五四〇話 天獄、崩滅
ゼロたちが倒れ、ヒロムに迫ろうとするグラムを止めるべくガイとイクトは武器を構えると走り出し、二人の戦闘介入に対してグラムは落ち着いた様子で腰に携えた剣を一本抜剣して迎え撃とうとする。
「勇敢と無謀は全くもって違う。
少年たちよ、己の身を死に晒す愚行に後悔させてやろう」
グラムは紅い魔力の翼を広げると体を宙に浮かせ、体を浮上させたグラムは烈風を纏うとガイに目にも止まらぬ速さで接近すると剣を振り上げ、剣を振り上げると同時に接近した際に生じた衝撃を烈風と合わせて衝撃波にしてガイに撃ち放つ。
だがガイは両手に持つ二本の霊刀で衝撃波を斬り払うと剣を振り上げるグラムを斬るべく斬撃を放とうとするが、グラムはガイの斬撃が放たれる前に彼の視界から消えて背後へと移動し、ガイが気づくよりも先に剣を振り下ろして一撃を食らわせようとした。
が……
「させるか!!」
グラムが剣を振り下ろそうとするとガイは瞬時に振り向いて霊刀で一閃を放ってグラムの剣を防ぎ止め、グラムの剣を防ぎ止めるとガイは右手に持つ霊刀「折神」に魔力を纏わせるとグラムの剣を破壊すべく一撃を放とうとした。
しかし、グラムはガイのその行動を予測していたのかすかさず剣を防ぎ止めているガイの霊刀から剣を引くと後方へと飛んでガイの一撃を避け、ガイの一撃を避けたグラムは魔力の翼を大きく広げると翼から魔力の羽根を矢のように次々に撃ち放ってガイを倒そうとする。
グラムの翼より放たれた矢の如き魔力の羽根が迫り来るとガイは左手に持つ霊刀「飛天」に魔力を纏わせると素早く連撃を放って魔力の羽根を斬り伏せ、二本の霊刀に魔力を纏わせたガイはさらに体全体にも魔力を纏わせると素早く動き出してグラムに接近して刀を振る。
魔力を纏ったガイのその速度は生身の時とは違い明らかに速度を増しており、速度を増したガイの霊刀の攻撃を前にしたグラムは余裕があるような様子を見せながら剣で防ぐと少し意外そうな反応を見せた。
「シンギュラリティへの到達を達していないはずなのにこの魔力と力、さすがは天才剣士と言ったところか。
魔力兵装による身体機能の向上でここまで力が増すのは想定外だ」
「シンギュラリティ、シンギュラリティ……。
口を開けばシンギュラリティか。
いい加減聞き飽きた」
「聞き飽きた?
それは自分が彼らと同じ地点に到達していないことから目を背けるための方便か?
仲間が次々に到達するのに自分はまだ到達していない、その事実から目を背けるための言葉にしか聞こえないぞ」
「黙れ。
たとえシンギュラリティってのに到達していないとしてもオレはオマエを倒す。
その事に変わりはない!!」
ガイは右手に持つ霊刀「折神」に纏わせる魔力を強くさせると魔力を蒼い炎へと変化させ、グラムの剣を押し返すともう一度敵の武器を破壊すべく霊刀「折神」で一撃を放つ。
霊刀「折神」、それは魔力を纏えばあらゆるものを斬るとされる刀。
そして魔力が変化した蒼き炎は彼の能力「修羅」の力、その力は触れたものを切り裂く力。
二つの斬る力が合わさった一撃、その一撃がグラムの剣を破壊しようと迫っていくが、グラムは剣に魔力を纏わせるとガイの霊刀「折神」の一撃を迷うことなく止めて見せた。
もらった、ガイはそう心の中で確信していた。
二つの力、ガイの放った一撃が持つ二つの力は性質上相性のいい組み合わせであり、その組み合わせから放たれた一撃は確実に相手の武器を破壊する。
これまでの経験、どの過去を振り返ってもガイの霊刀「折神」が破壊できなかった武器はなかった。
しかし……ガイの霊刀「折神」の一撃を受けたグラムの剣は魔力を強く纏ったまま壊れることなくガイの一撃を防いでおり、壊れる様子もなくグラムが力を入れるとガイは霊刀ごと押し返されてしまう。
「何!?」
「何故武器が破壊できなかったと感じているのか?
