五六八話 アームド・ポゼッション
「アンタは証拠を消しすぎた」
人が変わったかのように冷たい眼差しでヒロムのことを睨む生徒会長に対して告げられるヒロムの言葉。
その言葉を受けた生徒会長はヒロムのことを強く睨む中で彼に問う。
「おかしな事を言ってる自覚はあるのか?
キミは今、犯人は証拠を完全に消したかのような言い方をしていたんだぞ?
それなのに何故キミはオレがカリギュラの人間だと言えた?
キミの言う通り証拠がないのなら、何故犯人を特定できた?」
「くだらない言い方をするならそこまでして問い詰める時点で名乗ってるようなもんだが、アンタには特別に教えてやるよ。
リナたちに送られたメッセージが入れられた封筒にはわざわざ丁寧に彼女たちの住所とそれぞれの名前が記載されていたのに封筒には消印が無いどころか切符すら貼られていない状態だった。
奇妙な話だろ?家を尾行したついでにそのメッセージを投函するなら書く必要も無いし、筆跡鑑定されたらバレるのによ」
「その話とオレがカリギュラの人間ってことに何の関係がある?」
「最初はオレももしかしたらヘヴンかバローネが関係してる程度に思ってた。
だから五人の受け取ったメッセージを見た時にオレは住所と名前を簡単に把握できる立場の人間、その情報を簡単に入手できる人間について考えた。
後者については可能性が薄いからすぐに候補から消えたけどな」
「何故だ?」
「簡単に個人情報が入手できるってなれば警察やギルドなどの政治面に関与されることなく情報を手に入れられるってことだ。
つまり、わざわざ回りくどいことをしなくてもオレを消せる立場にある人間ってことになる」
生徒会長に淡々と説明していくヒロム。
そのヒロムの話を聞く生徒会長は彼の説明のある点について指摘する。
「その脅迫とやらについてはよく分かったが、それに何の因果関係があるのかも分からない。
何より、今朝の校内放送の件はどう説明するつもりなんだい?」
「証拠を消しすぎた、それがアンタが犯人だって決定づけたのさ」
「何故だ?」
「校内放送が放送室から行われるものだと誰もが錯覚するが、その気になればアンタなら学校の設備を持ち出しても誰も何も言わないだろうし不審にも思わない。
オレとの会話が成立するような放送もカリギュラの技術なら小型の盗聴器でも作れるだろうから誰にもバレぬように設置してオレの声や周りの反応を聞いていたんだろ」
「そのカリギュラの技術なら犯人がオレでなくても校内放送用の道具も揃えられるって話だ。
ならオレが……」
「そこがアンタの盲点だ。
アンタは頭がキレるようだが、その用心深さと警戒心の強さが仇となった。
最初のメッセージだけならオレもここの教師かハッカーぐらいで終わってたのに、ここの校内放送が使われた。
木を隠すなら森の中、アンタは自らの存在を察知されないようにして自分の身をここの生徒の群れの中に隠そうとしたようだが……結局はそれがきっかけでオレに見抜かれる要因となった」
「その程度の推論だけで判断したのか?」
「この程度の推論しかなかったからオレはソラの手を借りて賭けに出た。
結果はご覧の通り、誰も知るはずのないカリギュラの出現をあたかも真実のようにアンタは語った。
校内放送の中ではオレの出す答えでここの生徒が危険に晒されると言っただけのカリギュラの何者かの言葉には無かった最後のピースを……オマエがバラしたんだよ!!」
生徒会長に向けて強く吐き捨てるように叫ぶヒロム。
そのヒロムの言葉を受けた生徒会長は何故か笑みを浮かべると拍手を始めた。
「……なるほど、「無能」と呼ばれるのは「十家」の思い上がり。
本来のキミの思考はどうやら誰よりも危険すぎる優れたものだったようだな」
「生徒会長、何で……」
「生徒会長、生徒会長……その呼ばれ方は嬉しくない。
オレは三乃鷹柊真だ」
何故なのかと問おうとするガイに対して生徒会長は自らの名を名乗ると制服のポケットから何やら携帯端末くらいのサイズのプレートを取り出し、取り出したプレートの一部分にあるボタンを押す。
『stand by』
プレートのボタンを押すと音声が流れ、生徒会長はそのプレートを腰に当てる。
腰に当てられるとプレートからベルトが現れて彼の腰に巻き付き、ベルトが彼の腰に巻かれるとプレートはバックルとなり、生徒会長はさらに制服からICカードのような白いカードを取り出すとヒロムたちに話した。
「キミたちは何故理解しない。
ここにいる人間の醜さは理解しただろ?
