表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
能力邂逅編
56/672

五六話 愛華


ヒロムの母・姫神愛華はソファーに腰かけ、ヒロムも自分の親を前にしてか向かい合うように愛華の前に座り直す。


ユリナとリサ、エリカはどうすべきか悩んだが、とりあえずヒロムの隣に座った。


テミスとシズカは再び屋敷周辺の警戒をしに戻り、アイリスは邪魔にならぬように扉の前に立っていた。


そして愛華と一緒に来た愛染真斗は愛華の隣に座っており、なぜかワクワクしたような顔をしている。


少し沈黙が生まれるが、そんな中で愛華はユリナが淹れたコーヒーを口にした。



「……美味しいです。

ありがとうございます」


「い、いえ……」


ユリナは恥ずかしそうに返事をする。


愛華は一度、コーヒーの注がれたカッブをテーブルに置くと、ヒロムを見ながら話し始めた。


「お元気そうでなによりです、ヒロムさん」


「……母さんもな。

わざわざ顔出しに来たってことは、アレのことか?」


「もうカルラからは聞いてるみたいですね。

そうです、参加されるか聞きに来たんです」


愛華は屈託のない笑顔でヒロムを見るが、ヒロムはため息をつくと愛華に伝える。


「参加はする。

ただ、参加する理由は別にある」


「……わかってます。

カルラからの報告は私の方にも来ています」


「参加するのはほぼそのためだ。

母さんの誕生日を祝うのは後回しだ」


「構いませんよ?

ヒロムさんがどんな形であれ祝ってくださるのなら」


ヒロムと愛華の会話、それを聞いていたユリナたちは何かおかしいと思った。




どこか余所余所しい。

ヒロムが「母さん」と呼ぶのに対して愛華の方はヒロムのことを「ヒロムさん」とさん付けで呼んでいる。


親子のはずなのに、愛華の方が妙に余所余所しい気がする。


何故なのだろうか?



