五三六話 滅びへの幕開け
「滅びへのカウントダウンは刻まれ始める……!!」
拍手をしながら語るキリス。
そのキリスの言葉を聞くなりソラは紅い拳銃「ヒート・マグナム」をキリスに向けながら彼に問う。
「どういう意味だ?
カウントダウンってのは何の話だ?」
「言葉通りの意味だ。
オマエたちのその愚かな行いが自らを破滅に導き滅びへのカウントダウンを早めるだけだ」
「デタラメだな。
オレたちがここに集まることに焦りを感じて適当なこと言ってんだろ?」
「どうかな?
適当なことかどうか、試してみるか?」
サーベルを構えるキリスは指を鳴らし、キリスが指を鳴らすと人を内包した機械兵器・イヴナントは両腕の爪に魔力を纏わせて葉王がユリナたちを守るべく展開した魔力の障壁に攻撃を放つ。
放たれた攻撃は誰にも止められることなく障壁に当たり、魔力を纏った爪が障壁に命中するとユリナたちを守るそれは消滅してしまう。
「……っ!!」
『ァァァァァァア!!』
「きゃぁぁぁ!!」
「させません!!」
障壁が消えるとイヴナントはユリナたちを攻撃しようと動き出し、ユリナたちはイヴナントに怯えて悲鳴をあげる。
ユリナたちが悲鳴をあげる中、彼女たちの護衛についていたセイナ・フローレスはユリナたちを守るように立つと指揮棒を振って光の盾をいくつも出現させてイヴナントの行く手を阻もうとする。
しかし……
イヴナントはセイナが展開した光の盾を容易く破壊してしまい、光の盾を破壊するとイヴナントはセイナの身体を引き裂こうと爪で切りかかる。
「っ……!!」
「セイナ!!」
イヴナントの爪がセイナに迫っていく中ヒロムは彼女の名を叫んで助けに向かおうとするが、全身に負った負傷がそれを邪魔して動けなかった。
ヒロムが動けぬ中でもセイナに迫っていくイヴナントの爪。
セイナ自身も避けようとせず、指揮棒を手にして何とかしようとしていた。
いや、避けようとしないのではない。避けられないのだ。
イヴナントのこの攻撃を避ければセイナは助かるが、彼女の後ろにいるユリナたちが危険に晒されてしまうのだ。
「このままじゃ……」
避けたくても避けられない、防ごうにも間に合わない。
手の出しようのないセイナが判断に追い詰められる中……
風が吹くと共に颯爽とガイが現れ、現れたガイは二本の霊刀「折神」と「飛天」を構えてイヴナントの爪を止める。
「っ……間に合ったか!!」
「ガイさん!!」
「コイツの相手は任せろ。
アンタはユリナたちを頼む」
「ですがアナタ一人では……」
「ボクも頑張る!!」
ガイ一人に任せられないセイナは彼の指示を素直に聞き入れられなかったが、ユリナたちと避難していたガイの精霊である幼子の飛天が走ってくるとセイナに言った。
「お姉さんが守ってくれたから今度はボクが頑張る!!」
「飛天くん……」
「ご主人!!」
「ああ、やるぞ飛天!!
