六一話 全力
ヒロムたちがバッツと戦闘を繰り広げる一方……
その戦闘音はパーティー会場に響いていた。
賑やかなパーティーはその戦闘音により一転、何が起きているのかわからない参加者たちは不安を募らせていた。
そしてそれはユリナたちも同じだった。
「な、何かな……?」
「花火とかじゃない?」
怖がるユリナを励ますようにリサは言うが、リサも怯えているのかエリカの手を握っていた。
そしてチカもユリナを励まそうと寄り添う一方で体を小刻みに震わせていた。
が、それは彼女たちだけではない。
その場にいる者たちのほとんどがそうだ。
だが、この中にはあの「月翔団」に属する者もいる。
何かあれば必ず動くことは確かだ。
そして、ここには「月翔団」だけではない。
「大丈夫!!
オレがいるって」
ユリナたちの恐怖を和らげようとイクトは元気に言うが、今のユリナたちにはまともに聞いてもらえない。
話を聞いてくれてはいるが、そのイクトの言葉だけでは不安は消えないのだろう。
「で、でも……」
「多分この騒ぎを聞いてガイたちも動いてるだろうし大丈……」
「おい、ここにいたのか」
するとハルカを連れたシオンがこちらにやってくる。
ハルカもユリナたち同様に怯えているらしく、シオンの手を強く握っている。
女嫌いのシオンもさすがにハルカの気持ちを察しているのか、それを振り払おうとはしない。
その光景を見たイクトはいつものようにからかおうと考えたが、そういう状況でもないと思うとイクトはとりあえず茶化すようにシオンに言った。
「……ご夫婦揃って登場か?」
「あ?
潰すぞ?」
「冗談だって。
で、どうする?」
イクトはシオンがどう動くかを確かめるように問うが、シオンはため息をつくとそれについて答えるように語り始めた。
「……アイツからの指示はコイツらの護衛だ。
それを遂行するだけだ」
「カッコイイねぇ」
「オマエはどうする?」
シオンに質問されたイクトは少し考えると、なぜか窓の方を見ながら答えた。
「オレは……やるべきことをやるだけさ」
***
バッツの鎧を破壊する方法、それについてソラはヒロムとガイに説明をしていた。
「……て感じだ」
「なるほど、な……」
ソラの説明に納得した反応を見せるガイだが、バッツの姿を見ると一つの不安要素を感じ、それについて確認した。
「その方法だと壊せるかもしれないが、バッツの動きを封じないと難しくないか?」
「まあ、ガイの言い分も確かだ。
あのバッツにこれを決めようとしても警戒される可能性がある」
だから、とソラはどうするかをヒロムを見ながら説明した。
「ソウル・ハックを発動しているヒロムのスピードでアイツの動きを止めてほしい」
「……出来ても足止めだけだな。
ソウル・ハックでダメージは期待するな」
「いいや、期待してるからな?
オレの作戦上じゃオマエのその力がキーなんだからな」
「……そうかよ」
ヒロムはため息をつくと首を鳴らし、そして指の関節をポキポキ鳴らすとバッツを睨みながら構え、それに続くようにフレイたち精霊も構えた。
「……とにかく一度しかチャンスはない。
だから油断も隙も作るな、アイツに与えろ!!」
任せろ、とソラの言葉に強く返事をしたヒロムは音もなく消え、そしてフレイたちはガイとともに走り出した。
「……何を話してたか知らないが、無駄なことを」
どうかな、とヒロムはバッツの背後に現れるなり殴りかかり、バッツを少し仰け反らせ、さらに蹴りを放つことでバッツを無謀な状態にしようとした。
が、その蹴りをバッツは防ぐとヒロムに攻撃を放つ。
「一度見たからその速さには慣れてんだよ!!」
「どうかな!!」
バッツの攻撃がヒロムに命中しそうになるその瞬間、バッツの体に衝撃が走るとともに大きく吹き飛んでしまう。
「!?」
「あの時に比べりゃ速度も増してるってことだ!!」
さらにヒロムが姿を消すと、バッツが何かに思いっきり殴られたかのように飛ばされていく。
「ぐおお!!」
「まだ終わらせねぇ!!」
ヒロムは現れるなりまた消え、その瞬間、バッツの周囲を縦横無尽に走り出す。
バッツは立ち上がるなりヒロムを捉えようで目で追うが、それを予期していたかのようにフレイたちは一斉に襲いかかる。
「なるほど……主自ら囮になるとはな!!」
「バッツ、覚悟しろ!!」
フレイは大剣で斬りかかるもバッツは魔剣で防ぎ、そしてフレイを蹴り飛ばそうとしたが、テミスとアルカがバッツの両サイドから勢いよく炎と雷のの弾丸を連射して邪魔をする。
くそ、とバッツは弾丸を避けようと後ろへと飛ぶが、その先には魔力を拳に纏わせたマリアがいた。
「な……」
「隙だらけよ!!」
「オマエがな!!」
マリアが攻撃を放とうとするとバッツは魔剣でそれよりも先にマリアを斬ろうとする。
が、それはできなかった。
バッツが魔剣を振り上げ、勢いよく振り下ろそうとするとアイリスが槍でそれを弾き返し、さらに氷がバッツの体の自由を奪っていく。
