五五八話 トゥルー・ヴィジョン
青年によって目の前の景色が変化していく。
ヒロムたちの前に広がる景色は変化すると何やら宇宙空間のような無限に広がる世界となり、ヒロムたちは何やら粒子の膜に包まれていく。
「これは?」
『これからオマエたちに見せるのは全ての真相だ。
過去の全てを映像として見せる上でオマエたちを視聴する側として精神世界に認識させる必要がある。
その粒子の膜はそのための外装だ』
「なるほど……」
「マスター、あれを」
青年の説明にヒロムが納得しているとラミアが何かを見つけて指を指し、ヒロムたちはラミアが指差す方に目を向けた。
その先には……ロングコートにも似た黒い装束に身を包んだフードの男が立っていた。
「アイツは一体……」
『あれが当時のオレだ。
ハッキリとした自我の芽生えぬオマエの中で仮の姿を得たオレはあの姿だった』
そして、と青年が呟くとフードの男の周囲に先ほど天に現れた四十二の光の玉が色の数や数の分かれ方も同じような形で現れ、光の玉が現れると突然空間が揺れ始めた。
「これは……?」
『力の変化だ。
偶然起きた……オマエの力の変化だ』
何が起きたのか気にするヒロムに青年が説明するとフードの男の周囲に現れた四十二の光の玉が人の形を得て変化していく。
その姿は今のフレイたちと瓜二つであり、四十二の光の玉は今のヒロムに仕える四十二の精霊全員と同じ姿へ変化し、その変化が終わるとフードの男はフレイたちに向けて何かを伝えていく。
『……想定外だ。
このままではオマエたちは消滅する』
『……』
『……』
『……生まれたばかりで認識する力も理解する理性もまだ与えられていないか。
十四の異なる系統とそれぞれに該当する能力は今や能力を持った精霊として覚醒してしまったが故の代償か。
このままでは、この精神の宿主は何も知らぬまま失うことになるな』
仕方ない、とフードの男は右手に光を纏わせながら手を動かし、精霊たちの体を少し光らせると彼女たちの中から小さな光を抜き取り、抜き取られた光は集まると十四の色の稲妻へ変化する。
そして光の玉が変化した精霊のうち三十一人は光に包まれ、十一人が残るとフードの男は残った十一人を光にするとどこかへ飛ばしてしまう。
光となって十一人が消えると、今度は光に包まれた三十一人がフードの男の中へと取り込まれ、十四の稲妻もフードの男の中へと吸い込まれていく。
『名も知れぬこの精神の王たる者が真に強くなり、それに値する人間へと成長するまではオレが食い止めるしかないか。
だが……矛盾と綻びは起き続ける。
オレが無理やり抑え込んだこの崩壊の影響は消えずに残り続ける。
崩壊の影響は彼女たちの記憶を大きく歪ませ、おそらくは感情の一部が自我となって暴れるかもしれない』
フードの男は何かを危惧するように一人呟き、そして……
『仕方がない。
全ての答えはオレが背負うか。
それで……解決すればいいが……』
フードの男は何かを決意すると空間を歪ませて消え、歪みが消えるとそこに城が建っていく。
白銀の城、それが建つとフードの男は光となって消えてしまう。
フードの男が光となって消えると景色がまた変わり、変化した景色は先程までいた場所へと戻っていた。
そして粒子の膜が消えてヒロムたちは自由を取り戻し、一連の話が終わると青年はヒロムにあることを話していく。
『紫が司るは傲慢、藍色が司るは憤怒、緋が司るは強欲、水が司るは嫉妬、緑が司るは怠惰、黒が司るは暴食、桃が司るは色欲。大罪を冠した霊装は闇すら支配する。
闇と対する光を担う霊装は謙譲の金、救恤の赤、慈悲の琥珀、忍耐の杏、勤勉の紫紺、節制の青、純潔の白であり、変革を求む導き。
光と闇、その両サイドを司るは白銀……つまりオマエだ』
「七つの大罪と七つの美徳……それが霊装の起源だってのか?」
『……あくまでこれは光と闇に分かつ上で与えられた名だ。
この形をどうするかはオマエ次第だ』
ヒロムに言葉を伝えた青年はどこか満足したような表情を浮かべると徐々に消えようとする。
青年が消えようとする一方、まだ説明の足りないヒロムは彼を止めようとする。
「待ってくれ。
今の話だけでどうしろってんだよ?
精霊の封印の真相やオレの精神の崩壊の真実はよく分かったけど、これからオレはどうしたら……」
『すでに道は切り開かれた。
残る六色の霊装に値する精霊をオマエの手で導き、これまでの繋がりし力を新たな形へと昇華しろ。
全ての答えが出揃った時、オマエの前に再びオレが現れる』
「ま、待て!!
まだ話は……」
『……忘れるな。
オマエは……』
***
「待てって言ってんだろ!!」
青年が消えようとするのを止めようとしたヒロムが叫んだその時、ヒロムたちは気づけば精神世界にある白銀の城の前に立っていた。
いつの間にこの場に移動したかも分からないヒロムたち。
わけも分からず戸惑うが、その中でヒロムは青年の姿を探した。
だが、どこにもなかった。
それどころか、最初からいなかったかのように何も感じ取れない。
「アイツはどこに……?」
「マスター、一度手分けして探しますか?」
「待ちなさいフレイ。
いない人間を探すよりも先にすべきことがあるわよ」
青年を探そうとするヒロムの手助けをしようとフレイは彼に声をかけるが、冷静なテミスはフレイやラミアたちにある事を伝えた。
「今必要なのはあの男を探すことではなく、マスターがブレスレットの中に込めたままで所有者がハッキリしていない六つの霊装についてじゃないのかしら?