剛式・抜刀!!」
ガイが叫ぶと飛天は青い炎に包まれ、青い炎に包まれた飛天の体は変化しながら大きくなっていく。
体が大きくなりながら変化する飛天は全身が蒼い炎のようになると鎧を纏いし髑髏武者のような姿となり、二本の刀を構える。
「飛天くんの姿が……変化した……?」
「飛天剛式、本来ならオレと飛天で一体化しなければ使えない技だった。
けどオレが飛天を現界させたまま霊刀「飛天」を使えるようになってる恩恵で飛天はオレの許可が下ればこの姿になれる」
『ご主人のためにボク頑張るぞ〜!!』
幼子だった見た目から髑髏武者へと変化して刀を構える飛天だが、その姿の変化に反して内側は変化してないのか可愛らしい口調で意気込みを語る。
ガイと飛天、構える二人に対してフラつきながらもヒロムは立ち上がると彼らにイヴナントに関しての情報を伝えようとした。
「ガイ、飛天。
そいつの中には人が乗せられてる。
乗せられてる人間はその装甲が受けたダメージがフィードバックされて痛みに襲われる仕組みになってるが……今はまだ葉王とゼロのおかげでその機能が停止してるような状態だ」
「つまり……中の人間を傷つけずに倒すには短期決戦でやれってことだな?」
「ああ、そういうことだ……」
フラつきながらも立ち上がったヒロムだが、身体は限界らしくまた倒れそうになってしまう。
が、倒れかけるヒロムのもとへと音も立てずに鬼桜葉王が駆け寄ると彼の体を支える。
「葉王……」
「鬼桜葉王……!!」
葉王の存在、それを目の当たりにしたソラとシオン、シンクは驚きを隠せない様子で彼を見ていたがガイはヒロムを支えている彼を見るとある事を頼んだ。
「……今はヒロムを頼む。
話は……全部終わってからしてもらう」
「そのつもりだ。
イヴナントの機能が停止してる間に仕留めろよ?」
「……言われなくても!!」
葉王が言うとガイは言い返すように言葉を発して走り出し、飛天も後に続くように動き出す。
そして……
「オレたちもいくぞ!!」
ガイたちが動き出すとソラはシオンとシンクに向けて告げて走り出し、ソラが走り出すとシオンとシンクはキリスを倒すべく走り出す。
「……愚かな」
キリスはサーベルを構えると全身に魔力を纏いながら動き出し、迫り来るソラたちを迎え撃つべくキリスは次々に斬撃を放っていく。
放たれる斬撃をソラとシオンは難なく回避し、シンクは斬撃を冷気で凍結させると砕き消す。
斬撃を避けたソラは「ヒート・マグナム」を構えて炎の弾丸を撃ち放ち、シオンは全身に雷を強く纏うと加速してキリスに接近すると拳撃を放つ。
「その程度!!」
キリスはサーベルを構え直すとソラの放った炎の弾丸を斬り払い、雷を纏って接近してくるシオンに対しては彼の放つ一撃を避けるとサーベルの柄でシオンを殴ると彼を蹴り飛ばしてしまう。
「がっ……!!」
「はぁぁあ!!」
蹴り飛ばされてしまったシオンが倒れそうになる中シンクは冷気を右手に集めると氷の剣にしてキリスを斬ろうとするが、キリスはシンクのその攻撃をサーベルで止めると同時に氷の剣を破壊してシンクを吹き飛ばす。
「この程度の力が通じると思うな!!」
「そうかよ。
だったら……来い、ナッツ!!」
「キュッ!!」
キリスの言葉にソラは炎を滾らせると自身の宿すリスの精霊・ナッツの名を叫び、ソラが叫ぶとユリナたちのもとからリスの精霊・ナッツが颯爽と駆けてくる。
ナッツだけではない。
ソラがナッツとともに宿す子猫の精霊・キャロとシャロもナッツを追いかけるように可愛らしく走っていたのだ。
「ニャー」
「ナー」
「オマエらも来たのか……。
なら……ツイン・トランスクロス!!」
ソラが叫ぶとナッツは高く跳び上がって炎となり、炎となるとソラの体と一つになっていき、一つとなった炎は真紅のマフラーとガントレットとなって装備される。
炎が変化した武装をソラが装備すると今度はキャロとシャロが炎となってソラに向かっていき、炎となった二匹はソラのもとへと到達すると白と黒の二丁の拳銃に変化する。
変化した二色の拳撃をソラは両手に装備し、武装が完了するとソラは炎を纏いながら駆け出す。
「ツイン・トランスアップ!!
クリムゾン・スター!!」
「バローネを追い詰めた精霊の武装化の力か。
面白い……だが無意味だ!!」
ソラの武装した姿を見るとキリスは強く言い放ち、そしてキリスは全身から青い光を発しながら高速で動き始める。
「!!」
(あれはゼロとの戦いでコピーしやがったヒロムの「ソウル・ドライヴ」の力!!)
