五三九話 グラム
突然現れた真紅の騎士・グラムと葉王。
両者ともに相手を睨んでおり、互いに相手の目論見を見抜いている。
そのせいか葉王は異様なまでに強い殺気をグラムに向けており、殺気を向けられるグラムは何かで返すわけでもなくただ葉王の方を見ていた。
「さて……こちらの計画を進めるためにはキミが邪魔だな」
葉王を見るグラムは彼がヒロムの前に立っていることをよく思っていないのかそれらしい言葉を口にし、そしてグラムは葉王の方へとゆっくりと歩を進める。
グラムが歩を進め動くとソラたちは警戒して彼の方を向こうとするが、ソラたちがグラムが現れるまでの間に相手をしていたキリス、バローネ、イヴナント、そして四条貴虎はグラムに気を取られる彼らを倒すべく構えようとした。
が、キリスたちの行動に対してグラムは誰も予想しない一言を発した。
「手出し無用、キミたちは見ているといい」
「何?」
「キミたちのおかげで計画は当初の見込みよりも速く進行している。
同時にキミたちは代価を支払うように負傷している。
今更出てきたオレが手柄を横取りするような形で悪いが、次の段階へと進めるための一手はオレが決める」
「……分かった。
アンタがそういうなら従う」
グラムの言葉にキリスは構えようとしていたサーベルを下ろすと一歩後ろに下がり、バローネも武器を収めると後退し、後退すると真助とノアルに負傷させられたヘヴンのもとへと駆け寄っていく。
そんな中、貴虎はグラムの言葉を聞き入れなかった。
「グラムとか言ったな?
悪いがオレはオマエの指図は受けない。
リュクスとの取引にはオマエらカリギュラに従えなんて指示はなかったからな」
「キミ一人が反発してもオレはどうも思わないが、キミの反発を放置して計画に支障が出るのも問題だ。
そこでだ、キミと取引がしたい」
「取引だと?」
「簡単な話だ。
キミが手出ししなければ今からオレが得る戦闘でのデータをキミにも渡そう。
そして、キミにオレたちカリギュラのデバイスシステムの祖となる母体を見せよう」
グラムに従う意思はないことを伝えた貴虎の行動を何とも思わない一方で万が一の可能性を気にするグラムは彼に取引を持ちかけた。
その内容はグラムがこれから得るであろう戦闘データとアップグレードや他者の能力をコピーする力を内包したカリギュラのデバイスシステムの母体、つまりはマザーコンピューターとも呼べるものを見せるというものだった。
提示された取引内容、それは貴虎にとっては悪くないものだった。
本来ならばキリスたちの出現に際して早々に撤退したリュクスとともに撤退していた貴虎は予想外のゼロの新たな兵装の力「ディヴァイン・ドライヴ」のデータを取るべくこの場に留まって戦闘を継続していた。
仮にもしグラムがゼロと戦闘をしてゼロの兵装の力のデータを手に入れたとすれば、貴虎はそれを楽に手に入れ、そしてその上でカリギュラの強さの一つでもある彼らのデバイスシステムの祖を拝めるのだ。
「……いいだろう。
オマエのその取引に応じて手は出さないでおく。
だが約束を違えた時は……覚えておけよ?」
「必ず約束は守る。
カリギュラを代表してオレが責任を持って果たすさ」
「そうか、その言葉忘れるなよ」
グラムの提示した取引条件を承諾した貴虎は念押しするようにグラムに言い、貴虎の言葉に責務を果たすことを約束するとグラムは携えた二本の剣のうちの一本を手にしてヒロムたちの方へ向かっていく。
が、それをゼロは黙っていなかった。
「おい、勝手に話進めてんじゃねぇぞ?
オマエらが勝つみたいな言い方しやがって……その余裕、ぶっ潰してやる!!」
キリスたちに出出しさせぬように言い、そして貴虎と取引をしたグラムの態度が許せないゼロは右腕を覆う装甲に魔力を纏わせると無数の刃を展開させ、展開させた無数の刃をビットのようにグラムに放つと不規則な動きをさせなが飛ばすと右腕を覆う装甲の一部を分離させて大剣に可変させると左手で装備すると走り出した。
「ヒロムを狙うってならオマエもここで倒す!!」
ヒロムを狙う敵に対する自身の強い意志を口にするゼロは左手に装備した大剣に灰色の稲妻を纏わせ、さらにビットの刃をグラムの周囲で舞わせると次々に敵を貫くべく魔力を纏って刃を鋭くさせながら襲いかかっていく。
グラムに迫っていく刃のビット。
だがグラムは……焦る様子も魔力を纏う様子もなく手にした剣を軽く構えると向かってくるゼロの放った刃のビットを順番に破壊していく。
向かってきたところを一刀両断にして破壊し、刃のビットの一撃を避けるとすかさず剣で貫いて破壊、次々に剣で出来るかぎりの方法で何の焦りもなく淡々と破壊していくグラム。
刃のビットを全て破壊するとグラムは大剣片手に向かってくるゼロの方に向き直し、そして迫ってくるゼロに一閃を放った。
放たれたグラムの一閃を前にしてゼロは大剣を盾にするようにして防ぐと即座に反撃の一撃を放つべく大剣を振り上げようとするが、グラムはゼロのその行動の始動を突くかのように一瞬で接近すると手に持つ剣で斬撃を放ってゼロの反撃を阻止してしまう。
「何!?」
「キミの思考は読めている」
ゼロの反撃を防いだグラムはさらに斬撃を食らわせると蹴りを放ち、蹴りを受けたゼロが怯んでいると紅い魔力の翼を背中に纏うと大きく広げ、ゼロを真似るかのように魔力の刃をビットのように放出する。
