五七〇話 紫色の感情
オウガを相手にしようとするヒロム。
そのヒロムは左手首の白銀のブレスレットに紫色の光を纏わせ、そして全身に紫色の稲妻を纏っていた。
そのヒロムの姿を見たスローネはオウガの後ろから彼に向けて言った。
「完全な「ソウル・ブレイク」とは大きく出たな。
キミがどれだけその力を使いこなしていようと今のオウガには及ばない。
彼のこの力にはキミたち全員のこれまでの戦闘から算出されたデータにより再構築された「ソウル・ブレイク」を内包している。
その力はキミがこれまで使用していた力の数十倍、もはやキミが纏う力を超えたオウガの力こそ……」
「その程度が数十倍ってんならオレの敵じゃねぇ」
「……何?」
「それに、どれだけオレを真似ても無理なんだよ。
その力の形はオレが……オレたちが不完全に引き起こした力の形、本来の形とは異なるからな!!」
ヒロムが叫ぶと彼の纏う紫色の稲妻が激しさを増すように強くなり、強くなった稲妻はヒロムの周囲を駆けるような動きを取る。
稲妻が周囲を駆けるように動く中でヒロムはブレスレットの纏う紫色の光を眩く光らせると周囲に放出する。
「闇に染まりし力、猛き誇り。
紫色の感情、全てを壊す傲慢なる意志を示せ!!」
ヒロムが叫ぶと紫色の光は形を変えるようにヒロムの体に纏われ、纏われた光は紫色の装束やグローブとブーツとなってヒロムに装備されていき、それらを装備したヒロムの瞳は普段のピンク色から紫色へと発光するように変化していく。
そしてヒロムの周囲を駆けるように動く紫色の稲妻は一つになると蛇の形となってヒロムに食らいつき、ヒロムに食らいつくと稲妻の蛇はそのまま変化して蛇の頭を模した両肩のアーマーとなる。
今までに見せたことの無いその姿、それを披露したヒロムにガイたちは驚き、ヒロムの姿の変化にオウガは警戒するように拳を構える。
が、スローネは違った。
「何をするのかと思えばお得意の精霊の力を纏う術じゃないか。
それが「ソウル・ブレイク」だとでも言いたいのか?」
「あぁ、これが完全な「ソウル・ブレイク」だ。
そんなに気になるなら……今から試してやろうか?」
「面白い。
その余裕、すぐに終わらせてあげるよ。
オウガ……殺せ」
「了解」
ヒロムの挑発を受けてスローネはすぐに彼の余裕にも近いものを終わらせようとオウガに指示を出し、指示を受けたオウガは頷くと身に纏う力を強めながら走り出そうとした。
走り出そうとするオウガ、そのオウガが一歩踏み込んだその時、ヒロムは音も立てずにオウガの背後へと瞬間移動した。
ヒロムが背後に現れたことにオウガはすぐに気づいて背後を振り向こうとしたが、オウガが振り向いた時にはヒロムはそこにはいなかった。
「どこ見てんだ?」
声がした、その方を見ようとオウガは体を動かそうとしたが、オウガが動こうとすると紫色の衝撃波がオウガに襲いかかって吹き飛ばす。
「!?」
衝撃波に吹き飛ばされたオウガは受け身を取ってすぐに立ち上がろうとするが、オウガが立ち上がろうとするとヒロムがオウガのそばに現れて蹴りを放つ。
放たれた蹴りはオウガに命中し、蹴りを受けたオウガが大きく仰け反るとヒロムは右手に紫色の稲妻を纏わせながら拳を強く握って拳撃を放つ。
放たれた拳撃はオウガに命中し、拳撃を受けたオウガは殴り飛ばされるとヒロムが先程展開した障壁に激突してしまう。
「がっ……!!」
「まだ終わらねぇぞ?」
障壁に激突したオウガが怯んでいるとヒロムは右手に纏わせた稲妻を解き放ち、解き放たれた稲妻は蛇の形を得るとオウガの体を縛ってヒロムの方へと投げ飛ばす。
オウガが投げ飛ばされるとヒロムは右脚に紫色の稲妻を纏わせながら高く飛び、自身へとオウガが接近すると体を縦に回転させた上で踵落としを叩き込んで敵を地面へと撃ち落とす。
「がはっ!!」
「オウガ!!」
ヒロムの一撃を受けたオウガが苦しそうにする中、スローネは彼を助けるべく走ろうとしたが、それを阻むように炎弾がスローネに襲いかかる。
襲いかかってくる炎弾を避けるとスローネは炎弾が来た方を向き、その先にいるソラが赤い拳銃「ヒート・マグナム」を構えながら告げた。
「オマエの相手はこっちだ、スローネ!!」
ソラが言うとシオンとガイがスローネへと一瞬で接近して攻撃を仕掛け、二人の攻撃を前にしてスローネは魔力を纏いながら応戦しようとする。
そんな中、オウガは立ち上がると全身に強い力を纏いながら雄叫びを上げてヒロムに殴りかかるが、ヒロムはそれをいとも容易く右手で握り止めてみせる。
「何故だ……!!