キリスの動きを見るなりソラはそれが前の戦いでキリスがゼロと交戦した際にコピーして得た「ソウル・ドライヴ」と同じ力だと気づき、ソラは二丁の拳撃を構えると無数の炎の弾丸を出現させて撃ち放つ。
が、高速で動くキリスは無数の炎の弾丸をあっさり避けてしまい、炎の弾丸を避けるとキリスはサーベルでソラを突こうとする。
「もらった!!」
「……どうかな?」
ソラを貫こうとするキリスに対して意味深にソラが言葉を発するとキリスが避けたはずの炎の弾丸は矢となって再びキリスに襲いかかり、それに反応できなかったキリスは全てを直撃で受けてしまう。
「!!」
「初めからオマエに命中しやすくするために避けさせたんだ。
避けて余裕見せながら攻撃してくるって分かってたからあえて避けやすくしてたんだよ!!」
高速で動くキリスの動きは炎の矢を受けたことにより止まってしまい、ソラは足に炎を纏わせると連続で蹴りを放つ。
「オラァ!!」
「ダリャ!!」
放たれたソラの蹴りはキリスに命中して敵を怯ませ、敵が怯むと雷を強く纏うシオンが接近してきて敵を殴り飛ばす。
殴り飛ばされたキリスは勢いよく飛ばされて倒れそうになるが、何とかして持ち堪えると倒れずに体勢を立て直してサーベルを構え直す。
サーベルを構えるキリスを倒すべくソラは二丁の拳銃の狙いをキリスに定めながら構え、シオンは雷を強く纏いながら拳を構える。
キリスに吹き飛ばされたシンクも立ち上がると冷気を全身に纏い、冷気を纏う中でシンクは氷の翼を纏い、口元を氷のマスクで覆うと両手両足を氷の爪で武装していく。
竜装術、竜の力を纏い具現させる魔力武装の一種。
かつてテロリストとして討伐した「竜鬼会」はこれらを人為的に発揮しようとしたが、シンクはこれを自らの能力を昇華させることで完成させた。
それがこの竜装術・氷牙竜。
ヒロムのために戦うと決めたシンクが生み出した竜装術だ。
「悪いな。
足引っ張らねぇように気をつける」
「気にするなシンク。
オマエの造形術とヤツのスピードじゃ相性が悪そうだからな。
シオンは「晶眼」の未来予知でアイツの動きを読め。
オレとシンクで援護する」
「後出し戦法か。
まぁ、コイツを倒すためなら手段も選んでらんねぇか」
「外での戦闘の影響もある。
これ以上の消耗を避けるためなら仕方ないな」
やるぞ、と指示を出したソラが言うとシオンとシンクは力を強く身に纏い、ソラも炎の弾丸をいつでも放てるように引き金に指をかける。
が、しかし……
「オマエたちは一つ勘違いをしている」
「あ?」
「滅びへのカウントダウンはすでに刻まれている。
刻一刻とオマエたちは破滅に導かれている」
「……この期に及んでまだそれか。
そんなに死にてぇなら、さっさと殺してやる!!」
不可能だ、とキリスはソラの言葉を否定するように言うと青い光を発しながら高速で動き出し、キリスが動き出すとシオンは瞳を銀色に光らせて未来予知を可能とする「晶眼」を発動してキリスの動きを先読みしようとした。
しかし……
「っ……!!
ダメだソラ!!」
「どうした?」
「ヤツの動きが……ヤツの未来が見えない!!」
「!?」
「宣言しておこう」
シオンの「晶眼」が未来予知出来ないことによりソラたちの動きが止める中、キリスは一言言うと三人の横を一瞬で通り過ぎると共に見えぬ斬撃を放って三人を襲う。
「「!!」」
「ここから先は……オマエたちの踏み込める領域ではない」