放出された魔力の刃は縦横無尽に周囲を舞うと次々にゼロに襲いかかり、魔力の刃を防ぎ止められないゼロはそれを全身で受けてしまい、気づけば彼が左手に装備していた大剣が彼の手から弾き飛ばされていた。
「ぐぁっ!!」
「データの採取は完了した。
あとは……消えよ!!」
魔力の刃を受けたゼロは身に纏う装甲が傷だらけになってしまうとともに膝をついてしまい、ゼロが膝をつくとグラムは手に持つ剣に魔力を纏わせながら一閃を放ち、放たれた一閃は巨大な斬撃となってゼロを襲うと彼を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたゼロは勢いよく地面を転がり倒れ、倒れると身に纏っていた全ての力が粒子となって消えて元の姿に戻ってしまう。
ゼロが倒れるとグラムは右手に魔力を集め、魔力は形を得ると何やらディスクのようなものとなって貴虎のもとへと飛んでいく。
「今のである程度はデータを得た。
それはキミに譲ろう」
「……礼は言わん」
貴虎は飛んできたディスクを手に取ると一言グラムに言い、グラムは貴虎がそれを受け取るのを確かめるとヒロムの方を向いて歩き出した。
ゼロを倒したグラムが歩き出すとソラはシオンとシンクに視線を送り、視線を受けた二人は頷くとソラとともにグラムの行く手を阻もうと動きを見せようとするが、グラムはそれよりも先に動くと一瞬でソラたちの背後へと移動する。
「!!」
「相馬ソラ、キミのシンギュラリティへの到達は我々の予想を上回る展開だった。
だがその力を完全にコントロールしていないようでは無意味だ」
グラムはソラに向けて言葉を発すると目にも止まらぬ速さで剣を幾度となく振り、振られた剣からは次々に斬撃が放たれてソラたちに襲いかかっていく。
襲いかかる斬撃はソラとシオン、シンクを負傷させると吹き飛ばすが、シオンは吹き飛ばされながらも受け身を取って立て直すと雷を強く纏ってグラムに接近して連撃を放って反撃を試みた。
「はぁぁあ!!」
反撃を試みたシオンの連撃。
グラムはシオンの放った連撃を前にして焦ることも動じることも無く冷静に剣を構えると迫り来る連撃を剣の刀身を器用に動かして防ぎ、連撃を防ぐとグラムは右足の装甲を展開しながらシオンに右足で蹴りを放つ。
放たれた蹴りがシオンに命中するとグラムの面の瞳が光り、瞳が光ると共に光が体を流れ行き、右足の展開された装甲へと光が到達すると強い衝撃がシオンの身体に蹴りを命中させた足裏から解き放たれてシオンを勢いよく吹き飛ばす。
「がっ……」
勢いよく吹き飛ばされたシオンはそのまま船室の壁に叩きつけられ、雷と同化する力「雷鳴王」を発動させていた体は元に戻ってしまう。
「オマエ!!」
ソラは両手に持った二丁の拳銃を構えて炎を何度も撃ち放つが、グラムは剣に魔力を纏わせると迫り来る炎を全て斬り消し、炎を消すと纏う魔力の翼を羽ばたかせてソラの横を音も立てずに高速で横切るとすれ違いざまに斬撃を放ってソラを負傷させる。
「なっ……」
斬撃を受けたソラは斬撃を放たれたことに気づいてなかったらしく戸惑いを隠せぬまま倒れてしまい、ソラが倒れると武装となって身に纏われていた精霊・ナッツとキャロ、シャロがソラの前に現れる。
現れた三匹の精霊は倒れたソラのもとへと慌てて寄っていき、ソラを心配して何度も鳴くがソラは一切反応しない。
「ふざけたことを!!」
シオンとソラ、二人が倒されるとシンクは全身に冷気を強く纏って氷の爪を鋭くさせながら走ってグラムに切りかかろうとするが、グラムは手に持つ剣を腰に収めると両手に魔力を纏わせて手刀による一撃を放つとシンクの両手に纏われる氷の爪を破壊し、さらにゼロを倒す要因となった魔力の刃が次々にシンクに襲いかかって彼の全身を斬り、魔力の刃に斬られて負傷したシンクがフラつくとグラムは魔力の翼を羽ばたかせて衝撃波を放つとシンクを吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされたシンクは受け身も取れずに倒れてしまうも意識は保っていたが、グラムの攻撃で限界を迎えたのか身に纏っていた力は消えてしまう。
「そんな……」
ゼロ、シオン、ソラ、シンク……。
四人の能力者があっという間に倒され、その現実を前にしてヒロムは驚きを隠せなかった。
四人は決して弱くない。
シンギュラリティへの到達を達成したソラとシオン、葉王の助力があったとはいえ新たな力を手にしたゼロ、そしてヒロムたち「天獄」の面々の中でも上位に入る実力を持ったシンク。
四人がそれぞれの強さを持ち、その強さがこれまで数多の敵を倒してきた……それなのに、その四人がグラムという一人の騎士に圧倒され倒されたのだ。
「アイツらが……」
「さぁ、姫神ヒロム。
次はキミが相手をしてくれるかな?」
両手に纏わせた魔力を消すとグラムは四人の仲間が倒されたことに戸惑いを隠せないヒロムを名指しするように言いながら向かっていくように歩いていくが、そのグラムの邪魔をするようにガイは二本の霊刀を構えて立ち塞がり、バローネと戦っていたイクトも大鎌を構えてグラムの背後に立つ。
「愚かな」
「ヒロムに手は出させない」
「大将は絶対に守る……!!」
ガイとイクト、二人はグラムという敵を前にして武器を強く握ると走り出し、二人が走り出すとグラムは腰に携えた剣を抜剣すると二人に向けて言った。
「守ることがどれほど無意味か……その身に教えてやろう!!」




