六〇三話 進撃の覇王
「ぬるま湯ですって……?」
全当主に発したヒロムの言葉を受けた五樹・F・ルルーナは先程まで出なかった元に戻ったらしく、声が出るようになったルルーナはレイピアを構えるとヒロムに切っ先を向けながら彼の言葉を否定する。
「私たちはぬるま湯などに浸かってはいない!!
私たちはそれぞれが果たすべき義務を全うすべく戦っている!!
何も知らないオマエが私たちの戦う姿勢を否定するな!!」
ルルーナは脚に魔力を纏わせると風を纏いながら加速し、加速したルルーナはヒロムの背後へと移動すると彼が気づく前に突きを放とうとした。
しかしヒロムはルルーナが突きを放つ瞬間に体を右に逸らしてその一撃を避け、ルルーナの一撃を避けたヒロムはノールックで裏拳を彼女の顔に叩きつけ、続けてヒロムはその場で回転するとルルーナを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたルルーナは飛ばされた先で倒れると血を吐き、ルルーナが血を吐くと二葉一葉は剣を強く握りながら立ち上がってヒロムに向けて走り出す。
彼女だけではない、刀を抜刀した三日月宗近もヒロムに接近すると刀を振り上げて斬撃を放とうとする。
「貴様に恨みはないが……御免!!」
「……そうかよ」
三日月宗近が斬撃を放とうとしてもヒロムは落ち着いており、そのヒロムに迫る二葉一葉は剣に魔力を纏わせるとヒロムの首を斬ろうと剣を振る。
「はぁぁぁぁあ!!」
「この程度がオマエらの本気か?」
ヒロムがガッカリしたように呟くと彼の左手首の白銀のブレスレットから稲妻が飛び出し、飛び出した稲妻は刀と剣になってヒロムの手に装備される。
ヒロムは落ち着いた様子で装備した刀で三日月宗近の一撃を止め、さらに装備した剣で二葉一葉の一撃を止める。
「何!?」
「どこから武器を!?」
「一国の命運を左右するだけの権力与えられてる当主がこの程度で驚くなよ」
「隙だらけよ!!」
武器を手にしたヒロムのその手に持つ武器に宗近と一葉が戸惑う中、風を纏うルルーナはレイピアを構えてヒロムに接近しようと走ってくる。
走る中でルルーナはレイピアを地面と水平になるように構え、構えるレイピアに風を纏わせて切っ先を鋭くさせて殺傷力を高めていく。
「私たちの誇りを……オマエのような野蛮な猿が否定するな!!」
「……野蛮な猿、か」
「風殺……ウィンディード・ラル・スコルピオ!!」
ヒロムに迫るルルーナが叫ぶとレイピアが纏う風は吹き荒れると共に鋭き刃のようになり、そしてルルーナの背後には獲物に襲いかかろうとする大蠍のようなヴィジョンが浮かび上がる。
彼女の気迫がそうさせているのか、それとも「十家」の当主としての実力がもたらす力なのかは分からないが、ヒロムはそのヴィジョンを視認していた。
だがヒロムは……それを見ると舌打ちをしてしまう。
「ったく、大口叩くわ誇りだの何だの口にするわ義務だとか……それがオマエらを動かす原動力なのはよく分かったけどよぉ。
この程度で他人の上に立ってることが自惚れてるって理解してねぇのが一番腹立つんだよ!!」
次から次に来る「十家」の当主の攻撃を防ぎ、ルルーナの一撃が迫る中でヒロムが叫び、叫ぶとヒロムの全身から白銀の稲妻が解き放たれ、解き放たれた稲妻が宗近と一葉を吹き飛ばし、さらにルルーナの一撃が纏う吹き荒れる風をかき消してレイピアを弾き飛ばす。
「ぐぁっ!!」
「きゃっ!!」
「なっ……」
「そんなに誇りや義務が大事ならそれを貫き通せるほどの力を身につけてから語れ!!
