抗する相手を倒して、あわよくば人体実験に利用して消して自分の思い通りにいくように細工してきたのか?」
「黙れ、黙れ……」
「黙ってほしいなら黙ってやるよ。
けど、これには答えてもらうぞ……オマエは誰だ?」
「黙れって言ってんだろぉぉぉぉぉぉ!!」
オマエは誰だ、ヒロムがそう問うとトウマは彼のこれまでの言葉と問いを指定するかのように叫び、トウマが強く叫ぶとそれに呼応するように彼の体から闇が勢いよく溢れ出ていく。
溢れ出た闇を見るとヒロムはあえて「ランペイジ・ソウル」の力を解除して白銀の稲妻を纏い、フレイたち精霊も力を身に纏うと構える。
彼らが構える中、闇を溢れ出させるトウマの両の瞳は怪しく光り、トウマの瞳が怪しく光ると溢れ出た闇は意志を持つかのように機械天使・オーディン、ロキ、ラグナレクを飲み込んでいく。
三体の機械天使を飲み込んだ闇は機械天使の全てを闇に変えるとトウマの中へ戻っていき、闇が体内に戻ったトウマの体は繭のようなものに包まれていく。
「……?」
何が起きようとしているか分からないヒロムは警戒心を強め、ヒロムが警戒する中で繭のようなものが破られて中からトウマが姿を現す。
いや、もはやトウマと呼べるかは怪しい。その外観は人からは程遠い何かに変貌していた。
肌は血の気が無いのではないかと思うほどに薄気味悪いほどに白くなり、両肘から指先にかけては闇に汚染されたかのような濁った色に変色し、変色した両手には人とは思えぬほど鋭い爪があった。
変貌した影響からか上裸になっており、その胴体には化け物の両の目を思わせるような模様が浮かび上がり、背中からは禍々しい翼が四枚生えていた。
両足も闇に包まれて人とは程遠いものとなり、トウマの黒かった髪は長く伸びると額に角が三本現れ、そして尻尾が二本現れる。
化け物、そう呼ぶに相応しい姿になったトウマを前にしてヒロムは舌打ちをすると彼に向けて言った。
「バカヤロウだよ、オマエは。
目的のために自分まで犠牲にするなんてよ……ふざけんのも大概にしやがれ!!」