それが原因で思うように動けなくなり、バッツは気がつけばその身にマリアの一撃を受けていた。
マリアの一撃、それはバッツに命中すると魔力を炸裂させ、バッツを大きく吹き飛ばす。
そしてその先にはフレイがいる。
そのフレイの大剣は魔力ではなく、なぜか雷と炎を纏っていた。
「まさか……!!」
「はああああ!!」
フレイはマリアが殴り飛ばし、こちらへ向かってくるバッツにめがけて大剣を勢いよく振り下ろし、炎と雷を纏った斬撃を放ち、それをバッツにくらわせる。
「が……!!」
斬撃を受けたバッツは無傷というわけにはいかず、その鎧にダメージが現れていた。
小さいとはいえ、鎧には亀裂が入っている。
が、それでもバッツからは未だ戦意は消えておらず、それどころか余裕すら感じられる。
「なるほど……それがオマエの能力だったなぁ、フレイ」
「知ってるのでしょ?
私たちのことくらい」
「つれないねぇ……。
知ってるけど何だ?
オマエの能力が魔力を増幅させて放出し、精霊間であればその力を吸収して放つことが出来るってことはな」
「ご名答……ですね」
「能力の名は「天導」。
大それた名前だよなぁ」
「何呑気に語ってんだよ?」
バッツがフレイの能力について語っていると、音もなくヒロムとガイが現れ、二人は同時に攻撃を放つ。
が、バッツはそれを避けると反撃しようとするが、ヒロムの背後より突然姿を見せたエリスが二本の刀でバッツに攻撃することでそれを防ぎ、さらにガイの影からシズカが姿を表すと、彼女はバッツに向けて苦無を投げてバッツに一瞬だが隙を作る。
が、ヒロムとガイにとっては十分だった。
「オラァ!!」
白銀の稲妻を右手に集中させたヒロムはバッツを勢いよく殴り、さらにそこから何度も連続で殴る。
さすがのバッツもエリスとシズカによる妨害によりヒロムの攻撃に反応出来ずにすべて直撃してしまう。
「コイツ……さらに強く……」
「どうしたぁ!!
この程度かぁ!!」
「舐めるなよ……ガキィ!!」
バッツは魔剣でヒロムを斬り、攻撃を阻止しようとしたが、ヒロムはバッツが振ろうとする剣の柄を蹴り、バッツの体勢を崩すことで阻止した。
思わぬ行動にバッツは驚き、同時にガイは嫌な思い出を思い出す。
「ヒロムに刀剣での攻撃で簡単に優位に立てるわけねぇよ。
オレの剣技を防ぐ男だからな!!」
ガイは「折神」と魔力の刀でバッツを斬る。
が、バッツの鎧にはダメージを与えられていない。
だがガイはそれでも攻撃をやめない。
「なんだぁ?
この程度の斬れ味か?」
「さあな、死にたいなら教えてやるよ……その命にな!!」
ガイは「折神」に蒼い魔力を纏わせると斬りかかるが、バッツは魔剣でそれを防ぎ、ガイの体を思いっきり殴った。
が、ガイにダメージはなく、それどころか殴ったバッツの腕が斬撃に襲われていた。
「何!?」
「修羅蒼天はこの身に「修羅」の力を宿らせる。
今のオレに触れれば斬れるし、オレの攻撃を受ければ斬れるぞ」
「そうかよ……」
「おい、忘れんなよ!!」
バッツを背後からヒロムが殴り、さらにガイがバッツに斬撃を放つ。
さらにアルカとテミスが追撃で弾丸を放ち、それはすべてバッツに命中する。
「この……」
「ガイ、やるぞ!!」
「ああ、任せた!!」
するとガイは後ろへと飛び、それと同時にヒロムとフレイ、マリアがバッツに襲いかかる。
何をするのかと思えば。
先程と変わらぬ攻撃にバッツは呆れながらも回避し、三人を倒すべく攻撃を放とうとする。
が、それを察知したかのようにアルカとテミスが弾丸を連射し、妨害しようとするがバッツは煙となって消え、標的を失った弾丸はヒロムたちに襲いかかる。
まずい、誰もがそう思ったがヒロムとフレイは避けようとしない。
それどころか二人を守るように立ったマリアはガントレットを纏った拳で弾丸をすべて殴って潰す。
哀れだな、と煙から元に戻ったバッツはため息混じりに話した。
「無駄に魔力と体力を浪費しただけ……
無意味にも程がある」
「それは普通ならな」
「?」
「……チャージアップ!!」
マリアが拳に力を入れるとガントレットが魔力を纏うと同時に魔力は強大になっていき、炎のように姿を変える。
「何を……」
「私の力は「強化」、攻撃をするほど力を増し、そしてそれを解き放つことで通常の倍以上の力を発揮できる!!」
マリアはバッツとの距離を詰めると殴りかかり、バッツもそれを防ごうと殴りかかる。
それにより拳と拳がぶつかるが、マリアの拳がバッツの拳を押し返してしまう。
マリアは間髪入れずにもう一度バッツを殴り、それを受けたバッツは吹き飛ばす。
「バカな……!!」
バッツは何度も地面を転がるように吹き飛び、その先で何とか立ち上がるが、アイリスがそのバッツを槍で攻撃する。
「コイツら……鬱陶しいな!!」
バッツは魔剣でアイリスの槍を防ぐが、その瞬間、バッツの魔剣とそれを持つ腕が氷に覆われてしまう。
「くお……!!」
「私の能力、知ってますよね?
