五九四話 覇王と導王
宣戦布告、ヒロムの口から出たその言葉を聞いた導一は彼に言葉の真意を問おうとする。
「ヒロムくん……キミは自分の言葉の意味を理解してるのかい?
宣戦布告、というのはどういうことだ?」
「言葉の意味を知らないわけじゃないだろ導一。
そのまんまの意味だ。宣戦布告……オレはオマエらを潰すって言ってんだよ」
「何故だ?
オレはキミが大人しくしてくれれば……」
「ならオレを直接狙え。
オレがガイたちと別行動を取ったのを理解した上でアイツらを狙ったのはオレを脅すために人質にしようと企んでたからだろ」
「……否定はしない。
だが……」
「今更言い訳するなよ。
オマエはオレを怒らせた、今回の件は完全にオレをその気にさせたオマエが悪い。
これがかつては誰も寄せ付けぬIQ二百越えの天才軍師とは思えねぇな。
いや、ゲームメーカーの方が相応しいか?」
「キミも覇王の名を体現すべく暴虐の限りを尽くすつもりなのか?
真斗の片腕は奪われ、蓮夜や獅童も負傷している。
そしてキミはこうして無防備なオレたちを狙って現れた」
「無防備?
よく言うぜ、オマエらのどこか無防備なんだよ?
ここに来るまでの道中の至る所に人払いの結界を展開し、この部屋に来るまでの通路には用心深く護衛の能力者を何人も配備しておいて無防備ってか?
しかもご丁寧にこの部屋の前には完全に人を避けるための拒絶式の結界まで張ってて無防備を謳うなら頭のネジ入れ直すことを勧めるぞ。
まぁ、人でない精霊に近いオレからすればどの結界も抜け穴さえ見つければ簡単に通れるんだけどな」
「ありえないわ。
導一が展開した結界に通り道があるなんて……」
「そんなのはオマエの思い込みだろ女。
そいつが展開した結界はどれも結界発生地点にいくつか魔力の縺れがあった。
その縺れは意識しなきゃ気づけないし、普通なら気づけても入り込めないほどのサイズだからな。
オレはオマエらと違って体を自由に霊体に出来るし魔力に変えることが出来る。
それを利用して縺れを伝ってここまで来たのさ」
「そんな……」
「さて、女。
オマエはここからは口を閉じとけ。
ここからは……オレたちの王とオマエらの王が直接語る時間だ」
蓮華に対して黙っているように忠告したゼロはヒロムに話を譲るように一歩後ろに下がり、ゼロが下がるとヒロムは導一に問い詰めていく。
「チカやユカリたちの親に何を吹き込んだ?
オマエらが何か吹き込んで彼女たちの親を動かしたんだろ?」
「……事実を伝えただけだ。
キミといれば今後娘さんの命は保証されない、キミが「月翔団」や「姫神」とは決別した孤立した存在だから守ってくる後ろ盾も無いことを話したのさ」
「ふーん……。
オマエ自体大した後ろ盾にもならねぇのに偉そうに言えたな。
さすがは形だけの代理当主だ」
「アンタね、口の利き方……」
「『黙れよ』」
導一に対するヒロムの発言が気に入らない蓮華は反論しようとしたが、ヒロムはただ一言「黙れ」と告げるように言葉を発し、ヒロムが言葉を発すると蓮華は声が出せなくなってしまう。
「……!?……!?」
「ゼロの忠告を無視するな。
オマエが口を挟んでいい話じゃないんだよ」
「蓮華に何をした?」
「別に何も。
アンタが思ってるような危険なことはしてねぇし、数分でこの女の声も元に戻る。
それより、その女の心配するくらいならオマエのその卑怯なやり方について弁明してみろよ」
蓮華に何をしたのか、それについてヒロムは答えをはぐらかすと導一に何故羽咲チカたちを自分から遠ざけるような真似をしたのか問い詰めようとし、同時にこれまでの「月翔団」の行動について話させようとする。
が、導一は話そうとしない。
話せないのか、話したくないのか……どちらかしか考えられないが導一はヒロムに問い詰められても話さない。
そんな彼を見兼ねたヒロムはため息をつくとある人物の名を出した。
「……姫神愛華。
アンタの妹でオレの親にあたるあの女が今どこにいるのか気にならないのか?」
「……ッ!!
愛華は無事なのか……!?」
「知りたいなら話せ。
でなきゃオレは姫神愛華のことは一切話さない」
姫神愛華の名を聞いて慌てる導一だが、ヒロムは彼から話を聞くまでは話さない意志を見せるだけだった。
分身であるはずのヒロムの瞳は強い殺気を秘めており、その瞳に睨まれる導一は思わず息を飲んでしまう。
「……話せば愛華を解放してくれるのか?」
「話せばこっちも姫神愛華のことを話してやる。
身柄を解放するかどうかはオレが決めることだ」
身柄を解放しろと言わんばかりに用件を言う導一に対して主導権はこちらにあることを主張するヒロム。
そのヒロムの言葉を受けた導一は姫神愛華の無事を知るためにも羽咲チカたちの親に何を話したのか、そしてヒロムを狙う上で何をしたかを話していく。
「彼女たちの身の保証について話したのは事実だ。
最初はそれを話してもキミが守るから問題ないとこちらの話を聞かなかったが、キミを止めるためにもある話を一つした。
近々キミは危険な道に踏み込むかもしれない、そうなった場合彼女たちはキミでも守れないような危険に晒されてしまうことを話した」
「それで納得したのか?」
「渋々納得してくれた。
彼女たちに注意するだけでは意味が無いとしてキミのもとへ向かわせて直接面会することを拒否するように話すようにも仕向けた」
「ヒロムを狙うために外堀を埋めようとしたのか。
卑怯なヤツだな」
「そんで次は別行動になったところを見計らってガイたちを消してオレを孤立させてから潰そうって魂胆だったのか?」
「……さすがのキミも仲間を失えばこちらの要求を飲むと考えた。
だから仕方なく……」
「仕方なくやりましたってか。
なら……仕方ないな。ゼロ、蓮華を殺せ」
了解、とヒロムの指示を受けたゼロは大剣を出現させると手に持って構え、大剣を構えるとゼロは蓮華を斬ろうと歩を進める。
大剣を構えて迫るゼロから蓮華を守ろうと導一は彼女の前に立つとヒロムに向けて叫んだ。
「話が違うぞ!!