あの、とユリナが愛華に尋ねようと試みるが、それより先に、ユリナたちが今抱く疑問に気づいた愛華は訊かれる前に答えた。


「ヒロムさんのことは尊重しているからですよ。

それに、ヒロムさんはこの先大きな存在になられますからね」


「あ……はい……」


なぜ分かったのかはさておき、愛華の説明ではあまりわからない。



もっと詳しく聞こうとヒロムの方に視線を向けるが、ヒロムはそれに気づいているのか目を合わせようとしない。


それでも聞きたいユリナはヒロムの肩を指でツンツンしてみるが、ヒロムは反応しようともしない。


反応くらいしてほしい。

そう思ったユリナはじっとヒロムを見つめ続けた。


さすがのヒロムもそこまでされたら沈黙を貫くのが申し訳なくなり、説明した。


「オレが「無能」と呼ばれるようになった日に母さんたちの話を立ち聞きしてたからだ」


「?」


ヒロムの説明すらも曖昧すぎて、ユリナたちは余計に混乱してしまう。


そんなユリナたちを見兼ねた愛華はどこか悲しそうな表情で語り始めた。


「……本当は知られたくなかったんです。

姉さんたちがどうにかしてくれるはずだったんですが、その話を聞いたヒロムさんは子どもらしさを忘れ、そして絶望して死のうとされました」


「あっ……」


ユリナは思い出した。

ヒロムのこの屋敷に初めて来たあの日、ヒロムから簡単にではあるが聞かされた話を。


能力者としての可能性を確かめようとしたのに何も無いことを思い知り、死を選ぼうとしたという話。


「私がしっかりしていればあんなことになる前に止められたはずなのに……」



「今更だな、母さん。

それに今のオレがあるのはあの時のことがあったからこそだ。

だから母さんが気に病む必要は無い」


ヒロムの言葉を聞いても愛華の顔からはその悲しそうな表情は消えない。




それほどまでに彼女にとって大きな問題なのだろう。


そしてそこからくる愛華の申し訳なさが親子であるはずなのにそう思えないあの距離感を感じさせたのだ。



それを知ったユリナたちは何か思ったのだろう、急に静かになり、ヒロムと愛華の顔色を伺っていた。



「……何?」


何か妙な空気と視線を感じたヒロムはユリナたちが何か言いたいのかと思い話しかけるが、三人とも何も言わない。


なぜ三人が気まずい空気を感じてるのかは定かではないが、それを取り払うかのようにヒロムは話した。


「過去がどうであれ、今のオレはこうして生きている。

それにオマエらといる時間も楽しいし、感謝してる」


「ヒロムくん……」


「だからこのことに関しては何も感じなくていい。

出来るのなら、これからのことを考えておいてほしい」


「……う、うん」


ヒロムの口から出た言葉を聞いたユリナたちは少し涙目になり、ヒロムの言葉に気持ちが高ぶったのかいつものように何かしらの行動で気持ちを伝えようとしたが、愛華がいることを思い出すと冷静になり、ただ笑顔でヒロムを見た。



「?」


「アニキって昔からモテるよな〜」


これまで何も喋らずにいた真斗がヒロムのことを羨ましそうに見ながらヒロムに言った。


が、それを言われたヒロムは少し嫌そうだった。


「モテてはいない」


「モテてるじゃん。

今もこうして可愛い子をメロメロにしてるし」


「してない」


「強いし賢いし」


「努力すれば誰でもできる」


「でもパーティーに来る度に女の子に声かけられてるじゃん」


「……そうなんだ」


真斗の言葉を聞いたユリナたちは今までに見せたことがないような冷たい眼差しを送るようにヒロムを見るが、ヒロムはそれに気づいていない。


その三人の行動が面白いとでも思ったのか、真斗は笑った。


「アハハハ!!」


「ど、どうしたの?」


「いや……アニキってわざとらしいくらいに気づかないからつい……」



「何がだよ?」


真斗が何に対して笑ってるのかわかっていないヒロムは不思議そうにため息をつく。


すると愛華が何かを思い出したのか、ヒロムに伝える。


「ヒロムさん、毎日大変かもしれないですが、この子を「天獄」に入れてあげてくれませんか?」


「真斗をか?

別にいいけど……何でだ?」


「聞いてくれよ、アニキ。

師匠ってば最近忙しいとかで相手してくれないんだよ!!」


「飾音さんは飾音さんで何かを調べてるみたいですから、この子も退屈しているらしいんです」


なるほど、とヒロムは再びため息をつくと話題を変えるように愛華に一つだけ確認した。


「母さんの誕生日パーティーにユリナたちは連れて行って大丈夫だよな?」


「ええ、大丈夫ですよ」


「ヒロムくん……いいの?」


ヒロムの突然の言葉にユリナは心配そうにヒロムを見つめ、リサとエリカもヒロムの様子を伺っていた。


ヒロムはそんな三人の不安にも似たものを取り除くように伝えた。


「日頃の礼だ。

大したこと出来ないが、せっかくだから楽しんでくれればいい」


「で、でも……」


「パーティーってことはドレスとか……」


「そんな心配してたのか?