そして思い知れ……これがオレの力だ!!」
ヒロムは全当主に向けて叫ぶと白銀の稲妻を赤く染め上げながら強くさせていく。
「ソウル・ブレイヴ!!」
ヒロムが叫ぶと赤い炎が彼を包み込み、赤い炎に包まれたヒロムは炎と一体化する中で道衣のような赤い装束に身を包み、肩、胴、足、手に赤いアーマーを装着すると刀身の赤い剣を手に持って瞳を赤く光らせる。
「姿が変わった!?」
ヒロムの姿の変化にルルーナは驚き足を止め、吹き飛ばされた宗近と一葉もヒロムの変化に戸惑っていた。
いや、変化だけではない。二人は……二人とマサキ、シンゴ、ルルーナはヒロムがこれまでやった事に困惑している。
「オマエのその力は何だ……?
黒炎を操り、九岳マサキの大槌を重くし、目にも止まらぬ速さで移動したかと思えば素手で剣を防ぎ、何も無いところから武器を出して稲妻を解き放った。
そして今、その姿を変える力……オマエのその力は何なんだ!?」
「うるせぇレイピアがお得意なそよ風女。
オマエが理解できる範囲の力が能力だと思うな。
今オレが使った力はほんの一部……当初の予定より軽く済みそうだ」
「何を……」
「精霊四十二人の力を完全把握したオレは今や精霊の力を己の能力として自在に操り放てる。
そして選ばれた十四人の力を体と同化させることで極限まで高めた力を放てる。
一割程度の力でオマエらが苦戦するなら……本気になる必要ねぇな」
「一割……ですって……!?」
「嘘か試してみるか?
ここからはもう少し上げて……これくらいにしようか」
ヒロムが一割しか力を出していないと言われてルルーナが驚いているとヒロムは赤い刀身の剣を天に向けて構え、ヒロムが剣を天にかかげると魔力の矢が数百現れてルルーナに向けて射たれる。
「!!」
射たれた魔力の矢が迫り来る、ルルーナは両足に魔力を纏わせると風を纏いながら加速して魔力の矢から逃れようとするが、ヒロムが指を鳴らすとルルーナの行く手を阻むように巨大な魔力の壁が出現し、さらに出現した魔力の壁の一部が変化して鎖と拘束具なってルルーナの片脚を捕え、ルルーナにそれ以上の動きが出来ぬように封じる。
「しまっ……」
「さて……オマエの全力で防いでみろよ」
「……ぁぁぁぁぁぁあ!!」
逃げられぬようになったルルーナに本気を出せと言わんばかりにヒロムは言葉を告げ、魔力の矢が迫る中ルルーナは逃げられることを何とかするのをやめて自身に風を集めると吹き荒れさせ、竜巻を起こして魔力の矢を全て破壊しようとする。
ルルーナの思惑通り竜巻は魔力の矢を次々破壊していき、そして数百の矢は全て破壊される。
「これがわたしの……」
そうか、とルルーナの言葉を遮るようにヒロムが一言呟くと竜巻が切り裂かれ、切り裂かれた竜巻の向こうから無数の魔力の刃が飛んできてルルーナを襲っていく。
魔力の矢を破壊したことで一瞬でも気が緩んだのかルルーナは防ぐことも出来ずに魔力の刃を体に受けて傷を負い、負傷したルルーナは膝をついてしまう。
ルルーナが膝をつくと魔力の壁と彼女の動きを封じていた拘束具と鎖は消える。
「ルルーナ!!」
ルルーナが倒れると一葉が彼女のもとに駆け寄ろうとするが、ヒロムは赤い刀身の剣に炎を纏わせると一葉の前に一瞬で移動し、剣を振り上げながら彼女に告げた。
「他人の心配か?
