五七五話 シンギュラリティツール
シンギュラリティ。
能力者がある領域に達することで本来は発動し得ない力を覚醒させ、そして能力者としての本質を高次元へと導くことが可能となった能力者はシンギュラリティの能力者と呼ばれる。
さらにシンギュラリティの能力者が限界を超えて完全な覚醒を遂げることをシンギュラリティの覚醒と呼ぶ。
このシンギュラリティ、もう一つの意味がある。
本来ならばこちらの意味の方が一般的で有名な話だ。
人工知能研究の世界的権威である学者が提唱した未来予測の概念のもと一つの仮説が想定される「人工知能が人の能力を超える時点」を指すのがシンギュラリティだ。
未来学上の概念たるこのシンギュラリティの考え、人工知能たるAIが人を超え、いつしか人工知能が人を管理する未来もあり得ると提唱される仮説、それこそがシンギュラリティだ。
技術的特異点、能力者が全てにおいて常軌を逸した力を得て進化するように人工知能も人の理解を超えて進化を果たそうとする。
そしてその進化を……
***
「確証が持てずに頭の片隅でモヤモヤしてたのが今のでハッキリした。
コイツらの狙いは……デバイスシステムをシンギュラリティに到達させることだ」
ヒロムの口から話される衝撃の内容、その内容にガイたちは驚きを隠せなかった。
だがソラはヒロムの話を聞く中で彼の言葉の中の疑問を彼にぶつけてしまう。
「シンギュラリティってのは能力者が達することを指すんだろ?
なんでデバイスシステムでシンギュラリティの話になるんだ?」
「元々シンギュラリティってのは能力者に対しての言葉ではなく、技術的特異点に達する人工知能の未来予測の仮説の一つの名称だ。
オレたちは葉王からシンギュラリティの能力者の話を聞いたせいでその当たり前なことを忘れてたってだけだ」
「いや、んな話普通は知らねぇぞ……」
「え?
ソラは知らないのか?」
当たり前のように話すヒロムにソラは彼のその態度に呆れながら言うが、何故か知っているイクトは驚いた様子でソラの顔を見ていた。
イクトの態度と言葉に若干ソラはイラッとしてしまい、イラつく中でソラはガイとシオンも知識としてそれを知ってるのか確認するように視線を向け、視線を向けられた二人は知らないらしく首を横に振った。
知らないのは自分だけではないと確認したソラは視線をヒロムの方に戻すと彼に質問をした。
「知ってる知らないは別として、オマエは何で確証が無いとかでこの話をオレたちにしなかったんだ?
知ってたら知ってたでこんなことには……」
「葉王の言葉が頭を過ぎったからさ。
葉王はオレにシンギュラリティの話をした時、わざわざ関係ないと言いながらも人工知能に関することでもあることをオレに話したんだ。
今必要ない情報を何故オレに話したのか、もしかしたらアイツらのデバイスシステムと関係があるからあの時あえて話したのかって考えたんだよ」
「けど関連性がハッキリしないから話さなかったのか?」
「ヘヴンが「クロス・リンク」、オウガが「ソウル・ブレイク」をデバイスシステムを介して発動させ、スローネが現れる時はシンギュラリティの能力者が狙われる。
そこまでくればデバイスシステムとシンギュラリティは関係があると思えたけど、本当にそうなのかを確かめたかった。
それに、ヤツらの協力者のリュクスがいると考えればその点を怪しむことは容易だった」
「そうか。
シンギュラリティの能力者について詳しいのは「一条」の人間、その一人であるリュクスが協力しているカリギュラはシンギュラリティの話を聞いている」
「シンギュラリティの能力者には他にはない気配を発することを逆手に取ってオレたちを探し当てるようなヤツらだ。
だから……」
そういうことかよ、とソラはため息をつくとなかなか話そうとしなかったヒロムの考えについて最後まで聞かずにある事を伝えた。
「どうせオマエのことだから考えがあるとは思ってたけど、そこまで深く考えてたとはな。
けど、こっちにはオレたちもいる。わざわざ一人で悩むくらいなら少しは頼れよ。
頭悪いなりに手ェ貸すからよ」
「だからソラには好きに戦ってもらった。
おかげで……デバイスシステムもシンギュラリティに達することが分かった」
ソラの言葉に対してヒロムは言葉を返すとスローネに刀を突きつけるように構え、ヒロムが構える中スローネは剣を握り直すと彼に言った。
「さすがは姫神ヒロム。
その観察力と推理力、そして知識量。
やはりキミは革命の戦士に相応しい逸材だ」
「オレとしてはオマエの言うその革命の戦士ってのが何なのか分からないのが気に入らない。
何を指してどうしてそう呼ぶのか……オマエの思惑の中にあるその部分だけがハッキリしないんだよ」
「何故だい?」
「葉王の話からしてオレはゼロを改めて宿したことでシンギュラリティに到達した。
だがオマエはその前にオレの前に現れてシンギュラリティに達していないはずのオレのことをそう呼んでいた。
オマエの狙いがシンギュラリティの能力者なら、シンギュラリティにまだ到達していなかったオレが該当するはずがない。
なのに何でオマエはオレのことを革命の戦士って呼ぶ?」