これまでの経験からすれば今の一撃を防いだ武器は必ず破壊されるはずだと思っていたのか?」
「何をした!?」
「簡単な話、この剣もキミのその刀と同じ材質と力を持っているというだけのこと。
この剣は神の一撃を受けても折れぬ剣、そして魔力を与えればこの剣は全てを斬る!!」
武器を破壊できなかったことに動揺を隠せぬガイにグラムは自身の武器である剣の秘密をあえて語ると魔力を纏いながら飛翔し、飛翔したグラムは烈風を魔力の上から纏うと何人にも分裂してガイを取り囲むと一斉に斬撃を放つ。
包囲された状態から放たれた斬撃を対処しようとガイは動こうとするが、そうしようと体を動かすよりも先に斬撃がガイの体を襲い、次々に襲いかかる斬撃がガイを追い詰めていく。
「そん……な……」
『ご主人!!』
ガイの力を借りて幼子から髑髏武者となってイヴナントを止めていた飛天はガイが倒れたのを見るなり慌てて彼を助けに向かおうとしたが、グラムは軽く剣を振って巨大な斬撃を放つと飛天に命中させる。
『うわぁぁぁあ!!』
斬撃を受けた飛天は吹き飛ばされ、吹き飛ばされた飛天は元の姿である幼子に戻ってしまうとボロボロになりながら倒れてしまう。
「うぅ……」
「飛天……」
倒れた飛天が傷の痛みに苦しむ中、ガイは倒れた自身の体など二の次に飛天のもとへ何とかして向かおうとするが、グラムはそんなガイの前に立つと剣を振り上げる。
「哀れだな、雨月ガイ。
少し精霊を得たくらいでこのザマだ。
己の自惚れ……それがキミを終わらせると理解して死ぬといい」
「させねぇ!!」
グラムがガイにトドメをさそうと剣を振り下ろそうとするとイクトが大鎌を振ってグラムの攻撃を阻止し、さらに影の拳が現れるなりグラムをガイから引き離すかのように殴り飛ばす。
殴り飛ばされたグラムは何の苦労もなく受け身を取ると飛翔し、イクトは魔力を纏うとグラムを倒すべき走り、ガイは何とかして体を起き上がらせると倒れて苦しむ飛天のもとへと何とかして歩み寄ると飛天を抱き上げた。
「飛天……」
「ご主人……ごめんね?
ボク、お役に立てなかったよ……」
「そんなことない、オマエは……」
「目障りだ」
ガイが飛天に何か言おうとするとグラムがそれを邪魔するようにイクトに衝撃波を放って吹き飛ばし、イクトを吹き飛ばしたグラムは翼を光らせると烈風を発生させて嵐を引き起こし、引き起こした嵐がガイとイクトを襲う。
嵐に襲われる中ガイは飛天を守りながら霊刀「折神」で防ぎ止めようとするが、グラムが翼をさらに光らせると霊刀「折神」に亀裂が入り、そして嵐が激しさを増すと霊刀「折神」は砕けてしまう。
「なっ……」
「さらばだ、愚かな少年たちよ」
グラムが発した言葉に反応するように嵐が激しさを増していき、激しさを増す嵐がガイとイクトの全身を傷だらけにして二人を倒してしまう。
激しく負傷するイクト、だがガイは飛天をかばっていたためかイクト以上にひどく負傷していた。
「ご主人……ご主人!!」
ガイに守られたおかげか飛天は嵐による負傷を免れたが、ガイのひどい負傷を目の当たりにして今にも泣きそうな声でガイの事を呼ぶが、負傷のひどいガイは返事をしない。
ガイとイクトが倒れるとグラムは再びヒロムに近づこうと歩き出そうとするが、限界を超える力を使ってフラつく真助とノアルがグラムの行く手を阻もうと立ち塞がる。
敵の前に立つ真助とノアル、だがグラムは二人が立ちはだかろうと気にもとめないのかヒロムに迫るべく足をとめない。
それどころか彼は構える真助とノアルの姿をおかしく思っていた。
「シンギュラリティへの到達を果たしたのは見事だったが、その力に体が適応しきれず負荷に耐えられなくなりフラつくような状態で行く手を阻もうとするのか。
愚かさを超えて滑稽だとしか言えないな」
「だとしてもやるしかない。
オマエの狙いがヒロムだって言うなら……オレは全力で阻止する」
「たとえこの体が限界を迎えても、オレたちは諦めない」
「もはや精霊を力にして身に纏うことすらままならないその体でか?
