五九二話 ゼロ・ゼロ
ヒロムやガイとシオン、そしてソラとイクトがそれぞれ敵と対峙して戦闘になっていた頃。
滝神カルラと移動しているゼロの前にも敵が現れていた。
「ぜりゃぁ!!」
灰色の稲妻を纏いながら地を駆けるゼロは次々に能力者を倒していき、地を駆ける足を止めて高く飛び上がると地上に向けて稲妻を降り注ぐとさらに敵を倒していく。
「はぁっ!!」
カルラも魔力を纏いながらゼロを援護するように魔力の龍を出現させては敵にくらいつかせ、さらにはゼロが倒しやすいように魔力の龍を巻きつかせて動きを封じる活躍を見せる。
「ゼロ、このままじゃキリがないッスよ」
「黙って戦え。
コイツらはオレたちを消耗させるための捨て駒、本命となる主力の能力者は後から来るぞ」
「黙って戦え、スか。
心の闇とは聞いてたっスけど、彼と一緒で人使いが荒いスね」
「生憎、オレは人の姿をした人ならざるものだからな」
カルラの言葉に言い返すとゼロは灰色の稲妻の一部を黒剣に変えると装備し、黒剣を装備すると黒炎の龍を何体も出現させ、ゼロの黒炎の龍に合わせるようにカルラも魔力の龍を出現させる。
黒炎の龍と魔力の龍、二つの力の龍は敵を倒すべく解き放たれると襲いかかっていき、敵の能力者は為す術もないまま黒炎の龍と魔力の龍に襲われて吹き飛ばされて倒れてしまう。
目の前の能力者たちが全員倒れるとゼロは黒剣を消し、カルラも身に纏う魔力を消す。
が、武器と魔力を消した二人は決してこれで終わったとは思っていない。
「……とっとと出てこい。
いるのがバレバレだ」
どこかに潜む誰かに対して告げるゼロ。
そのゼロの言葉を受けると身を隠していたと思われる敵が一人ゼロとカルラの前に現れる。
二人の前に現れた男、その男についてはゼロもカルラも知っている。カルラはとくにこの男のことを詳しく知っている。
「獅童士門……。
まさかアンタが仕向けたっスか?」
「カルラ、自分のしてることが分かっているのか?」
「何のことスか?」
男、獅童士門はカルラのとぼけるような態度に惑わされることなく問い詰めていく。
「オマエがやっていることはオマエのことを信頼していた「姫神」への裏切りと冒涜だ。
頭のイイオマエがそれを理解していないと思えないが、理解した上でやってるのか?」
「冒涜?何言ってんスか。
アンタらが彼にしてることの方がよほど人の尊厳を踏みにじるような冒涜に等しい行為じゃないスかね」
「当然のことをしてるだけだ。
「姫神」の血を流し、「姫神」の名を語る一方でそこに属する多くの人間を危険に晒すような真似をしてるのはアイツだ」
「オマエらがアイツに頼りっぱなしだから情けない結果を招いた。
それなのにオマエらはアイツに全てを押し付けるのか?」
「オマエは黙ってろ。
オマエは所詮は姫神ヒロムの中に埋め込まれた後付けの存在、そのオマエが口出しするな」
「その後付けされた男に事実を告げられたくないってか?
ずいぶんと都合のいい野郎だな」
獅童の言葉に言い返すゼロは彼を睨み、ゼロに睨まれる獅童もまたゼロを睨んでいた。
睨み合う二人、二人が睨み合う中カルラは獅童にある事について問い訊ねる。
「獅童、ひとつ聞きたいんスけど教えてもらえますよね?
