五七三話 イフリート・ドライヴ
「これでようやく試せる」
スローネを吹き飛ばしたソラはイクトの言葉に答えるように言うと武装として纏っていたリスの精霊・ナッツと二丁の拳銃に変化させていた子猫の精霊・キャロとシャロを元の姿に戻させると炎に変化させて自身の中に戻らせる。
影の中から飛び出してきたヒロムの精霊と同じ武器である銃剣を地面に突き刺すとソラは深呼吸をする。
そのソラの行動に吹き飛ばされたスローネは立ち上がる中で彼に問う。
「試す?何をだ?
オレの狙いを見抜いてラーニングを阻止した程度で何か変わるのか?」
「オマエが言ったんだろ。
今のままじゃオマエは倒せねぇってよ」
スローネの言葉に言い返すとソラは静かに炎を纏い、纏った炎を徐々に紅く染め上げていく。
紅く染まる炎は激しく燃え盛り、激しく燃える炎を纏うソラは目を閉じると意識を集中させていく。
意識を集中させる、その瞬間紅く染まり激しく燃え盛っていた炎は荒々しく燃える一方で時折荒々しさとは真逆の静かな燃え方を見せる。
荒く、時に静かに燃える炎。その炎が普通とは異なると咄嗟に判断したスローネは警戒すると同時にソラに問う。
「その炎は何だ?
何故時折炎が静かになる?」
「質問すれば答えると思ってるのか?
悪いが敵に語る言葉は何も無い」
「優しくないね。
でも、どれだけ炎を燃やしてもオレは燃やせない。
キミがキリスとの戦いでシンギュラリティに到達して放った攻撃をベースに我々カリギュラは炎に対する新たなシステムを構築してデバイスシステムに搭載した。
この搭載されたシステムを起動させれば、キミは自我を失って暴走して炎を放たない限りはオレを燃やすことは出来ない。
だからオレはそれを踏まえた上でキミの炎について予め知って通用するかどうかを教えようと思っ……」
「オレが敵の言葉を信用すると思うか?
オマエのそれがハッタリか時間稼ぎかどちらでもない事実を述べてるだけかはオレには知る余地もないことだが、オマエをどう倒すかはオレが決めることであってオマエがとやかく言うことではない」
「強がりはよせ。
キミのその虚勢を張るその姿勢、この状況とオレのこのトランスクロスの前では無意味だ。
無駄に負傷して死ぬよりは簡潔に命を終わらせた方が楽だぞ」
「そうだな……だから、抵抗するなよ」
スローネの言葉にどこか賛同するような口振りの一方でソラは彼に向けて冷たく言い放つと炎をさらに大きくさせる。
大きくなった炎、その炎はこれまでに見せたことがないほどに大きく燃え上がっていき、そして天高く昇るかのように燃え上がると次の瞬間にはソラの中へと吸収されていく。
「オーバードライヴ……!!」
オーバードライヴ、ソラがそう言葉を発すると彼に吸収された紅い炎は爆発したかのように彼の体から溢れ出し、炎が溢れ出す中でソラの姿が変化していく。
オレンジ色の彼の髪は紅へ染まると長く伸びて炎のようになり、全身からは何やら紅い炎のようなものが吹き出し、額には炎で出来た二本の角、炎の尻尾を出現させると両手両足を紅い炎で武装していく。
炎を全身に纏い、そして炎で全身を武装していくソラ。
そのソラの姿にスローネは予想すらしていなかったのか動揺を隠せなかった。
「な、何だ……その姿は……!?」
動揺を隠せず、そしてソラが何をしたのか理解が追いつかないスローネの思考がまとまらない中、ソラは瞳を開けてスローネを視界に入れると首を鳴らした。
首を鳴らしたソラは視界に入れたスローネを鋭い眼差しで睨みながら告げた。
「あまり時間はかけられない。
だから……早々に終わらせるから抵抗するなよ」
「抵抗?
抵抗も何もキミの力では……」
ソラの告げた言葉にスローネは呆れ気味で彼に向けて何か言おうとした、が……ソラはそのスローネが何かを言おうとする最中に炎となって消えるとスローネの背後へと瞬時に移動し、移動したソラはスローネが気づく前に彼を殴る。
ガイやイクトの一撃を何かで止めて弾き返していたスローネだったが、背後からの不意な攻撃だったからか反応出来ずにそれを受けて仰け反ってしまう。
「!?」
「ドラァ!!」
仰け反るスローネに立て直す時間を与えぬようにソラは連撃を放っていき、放たれた連撃は炎を纏ってスローネを襲っていく。
不意打ちとは違いスローネ自体この連撃が迫ってくることは認識できているはずなのにスローネは連撃を止めることも出来ずにその体に受けてしまう。
「バカな……!?
トランスクロスの防御を上回っ……」
攻撃を受けるスローネはソラの力に困惑を隠せなかったが、ソラはスローネの事など構うことなく次々に炎を纏った連撃を叩き込んでいく。
放たれるソラの連撃、その全てが炎を纏いてスローネに命中し、連撃を受けたスローネは先程まで余裕を見せていた鎧の剣士と同一人物とは思えないほどに追い詰められていた。
「バカな……何故だ!?
