五七四話 リセットツール
「さて、お手並み拝見もここまでだ」
ソラの力によって追い詰められたはずのスローネ。
だがそのスローネはソラの猛攻を受ける直前の無傷の状態に戻っており、そしてスローネ自身も何事も無かったかのように平然としていた。
そのスローネの状態にソラは驚きを隠せなかった。
「オマエ……何で立ち上がれる……!?」
「さぁ、何故だろうね。
最初はキミの力が予想を超えすぎていて驚かされたが、おかげでいいデータが取れたよ」
「データだって?
オマエの企みはオレとソラが……」
「それは違うな黒川イクト。
たしかにキミと相馬ソラはオレの狙いである「炎魔」の炎のデータのラーニングを阻止しようとラーニング装置を破壊した。
だが、キミたちの愚かなところはラーニング装置があの一つだけだと勘違いしていたことだ」
「あの装置が他にもあったってのか!?」
「だとしても妙だ。
オマエはソラの「オーバードライヴ」の力を前にして追い詰められていたはずだ。
負傷もして鎧も損傷していたはずなのに何で今は何事も無かったかのように立ってられる?」
「それこそ愚問だな紅月シオン。
キミたちは攻撃を受ければ誰しもが必ず負傷すると勘違いしてないか?」
「どういう意味だ?」
「まさか……ソラの攻撃によるダメージを全部無かったことにしたのか!?」
「その通りだ、黒川イクト!!
今さっき完成したばかりの新たなシステムを用いてデバイスシステムをアップグレードさせたことによりオレはダメージを無かったことにする力を得たのさ」
ダメージを無かったことにする力、それを聞いたソラたちは驚きを隠せなかったが、話を聞いていたガイはある疑問を抱いていた。
「おかしなことを言うな。
ダメージを無かったことにする力、それが今さっき完成したとオマエは言ったが、何をどうやって完成させたんだ?」
「質問が多いな、キミたちは。
キミたちがオレを足止めしてくれている間にデータが集まっていたのさ」
「オレたちが足止め?
わけのわからないことを……」
スローネの言葉の意味がわからないガイはただ単に敵がわけのわからないことを口にしているだけだと思ったが、わけのわからないことを口にしているとスローネの言葉を片付けようとしたその時、ガイは敵が言っている「足止め」という点に該当すると思われる事に気がついてしまう。
「まさか……ヒロムがオウガと戦ってる間にオレたちがオマエを倒そうとしてたのは、全部オマエの狙い通りだったのか!?」
「正解だ、雨月ガイ。
姫神ヒロムがオウガと戦うことにより、オウガは姫神ヒロムの最新のデータをデバイスシステムに蓄積でき、その蓄積されたデータをネットワークを通じてオレのデバイスシステムが受信する。
元々あったデータを流用するだけでなく、最新のデータを組み込むことにより技術とは更なる発展を遂げていく」
「だが何故ヒロムのデータがオマエの受けたダメージを無かったことにする力に関係することになるんだ?
ヒロムの精霊の治癒能力を狙うとかならまだしも……」
「治癒能力など不要なんだよ」
ガイがスローネの言葉を不思議に思っているとヒロムが倒したはずのオウガぎ立ち上がる。
立ち上がったオウガの鎧にもあったはずの外傷はなく、そしてオウガ自身もスローネ同様にダメージを受けていないかのように平然としていた。
平然と立ち上がったオウガ、そのオウガの姿にガイは何故スローネがヒロムのデータを狙っていたのか気づいてしまう。
「そうか……どれだけ精霊の力を借りようとヒロムの基本は物理的な攻撃。
あえてヒロムが使う「ソウル・ブレイク」の力を持つそいつと同じ力を使って戦うように仕向け、その上でシンギュラリティの到達の先にある覚醒に至ったヒロムの力を測ったってことか」
「さすがは冷静な剣士。
そこまで見抜くとは素晴らしい。
そう、キミが見抜いたようにオレの狙いは姫神ヒロムの素のスペックだ。
能力を持たぬはずの彼は能力者を圧倒するほどの身体能力を持ち、その高い身体能力はたとえキミたち能力者が限界を超えて力を発揮しても覆せぬほどの強さだ」
「つうかダメージを無かったことにする力って言い方がおかしいんだよスローネ。
この場合はダメージを無効化するって言い方の方が正しいだろ」
「その言い方だと単純すぎるだろ、オウガ。
やはり彼らを絶望させるには想像の域を超えるほどの言葉で追い詰めないと面白くない」
スローネとオウガ、先程まではヒロムやソラの活躍で倒し追い詰めた相手だというのに、形勢は逆転してしまった。
スローネの話が事実ならソラの新たな力「オーバードライヴ」の力ではスローネはダメージを受けないということになる。
そしてヒロムの力がベースになっているのなら、当然の事ながらヒロムの力すらダメージにならない可能性がある。
それを何気なく告げられたガイは危機感を抱き、そして焦りを感じていた。
スローネを何とかして追い詰めようとしたソラは自身の力の反動でもはや動けないと判断した方が早いし、ガイやイクト、シオンの今の力ではおそらくソラの力を超えることは不可能でありスローネにダメージを与えるのは困難と判断されてしまう。
もはや打てる手は残されていない。
そう感じていたガイの隣でヒロムは首を鳴らすとスローネに言った。
「要するに今のオマエらは簡単には倒れねぇんだろ?