羽咲チカや蝶羽ユカリ、他三名についてもですが……彼らの保護者が数日前にわざわざ彼の前に現れて彼女たちとの接触を断るような申し出をしたのはアンタか「月翔団」の誰かが関与してんスかね?」
「何が言いたい?」
「タイミングの問題スよ。
何故このタイミングで彼女たちの保護者は彼との接触を避けようとしたのか。
姫神愛華の誕生日のパーティーが荒らされた時点でその判断はできたはずっスよね。
でも彼女たちの保護者はそうしなかったし、これまで通り彼女たちを彼と会わせていた。
そのはずなのに、リゾートから戻った途端に掌を返したかのように彼から遠ざけようとした。
……何故なんスかね?」
「それはオレの預かり知らぬ話だ。
そして団長や「月翔団」の団員も関係ない。
そんな話を今更して何になる?
姫神ヒロムに関与していればいずれは自分の子どもが危険に晒される、そう判断したから遠ざけたと考えるのが普通だ」
「でもそれだとおかしいッスよね。
オレの話した内容を掘り下げるなら彼女たちが彼と一緒に行動できていたのは彼と一緒にいれば敵が現れても守ってくれると考えていたからとも取れるのに、なんで被害を受けることばかり話してるんスかね」
「それはオマエの勝手な妄想だ。
それにその話を今ここでしても何も……」
「話されるのがまずかったんだろ。
ヒロムやオレたちが知る姫神愛華が犯した罪が自分たちの知らぬところに広められるのが怖かったんだろ」
カルラの振った話題を早々に終わらせようとする獅童の言葉を途切れさせるとゼロは問い詰めるように獅童に言葉をぶつける。
「姫神愛華は「無能」と呼ぶことでヒロムの中の真価を目覚めさせようとした飾音とともに行動する中で飾音の思惑通りにいかずに闇を抱えるヒロムを助けようとして人工生命を生み出し、挙句の果てには「竜鬼会」のリーダーであるゼアルに力を与えるような真似をした。
つまり「竜鬼会」の一件はオマエらが姫神愛華を野放しにして引き起こしたことであり、ヒロムはその後始末をさせられたんだ」
「何も知らないくそに偉そうに話すな。
オマエたちの暴れた後の後始末は誰がやってると思ってる?」
「少なくともオマエらじゃないのはたしかだ。
あの騒動の後始末をしてるのは「十家」、オマエらはヒロムを危険視して命を狙うだけだ」
睨み合うゼロと獅童。カルラは話の進まぬ中で獅童に真実のみを話させようとする。
「獅童、事実を教えてくださいっス。
アンタら「月翔団」や「姫神」はもはや言い逃れできないところまで来てるんスよ。
今話さないのならこの先も話す機会はないまま終わるっスよ」
「……裏切り者に話すことは無い」
「そっスか。
なら、ゼロが言ってたようにアンタらは姫神愛華の犯した罪が第三者に知られたくないがために彼女たちを引き離し、そして彼を殺そうとしている、そう解釈させてもらうッスよ」
確認するように問うカルラ。
そのカルラの言葉を受けた獅童はため息をつくと黙り、獅童が黙るとゼロは舌打ちをすると灰色の稲妻を出現させると刀に変化させて装備して切っ先を獅童に向ける。
刀の切っ先を獅童に向けるとゼロは彼を強く睨みながら彼に告げる。
「答えないならその首を切り落とす。
オマエら「姫神」や「月翔団」がそうやって互いに罪を認めずに黙認するなら……存在する価値もない」
「……斬りたいなら斬ればいい。
ただし、斬ればオマエが望む真実は聞けなくなるぞ」
「答える気がないヤツから聞く時間が無駄だ。
オマエがダメなら他のヤツらから聞く、それでもダメなら……「姫神」の人間である導一か蓮華から無理にでも聞き出す」
「……何?」
ゼロが「姫神」の人間である導一と蓮華の名を出すと獅童の声色が変わる。
殺意を秘めたかのような声色、獅童のゼロを睨むその目はこれまで見せないような強い眼差しとなっていた。
そして獅童はゼロを強く睨みながら彼の言葉に反論するように言葉を発していく。
「自警組織である「月翔団」への攻撃はまだしも、無抵抗に近いあの二人に手を出すのがどれだけ卑劣か理解してるのか?
オマエがやろうとしていることは戦争にも近い、無実の人間を虐殺するのと同じことだ」
「無実の人間?