彼女たちの親にしたことは全て話した!!
愛華について話す約束だろ!!」
「今まで散々「月翔団」も「姫神」もオレを裏切るような真似をしてきた。
愛咲リナの家族を冤罪で陥れてまでオレを足止めしようとし、姫神愛華や飾音の行動を野放しにしてオレに罪を被せようとしているオマエらに守る約束はない」
「キミが世間からの偏見によって迫害されていることに対して何も出来なかったのはたしかに事実だ。
だからと言って……」
「助けを求め無かったから助けなかった、だろ?
オレが世間から嫌われてるのをいい事に命を奪おうとしたヤツがよく言うぜ」
「そうじゃない!!
オレにもキミを救おうとする算段が……」
「適当言うなよ。
オマエの指示で「月翔団」はオレを始末すべく動き始めた。
だからオレはオレを敵に回したことを後悔させるべく中国の意味で一度は攻撃した。
けど、オマエらはそれを無視してまた仕掛けてきた。
だから今度は完全に消す」
ヒロムが言葉を発する中、大剣を構えるゼロは蓮華を倒そうと迫っていくが阻むように導一はゼロの前に立って拳銃を構えようとする……が、ヒロムが指を鳴らすとどこからか稲妻が飛んできて導一の構える拳銃を破壊してしまう。
拳銃が破壊された導一はゼロから蓮華を守るためにどうすべきか頭を働かせるが、ゼロはそんな導一の考えを待つことも無くゆっくりと近づいて大剣を振るうべく力を入れる。
「さて……お別れだ」
「恨むなら好きに恨め。
オマエらが先に喧嘩を売ってきた、だからオレがオマエらを潰す」
「……ふざけるな!!」
ヒロムの言葉を受けると導一は全身に魔力を纏いながら叫び、導一が叫ぶと何やら衝撃のようなものがゼロを突き飛ばしてしまう。
突き飛ばされたゼロは大剣を床に突き刺して衝撃を殺して立て直し、導一の行動を見たヒロムは首を鳴らすと彼に告げた。
「抵抗するってことはやるってことだよな?
オマエら「姫神」と「天獄」で存続をかけた戦争を……どちらが真の強者か決めることを承諾したってことでいいよな?」
「……好きに捉えろ!!
オレはもう、キミを救おうとはしない!!
キミが破壊の限りを尽くす覇王としてオレの家族の帰る場所を潰すのなら……全力でオレが阻止する!!」
「……そうか。
それなら安心した」
ゼロ、とヒロムはゼロの名を呼ぶとゼロは服から携帯端末を取り出して導一に投げ渡し、投げ渡された携帯端末を受け取った導一はこれが何なのかヒロムを見て説明するように目で訴える。
導一の視線を受けたヒロムは首を鳴らすと彼がゼロから受け取った携帯端末について話していく。
「その端末のロックを解除出来れば姫神愛華の身柄を取り戻せる。
ただし……それを解除するにはオレの生体認証が必要になる。
オマエら「月翔団」と「姫神」は「天獄」に対して姫神愛華を取り戻すためにオレの生体認証を解くために攻めてそれを解き、そしてオレたちを倒せば勝ちだ。
だが……オレたち「天獄」はオマエが持つその携帯端末を破壊するかオマエを殺せば勝ちって話だ」
「妹を……愛華をキミとオレの戦いに利用するのか?」
「オレは利用された側の人間だ。
あの女も……母親としてオレを利用したのならそれくらいの覚悟を決めてるはずだ。
だから協力させるまでだ」
「無事だと信じていいんだな?」
「信じてくれてもいい。
少なくともオレたちは姫神愛華を罰する余裕もないからな。
生体認証を解除した際には姫神愛華の留置されている場所が表示される。
今もそこにいるし、そこから移動させるつもりもないから好きにすればいいが……ハッキングして不正をしようとすれば身の保証はないと思え」
「……分かった。
当然の事ながら、キミの仲間たちの邪魔があると考えていいんだな?
キミ一人……とそこの彼だけではないのだろ?」
「言ったはずだ。
これは「天獄」と「姫神」の戦争、一人の女を賭けると同時に互いの存在を賭ける。
こっちも全力で阻止するから……オマエは天才としての叡智をフルに活用してオレを倒してみろ」
メッセージを伝えるとヒロムは……ヒロムの分身は稲妻となって消え、ヒロムの分身が消えるとゼロは導一に手を振って同じように稲妻になって消える。
かつては同じ「姫神」の人間として接していたはずのヒロムと導一。
だがこの日、その二人はもう後戻り出来ぬところに達し、そして争いの約束が交わされた……