自分が守れるなら何だっていい、結局ここにいる人間もこの世の中に生きる人間も価値はない。
力があるものが力も無く他者を利用するだけの弱者と並ぶなど狂っている」
「まさか、オマエがあの時の爆弾事件の真の黒幕か?」
ヒロムが言う爆弾事件、それは六月頃に起こった部室の爆破と体育館で発見された爆発物のこと、そしてその黒幕が能力者が能力を持たぬものと共存することを良しとしなかった生徒会の人間だった事件のことだ。
ヒロムが解決したその事件、その時の犯人である生徒会の人間も今の生徒会長のような言葉を発していた。
『ここはぬるい。力ある者が力無き者と並び歩くなど不要だ!!』
爆弾事件を引き起こした生徒会の人間、あの時は副会長の役職だったその男のその後の顛末についてはヒロムたちは知らないが、今の生徒会長の言葉があの男のものと酷似していることをヒロムは感じ取っていた。
そしてヒロムはかつて自分が止めた男と同じような事を言う生徒会長に問い尋ねた。
「副会長だったあの男も今のアンタと同じようなことを言っていた。
能力者が能力のない人間と共存することに不満を持っているかのように言っていた。
アンタはそれに共感して副会長だった男に手を貸したのか?」
「少し違うな。
オレはあの爆弾事件には関与していない。だが、オレはあの事件を受けて生徒の声の一つを聞いた。
能力者が力無き者と共存するのは嫌だという悲痛な声だ。
そして、その声のおかげでオレはこの学校に潜む闇を垣間見た」
「闇だと?」
「どういう意味だ?」
生徒会長の言葉の中に出た「学校に潜む闇」というのが気になったソラとガイは生徒会長に聞き返すように問い、問われた生徒会長は彼らに向けて告げた。
「キミたちも思い知ったはずだ。
姫神ヒロムが行った善行すらこの世の人間は拒んで彼を追放しようとした。
何も出来ぬものが好き勝手叫ぶ中で一人の少女が必死に叫んでも誰も心を変えない。
あの現場を目の当たりにしたオレは……決意するしか無かった!!」
「まさかアンタ……ゼアルが街を襲った現場にいたのか!?」
「そのまさかだよ、雨月ガイ。
オレは避難しようとする人を誘導するべくあの場にいた。
その中で突然現れたあの男は罪無き人と街を手にかけ、己の欲のために暴れた。
オレは力が……能力がありながら何も出来ない自分を恥じた。
能力が無き姫神ヒロムが万策を持って倒したことで絶滅は免れたが……代わりに現れたのは人の腐った本性だ!!」
「だったら……だったら何でアンタまで「竜鬼会」のような己の欲のために戦おうとする!!
ヒロムが苦しんでると分かってるなら、何でカリギュラとしての道を選ばずに声をかけなかった!!」
「そんな綺麗事では救えない、それはキミがよく理解してるはずだ相馬ソラ。
もはや言葉では変えられない、だからオレはカリギュラという革命家たちの元へ参加し、そしてこの力を手に入れた!!」
己の思いを叫ぶように発する生徒会長は手に持つICカードをバックルとなったプレートにかざし、ICカードがかざされるとプレートは光を発する。
「デバイス……オン!!」
『trans up』
プレートは音声を発すると生徒会長の全身を光で包み、光に包まれた生徒会長の周囲に無数の鎧が舞うと次々に彼に装着されていく。
白銀の鎧、次々にそれを装着していく生徒会長の姿は次第にヒロムたちがよく知るあの男へと変化する。
仮面を付けて素顔が隠れ、白銀の剣士となった生徒会長。
いや、もはやこの姿は生徒会長などではない。
カリギュラの一人、スローネだ。
「……さぁ、思い知らせてやろう」
姿を変えた生徒会長……いや、スローネはどこからか剣を出現させると手に持ち、そしてヒロムたちを倒すべく構えると彼らに向けて言った。
「構えろ。
前回と同じようには行かぬことを……」
「必要ねぇよ」
構えろと告げるスローネに対してヒロムが冷たく言い返すとソラが赤い拳銃「ヒート・マグナム」をスローネに向けて構えて炎をビーム状にして放ち、放たれた炎がスローネに襲いかかる。
迫り来る炎を前にしてスローネは剣に魔力を纏わせて斬撃を放つと炎を切り消して見せるが、スローネが斬撃を放った背後に雷とともにシオンが現れて敵を殴打する。
「!?」
「遅い」
シオンの攻撃を受けたスローネは怯んでしまい、スローネが怯むとシオンは両手に雷を纏わせると目にも止まらぬ速さで連撃を叩き込んでいく。
叩き込まれていく連撃、その連撃を受けたスローネは大きく怯み、スローネが怯んだその瞬間に彼の影が隆起すると無数の影の腕が現れてスローネを拘束する。
「なっ……」
「この間のお返しだ」
イクトが指を鳴らすと影の腕は力強くスローネを握りしめ、そしてガイは霊刀「折神」を抜刀するとスローネに一瞬で接近して一撃を放つ。
放たれた一撃はスローネに命中し、攻撃を受けたスローネは倒れると身に纏っていた鎧が消えて中にいた生徒会長が姿を現す。
「そんな……どうして……!?」
「偽物ごときがオレらに勝てると思うなよ」
「本物のスローネなら不用心にこんな勝負は仕掛けない。
それに本物ならソラが放った炎も避けてしまうだろうからな」
攻撃を受けて鎧を剥がされた生徒会長は倒れる中で動揺してしまい、その生徒会長に対してソラとガイは彼がスローネの偽物だと言い放った。
ザワつく周囲の生徒たち、そんな中突然拍手の音が響く。
響く拍手の音、その音の出処の方を全員が見るとそこには生徒会長が纏っていた鎧と同じ姿のスローネがいた。
「見事だよ、姫神ヒロム。
まさかオレが用意した駒を見抜くとはな」
「スローネ……」
「スローネ様、話が違う!!
この力があればオレは……」
勘違いするなよ、と生徒会長が叫ぶ中でスローネは指を鳴らし、彼が指を鳴らすと生徒会長が腰に当てたプレートが爆発し、そしてそれが爆発すると生徒会長の全身は瘴気のようなものに包まれてしまう。
瘴気のようなものに包まれる生徒会長、その生徒会長は苦しそうに喉を押えながら助けを求めるように手を伸ばそうとするが、次の瞬間には塵となって消えてしまう。
「「!?」」
「用無しには消えてもらう、駒の末路はそれだけだ」




