六〇六話 覇王、蹂躙
「死にながら後悔したいヤツから……かかってこい」
ヒロムを倒そうとする当主と能力者たちに向けて告げられる言葉。
その言葉を聞いた能力者たちは全員構え、トウマたち当主もヒロムを倒そうと構える。
そんな彼らの構える姿を前にしてもヒロムは動じることなく白銀の稲妻を纏ったまま立っており、そしてヒロムはトウマを睨むと彼に告げた。
「トウマ、今まで散々好き放題してたオマエがここで無様に負けたらどうなるか……想像しとけ。
オマエの自惚れで治癒した人間がどうなるか、その目に焼きつけとけ」
「オマエ一人でどうなる?
オーディンの相手をしている精霊も直に倒される。
そうなればオマエは孤立する、孤立してしまえばオマエなど……」
「なら試してみろよ」
トウマが話す中ヒロムは一瞬でトウマの眼前に移動し、そして稲妻を纏う手刀でトウマの首を切り落とそうとする。
「!!」
ヒロムの接近と手刀の攻撃に反応が遅れたトウマは慌てて光を纏わせた左手で止めようとするが、ヒロムの稲妻を纏った手刀を止めたトウマの左手は稲妻の影響か傷を負って血を流していく。
「バカな!?
この光は「天霊」の……」
「自惚れんなって言ってんだよ」
トウマが動揺しているとヒロムは左手をトウマにかざし、かざされたヒロムの手から稲妻が解き放たれてトウマを吹き飛ばす。
吹き飛ばされたトウマは倒れ、トウマが倒れると彼を助けるかのように次々に能力者がヒロムを倒そうと走り出す。
能力者たちが走り出すとヒロムは周囲に白銀の稲妻を放ち、放たれた稲妻は大剣や槍、斧や刀などの無数の武器に変化していく。
変化した武器はどれもヒロムの宿す精霊の使う武器と同じものだが、その事を知らない能力者たちは突然の武器の出現に足を止めてしまう。
「な、何だ……!?」
「あれは一体……」
「踊れ」
能力者たちが戸惑う中ヒロムが指を鳴らすと無数の武器は矢の如く撃ち放たれ、放たれた無数の武器は次々に能力者に襲いかかると倒していく。
迫り来る武器を破壊しようと能力者は攻撃を放つが、能力者の放った攻撃を前にしてヒロムが撃ち放った武器は意志を持つように攻撃を避けながら能力者を倒してしまう。
その光景、ヒロムが無数の武器を出現させて操る姿を目の当たりにした三日月宗近はヒロムに向けて叫ぶように問う。
「何故だ!!
何故お主が一条カズキと同じ力を使う!!
その力は一体何なんだ!!」
「あ?
うるせぇな」
宗近の言葉をヒロムはうるさいの一言で一蹴すると精霊・ラミアの武器である刀を装備し、装備した刀の刀身を複数の刃のように分割して魔力の糸で連結して蛇腹剣に変形させながら宗近の方へと走る。
「誰と同じ力とか誰と似た戦い方とか……今さら気にしてんじゃねぇよ」
ヒロムは宗近に向けて告げると蛇腹剣を振って刃を標的に向けて飛ばし、飛ばされた蛇腹剣の刀身は宗近の刀の刀身に巻きつく。
蛇腹剣の刀身が宗近の刀を縛るとヒロムは刀ごと宗近を自分の方へと引き寄せるように動かし、ヒロムの動きによって宗近はヒロムのもとへと引き寄せられてしまう。
「しまっ……」
「抜刀……斬撃乱舞・天殺」
ヒロムが呟くと精霊・セツナ、オウカ、エリスの武器である刀と精霊・クロナの小太刀、精霊・シズカの苦無が現れ、現れた三人の武器の刀は稲妻を纏うと宗近に向けて斬撃を放ち、小太刀と苦無は無数に増えながら弾丸のように撃ち放たれる。
放たれた斬撃は宗近の全身を抉るように命中、さらに小太刀と苦無は宗近の体を貫いていく。
「が……は……」
「まずは一人。
次は……」
オマエだ、とヒロムは宗近を倒すと二葉一葉の背後へ移動し、彼女が気づく前に紫色の稲妻を纏うと足下に闇を広げながら彼女の体を闇で拘束していく。
