六話 動き
六話から文字数を五話までと比べて半分にまで減らします。
よろしくお願いします。
トウマとの一件から一晩が経った。
シオンは飾音に連れられてある場所に向かっているらしい。
八神トウマについての動きは一晩経っても今のところは何もない。
それについてはヒロムの屋敷に一泊したソラは昨晩から動きを見せないトウマに不信感を抱いていた。
「……妙だ」
(今の今まで動きを見せなかったあの男が何の意味もなく現れるはずがない。
なのに、何か仕掛けるわけでもなく一切の動きを見せない……)
そこに何か意味があるはず。
ソラはそう思えて仕方がなかった。
が、そう思う一方でソラはもう一つの不安を抱いていた。
「……なあ、フレイ」
どうしました、とフレイはソラのもとにコーヒーを運ぶと不思議そうに見つめてくる。
「オマエの主はまだ寝てるのか?」
「マスターですか?
まだ起きる時間ではないので」
「いや、こんな状況下でよく……」
するとソラの携帯電話にガイからの着信が入る。
ソラが電話に出るなり、ガイはいきなりソラに指示を出してきた。
『ソラ、テレビをつけろ。』
「テレビ?」
ソラとガイとの通話をどこからとなく現れ聞いたテミスがテレビの電源を入れる。
ちょうど時間帯的に朝のニュースがやっている。
『次のニュースです。
昨日の夕方、〇〇市内にある研究施設で爆発がありました。
施設内では作業が行われていた状態で起きたとみられ、研究所職員の半分以上の方が重症により病院へ搬送されています。』
「爆発……?」
『その研究所は「八神」の所有地らしい。』
「!!」
そういうことか、ソラの中ですべてが解決した。
トウマはあえてこちらに何もしなかったのではなく、この研究所の方に人員を割いているのだろう。
「で、これだけのための連絡?」
『そんなわけないだろ。
飾音さんからの連絡があった。
「八神」の研究所を襲ったのはシンクだ。』
シンク、ソラはその名を聞いて驚く中でその名に意外性を感じていた。
「なんであの男が?」
『さあな。』
ソラとガイ、二人はシンクという存在を知っている。
『シンクは……アイツはトウマとともに消えた「八神」の能力者だ。
オレやオマエとは違う。』
「そのトウマが動いたと同時にあの男が動いた。
何かあるってか?」
『その可能性しかないが、飾音さんが少し妙な言い方をしていた。』
「?」
『「彼も決断した」とさ。』
「おい、どういう……」
『それ以上はわからない。
もう切るぞ。』
おい、と真意を確かめようとしたがガイは一方的に通話を切った。
ソラは舌打ちするとフレイが持ってきたコーヒーを一気に飲んだ。
「少しは味わってくださいよ」
「……とりあえず、アイツ起こしてこい」
***
ガイは自分の家を出てしばらく歩いたところにいた。
ソラに電話をかけていた彼は携帯電話をしまうなりため息をつき、再び歩き始めた。
ため息の原因は一つ。
そう、シンクという男のことだ。
トウマとともに幼少期にヒロムのもとから去った男だが、トウマが再びヒロムの前に現れた際はいなかった。
つまり、ガイもソラも、そしてヒロムも今どうなっているかを知らない。
が、飾音はまるで知っているかのような発言をした。
(……飾音さんはトウマや「八神」全体の動きを調べていた。
だがトウマがヒロムやオレらの前に現れるのを察知できていなかった。
それどころかカルラの連絡でシオンの一件をどうにかしようと動いた。
そしてシンクによる謎の動き……つまり。)
「飾音さんは何か知っている……」
だが、それがわかったところで身動きが取れない。
飾音には「姫神」としての立場とその力を与えられている。
それも「姫神」の家からの信頼も厚い。
そのため飾音の行動に対しては「姫神」の家が全面的に協力し、飾音の考えを肯定している。
が、ガイはただヒロムに付き従う一人としての力しかない。
ましてヒロムは「姫神」の家の力とかそういうことに対しては興味すらない。
「……飾音さんの動きを調べる手段がないな」
「呼んだかい?」
ガイが歩いていると、通りがかった近くのベンチにイクトが座っていた。
が、ガイはイクトに反応することなく通り過ぎていこうとしていた。
「ちょい!!