何故同じ力を使うオレが……!!」
「同じ?
言ったはずだ、オレのこの力は完全な「ソウル・ブレイク」だってな」
「ふざけるな。
力を増幅し続けるこの力、それに完全も不完全もないはずだ!!」
「あるんだよ。
どんなものにもそこには必ず何かしらの形で完成する道がある。
オマエのそれが不完全なその形で止まったように、オレのこの力は完全な形になる道を辿ったことで完成した!!」
オウガの拳を押し返すとヒロムはオウガの体に膝蹴りを食らわせ、ブレスレットから紫色の稲妻を放つとそれを精霊・ラミアの霊装であり武器でもある刀に変えるとオウガに連撃を食らわせていく。
連撃を受けたオウガは地面に膝をついてしまい、オウガが膝をつくとヒロムは刀に紫色の稲妻を纏わせて一閃を放つ。
「スターヴ・スラッシュ」
ヒロムが放った一閃は巨大な斬撃となって稲妻とともにオウガを襲い、斬撃と稲妻を受けたオウガは吹き飛ばされて倒れる。
倒れるオウガ、そのオウガに更なる一撃を食らわせようとヒロムは刀を地と水平に構える。
ヒロムの攻撃を受けたオウガは少なくとも鎧を纏ったその身に負傷を負っているはずだが、オウガは何とかして立ち上がると紫色の稲妻を強く纏ってヒロムの方……ではなく障壁に守られている生徒たちの方へと体を向けて肩の装甲を展開してマイクロミサイルを次々に発射していく。
「がァァァァ!!」
「……だから不完全なんだよ」
オウガがマイクロミサイルを放つ中でヒロムは呆れながら言葉を発して姿を消し、姿を消したヒロムは生徒たちを守る障壁の前に現れると刀を勢いよく振って強い風圧を生じさせてマイクロミサイルを飛ばすようにして軌道を逸らさせると爆破させていく。
「なっ……」
「オレに直接挑むならまだ可能性はあったかもしれない。
けどな、オレに背を向けるような真似をして守られてる人間を狙った。
その時点でオマエは……負けなんだよ」
「黙れ!!」
ヒロムを黙らせようとオウガはさらにマイクロミサイルを発射しようとするが、ヒロムは一瞬で接近すると刀を二度振ってオウガの両肩の装甲をマイクロミサイルごと破壊し、マイクロミサイルが破壊されたことにより巻き起こる爆発がオウガの鎧を追い詰めていく。
「がァ!!」
「力を増幅させる、そう言ってたならそれで挑んでこいよ」
「クソ……クソがァ!!」
ヒロムによって肩の装甲を破壊され、マイクロミサイルの暴発によって鎧が損傷したオウガはさらに強く稲妻を纏うとヒロムに衝撃波を放って彼を自分から引き離すように押し返し、ヒロムを押し返すとオウガは全身から闇を放出しながら闇を蛇の形に変えながらヒロムに狙いを定める。
「そんなに自分の力に余裕があるのなら、この一撃を受けろ!!