「こ、これは……!?」
「スターヴ・ディストピア」
突然の闇の拘束によって身動きが取れずに一葉は藻掻くが、ヒロムが呟くと闇は無数の蛇となって一葉に襲いかかり、蛇となった闇は一葉に食いつくと炸裂して彼女を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた一葉は倒れ、彼女が倒れると五樹・F・ルルーナがレイピアでヒロムを貫こうと攻撃す……るが、ヒロムはどこからともなく銃剣を出現させて装備すると斬撃を放ってルルーナのレイピアを破壊する。
「そんな……!?」
「シューティング」
武器が破壊されたルルーナの動きが止まるとヒロムは周囲に精霊・ティアーユ、アルカ、アウラの武器であるライフルや拳銃、ショットガンを出現させ、いくつもの銃器を出現させるとヒロムはルルーナに向けて銃剣を構えて引き金を引く。
ヒロムが銃剣の引き金を引くといくつもの炎の弾丸が放たれ、それを合図にするように展開された銃器から光弾や雷の弾丸、魔力の弾丸が雨の如く放たれる。
放たれた四種の弾丸がルルーナを襲い、さらにルルーナの後方にいる能力者たちをも巻き込んで倒していく。
「きゃぁぁぁあ!!」
四種の弾丸に襲われるルルーナは全身を負傷して倒れ、ルルーナは倒れると苦しそうに息をする。
ヒロムはそんなルルーナの頭に狙いを定めるように銃剣を構え、銃剣を構えたヒロムは引き金に指をかける。
「はぁ……はぁ……」
「さよならだ、女。
己の弱さを悔いて逝け」
「させねぇ!!」
ヒロムが引き金を引こうとすると大槌を持った九岳マサキが止めようと大槌でヒロムを殴ろうとするが、ヒロムは体を稲妻に変えて姿を消すとそれを避け、マサキの攻撃を避けたヒロムはマサキの背後に現れると精霊・フレイの武器である大剣を装備して斬撃を放つとマサキの背中を大きく抉り、斬撃を受けて怯むマサキにさらなる連撃を食らわせて吹き飛ばす。
斬撃を受けたマサキはひどい出血を負いながら倒れ、マサキが倒れると六道シンゴは全身に魔力を強く纏いながらヒロムを倒そうと走り出す。
「姫神ヒロムーー!!」
「……またオマエかよ。
鬱陶しい」
ヒロムが指を鳴らすとシンゴを包囲するように精霊・フレイ、ティアーユ、ラミア、ステラ、オウカ、テミスが現れ、現れた六人はシンゴに向けて武器を構えると次々に攻撃を放つ。
放たれた攻撃は全てシンゴに命中し、ヒロムはシンゴに向けて冷たく告げた。
「オマエが一番つまらない。
オレが手を下す必要も無い……失せろ」
ヒロムが告げるとフレイたちは稲妻を強く纏いながら渾身の一撃を放ち、放たれた六人の精霊の攻撃を受けたシンゴは全身負傷すると同時に血だらけになって倒れる。
宗近、一葉、ルルーナ、マサキ、シンゴ……そして能力者たち。
トウマの「天霊」の力による治癒で復活した彼らは一瞬でヒロムに倒されてしまった。
五人や能力者たちを倒したヒロムは首を鳴らすと次なる標的にトウマを選び、その事を直感で理解したトウマはロキとラグナレクに迎え撃たせようと考えた。
だが、トウマの考えることはヒロムも同じように考えていた。
「フレイ……ヤツらを壊せ」
ヒロムが指を鳴らすとフレイたち精霊が機械兵器たるロキとラグナレクのもとへ一瞬で移動し、そして瞬く間に二体の機械兵器を破壊してしまう。
「なっ……」
破壊されたロキとラグナレクが崩れ落ちる中、マリアが相手をしていたオーディンの頭部がトウマの背後に落下し、オーディンの相手をしていたマリアは破壊したであろうオーディンの残骸を引きずりながらやってくる。
「ありえない……!?