寄って集ってヒロムを殺そうとしてたくせにこんな時だけは他人ってか。
都合よく罪を擦りあって責任転嫁して楽しいってことなんだろ。
……そんなヤツらに今更無関係もクソもねぇんだよ」
「ゼロの言う通りっスよ。
アンタがいくら庇ってもこっちは真実を語らせるためなら容赦なく攻撃するっス。
彼を見捨てておいて身の安全を求めようなんて都合のいい話、今更期待しないことっスね」
「期待だと?
オマエたちは何を勘違いしている?
ただ身勝手に戦って暴れてるだけのオマエたちは何も偉くはないし、オマエたちの存在は蛮族としていつか世間から追放される。
自衛のためかしらないが、オマエたちは好き勝手に暴れすぎている。
そんなオマエたちが今更何をしても世間は関心すらしない」
「今この話に世間なんて関係ないっスよね。
アンタが真実を話すかどうか、それだけが重要なんスから……」
それはどうかな、と獅童はカルラの言葉を最後まで聞かずに言葉を返し、そしてゼロとカルラにある事実を突きつけるように話していく。
「オマエたち「天獄」はどこにも属すことなく姫神ヒロムが「姫神」の人間だったという理由から「姫神」に間接的に属している扱いを受けていた。
だが姫神ヒロムとゼロの二人の奇襲とその際に姫神ヒロムが「姫神」から離反することを宣言したことによりオマエたち「天獄」は今やどこにも属さぬ組織となった。
そんなどこにも属さない組織が「姫神」という家を攻撃してみろ、オマエたちのような無所属は一瞬で目の敵……テロリストとされて終わるのがオチだ」
「 最初からそれを利用するつもりでオレたちと話していたんスか」
「そうだ。
現にオマエたちが助かる道は……」
「その程度の脅しかよ」
獅童の言葉を聞いて呆れながらため息をつくゼロ。
そのゼロは不敵な笑みを浮かべると獅童に対して彼や「月翔団」が知らぬであろう事実を伝える。
「オレたち「天獄」はたしかに「姫神」を脱した無所属だ。
だが、今も無所属だなんて誰が言った?」
「何? 」
「残念な話だが、オマエらの出方次第ではこっちは後ろ盾を使って世間から消すことも可能なんだよ。
あの「十家」嫌いのヒロムが「七瀬」に姫神愛華の身柄を引き渡したことでオレたちは「七瀬」の傘下にあるんだからな」
「なっ……「七瀬」の傘下だと!?
愛華様を……取引に使ったのか!!」
「そりゃ「竜鬼会」の件の引き金になるような真似をした女だ。
然るべき罰を受けさせるべく引き渡したに過ぎないし、オマエらがヒロムを見捨てたせいで世間がアイツを迫害する日常が生まれたから「七瀬」が声をかけてきたのさ」
「そういう事っスよ、獅童。
アンタらがどんな算段で動こうと関係ないんスよ。
だって……「七瀬」の傘下にある組織に先に手を出したのはそっちなんスからね」
「……ッ!!」
ゼロとカルラ、二人の言葉に獅童は驚きを隠せず、そして突然の展開に動揺していた。
そんな獅童に向けた刀に稲妻を纏わせながらゼロは獅童に忠告した。
「オマエらの上層部に伝えとけ。
先に手を出してきた落とし前をつけさせてやるから覚悟決めとけってな」
「貴様ら……許さんぞ!!」
ゼロの言葉を受けると獅童は怒りを抑えられずに魔力を纏ってゼロとカルラに襲いかかろうとするが……稲妻を纏わせた刀を振るとゼロは獅童に無数の斬撃を食らわせて倒してしまう。
斬撃を受けた獅童は倒れ、獅童が倒れるとゼロは刀を消して倒れた獅童に向けて言葉を発す。
「……まぁ、「七瀬」の傘下になくてもオマエらは倒す。
ヒロムを怒らせたオマエらが悪いんだからな」