スターヴ・ディストピア!!」
オウガが叫ぶと彼の体からさらに闇が溢れ出してヒロムを捕らえようとし、ヒロムは体を闇に縛られるように拘束されてしまう。
闇にヒロムが拘束されるとオウガは彼を倒そうと蛇の形をした闇を撃ち放ち、放たれた蛇は迷うことなくヒロムに食らいつこうと向かっていく。
だが、ヒロムはため息をつくと全身に紫色の輝きを纏わせ、そして全身を紫色の粒子に変えて消える。
ヒロムが姿を変えた紫色の粒子は闇から抜け出すように広がっていく中で蛇の形をした光となって闇を食い消していき、そして光が一ヶ所に集まるとヒロムへと姿を戻す。
光から姿を戻したヒロムは刀を地面に突き刺し、そして全身に纏う紫色の輝きと紫色の稲妻を一つにするように意識を集中させていく中でヒロムはオウガを見つめるとゆっくりと体勢を低くしていく。
「オマエに教えてやるよ。
これが……オレの力だ」
迫り来るオウガの放った蛇の形をした闇に向けてヒロムは走り出すと稲妻を解き放ってオウガの放った攻撃を破壊し、敵の攻撃を破壊して消したヒロムは紫色の輝きを強く纏うと残像を残すように速度でオウガの周囲を駆けながら連撃を放ち、ヒロムが連撃を放つ中で彼が駆けた後にそこに現れた残像は稲妻を強く纏いながら高く飛ぶ。
無数のヒロムの残像がまるで意志を持ってるかのように高く飛ぶとヒロムはオウガを天へと蹴り上げ、ヒロムが天へと敵を蹴り上げると高く飛んだ残像は蛇となってオウガに噛みつき炸裂して敵に更なるダメージを与えていく。
追い詰められるオウガ、そのオウガの鎧は亀裂が入るまでに損傷しながら落下していき、落下する敵に向けて走り出したヒロムは両手に紫色の稲妻と輝きを纏わせていく。
「これが今のオレの力だ。
ユートピア・ブレイク!!」
纏わせた二つの紫色の力が一つになるとヒロムの背後に大きく口を開けたような蛇の形をした紫色の魔力のようなものが現れ、背後に現れる中でヒロムはオウガの体に両手で掌底突きを放つ。
掌底突きが放たれるとヒロムの背後の魔力の蛇が大きく開けた口を勢いよく閉じ、蛇の口が閉じるとオウガは鋭い刃で何度も抉られたような傷を負いながら吹き飛ばされる。
「がァァァァァ!!」
吹き飛ばされたオウガ、彼はヒロムの一撃の力の強さによって全身を襲うダメージに耐えられなくなったのか吹き飛ばされた先で倒れるとそのまま意識を失って起き上がらなくなる。
オウガが立ち上がらなくなった、それを確認したヒロムは一息つくとガイたちの方を見ようとした。
……が、彼がそうしようとした時スローネがヒロムの前に現れて剣を振り下ろして襲いかかる。
「!!」
突如現れたスローネを前にしてヒロムは右手に稲妻を纏わせるとスローネの剣の一撃を防ぎ止め、接近した状態でスローネはオウガを倒したヒロムに向けて言った。
「どうやらその力が我々の把握するものでないことはよく理解したよ。
それほどの力、それがシンギュラリティに達した今のキミの強さというわけか」
「だったら何だ?
悪いがオマエを……」
「倒すのかい?
オウガが倒れた今、確かにオレは一人だ。
対するキミたちは五人揃った状態、こちらが不利なのは目に見えてわかる」
「あ?」
(何だ?
何でコイツは……)
「だが、キミたちが変わったようにオレも変わった。
それを今、見せてあげよう」
スローネの言葉から何かを感じたヒロム、ヒロムが何かを感じているとスローネはヒロムから距離を取るように後ろに飛ぶと剣に魔力を纏わせながら呟いた。
「……トランスクロス」