何回か倒してようやくオマエらがくたばるなら……オマエらが倒れるまで攻撃すれば済む話だ」
「理解していないのか、姫神ヒロム。
今のオレたちはダメージを無かったことにすることが出来る。
キミたちがどれだけ必死になってもオレたちには……」
「勘違いしてんのはオマエらだな」
スローネの言葉を遮るようにヒロムは言葉を発する。
そのヒロムの言葉にスローネは彼が何を言いたいのか分からないのか首を傾げ、スローネが首を傾げているとヒロムはスローネに言った。
「オレはまだ本気じゃねぇし、オマエ如きがオレの本気を簡単に理解できると思うな。
オレの力はオマエらの理解の外にある」
「理解の外?
キミも所詮は人間、自分のことは自分しか理解してないと勘違いしてそんな言葉を使うなんて……」
「悪いがオレたちの事をオマエが理解するなんて不可能だ。
オレは……本質からオマエらと異なる人間だからな」
「オレたち、か。
キミたち「天獄」の事など我々カリギュラが知らぬはずがない!!」
ヒロムの言葉に呆れ気味でため息をつくとスローネは剣を構えて走り出し、スローネが走り出すとオウガは紫色の稲妻を纏うと拳を強く握りながらスローネに続くように走り出す。
スローネとオウガ、二人の敵が走り出す中で紫色の装束と「ソウル・ブレイク」の力を身に纏うヒロムは精霊・ラミアの武装であり選ばれた精霊にのみ与えられる霊装である刀を構えると紫色の稲妻を纏わせる。
「だから、何勘違いしてんだよ」
何故か呆れ気味で言葉を発するヒロム。
そのヒロムは言葉を発するとともに姿を消し、そして走ってくるスローネの背後に現れると刀で斬りかかろうとする。
が、スローネはヒロムが背後に現れたのに気づくとすぐさま振り向いて剣を振って刀を防ぎ止める。
「勘違い?
今度は何についてだ?」
「オレは一度も「天獄」の名前なんて出してねぇ。
オレはただオレたちとしか言ってない」
「ならば何も勘違いなどしていない。
キミの言うオレたちと言うのは「天獄」のことでそういな……」
「本質から違うんだよ、オレたちは。
一でしかないオマエらと一でしかない器に宿るオレたちではな」
「まさか……」
「オレは最初からオレの話をしてたんだよ」
スローネの剣を押し返すとヒロムはスローネを蹴り飛ばし、ヒロムは刀を握り直すと紫色の稲妻を無数の蛇の形に変化させてオウガに向けて放つ。
放たれた蛇の形の稲妻を前にしてオウガはその身に纏う稲妻を強くさせるとそれを迎え撃とうと拳を構える。
「オマエの力はすでに把握している!!
そしてオマエのデータを元にしたダメージの無効化の力をデバイスシステムが搭載した今、オマエの力は通用しない!!」
ヒロムに対して強気な発言をするオウガは迫り来る蛇の形の稲妻を拳で殴り潰していき、全ての稲妻の蛇を拳で破壊した時オウガはヒロムを倒すべく彼に迫ろうと……したが、オウガが次なる行動に移行しようとしたその時にはヒロムはオウガの目の前まで移動しており、そしてヒロムは紫色の稲妻を纏わせた刀を振り下ろしてオウガに斬撃を食らわせる。
刀による一閃、その一閃はオウガの鎧を深く抉るように削り、そして鎧の下の肉体にまで刃が達していたのか抉られた鎧こ破損部からは血が流れ落ちる。
「は……?」
「オマエら如きがオレの力を理解するなんて不可能なんだよ」
自身の鎧が抉られ出血する状況に驚くオウガに冷たく言葉を告げるとヒロムは更なる一閃を放ってもう一度オウガの鎧を斬り抉り、二撃目を受けたオウガは纏っていた紫色の稲妻が消滅して倒れてしまう。
「オウガ!!」
「残るはオマエだ」
オウガが倒れるとスローネは彼の名を叫ぶが、スローネが叫ぶ中ヒロムは殺気を秘めた鋭い瞳でスローネを睨むと刀を強く握りながら走り出す。
走り出したヒロムは身に纏う稲妻を強くさせながら走るそのスピードを上げていき、目にも止まらぬ速度に達したヒロムは一気に距離を詰めるとスローネに一閃を放とうとした。
だが、スローネは剣に魔力を強く纏わせて一閃を放つことでヒロムの一撃を止め、ヒロムの一撃を止めた剣はその一撃の重さに耐えられなくなったのか壊れてしまう。
「くっ……!!」
剣が破壊されたスローネは右手をヒロムに向けてかざすと衝撃波を発生させて彼を押し返すが、ヒロムは体勢を崩すことも無くすぐに着地して刀を構える。
刀を構えるヒロムに対してスローネは新たな剣を出現させて装備し、スローネが剣を装備するとヒロムは彼にある話をした。
「頼みのデバイスシステムが役に立たなくて残念だったな、スローネ。
それとも、シンギュラリティの能力者の情報が不足してるせいでまともに機能しないのか?」
「キミの想定外の力に驚いただけだ。
本番はここから……」
「シンギュラリティに達していないようなデバイスシステムでオレを倒せるのか?」
スローネの言葉を遮るように発されるヒロムの言葉。
それを聞いたスローネは思わず動揺してしまう。仮面に隠された素顔からは感情は読めない、だがそれでも分かるほどにスローネは動揺していた。
そしてガイたちもヒロムの言葉に困惑を隠せなかった。
「どういう意味だ、ヒロム……?」
「確証が持てずに頭の片隅でモヤモヤしてたのが今のでハッキリした。
コイツらの狙いは……デバイスシステムをシンギュラリティに到達させることだ」




