六〇話 バッツ
ヒロムとソラ、フレイとマリアはバッツに攻撃を仕掛けるが、バッツは迫り来る攻撃を防ぐと彼らを弾き飛ばしていく。
「この……!!」
ヒロムとソラは飛ばされるも立ち上がり、攻撃を再度仕掛けるが、バッツは音もなく消えると避け、二人の背後に現れる。
「遅いなぁ」
「「!!」」
二人がそれに気づき、振り返ろうとすると何かが二人の背中で弾け、勢いよく吹き飛ばされる。
「マスター!!」
よくも、とフレイは大剣で斬りかかるもバッツは避けるとフレイを殴り飛ばし、さらに追撃のように殴りかかろうとするマリアの拳を掴むと彼女を投げ飛ばす。
「単調だなぁ」
「だったら!!」
ヒロムが指を鳴らすとエリスとシズカが現れ、そしてバッツの周囲に一瞬で魔力の刃と苦無が現れて襲いかかる。
が、バッツは煙に姿を変えると二人の放った攻撃を避け、攻撃が止むと同時に元に戻っていく。
攻撃を避けられた二人は驚くが、バッツはため息をつくと首を鳴らす。
「準備運動してるのか?
オレをもっと楽しませろよな……」
「この……舐めやがって!!」
ソラが銃を構えると同時にヒロムはアルカとテミスを呼び出し、アルカは銃を、テミスは銃剣を構えるとソラとともに無数の魔力の弾丸を放つ。
さらにヒロムは走り出すとともにアイリスを呼び出し、フレイとマリア、エリスとシズカもヒロムの動きに合わせるように走り出す。
「で、その程度か?」
バッツはすべての弾丸を避けると、ヒロムたちが次々に放つ攻撃を防ぎ、すべての攻撃を防ぐとともにその身に魔力を纏い、勢いよく放出してヒロムたちを吹き飛ばした。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
ヒロムとフレイたちは吹き飛ばされるもすぐに立ち上がると構え直し、バッツの動きに警戒した。
いや、迂闊に動けないのだ。
数では圧倒的有利なヒロムであるが、力量は圧倒的にバッツが勝っている。
前回はどうにかなったと思っていたが、その前回はバッツが手を抜いていた可能性がある……
いや、それだけではない。
ヒロムにはなく、バッツにはあるもの。
それが今の状況を生んでいる。
「どうした、ヒロム?
この程度か?
オレを倒すんだろ?」
「……」
「力の差は歴然、そしてオマエとオレではこれまで歩んで得た経験が違う」
黙れ、とソラが銃を構えて炎弾を放とうとするとバッツはソラに向けて手をかざし、そして衝撃波のようなものがソラの銃を粉砕する。
「!?」
「おいおい、今オレが話してるんだ。
邪魔するなよ?」
バッツはソラに向けて余裕を見せつけるように言うが、そのソラはバッツから放たれる殺気からバッツの底知れぬ強さを感じていた。
(コイツ……前に会った時と力の質が違う。
前はどこか付け入る隙があったのに、今ではそれがない……まるで、今のアレは深淵の闇そのもの……)
「……さて、邪魔することもなく話ができるかな。
ヒロム、さっさと本気になれよ?」
「本気、だと?」
「そうだ、オマエの精霊は十一体だろ?
ならさっさと全部出して戦え。
そして発動しろよ……オマエの新しい姿とやらをな」
バッツはヒロムを挑発するように告げるが、ヒロムもそれをわかっているためか何も言わないし、何の反応もしない。
そしてバッツの言う新しい姿というのは前回ヒロムがバッツを追い込んだ「ソウル・ハック」のことだというのもわかっている。
が、わかっているからこそ何もしないのだ。
いや、ここで「ソウル・ハック」を発動しても勝てるかは怪しいとヒロムは考えていた。
それに今この戦闘を優位に進めているのはバッツだ。
つまり、バッツの言うがままに力を使うということはそれはすなわちヤツの手の上で踊らされてるのと同じだ。
「……くそ」
(厄介、だな。
「ソウル・ハック」を使えばおそらくアイツにダメージを与えられる。
だが、今の状況で使うのは何か策に嵌りそうで無謀すぎる……)
「さっさとしろよ?
でなきゃやり方を変えるだけだ」
「やり方、だと?」
「ああ、オマエが本気になれるようにまずはオマエの大事なものを潰していく。
さっきの女どもを手始めに殺るか」
「ふざけるな!!」
バッツの言葉、それを聞いたヒロムは冷静でいることが出来ず、怒りに身を任せてバッツに向かって走り出す。
まずい、そう思ったソラとフレイたちはヒロムを止めようとするが、バッツが指を鳴らすと彼らの周囲で何かが炸裂し、行く手を阻むように襲いかかる。
「くっ……ヒロム!!」
「ああああ!!」
ヒロムはバッツに接近すると何度も殴りかかるが、バッツはそれをただ迫り来る攻撃を順番に避けていた。
「おいおい、さっさと発動しろよ。
オマエの新しい姿をオレに見せろ!!」
ヒロムの攻撃を避けたバッツはヒロムの腹を殴り、さらにその場で回転してヒロムを蹴り飛ばす。
その後、バッツは右手に紫色の魔力を集め、ヒロムに向けて放とうとする。
「まずはオマエの大事なものを絶望させるか。
この一撃で無様な死に様を晒させてやるよ!!」
「やめろ!!」
ソラは紅い炎を身に纏うと炸裂する何かを強引に突破し、そしてバッツに攻撃を放つが、バッツはそれを煙に姿を変えて避けた。
「くそ……!!」
「ムダだぜ?
