五六九話 ファイティング・アラーム
塵となって生徒会長が消えた。
その現象にヒロムたち以外のその場にいた生徒は混乱し、そしてパニックに陥る。
生徒が騒ぐ中、スローネは手を叩いて全員を注目させると全員に忠告した。
「キミたちの命はオレが預かってるも同然。
騒いだら殺すから……覚悟しろよ?」
冷たい口調で告げるスローネ、その言葉を受けた生徒たちは一斉に黙るが、ソラはスローネに対して消えた生徒会長に何をしたのかを問う。
「オマエ、今生徒会長に何をした?」
「消滅させたのさ。
プロトタイプのデバイスシステムに搭載した防衛機能を用いてね」
「プロトタイプ?」
「試作型だよ。
オレたちが纏うこの鎧を量産して新たな仲間に配るための、な。
試作型故に性能はかなり劣るが、その気になれば誰でも我々カリギュラと同じ力を扱える。
だが試作型の量産式、つまりはプロテクターの甘さが欠点だ」
「だから爆発させたのは見てわかる。
けどな、何で生徒会長まで……」
「プロトタイプには量産式に導くためにいくつかの仕様変更が強制的に行われた。
それが使用者の限界を引き上げる「リミットスイッチ」、そしてその「リミットスイッチ」は機能したと同時に使用者の体内にウイルスを仕込む。
精神干渉汚染とでも言おうか、あれと同じように使用者の心を高揚させ、そして心を蝕ませる」
「まさか……精神干渉汚染で精神を不安定にさせて消したのか!!」
「正解だよ黒川イクト!!
力を手にした使用者はその力に酔いしれる中で知らず知らずのうちに体も心も毒に侵される、そしてデバイスシステムのハッキングか纏った力が消滅したその瞬間……プロトタイプのデバイスシステムは情報漏洩を防ぐために自壊し、それを合図に使用者を消滅させる!!
試作型だからこそ秘匿すべし情報がある、それを守るための装置を備えているというわけだ!!」
「ふざけたことを!!」
スローネの語る言葉に怒りを抑えられないイクト。
精神干渉汚染により身内を傷つけられたイクトにとってスローネが語るそれは許せないものだった。
身内を苦しめるきっかけとなった病を兵器に利用する、「八神」と同じようなことをするスローネに……カリギュラのやり方にイクトは怒りを抑えられないでいたが、そんなイクトに対してスローネは感謝の意を述べた。
「このプロトタイプが完成したのもキミのおかげだよ黒川イクト。
キミが宿す精霊・バッツの心に干渉する力をラーニングさせられたおかげで精神干渉汚染すら操れるようになった。
これで……我々カリギュラの理想はさらに進んだ」
「ふざけるな!!
人の命を何だと思ってるんだ!!」
「革命が起こればこの世界の人口は今の数の十分の一にも満たない数にまで減る。
いや、もはや革命が起こればカリギュラ以外が住めるような世界ではない」
「……校内放送で生徒会長は人類を消すと言っていた。
アレはオマエが言わせたのか?」
スローネの言葉に対してヒロムは聞き返し、ヒロムの問いにスローネは面白おかしく笑うと彼に教えた。
「人類を消すなんて甘ったるい。
ここの生徒会長……名前は覚えないが、彼にはその程度の事しか教えなかったが本来の目的とは少し違う。
もし知りたいのなら……我々と来い」
「断わる。
従うくらいなら、オマエを殺してカリギュラを潰す」
「やれるのか?
キミたちの力がオレを上回るとでも?」
余裕のあるスローネはヒロムの言葉に対して強気に変えし、強気なスローネはさらにヒロムに対してある事を話した。
「キミたちの最新のデータはキリスとグラムが回収して既にオレのデバイスシステムの中に組み込まれている。
つまり、わざわざキミたちの今の力を計るような真似はしなくていいのさ」
「そうかよ」
「なら……試してやるよ!!」
余裕のスローネの言葉にソラとシオンは我慢が限界に達したのか敵を倒すべく走り出し、ガイとイクトも後に続くように走り出した。
が、ヒロムはただ一人走ろうとしなかった。
何故なのか、と周囲の生徒たちが不思議に思っていると上空からヒロムの周囲へと人型の機械兵器が四機現れ、現れた機械兵器は頭部のモノアイを光らせるとヒロムを捕捉する。
「……ドレッドギアか」
四機の機械兵器、その存在と正体を知るヒロムは焦る様子も見せなかった。
ドレッドギア、彼が口にしたその名が現れた機械兵器の名前だ。
リゾート中のクルージング船にカリギュラが引き連れて現れたこの機械兵器、ヒロムはそれを目撃し、そして彼自身の手で倒している。
ガイたちがスローネを倒そうと攻撃を仕掛け、ヒロムは現れたドレッドギア四機の相手をしようと考えるが、事はそんなに上手く進まない。
この状況にもなればただ邪魔な野次馬にも等しい周囲の生徒たちがいるせいでヒロムはもちろん、ガイたちも派手な戦いは出来ない。
いや、おそらくはこれがスローネの狙いなのだろう。
生徒会長の消滅により動揺している生徒たちはスローネが放った一言、彼に逆らえば死ぬという言葉により命を奪われると恐怖して動くことも出来ない。
恐怖した人間はもはや邪魔でしかない、だがここから逃げろと簡単に言うのも無理な話だ。
一度パニックに陥った人間はその単純な一言で場を掻き乱すほどに荒れ狂う。