母さんに頼めば手配してくれるだろ?」


「ええ、ヒロムさんのお願いならやりますよ。

でも安心してください、いつも通りの服装で大丈夫ですから」


「そそ、アニキなんて毎回ジャージだしな」


「そ、そうなんだ……」


「動きやすいからな」


「そういう問題なの!?」



「ではパーティーの日は三日後なので、迎えの人をこちらに来させますね」


「わかったよ、母さん」


愛華は話を終えたのか、立ち上がるとふとアイリスの方を見た。


「あなたたちも来てくださいね、私の大切な家族なのですから」


「あ、ありがとうございます」


アイリスは恥ずかしそうに頭を下げて礼を言う。


家族。

その言葉をヒロム以外に言われることは滅多にない。


だから愛華に言われることは嬉しいのと同時に照れてしまうのだ。


「羨ましいですね……出会ってから姿が変わらず美しくいられるのは」


ちよっと待って、と愛華の何気ない一言にリサは反応してしまう。


「出会ってから姿が変わってないって……

それってヒロムくんが初めて精霊を呼んだ日から変わってないってこと?」


「そうですよ。

ヒロムさんがフレイたちを幼い日に呼び出してから何一つ変わっていませんから」


「それって……」


愛華の説明を聞いたユリナとエリカもリサが気づいたことに気づかされた。



ヒロムがフレイたち十一人を呼び出したのは「無能」と呼ばれた日よりも前だ。


つまり、少なくとも十年も昔だ。


なのに姿が変わってない。


一体どういうことなのか。

いや、そんなことを言い始めれば気になることはさらに大きくなる。


どうして、ヒロムには十一人の精霊が宿っているのか……


そこがとても気になる。


が、それを悩んでいるユリナたちを気にすることなくヒロムはあくびをする。


「ふぁ……」

(フレイたちのことは詳しく話せない……

今はまだ、な……)



***


同時刻・研究施設。


どこの誰が管理しているかはわからないその施設。


一見するとセキュリティがしっかりしていそうなその施設、警備を行う巡回兵も歩いており、不用意な侵入など出来そうにもなかった。



そんな研究施設を数キロメートル離れた場所から観察するように見ているシンクと真助がいた。


距離が離れているとはいえ、二人は見つかることを警戒してか、近くの茂みに隠れている。


そしてシンクの手にはタブレット端末があり、そこには研究施設についての情報が記載されていた。




「……警備兵もいる。

セキュリティもデータ上では脆いと書かれているが、怪しいな」


「本当に疑っているのか、シンク?」


研究施設を観察するように見るシンクに真助は確認するように話しかける。


シンクも茂みに隠れながら観察する傍らで真助の問いに対して答えた。


「疑っているさ。

こうして見れば、この情報もフェイクが多い」


「たしかにアイツらがバッツと戦っていたのを遠目で見てはいたが、それだけでわかるのか?」


ヒロムが今朝、バッツと戦っていたのをシンクと真助はヒロムたちに気づかれぬ場所から見ていたのだ。


いや、だからこそシンクは疑うのだった。


「……バッツの目的、もしかすると厄介なことになる」


「?」


「オマエはなぜ、「八神」が今になってヒロムを狙うと思う?」


シンクに言われ、真助は少し考えたが、その答えはすぐに出た。


「精霊か?」


「ああ、間違いない。

「八神」がヒロムのことを「無能」と呼ぶと同時にヒロムについては「器」と言った」


「つまり……ヤツら「八神」にとってはヒロムよりヒロムの宿す精霊が欲しいってことか」


「ああ、精霊なんて宿そうと思えば人為的な方法でも強引にできるが、ヒロムの場合は違う。

「無能」という不名誉な名で呼ばれた日より前には十一人宿している」


「そしてその十一人を自由に意思疎通ができる」


「それが今も続いてるとなればヤツらも手放せないはずだ。

だからこそ……ヒロムを狙い、奪う気でいた」


できるのか、とシンクの言葉に少し疑念を抱く真助は確かめるように問うが、シンクは首を横に振ると詳しく説明した。


「できねぇよ。

精霊と宿主の間の繋がりは簡単なものじゃない。

ヒロムの場合、それは他の精霊使役者の比じゃない。

となれば、ヒロムから奪ったところでフレイたちを使役することはできない」

(ま……ヒロム並の魔力がないなら使役する以前の問題で不可能だがな)


「となれば、ヒロムはヤツらにとって邪魔になる。

だから消すんだよ、利用出来るだけ利用してな」


「まさか……」


「ああ、おそらくだが……

「ハザード・チルドレン」ってのは意のままに操ることを前提にしたヒロムと同スペックの能力者の量産計画だ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