オレが……オレがオマエを殺すために用意した力を……オマエを殺すためのオレの力が手も足も出ないなんてありえない……!?」
三体の機械兵器を破壊されたトウマの精神は動揺と焦りによって不安定になり、不安定になったトウマの纏う背中の翼は徐々に力を弱めていた。
それに気づいているヒロムは天に手をかざすと次々に稲妻をトウマへ向けて降り注がせ、トウマは降り注ぐ稲妻を光を放って消滅させようとした。
しかし今のトウマの精神は不安定になっている。その状態で放たれた光は稲妻を消滅させるどころか逆に稲妻に消滅させられ、光を消滅させた稲妻は避けることも防ぐことも間に合いそうにないトウマを襲っていく。
「がぁぁぁぁあ!!」
「うるさいヤツだな。
自惚れて招いた結果なんだから黙って受け入れろよ」
「ぐぅ……黙……れ!!」
稲妻に襲われるトウマはヒロムの言葉と彼の放った稲妻に抗うかのように全身から光ではなく闇を放出させ、放出された闇が稲妻を押し返すようにトウマを守っていく。
「オマエを……オマエを殺すためだけに、オレは強さを手にした……!!
オマエのその存在が……許せないから……オレはオマエを殺して真に強いことを証明するためにこの身を捧げると決めたんだ!!」
トウマが叫ぶと彼の全身から闇が強く放出され、放出された闇がヒロムの放った稲妻を完全に防ぎ切るとトウマの翼は全て闇に染まり、そしてトウマの瞳は妖しく光ながらヒロムを捉える。
「……オマエさえ殺せば全て終わる!!
オマエを殺して他の「十家」のヤツらを倒せばオレが最強になれる!!
全ての「十家」の当主を倒したオレがこの国を統べる王となる!!
そうすれば……」
「何言ってるんだ……オマエ!?」
トウマの言葉に戸惑いながら声を発す人物。自身の話を遮られたトウマは冷たい眼差しを声のした方に向けて誰なのか確かめようとし、視線を向けるとトウマの表情に驚きの色が現れる。
声を発した人物……それはヒロムが容赦なく倒したはずのシンゴだった。
ヒロムに為す術もなく倒れたはずのシンゴは何故か無傷で立っており、そしてトウマの言葉に戸惑いを隠せぬ表情を見せていた。
彼だけではない。ヒロムが先程倒したはずのマサキや宗近、一葉、ルルーナ、そして能力者たち全員がヒロムから受けたダメージによる傷がない状態でトウマに視線を集めていた。
「オマエ……今のはどういう意味だ!!
オマエの狙いはオレたちを潰す事だったのか!!」
「……驚いたな。
アイツの攻撃を受けて無事だったのか」
少し違うな、とヒロムは指を鳴らすと何も無いところから精霊・イシスの杖を出現させ、出現させた杖を手に取るとヒロムはトウマに説明した。
「オマエがコイツらを治癒する前の攻撃でこの場に幻術をかけた。
幻術の内容はオレが残虐な攻撃でここにいるヤツらを蹂躙していくというもの。現実を混ぜた幻術にしたから一条カズキやそこの赤毛、七瀬アリサ以外は気づかないが……オレはもう一つ細工をしておいた」
「細工?」
「オマエの精神が不安定になったのを確認したと同時にオマエ以外の人間は現実に戻され、現実に戻ると共にオマエのこれまでの全ての行いを知らされる……オレがこれまで目にしてきたオマエら「八神」の攻撃は記憶という媒体を通して全員に知らせたのさ」
「何……?
そんなこと……」
「出来るのさ。
幻術は脳に作用させるもの、それを応用すれば幻術ではなく記憶の映像を他人の脳に組み込んで知識として作用させるなんて能力を応用すれば出来ることだ」
ヒロムが話すとトウマは他の当主や能力者たちに視線を向け、トウマが視線を向けるとシンゴたち当主は彼を疑うような目で見ていた。
その視線を向けるトウマは不敵な笑みを浮かべるとヒロムに……そして他の当主に向けて冷たく告げる。
「……こうなったらもういいや。
オマエらをここで殺して全て終わらせればいい……そうすれば「八神」の全てが正しいと証明される!!」
「そうか……なら、ここで本当に終わらせてやるよ。
オレとオマエ……「八神」が始めた全ての因縁にな!!」
(そして救ってやるよ、トウマ。
オマエをその闇から元いた場所にな!!)