混乱が広がる前に都合よく止めてくれたスローネの言葉を無駄にするわけにもいかない、敵であるスローネの言葉に嫌々感謝のような念を抱きながらヒロムは左手首の白銀のブレスレットを光らせると精霊・ユリアとイシスがそれぞれ使う杖を二本出現させ、それをドレッドギアの横を通り過ぎるように左右に一本ずつ投げ飛ばすと生徒たちの近くで地面に突き刺さらせる。
杖が二本地面に突き刺さるとヒロムは深呼吸をしてブレスレットに光を纏わせ、光を纏わせながらヒロムは言葉を発する。
「限定領域・咎めの檻」
ヒロムが言葉を発すると杖が光を放ち、放たれた光は障壁となると生徒たちとユリナたちを守るように包み込んでいく。
生徒たちとユリナたちは障壁に包まれ、一見すれば外部からは完全に隔離されているような状態だった。
「これで被弾することも流れ弾が向かうことも無い。
あとは……倒すだけだ」
生徒たちが障壁に包まれるとヒロムはブレスレットに纏わせた光の一部を天に飛ばし、天に飛ばされた光は精霊・テミスの武装である銃剣に変化してヒロムの手に装備される。
「面倒だから……すぐに終わらせる」
ヒロムは装備した銃剣を構えるとドレッドギアに向けて炎弾を放っていくが、放たれた炎弾をドレッドギアは避けるとヒロムに向けて走り出した。
ドレッドギアが攻撃を避けた、それを受けてもヒロムは焦ることなくさらに炎弾を放つもドレッドギアは簡単に避けてヒロムに接近していく。
当たることのない炎弾を次から次に放っていくヒロム。
そのヒロムはある程度炎弾を放つとヒロムは銃剣に稲妻を纏わせ、稲妻を纏わせた銃剣の狙いを一機のドレッドギアに定めると引き金を引く。
引き金が引かれるとドレッドギアに向けて稲妻を帯びた炎弾が放たれ、放たれた炎弾は真っ直ぐに的に向かっていく。
だが、ドレッドギアはそれを避けようとした。
これまでと同じように、炎弾を避けようとした。
しかし……
「それは囮だ。
本命は……後ろだ」
ヒロムが呟くと稲妻を帯びた炎弾を避けようとするドレッドギアの背後から無数の炎弾が襲いかかり、背後からの攻撃を受けたドレッドギアは半壊する中で稲妻を帯びた炎弾を受けて爆破されてしまう。
背後から襲った炎弾、どこからの攻撃なのかと考えさせられる。
だがこの攻撃、その全ては既にヒロムが布石を打っていたのだ。
避けられると分かりながらも放ち続けた炎弾、それらはこの攻撃のために放っていたものだ。
一機破壊するとヒロムは銃剣を消してブレスレットから新たな光を飛ばし、それを精霊・クロナの扱う小太刀に変えると向かってくるドレッドギア一機へと接近してモノアイに突き刺し、敵の頭部に小太刀を突き刺すとヒロムはブレスレットから光を発して精霊・セツナの武装たる刀に変化させて装備して一閃を放つことで両断して破壊し、続けて向かってくる一機の首をも刀で斬って首を胴体から落とさせる。
一瞬にして三機破壊したヒロムはブレスレットからさらなる光を放つと精霊・アウラのショットガンとティアーユのライフルへ変化させて装備すると最後の一機へと迫りながら雨の如き無数の弾丸を放って追い詰めていく。
次々に放たれる弾丸にドレッドギアは何とかして避けようとするが、避ける隙間も与えぬように放たれるヒロムの攻撃を前にしてそれが叶わず一撃を受けてしまう。
一つ受ければそれが最後、後続の弾丸が次々にドレッドギアの体を撃ち抜き、蜂の巣のように体を撃ち抜かれたドレッドギアは煙を上げながら倒れると爆散してしまう。
四機のドレッドギアは完全に破壊された。ヒロムはそれを確認するとスローネを倒すべくガイたちに加勢しようと考えた。
しかし……
「うぁっ!!」
ヒロムが加勢しようと考えたその時、スローネを倒そうとしていたガイたちが彼のもとへと飛ばされ、彼の前で倒れてしまう。
大した負傷はない、単に吹き飛ばされて倒れた程度だが何故こうなったのかは謎だった。
「どうした?」
「想定外の邪魔が入った」
「邪魔?」
「……この間の紅い鬼だ」
何があったのかヒロムが訊ねるとシオンが答え、シオンの言葉を聞いたヒロムは彼らが飛ばされてきた方を見た。
その視線の先にはスローネを守るように立つ鬼を模した仮面をつけた深紅の鎧の戦士がいた。
この戦士もヒロムは知っていた。
オウガ、「天獄」の協力者になってもらうべくネクロのもとを訪れた際にスローネとともに現れたカリギュラの戦士。
精霊・ラミアの霊装の力たる「ソウル・ブレイク」を再現した力を使役する戦士だが、この戦士はヒロムが相手をして倒している。
そのオウガに行く手を阻まれてガイたちは吹き飛ばされた。
それについてはすぐに察し、ヒロムはため息をつくとガイたちに伝えた。
「オウガはオレが相手をする。
オマエらはスローネを頼む」
「待てヒロム。
アイツは……」
「オレやラミアが使う「ソウル・ブレイク」を使うんだろ?
知ってるよ、けど……未完成だ」
止めようとするソラに言葉を返すとヒロムは白銀のブレスレットに紫色の光を纏わせ、そして全身に紫色の稲妻を纏っていく。
そして……
「見せてやるよ、これが完全な……「ソウル・ブレイク」の力だ!!」