義務を全うするのに他人を心配する余裕があるなら……オマエはそれなりに強いんだろうな?」
「どけ!!」
一葉はルルーナのもとに向かうべく剣を振ろうとした……が、ヒロムはそれよりも速く剣を振ると爆炎とともに斬撃を放って一葉の剣を破壊し、そして彼女を斬撃とともに吹き飛ばしてしまう。
「がぁっ!!」
吹き飛ばされた一葉は全身を負傷する形で倒れてしまい、一葉が倒れると負傷しているはずのマサキとシンゴがヒロムを倒すべく走り出す。
「六道シンゴ、手を貸せ!!」
「言われるまでもない!!
この男を倒すためならやってやる!!」
「……くだらない」
ヒロムは首を鳴らすとマサキに向けて炎を纏った斬撃を放つが、マサキは大槌を振ると大地を隆起させてヒロムの一撃を防ぎ止める。
マサキに一撃を止められたヒロムは身に纏う力を全て消して元の姿に戻ると拳を構え、拳を構えたヒロムは隆起した大地の前に移動すると一度殴って砕き潰す。
「さて、ここからは基本が違うことを教えてやるか」
ヒロムは拳を強く握ると目にも止まらぬ速さでマサキの顔面を殴り、顔を殴られて怯んだマサキの背後へと一瞬で移動するとヒロムはマサキの体を何度も殴る。
「がっ……」
「テメェ!!」
何度もマサキを殴るヒロムに向けてシンゴは魔力を纏いながら拳撃を放ち、放たれた一撃をヒロムはまた掴み止める。
同じだ。先程爆発が生じた時と同じシチュエーション、シンゴは笑みを浮かべると拳に纏いし魔力を赤く光らせて爆発を……起こそうとしたが、魔力が赤く光るよりも前にヒロムはシンゴの拳を握り潰して骨を砕き、さらに素早く蹴りを顔面に食らわせてシンゴを怯ませる。
シンゴが怯むとヒロムは彼の首を掴んで体を持ち上げ、自由を奪われたシンゴの顔面を何度も何度も殴ると天に投げ飛ばし、天に投げられたシンゴの上空へとヒロムは移動するとかかと落としを食らわせてシンゴを地面に叩き落とす。
「ぐ……!!」
この程度か、とヒロムはまた一瞬で地面に叩きつけられたシンゴのもとへ移動すると彼の頭を掴んで持ち上げ、そして……ヒロムは負傷したシンゴの顔に何度も膝蹴りを食らわせる。
抵抗する力も残っていないのかシンゴは膝蹴りを無防備なまま受け、顔が血だらけになってしまうもヒロムは攻撃の手を緩めない。
「やめろ!!」
膝蹴りを何度もシンゴに食らわせるヒロムを止めようとマサキは叫ぶが、マサキが叫ぶとヒロムはシンゴを投げ捨てながら白銀の稲妻を纏いながらマサキに迫ろうと歩を進める。
ヒロムがゆっくりと歩を進めて向かってくる中マサキは大槌を構えようと……したが、構えようとした時ヒロムはすでに目の前に立っており、そしてヒロムは右手に白銀の稲妻を収束させると拳をマサキに叩きつけて稲妻を流し込む。
マサキの体に流し込まれた稲妻が彼の体内で炸裂し、稲妻が炸裂するとマサキは口から血を吐き出してしまう。
「がはっ……!!」
「才能がねぇって言ったけどな……そもそもオマエらとオレとじゃ次元が違いすぎたみたいだな」
ヒロムは右手に稲妻を纏わせるとマサキを殴り飛ばし、殴り飛ばされたマサキは壁に激突する形で倒れ、そしてそのまま気絶してしまう。
マサキが倒された。その現実に宗近、ルルーナ、一葉は負傷しながらも立ち上がると構えようとした。
そしてその一方でヒロムにひたすら殴られ蹴られ続けたシンゴは流血しながらも起き上がると拳を構える。
「……しぶといヤツらだな。
まぁ、そうでなきゃ試せねぇしな」
四人がしぶとく構える姿にヒロムはどこか嬉しそうに呟き、そしてヒロムの左手首の白銀のブレスレットが光を灯す……