無視か!!」
「いや、いつものことだろ」
「いやいや、オレのこと忘れてない?」
「先に言うぞ?
無理だ」
「あのな、オレの……」
無理なんだ、とイクトに対してガイはさらに力強く言うと、続けて伝えた。
「オマエの「ハンター」としての情報網はもはや使えないだろ?
今と昔とでは「十家」の警戒のされ方は違う」
「……それ言われると言い返せねえなあ」
イクトは立ち上がるとガイの横に並ぶように歩き始めた。
「現にオレらは四人と精霊十一体の戦力だ」
「シオンは入れないのか?」
「……今はな。
まだ迷ってるだろ」
ガイの言葉は少しおかしかった。
シオンはヒロムに対して少なからず協力する姿勢を見せていた。
なのにそれを忘れたかのように言うガイはイクトにとって違和感しかない。
「いや、アイツは……」
「言葉で表してもその本質は簡単に変わらない。
アイツも口では言うが、本心では自分の無駄なプライドとの駆け引きをしているんだろう」
「そういうものかね……」
***
「いってきま~す!!」
ユリナは家を出ると走って目的地に向かっていく。
手には鞄のほかに小さな包みを持っていた。
「ふふっ」
ユリナは何かあったのか思い出して少し笑った。
ユリナは少し鼻歌交じりにスキップをしながら進んでいく。
(喜んでほしいな……)
小さな包み、どうやら誰かに渡すものらしい。
きっとユリナが一生懸命心を込めたものに違いない。
「おはよ~」
そんなユリナの前に一人の少女が声をかけてきた。
が、突然というわけでもないがユリナは思わず驚き声を上げてしまう。
「きゃあ!?」
「ど、どうしたのよ?」
少女・雨木ハルカはなぜ驚かれたのかと不思議そうな顔をしていた。
長い緑色の髪にきれいな顔立ち、そのスタイルの良さからユリナから少なからずあこがれを抱かれている。
「何かした?」
「あ、ハルカ……おはよ。
風邪は?」
ユリナの反応を見たハルカは何かあると察したらしく、ユリナに対して何があったのか尋ねようとした。
「治ったけど……何かあった?」
実は、とユリナが説明する前に尋ねた張本人であるハルカはユリナの持つ小さな包みを見てすべてを察した。
「ああ、それ渡すんだ」
「え!?」
「それ、姫神くんに渡すお弁当でしょ?
前から作ろうか悩んでたし……」
「……変、かな?」
「変じゃないと思うよ。
だってユリナの七年越しの片思いが成就してほしいしね」
「そ、そういう意味じゃ……なくもない……」
でも、とハルカはユリナに対して付け足すように言った。
「私、いまいち彼の魅力がわからないの」
「魅力はいっぱいあるよ?」
何回か聞いた、とハルカはため息をついた。
呆れているというわけではないが、少しばかり共感しにくいという意味合いである。
「えっと……寝顔だったよね?
あと横顔、たまに見れる頑張ってる姿、あとは……」
うんうん、とハルカが次々に挙げているとユリナがまるで自分のことのように嬉しそうにうなずいていた。
しかし、ハルカはそれを見て思わず、再びため息をついた。
「……ごめんね、ユリナ。
全然わかんない」
「ええ~!!」
ユリナはどこか悲しそうに落ち込んでしまう。
ハルカが話を変えようとすると二人の少年が歩いていく。
「何してんだ?」
「お、巫女さんも一緒じゃん」
「あ、雨月くん!!
おはよ♪」
「あれ、オレは?」
巫女さん、イクトがいうそれはハルカのことだ。
ハルカは実家が神社で、行事になるとハルカは巫女として家の手伝いをしている。
イクトはただそれを言いたかっただけだ。
「……いたのか?」
「さっきしゃべってたよね!?」
「で、なにかあったのか?」
「スルー!!」
「ユリナが姫神くんにお弁当を渡すんだって」
「へえ……」
予想以上に薄いガイの反応に少し不安になったユリナはガイに恐る恐る確認した。
「……変?」
「いや、良いんじゃないか?
