六〇七話 哀れな闇
闇を強く纏い、そして全てが闇に染まったかのように何もかもが豹変したトウマは闇に染まった翼を広げると飛翔する。
トウマが飛翔する中フレイたち精霊はヒロムを守るべく構え、ヒロムも白銀の稲妻を身に纏うと戦闘態勢に入ろうとした。
そんな彼のもとへと五樹・F・ルルーナは歩み寄ると彼に謝罪した。
「……ごめんなさい。
アナタのことをひどく言ってしまったわ」
「何の話だ?」
「アナタの言う通り私たちはただ居場所を与えられて満足していた温室育ちの人間だった。
結局自分のことばかりで八神トウマの……いいえ、「八神」の非道に気づけなかった」
「そんなことを謝られても仕方ない。
どの道アイツはオレを殺そうとしてる、それはあの本性が暴かれなくても変わらない」
「でも私たちは……」
「そう思うなら手は出すな。
アンタらはトウマの野望をオレの幻術の応用で知ったから手助けして罪滅ぼししようと考えてるかもしれないが、オレからすればありがた迷惑な話だ」
「ずいぶんとナメられた言い方だな。
オマエ一人でどうにかなるのか?」
ルルーナに向けてヒロムが言うと話を聞いていた九岳マサキが会話に割って入るようにヒロムに言い、マサキの言葉を受けたヒロムはため息をつくとマサキやルルーナ、そして他の当主に伝えた。
「アンタらは一度目のオレの攻撃を受けた後トウマの力で治癒されてる。
つまり今アンタらの中には僅かでもトウマの力が流れてる危険性がある。
今のトウマが纏う闇がアンタらの中にある光の力とどう関係してるかは定かでない以上、アンタらの介入はオレとトウマのどっちが得になるかは分からないって話だ」
「オマエは八神トウマの力がウイルステロのように利用されるって言いたいのか?」
「可能性があるって話だ。
トウマの強さの秘密はオレに対する異常なまでの恨みと「八神」のためという無駄な責任感から来るあの憎悪の闇だ。
下手すりゃアンタらが受けたのは光の姿をした闇の可能性だってある」
ヒロムの話を聞いたマサキは反論しようとしても彼の意見があまりにも的を得ていることから言葉が出ず、ヒロムの話を聞いていたルルーナたちも何も言えなかった。
そんな中、天に飛翔したトウマは空から見下すようにヒロムに視線を向けながら彼の推論について語っていく。
「さすがだな、「無能」。
この状況下でオマエだけがそこの当主以上に冷静に考えて対処できるようだな」
「別に普通だ。
今のオマエがやりそうなことを考えればこの程度の話は簡単に出来る」
「……つくづく気に入らないな、オマエは。
何も出来ない「無能」のまま平穏な生活を過ごせばいいのにオレを倒そうと強さを求めて一度は憎悪の道を走った。
それなのに何故今は無縁のような話をする?」
「……抜け出せたからさ。
オレの復讐心が進ませた道に大切な人や仲間がオレの手を掴んで光の方へ導いてくれた。
だから今のオレはこうして光の方へ進めている、その証としてオレはこの力を扱えてる」
「くだらない、オマエら弱者の団結なんてただの寄せ集めでしかない」
「オマエにも手を差し伸べる相手がいたはずだ。
オマエがどんな思いでそれを受け入れたかは知らないが、婚約者がいるはずだ。
その女がオマエのそばにいるなら……」
黙れ、とヒロムの言葉をかき消すようにトウマは闇の翼を広げると強い衝撃を生み出し、生み出された衝撃は十家会議の会場となっている国技館の壁に亀裂を走らせていく。
壁に亀裂が入るとマサキたちは慌てた様子を見せるが、ヒロムは落ち着いた様子で彼らに伝えた。
「客席のメディアの連中を避難させろ。
避難させたらアンタらは街の人間をここから離れさせろ」
「お主はどうするつもりだ?」
「安心しろ、侍野郎。
トウマの狙いはオレ、あわよくばここで倒して素早い鎮圧を計るつもりだ」
「一人でやるのか!?
オレたちだって……」
「うるせぇぞ爆発野郎。
さっき話したことをもう忘れてんのか?」
「あぁ!?
つうかオマエ、人の名前を……」
どうでもいいですよ、とシンゴの言葉を最後まで聞かずにフレイは大剣を構えながら言い、そして彼女はシンゴたちに自分たちの存在を伝えた。
「マスターには私たちがついています。
街の避難などは国の情勢に詳しいアナタたちが適任、この場の戦闘も今は私たちとマスターが適任なんです」
「精霊、オマエ……」
「分かったら行ってください。
今やるべきことをやってください」
「……姫神ヒロム、オマエのことを許したわけじゃねぇけどアイツを倒してくれ」
「そのつもりだ」
ヒロムに後を託すようにシンゴは言い、彼は他の当主とともに客席で気絶しているメディア関係者を避難させるべく向かっていく。
彼らがこの場から離れるとヒロムはここまで静観していた一条カズキと十神アルトに声をかけた。
「アンタらはどうする?
アイツの力を受けてないならここに残っても問題ないわけだが……」
「勘違いするなよ、姫神ヒロム。
オマエがヤツを倒したいかは勝手だが、こちらも「十家」としての責務がある。
オレたちの中から不穏分子が出たのなら責任を持って対処する、そのためにオレはここに残る」
「一条カズキの言う通りだ。
少なくともオマエが暴いた「八神」の野望はここで止めなければならない。
その行動を民間人一人に押し付けるわけにはいかない」
「そうか。
なら好きにしろ」
カズキとアルトの話を聞いたヒロムは二人の意見を聞き入れ、そしてヒロムは七瀬アリサにある事を頼んだ。
「七瀬アリサ、頼みがある。
ユリナたちを……万が一の時はアイツらを頼む」
「万が一、というのは?