何故トランスクロスの出力が彼の炎に対処出来ていない……!?」
「ドラァ!!」
「させるか……!!」
動揺し続けるスローネにソラは更なる一撃を食らわせようとするが、スローネは剣を強く握って魔力を纏わせながら構え直すとソラの一撃を剣で防ぎ止める。
炎を纏った一撃を止めた剣、だがその剣が纏っていた魔力はソラの炎によって焼かれ、魔力は次第に小さくなるとそのまま消滅してしまい、魔力を纏っていた剣は魔力を焼き消した炎を直で浴びてしまうと炎の熱を受けて赤みを帯び、そして熱を蓄積するとともに刀身が砕けてしまう。
「なっ……」
「ゴラァ!!」
剣が砕けたことによりスローネの士気が下がったのか動きが鈍くなってしまい、動きが鈍くなったスローネの顔面をソラは紅い炎を纏わせた拳で思いっきり殴り、敵の顔を殴ったソラは続けてスローネの顔を何度も殴っていく。
炎を帯びた拳で殴られるスローネだが、そのスローネが纏う鎧は剣の時とは違ってなかなか壊れる気配がない。
炎を直で受けているはずなのに剣の時のように熱を蓄積していない。
その様子からソラはスローネが言っていた新たなシステムとやらが関係していると考えた。
「どうやら炎に対して効果のあるシステムってのは本当に完成させていたらしいな。
ここまで激しく殴ってんのにその鎧が燃えないってのは納得いかねぇけど、オマエ自身が炎を防げても物理攻撃を凌げないのならやり方はあるってわけだ!!」
ソラはスローネの鎧を燃やすのは難しくとも殴ることによりダメージを与えることは可能だということを再認識するとスローネを強く殴り、殴られたスローネはよろけながら押し飛ばされてしまう。
押し飛ばされたスローネは倒れるように何とかして耐えると新たな剣を出現させて装備して斬撃をソラに向けて飛ばす。
飛ばされた斬撃はソラに向かって飛んでいく中で力を増しながら無数に増えながらソラに迫っていくが、ソラは右手に紅い炎を集めると斬撃に向けて解き放つことで斬撃の全てを焼き消して自分への攻撃を防ぐ。
斬撃を焼き消したソラは首を鳴らすと足に炎を強く纏わせてスローネへと一瞬で距離を詰めると炎を纏わせた足で敵を蹴り飛ばす。
「がっ……」
「こんなもんか?」
蹴り飛ばされたスローネが倒れてしまう中でソラは両手に紅い炎を纏わせるとビームのようにスローネに向けて撃ち放ち、放たれた炎は激しく燃えながらスローネに襲いかかると敵を炎の中へと飲み込みながらさらに吹き飛ばしていく。
「ぐぉぉぉぉ!!」
放たれた炎に飲み込まれながら吹き飛ばされるスローネはソラから受けたダメージの上にさらにダメージを受けてしまったらしく鎧が一部損傷しており、損傷した鎧の一部の周辺はこれまで炎の影響を受けていなかった状態から一転して焼け焦げていた。
「くっ……耐炎機構が機能していない……!?
キリスとの戦いで彼が見せたシンギュラリティの力とそれが反映された炎をシステムのベースとしてるはずなのに……何故……!?」
「ナメてんじゃねぇぞ。
たかがデータ一つで全て賄えると思うな。
オレたち能力者は常に進化する、シンギュラリティに達したオレの進化は誰にも予測できねぇし止められねぇんだよ!!」
鎧の損傷に戸惑うスローネに対して自身の力に限界など無いことを告げるとソラは紅い炎を体から放出し、放出した紅い炎を頭上で球体にするとスローネに狙いを定めながらそれを飛ばそうとする。
「イフリート・ヘルブレイズ!!」
球体に変化させた紅い炎をソラはスローネに向けて飛ばし、スローネは立ち上がって魔力を纏わせながら剣を構えると球体状の紅い炎を迎え撃とうとした。
だが、スローネのその判断は間違いだった。
ソラの連撃を受け、紅い炎を何度も受けて損傷した鎧の内側にあるスローネ自身の肉体は鎧で見えぬだけであって既に疲弊して限界に達しつつあった。
ソラの力、今のソラの力がスローネの予期せぬ変化を辿り、そしてその結果として生まれた力にスローネは追い込まれていた。
その追い込まれている肉体の放つ一撃がソラの放った球体状の紅い炎を迎え撃てるわけもなく炎に消され、迎え撃てなかったスローネは紅い炎に飲まれてしまう。
「バ……カな……」
スローネを飲み込むと球体状の紅い炎は炸裂しながら爆炎を巻き起こし、爆炎を巻き起こす中でスローネの全身をさらに追い詰める。
爆炎を受けるスローネの全身の鎧は紅い炎によりひどく損傷し、部分的な焼け焦げは全体に広がっていた。
紅い炎の炸裂が止み、爆炎の勢いが無くなるとスローネは全身が焼け焦げた状態で膝をつき、スローネが膝をつくとソラは突然苦しそうに咳き込む。
咳き込んだだけではない、よく見れば目は充血しており、鼻と口からは血が流れ出ていた。
目頭にも血涙のようなものが窺える、手で口を拭って血の存在を認識したソラは舌打ちをするとスローネのように膝をついてしまう。
ソラが膝をつくとイクトとシオンが駆けつけ、二人はソラに対して声をかける。
「ソラ、ゆっくり解除しろ」
「その力を短時間であれだけ派手に使った反動だ。
ゆっくりと解いて体を落ち着かせれば直に負担も和らぐはずだ」
「あぁ……」
イクトとシオンの言葉に従うようにソラは深呼吸をしながら炎を消し、そして変化していた体も徐々に元に戻っていく。
姿が元に戻るとともにソラの顔色は若干良くなり、イクトはソラの顔色を見て安心したような様子を見せる。
……が、何も安心は出来なかった。
「……なるほど。
時間制限つきとはいえあれほどの力を持っているとはな」
ソラに追い詰められ、そして限界に達したはずのスローネが何故か立ち上がった。
ひどく損傷した鎧は彼が新たな力を発動した瞬間の状態まで戻っており、スローネ自身も何も無かったかのように立ち上がって剣を構えていた。
「なっ……!?」
「さて、お手並み拝見もここまでだ」