アイツもきっと喜ぶさ」
ガイはユリナの表情を見るなり歩き始めた。
「遅刻する前に行こうぜ」
「あ、うん!!」
「……なんかショック」
ガイは一瞬だがユリナの方を見た。
ユリナは昨日の一件でトウマから告げられたことをもう気にはしていないようだ。
というより、気にしすぎだ。
ヒロムもこうなることをわかっていたから言わなかったのだが、優しすぎるというか……。
ユリナは他人事と切り捨てることができないお人よしだ。
(まあ……ユリナがそばにいればヒロムも安心か……)
***
ヒロムが呑気にあくびをしながら歩くなか、ソラは少しイライラしながらヒロムを睨みながら舌打ちした。
二人の後ろにはヒロムの荷物を持ったフレイがいる。
「てめえのせいで遅刻コースまっしぐらだ」
「ただの二度寝くらいで……」
「……三回起こしましたよ……」
「そっか」
「……ったく。
お前は精霊に甘えるし、精霊もオマエを甘やかしすぎだ」
ソラはため息をつきながら愚痴をこぼした。
いや、これはおそらくガイも思っている。
ヒロムが過去の一件から精霊に依存している状態なのは知っているが、それでも生活のほとんどを精霊に任せ、なんでもしてもらっているこの状況はソラからすればよくないと思った。
が、ヒロム本人はそういうことは気にしていない。
さらに精霊の方も主となるヒロムのために尽くしたいと思う一方。
つまり、両方が今の状態を何の問題もないと思っているため、改善される余地など一切ない。
それどころかヒロムは徐々に怠惰な方向に染まりつつある。
「どうでもいいけど……」
「……たく」
(でも、あんま言いたくねえのもあるしな……)
ソラにとって今のヒロムの状態は良くないと思っている。
が、今のヒロムももし精霊たちがいない状況下で日常を過ごしていた場合いないということも事実。
「なんだ、嫉妬か?」
「んなわけねえだろ」
「二人とも、待ってください」
ヒロムとソラが話している中、フレイが何かに気づいたらしく、急に身構える。
ソラも慌てて銃に手をかけ、構えようとしたが、ヒロムは一切動じない、というよりは探っている。
フレイが何に反応したのか、二人はただ警戒するのではなくその正体を知ろうとしている。
二人の知ろうとしていたものの答えはすぐにわかった。
というよりは、向こうから姿を見せた。
「……お久しぶりです」
ヒロムたちの前に姿を現したのは長い紫色の髪に黒い装束を身にまとった少女だった。
ヒロムとソラ、そしてフレイはその少女を見てなぜか警戒心を解いた。
「……意外な訪問だな」
「ああ……」
「お久しぶりですね」
フレイがあいさつをすると少女は「そうですね」と微笑み、ヒロムのもとへと歩みより、急に膝をつき、頭を下げる。
「姫神直属戦闘部隊「月翔団」傘下の強襲行動部隊「月華」隊長……
白崎夕弦、参りました」
***
場所不明
廃墟
人のいなくなったことで衰退し、活動機能のすべてを失ったその建物の中に人がいるはずがなかった。
が、そこにあるはずのない人影があった。
水色の髪にロングコートを羽織った少年・氷堂シンクは何をするわけでもなく、そこにいた。
そしてシンクは誰かと向き合っていた。
「……で、何の用だ?」
シンクと向かい合うように座る少年は不機嫌そうにシンクを睨む。
茶髪に紅い瞳、そして右頬辺りに黒い痣を持つその少年は刀を持っていた。
その刀も刃こぼれしており、使えるかすら怪しい代物だ。
が、シンクはこの少年に対して一切の隙を見せない。
「……別に大した用じゃない。
オマエの目的を聞かせろ」
「ああ?」
「オレにとってオマエの動きは重要だ。
これまでのオマエの動きを知るオレからすればな」
「オマエ、まさか「十家」の……」
「だとすれば?」
「……オマエを倒せばどの家が動くか試すだけだ」
少年が立ち上がる中、シンクは話をつづけた。
「……勘違いするな「狂鬼」。
オレはオマエに提案しに来ただけだ」
「あ?」
「……オマエを満足させる男がいる」
「誰だ?
「十家」か?」
狂鬼と呼ばれた男は少し興味があるようで、シンクに問い詰める。
その状態を確認したシンクは冷たい眼差しとともに答えた。
「……「覇王」、またの名を姫神ヒロム」