限界を超えた力の発動など己の首を絞めるだけだ」
「余計な心配だな。
少なくともオレたちはこれまで自分の力で戦ってた。
だから
今も……オレたちは今出せる力でやるだけだ!!」
グラムの言葉に言い返すと真助は黒い雷を纏いながら走り出し、ノアルは全身に「魔人」の力を発揮させて黒鬼のような姿となると真助に続くように走り出す。
グラムをヒロムに近づかせぬため、真助とノアルは限界に近づきつつある体を動かして立ち向かおうとするが、グラムは二人が走り出すと呆れてか溜息をつき、溜息をついたグラムは腰に携えたもう一本の剣も抜剣すると両手に持つ二本の剣に魔力を纏わせると紅い魔力の翼を大きく広げながら構える。
「思い知るがいい。
革命を起こす風、その風を引き起こすのはこのグラムの力だということを!!」
グラムは勢いよく剣を振るとともに翼から光を発し、光が発せられると剣から巨大な斬撃が放たれる。
放たれた斬撃が翼が発した光を纏ってさらに大きくなり、大きくなった斬撃はグラムに向かっていく真助とノアルを襲うと二人を吹き飛ばし、二人を吹き飛ばした上で彼らが身に纏う力を消し去ってしまう。
身に纏う力が消された真助とノアルは斬撃を受けたことにより負傷し、二人は負傷した体で吹き飛ばされた先で倒れてしまう。
真助とノアル、グラムの行く手を阻もうとした二人が倒れるともはやグラムの行く手を阻もうとできるものがいなくなった。
いや、正確にはまだいる。
「……これ以上は好きにはさせられねぇな」
グラムがヒロムに近づこうとする中、鬼桜葉王は負傷してフラつくヒロムを座らせ、彼を座らせた葉王はどこからともなく刀を出すと構えてグラムを迎え撃とうと走り出し、グラムに接近すると葉王は敵に斬りかかるがグラムは剣を構えると難なく防ぎ止める。
剣と刀がぶつかり合い、激しくぶつかる二人の武器からは火花が散り、力がぶつかり合う中葉王はグラムを強く睨んでいた。
が、葉王がグラムを睨む中彼の予測していない事態が起こる。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
グラムの出現からここまで暴れることなく大人しく止まっていたはずのイヴナントが突然動き始め、動き始めたイヴナントは戦う術を持たないユリナたちに襲いかかろうとする。
ユリナたちに襲いかかろうとするイヴナントは鋭い両腕の爪で切りかかろうとするが、ユリナたちを守ろうとするセイナ・フローレスが光の盾を出現させて何とかして止めるが、セイナの光の盾はイヴナントの爪を止めるもその強い力に耐えられないのか徐々に亀裂が入っていく。
このままではセイナはもちろんユリナたちがイヴナントの手によって傷つけられてしまう。
そう感じたヒロムは何とかして立とうとするも体はその意思に反して動こうとしない。
「くそっ……!!
動けよ……!!」
ヒロムが動けぬ体を無理やり動かそうと必死になる中、イヴナントの爪は光の盾を砕く寸前まで追い詰めており、動けぬ体にイライラするヒロムは思わず拳で地面を殴る。
「肝心な時に守れない力なんていらねぇんだよ!!
オレは……オレはただアイツらを助けたいだけなんだよ!!」
悔しそうに叫ぶヒロム、その言葉に反応するかのように彼の左手の金色のブレスレットが眩い輝きを発し、そしてヒロムの瞳が金色に光ると彼の周囲に光の粒子が溢れ出ていく。
溢れ出た光の粒子はイヴナントの方へ向かっていくと敵を吹き飛ばしてセイナたちを助け、そして光の粒子が舞う中ヒロムの体は突然宙に浮く。
何が起きてるのか分からないユリナたち、宙に浮くヒロムを見るなりグラムたち敵もどこか驚いたような様子を見せるが、葉王だけは違った。
「ようやくか……!!
覚醒への兆し、そこへ到達したか!!」