オレはオマエらのデータを持ってんだ。
対策くらい簡単にできる……が、そこまでその炎を操れるようになってるのは想定外だ!!」
ソラの攻撃を気に止めることもなく倒れるヒロムに向けてバッツは魔力攻撃を放ち、ヒロムの命を奪おうとした。
が、バッツのそれはすぐに阻止されるのだった。
「はぁ!!」
倒れるヒロムの前に現れたガイは霊刀「折神」を勢いよく抜刀し、その勢いを活かすように一閃を放ち、バッツの攻撃を消滅させた。
「何!?」
「隙だらけだ!!」
ガイの登場に驚くバッツに対してソラは紅い炎を右手に集め、それを拳に乗せてバッツを殴った。
驚いていたせいか回避しようとせず、バッツはそれを受けて少し後ろへと吹き飛ばされる。
が、それは大したダメージにはなっておらず、バッツは平然と立っていた。
「……何かしたのか?」
「コイツ……!!」
「大丈夫か、ヒロム」
ガイは倒れるヒロムを心配して声をかけるが、ヒロムは何も言わずに立ち上がるとバッツを睨んだ。
「……動揺してるのか?」
「してねぇよ……ただ、親父を利用してるのがバッツそのものだと思わなかっただけだ」
「どういう……」
詳しくは後にしろ、とソラはガイに告げるとヒロムとガイの隣に並ぶように立つ。
ガイも気になる点は頭の片隅にでも置き、今は目の前の敵に対して集中することにした。
「まさかこの三人が揃うとはな」
「どういう意味だ?」
「オマエらの中で警戒すべきはオマエら三人だ。
限界を超えようとする「覇王」、触れたものを容易く燃やす「炎魔」、あらゆるものを切り裂く「閃剣」。
個でそれぞれが警戒すべきなのにそれが一堂に会してしまえば厄介だ」
「オマエにどう思われようが関係ない……!!
オレはオマエから親父を……」
「取り返すつもりか?
親父の頼みは「バッツ諸共殺せ」だろ?
反抗期かぁ?」
「バッツ諸共……!?」
バッツの口から出た予想外の言葉に驚くガイだが、それと同時にバッツと飾音がどういう状況下にあるのかを理解した。
そしてそれを理解すると同時にガイはヒロムと同じように怒りを隠せなくなり、刀を握る手に力が入ってしまう。
「ふざけたことを……!!」
「さて、オマエら三人を始末した後は中にいる女どもとオマエらの仲間を先に始末する。
それからここにいる全員を殺す!!」
「「黙れ!!」」
バッツの言葉にガイとソラは怒りを爆発させ、その怒りをぶつけるように叫ぶとその身に魔力を纏い、そして互いに蒼い魔力と紅い魔力に包まれていく。
その二人の姿にバッツは高らかに笑い、そしてその喜びを伝えるかのように語り始めた。
「フハハハハ!!
最高じゃないかぁ!!
オマエらのその成長こそオレの望んでいたものだ!!」
「減らず口も大概にしとけ、クソ野郎が!!」
「そんなに斬られたきゃ斬ってやるよ!!」
「やってみろよ!!
オレの求めていた理想の力のために足掻け!!」
やってやるよ、とソラは両腕に炎を集中させ、そして力を発動させて腕の姿を変化させる。
「ソウル・バースト!!
炎魔劫拳、焼装!!
……ヒロムのすべてを奪ったオマエはオレが殺す!!」
「……オレらのことをどれだけ知っていてもこれは防げない」
するとガイが纏う蒼い魔力が炎のようになると、ガイの身を包みこみ、蒼い装束へと変化していく。
そしてガイは右手に「折神」を持ち、さらに左手には蒼い魔力の刀を持っていた。
「修羅蒼天、顕界!!」
「……ただ魔力を纏っただけか?」
「だったら試してみろ。
オレに触れるってんなら切り裂いてやるよ!!」
待てよ、とヒロムは今にも動こうとするガイとソラを止めると深呼吸をし、そして全身に白銀の稲妻を走らせる。
「ソウル・ハック……!!」
「なんだぁ?
勝てないと思ってついに出したのか?」
違う、とバッツの言葉を否定するとヒロムはガイとソラを見ながら言った。
「ただオレと戦うことを決意してくれたコイツらがこうして力になろうとしてくれているんだ。
それなのにオレが覚悟決めないなんて……コイツらの決意を無駄にするだけだ!!」
「……そうかよ」
するとバッツは右手に紫色の煙を集めると、それを紫色の剣に変えた。
とても変わった意匠を持つ剣だ、
刀身はまるで蝙蝠の翼を思わせるような形状、そして鍔となる部分は妖しい光を放つ一つの眼があった。
「魔剣・バッドナイツ……オマエらの餞別に見せてやるよ」
バッツは全身から禍々しい魔力を放出し、それが周囲を包んでいく。
ヒロムが構えると、フレイたち精霊はヒロムの後ろに駆けつけると構えた。
するとソラがヒロムとガイに聞こえるよう、そしてバッツには聞かれぬように話し始めた。
「さっきバッツの意識の隙間から飾音さんは言葉を発した」
「……親父を助けられるのか?」
「いや、バッツの意志が強い今は難しいだろうな。
だが、あの鎧を剥がせばどうなるかは試したいだろ?」
バッツの鎧、あれはバッツの精霊としての本来の姿を投影したというものだ。
つまり、あの中に飾音の体がある。
「できるのか?
前の治癒の正体はヤツの投影した鎧だからこそできたこと。鎧のダメージを消してたのではなく、投影し直していた。」
「ああ、だったらそれ以上の力で壊せばいい」