「知りたいか?」
「ここまで話させたんなら教えろ。
オマエの言う革命の戦士ってのは何を指してどういう意味があるのかをな」
「デバイスシステムのシンギュラリティ到達が狙いだということを見抜いた褒美としてはその程度の情報は安い代償だ。
いいだろう、話してあげよう」
革命の戦士、そのワードが何を意味しているのかを説明させようとヒロムはスローネに要求し、スローネは何やら面白そうに話そうとした。
「革命の戦士、その名の通りこの状況を変えるだけの力を持つということ。
そしてキミの存在こそが我々の目的ほ完成を手助けしてくれる大きな存在となるからこそその名前で呼んだ。
我々の協力者はキミとキミの中で目覚めたクロムのどちらかが主人格としての完全な主導権を握ればシンギュラリティの能力者に達し、そしてシンギュラリティの鍵となると話した」
「シンギュラリティの鍵?」
「シンギュラリティの能力者はその領域に到達する可能性のある人間を意識せずとも導く特性がある。
だが姫神ヒロム、キミはその特性を異常なまでの強さで発揮してしまう。
相馬ソラ、鬼月真助、東雲ノアル……この三人は同じ場所、同じ日にシンギュラリティに到達している。
そう、キミが導いたからだ」
「適当なことを……」
「適当などではない、黒川イクト。
姫神ヒロムの精霊は精霊としての本質を超えた真理の精霊へと進化している。
宿主がシンギュラリティに達したように精霊も変化を遂げた、精霊のその変化がシンギュラリティの到達と同等の証となり、その証が姫神ヒロムのシンギュラリティの能力者の資質と呼応することによりシンギュラリティの到達者を増やそうとして我々カリギュラの目的を手助けしてくれているのが現実だ」
シンギュラリティの能力者は他者をその領域に導こうとする、その特異性をヒロムは異常な強さで発揮してしまっていること、そしてそれこそがカリギュラの目的を手助けしているとスローネは言うのだ。
シンギュラリティの到達、それは意識して到達出来るものではなく、その領域に達することの出来る資質を持ちし者が偶然そこに至ることで開花する才能とも呼べるものだ。
そしてそこに達したものはどういうわけか同じように達する可能性があるものを導こうとする。
ヒロムにはその力が強く備わっていると言う。
防ぎようがない、その力はヒロムが意識しなくとも無自覚に他人を導いていく。
そんな力を制御するのは不可能だ。
それをスローネたちカリギュラは利用しようとしている。
防ぎようのない所を敵に利用されていることを知ったガイたちは驚くと共にどう対処していいか分からない状況でどうすべきなのかを考えてしまうが、ヒロムは彼らとは違って何故かアクビをしていた。
「ふぁ〜……」
「どうした姫神ヒロム。
手の打ちようのない話を聞かされて現実から目を背けるのに必死か?
キミがそんなことに必死になっても我々の……」
「その程度の話かよ」
スローネの言葉を遮るように言葉を発するヒロム。
そのヒロムの言葉を聞いたスローネは彼の言葉に耳を疑ってしまう。
「その程度とはどういう意味だい?
キミは強くなり、そしてシンギュラリティに到達したことで我々カリギュラが利用しやすい存在となったんだぞ。
自分の置かれた状況を理解したはずなのに、その程度とはどういう意味だ?」
「期待外れなんだよ、話が。
別にシンギュラリティが他人をそうさせるって話は葉王から聞いてたし今更驚かねぇし、オマエらがシンギュラリティに達した能力者を狙ってるのなんてこれまでの動きを考えたらすくわに予想出来ることだ。
たかだかその程度のことを今更話されたって思うとガッカリするしかねぇだろ」
「期待外れ、だと……?
我々の目的を知らず止めることも出来ない力しか持たぬキミたち「天獄」なんかより遥か先を行く我々カリギュラの目的と行動が期待外れだと言いたいのか!!」
「そうだよ。
オマエは期待外れだ。だから……すぐに終わらせてやるよ」
ヒロムの言葉にスローネが怒りを露わにしながら声を荒らげるようにして叫ぶとヒロムは落ち着いた様子で言葉を返し、そして手に持つ刀に紫色の稲妻を強く纏わせるとそのまま刀を地面と水平になるように構える。
「言っておくがオレはソラのように時間制限なんてねぇ。
だから……楽しみたいなら抵抗しろ」
スローネに向けて言葉を告げるとヒロムは稲妻をさらに強くさせながら地面を蹴り、地面を蹴って走り出したヒロムは一瞬でスローネに接近すると刀の連撃を放ってスローネの鎧に命中させていく。
「ごっ……!?」
ヒロムが速すぎたのかスローネは反応が遅れてしまい、それによって防御が出来ず連撃を受けて怯んでしまう。
連撃を受けて怯むと続けてヒロムは身に纏う稲妻の一部を蛇に変えながらスローネに連撃を食らわせながら蹴り飛ばし、出現させた蛇の口を開かせると次々にビームを放ってスローネを追い詰めていく。
「ぐぉぉぉぉ!!」
放たれるビームを次から次に体に受けてしまったスローネは倒れてしまい、スローネが倒れる中ヒロムは刀を構え直すと告げた。
「まだ終わりじゃない。
オレを……オレたちを楽しませろよ」