私が「天焔」へと変化した天醒が今後も起きるとすればそれは六つの霊装の数だけ起きるはず、だとしたら呑気に探すことは出来ないはずよ」
「テミスの言う通りですね。
マスターが管理するその六色の稲妻がいつ動くかも分かりませんし、何より先ほどの方が言う十四に系統が分けられた能力というのが気になりますね」
「それって私たちのこの霊装の力がその系統に該当するんじゃないの?」
「いいえ、ラミア。
問題は先ほどの光の玉のように私たちも色ごとに精霊が仕分けされるとなった時にどういう風に分かれるかという点です」
テミスの言葉に賛同するメルヴィーが気になる点を話し、ラミアもそれについて意見を述べるがメルヴィーはそれとは異なるある事について疑問を語る。
「先ほどの方の言う系統というのがステラやテミスの炎やアイリスやメイアの氷などに区分していくものなのか、それとも何か別の法則があるのか。
あの方の話が不十分すぎる点もありますが、姿を消したということは私たちだけでその答えを見つけなければならないということです」
「別の法則があると考えるべきかもしれませんね。
私とテミスが炎を扱うという点は同じですが、それだと霊装を持つもの同士が一緒になることになります」
青年の残した言葉とヒロムがブレスレットの中に管理している所有者が分からぬ霊装の力について話すテミスたち。
その彼女たちが議論を続ける中、ヒロムはブレスレットを見ながら彼女たちにある提案をした。
「もしかしたら、この霊装の持ち主は探さない方がいいかもしれないな」
「マスター?」
「どういう意味なの?」
「探して見つけたとして、そいつの力量が天醒に達してなかったら霊装は扱えない。
テミスが天醒して霊装を得たように、オレのブレスレットの中にある六つの霊装も所有者が天醒して力を認められないと意味が無いだろうし、何より犯人探しのように持ち主探して見つけたところで霊装を手にしなければならないってプレッシャーの中でちゃんと成長して天醒出来るかも怪しいだろ」
「たしかに……」
「マスターの言う通りですね。
下手な詮索は私たちやマスターの今後に影響が出そうですね」
ヒロムの言葉にフレイたちは異論はなく、それどころか彼の言葉によって冷静に考えるべきだと考えた彼女たちはどうすべきかを一から考え直そうとする。
できるだけ意識し過ぎず、そしてできるだけ早く霊装を持つべきものの手に渡す方法。
何か方法があると彼女たちは考えるが、彼女たちがどれだけ知恵を振り絞って考えても答えは見えない。
そんな中、ヒロムはまた何か思い浮かんだらしく、彼は彼女たちにある提案をした。
いや、提案ではないかもしれない。彼が今提案しようと言葉にするのはある種の仮説だ。
「オレのこの霊装が変化したってことはこれまでの戦いは出来ないってことかもしれない。
それに……フレイたちが真理の精霊になってからオレたちの力は増してるのに「クロス・リンク」やそれぞれの霊装の力はここぞって時には機能してない気がするんだ」
「イヴナントの時も私とアウラの「クロス・リンク」の力が完全に機能してなかった気がしますし、もしかしたら私たちの力は……」
「フレイたちの力はこれまでのやり方じゃダメなのかもしれない。
新しいやり方、「クロス・リンク」を超えるオレたちが手を取り合って戦う新しい形、オレが借り受けることで繋がりあって使っていたやり方とは違う霊装の使い方……何から何まで、一度しっかり考えるべきなのかもしれない」
「どうやって見つけますか?
答えを急ぐのでしたら……」
そこは大丈夫だよ、とフレイにどうするか問われたヒロムは白銀の城を見ながら言うと彼女たちに答えの見つけ方について話していく。
「幸運なことにこの精神世界は時の流れの異なるオレたちだけの世界。
外の世界でオレがどれだけ眠ってるかは分かんねぇけど、一度ここに集中して滞在して考えるのもありだろ?
何せ、ここでどんだけ時間使ったとしても外ではほんの少しの時間だからな」
「久しぶりに、ですね。
私たちとマスターで「クロス・リンク」の組み合わせを考えた時のようですね」
「ああ、あの時と同じだよ。
カリギュラやリュクス、それに四条貴虎。
アイツらを倒すには強くならなきゃならないし、その上でオレたちはオレたちらしいやり方で勝たなきゃならない。
それを見つけるためにも避けられないことだ」
フレイたちに話す中、白銀の城を見ていたヒロムは左手首に装着している白銀のブレスレットへと視線を移すと自身の中で今後について決める。
(この霊装も、オレが敵を倒す上で使いこなさなきゃならない力だ。
トゥルースを倒してオレがアイツに証明したオレ自身の意思、それがこの霊装だって言うなら……オレは揺るがない)
「オレは……オレのために戦う」
強い意志を抱く中でヒロムは拳を強く握り、そしてヒロムはフレイたちとともに白銀の城の中へと向かっていく。
決めた道は歩くしかない。
彼らが進むと決めた道はすでに目の前にあるのだから……