アナタに何かあると言うのですか?」
「いや、オレは意地でも帰る。
だけどアイツが卑劣な手を使ってこない保証も無いからな。
だから万が一アイツが卑怯な手でオレじゃなくてユリナたちを狙うようなことがあればその時は頼みたい」
「……分かりました。
早急に彼女たちの安全を確保します。
ですが……アナタが無事に帰ってきてくださらないと意味がありませんので」
「分かってる。
心配しなくて大丈夫だ」
ヒロムの言葉を聞くとアリサは彼の頼みを今すぐに実行すべく移動し、アリサが移動するとヒロムはトウマを倒すべく構えようとした。
そんなヒロムのもとへ一条カズキの家臣でもある鬼桜葉王が音も立てずに現れ、彼に話しかける。
「よォ、英雄のような気分は味わえてるかァ?」
「英雄?
覇王として暴れただけだ」
「そのおかげで世間に対して「十家」の抱える闇を暴くことが出来たァ。
こっちの計画通りに進んでるぜェ」
「……これでか?
当初の話と違う気がするけどな」
「まァ、多少はズレてる部分はあるけど許容範囲だァ。
それよりィ、覚悟は決めてるかァ?」
何かを確かめるように問う葉王、その葉王の問いに対してヒロムはまずため息をつくと真剣な表情で葉王に伝えた。
「覚悟ならとうに出来てる。
やると決めたからには必ずやり遂げる」
「それなら安心だなァ。
オマエは弟を闇から救うためェ、オレたちは「十家」の在り方を取り戻すためェ……もう一度共闘といくかァ」
「……だな。
前回の時みたいな不甲斐ない姿は見せねぇから安心しろ」
「安心しろォ?
せめてオレより強くなってから言えよなァ」
「なら……アイツをオマエより先に倒して証明してやるよ!!」
ヒロムは全身に白銀の稲妻を強く纏うと瞳を白銀に光らせ、ヒロムに対抗するように葉王は全身に魔力を強く纏う。
稲妻と魔力、それぞれか力を身に纏うと凄まじい気迫が放たれ、放たれる気迫を前にしてトウマは闇の翼を広げながら叫ぶ。
「オレの邪魔をするなら殺してやる!!」
トウマが叫ぶと闇の翼から無数の刃が放たれる。
放たれた刃は闇を纏いながらヒロムと葉王に迫っていくが、二人を守るかのようにフレイたちは稲妻を纏わせた攻撃を放って闇を纏う刃を破壊していく。
「「マスター!!」」
「ああ!!
オレのこの身に宿す魂を燃やしてアイツの心を呼び覚まさせてやる!!」
フレイたちが叫ぶとヒロムはトウマを倒すべく走り出し、走り出したヒロムは地面を強く蹴ると滞空するトウマに迫ろうとした。
ヒロムが迫り来る中でトウマは首を鳴らすと闇の翼から剣を出現させ、出現させた剣に闇を纏わせるとトウマはヒロムを斬ろうとする。
だがヒロムも稲妻の一部を精霊・フレイの武器である大剣へと変化させて装備すると斬撃を放とうとし、それによってトウマの剣の一撃を防ぎ止める。
「抵抗するのか!!
オマエが死ねば全て終わるのに!!」
「はいそうですか、てすんなり受け入れてやるほどオレは大人じゃねぇんだよ。
オマエを倒して止める……今のオレが抵抗を止めるのはその時だけだ!!」
ヒロムは大剣に白銀の稲妻を纏わせながら力を込めるとトウマの剣を押し返し、トウマの剣を押し返したヒロムは大剣を構え直すともう一度振って斬撃を至近距離で放つ……が、ヒロムが斬撃を放つとトウマの翼の一部の闇が肥大化しながらヒロムの放った斬撃を飲み込むようにして消し去ってしまう。
「!?」
「そうか……ならばオマエの息の根を止めてそれすら叶わぬようにしてやる!!」
斬撃が異様な消され方をされた事に一瞬驚きを見せたヒロムに向けてトウマが左手をかざすと強い衝撃が放たれ、放たれた衝撃がヒロムを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたヒロムは難なく受身を取ると地上に着地して大剣を構え、大剣を構えながらヒロムはトウマの動きに注意していた。
どうやら身に纏う白銀の稲妻がトウマの放った衝撃を防いだらしく、ヒロムは一切のダメージを受けていない。
「さすがに簡単にはいかないな……」
「何してやがんだよォ、姫神ヒロムゥ。
下がってろォ」
威勢よく飛び出たヒロムに呆れながら葉王は魔力を纏いながらトウマを倒そうと走り出そうとしたが、そんな彼に向けて無数の氷柱が襲いかかろうとする。
「あァん?
因果律……『氷柱は鬼桜葉王に接近すると自壊してしまう』」
無数の氷柱の接近に対して葉王が一言呟き、彼が呟くと氷柱は葉王の呟いた言葉に従うかのように接近していく中で次々に壊れて消えていく。
氷柱が全ての破壊されると葉王は自身の行動を邪魔されたからか舌打ちをしながら氷柱が飛んできた方へ視線を向け、ヒロムも誰が邪魔したのか検討がつきながらも葉王同様に視線を向ける、
二人が視線を向けた先……そこには四条美雪が立っていた。
「四条美雪……!!」
「何のつもりだァ?」
「何のつもり……?
決まっています、私かやるべきことをやろうとしているだけです」