熱吸収と冷気の使役……「零天」のこと」
「まさか魔剣ごと……」
「ええ、アナタから奪った熱をエネルギーに変えて放つ!!」
アイリスの槍に冷気が纏われ、さらに魔力が纏われるとそれは巨大な氷の刃となり、アイリスはそれを用いてバッツを斬る。
「アイスクライ・コキュートス!!」
アイリスの放つ斬撃はバッツを襲い、それを身に受けたバッツは音もなく氷に侵蝕されていく。
「ああああ!!」
「眠りなさい、そのま……」
「……なんてな」
すると氷が砕け散り、中からバッツが現れる。
まさかのことでアイリスは驚き、バッツはそんなアイリスに蹴りを放ち彼女を蹴り飛ばそうと試みた。
だがそれは彼女の主により阻止され、そしてバッツは自身が見下すその男に追い込まれることになる。
「させるか!!」
ヒロムは白銀の稲妻を纏わせた足でバッツを蹴り、さらに拳でバッツを殴る。
「貴様……!!」
「……ここで終わらせる、バッツ!!」
「下がれ、ヒロム!!」
ソラの叫び声とともにヒロムが消えると同時にフレイたち精霊も消え、バッツの背後にソラが、前にはガイが現れる。
両者ともにその身に纏う力を大きくし、ソラは両腕に炎を、ガイは刀に蒼き刃を纏わせるとバッツを狙いに定める。
いくぞ、と二人はバッツに向けて走り出すと同時に攻撃を放つ。
「劫炎滅尽撃!!」
「蒼天斬翔!!」
ソラの拳から身の丈は超えるほど大きな紅い炎が、ガイの刀から同じように身の丈を超える蒼い斬撃が放たれ、二つの攻撃がバッツを襲い、その力の衝突により戦塵が上がる、
ガイはバッツを警戒しつつ構え、ヒロムはガイの隣に姿を現す。
そしてソラもバッツに警戒しつつヒロムたちのもとへ駆け寄る。
「やったか……!!」
「姿が見えねぇからわからねぇよ。
けど、二人の一撃は確実に……」
効いてるぜ、と戦塵の中からバッツが現れる。
バッツの鎧はヒビ割れ、あと少しダメージを与えれば破壊できそうだった。
が、油断はできない……
「効いたぜぇ?
死ぬかと思ったぜ」
バッツが呑気に語る中、鎧に与えた傷が消え始めていた。
まずい、また再生される。
そう思ったガイとソラはバッツに向けてもう一度攻撃を放とうと構えた。
が、その場にいる誰もが予想していないことをバッツはやってみせた。
「……炎魔、修羅」
バッツの右手に紅い炎が、左手に蒼い魔力が現れる。
そう、それはソラの「炎魔」とガイの「修羅」そのものだ。
「な……!!」
「アイツ、オレらの……」
「まずは二人」
バッツが両手の力を解き放ち、ソラとガイにぶつけ、二人を屋敷の方へと吹き飛ばす。
吹き飛んだ二人は受け身を取ることが出来ず、そのまま建物の壁を突き破り、中へと飛んでいってしまう。
「ガイ、ソラ!!」
「美味かったぜぇ、魔剣のおかげでな」
「魔剣のおかげだと?」
「ああ、魔剣・バットナイツは魔力を喰らい、その力を得る。
だからオレはオマエたちの力を得た」
バッツは魔剣を手に取ると振り上げ、そしてその剣に魔力を纏わせるとさらに大きくし、ヒロムに向けて斬撃を放つ。
「じゃあな、「無能」」