五三二話 ドレッドギア
「それは無理だ」
葉王との共闘によるカリギュラとの戦いをイクトが仕切ろうとする中、バローネが言葉を発するとともに指を鳴らす。
すると貴虎が現れる時に爆発で開けられた穴から次々に人型の機械兵器が現れる。
騎士のようなフォルムの外装、モノアイの顔、マニピュレーターを有した両手……全長は二メートルほどだが、その外観はどこか先刻垣間見えたイレイザーに似ていた。
「まさか……新型か!!」
「あれは……ドレッドギアか」
「知ってるのか?」
新たな機械兵器に真助が警戒していると何か知ってるような反応を葉王は見せ、葉王の反応からノアルは情報を聞き出そうと質問する。
ノアルに質問されると葉王はイクトたちにキリスたちのもとに現れた機械兵器について話していく。
「リュクスの足取りを追う中で見つけた工場の一つの中にあれとよく似た兵器の設計図を見た。
そこにはドレッドギアと記されていて、対能力者殲滅兵器のテスト型とも書かれていた」
「それって……イレイザーの試作機ってことか?」
「なんで試作機を今更……」
少し違うな、とキリスは葉王の説明を聞いたイクトと真助、そして説明した葉王に対して今現れた機械兵器について話していく。
「コイツらはたしかにドレッドギアで間違いない。
だがその中身はオマエたちとの戦闘でイレイザーが経験した戦闘データから基づいて構築された改修改良型だ。
その設計図、それを見たということはオマエがアップグレード搭載機のデモ機にハッキングした男か?」
「……残念だがオレじゃねぇがオレの仲間だな。
どの道もうオマエらのあのデモ機のデータはコピーしてカズキに送ってある。
今更慌てても手遅れだ」
「どうかな?
オマエらの計画についてはリュクスから全て聞いている。
何故姫神ヒロムを助けるのか、何故肝心な時にオマエが姫神ヒロムを導くような真似をするのか……その理由もな」
「そうかよ。
けどな……関係ねぇな」
キリスの言葉に対して冷たく言い返すと葉王は魔力を纏いながら走り出し、キリスたちに迫ると拳撃を放とうとするが、ヘヴンが前に出て葉王の拳を止める。
「オマエの出る幕ではない、鬼桜葉王。
オマエは主人のもとで我々のことなど無視して計画を進めるべきだ」
「その計画に重要な人間をオマエらが狙ってると知っててはいそうですかって大人しく聞くわけねぇだろ」
「……そうか。
なら、クロス・リンク」
葉王の拳を押し返すとヘヴンは魔力の大剣と槍を出現させるとそれを全身に纏い、全身の鎧を細身のフォルムのものへ変えるとガントレットを装備して葉王を殴る。
殴られそうになる葉王は避けるとヘヴンに一撃を放とうとするが、ヘヴンはそれを予知してか音も立てずに葉王の前から消える。
「コイツ……姫神ヒロムのクロス・リンクをコピーしたのか」
「もはやコピーではない」
ヘヴンの纏う力がヒロムの「クロス・リンク」から来ていると瞬時に気づいた葉王の言葉を訂正するように言うとヘヴンは葉王の背後に大剣を構えながら現れて葉王を後ろから斬ろうとするが、葉王はヘヴンが振り下ろそうとする大剣を素手で止めると力を入れて握り潰してしまう。
「!!」
「コピーだよ、所詮は。
オマエじゃクロス・リンクの本質には到達できない」
「この男……!!」
(リュクスが警戒しろと言っていたのは事実か!!
この男……オレの一撃を片手で!!)
「つうか邪魔だ」
大剣を容易く破壊した葉王の力にヘヴンが驚いていると葉王は鬱陶しそうに呟くと右手をヘヴンにかざし、手がかざされるとヘヴンは何の前触れもなく勢いよく吹き飛ばされる。
「……っ!!」
「因果律を操作するまでもねぇ。
この程度なら……拍子抜けだ!!」
葉王はキリスとバローネに向けて手をかざすと無数の衝撃波を放って二人を吹き飛ばそうとし、バローネは左腕の装甲の一部を展開して魔力のシールドを出現させると葉王の放った衝撃波を防いでみせる。
そして……
「ドレッドギア、敵を殲滅しろ!!」
バローネが葉王の衝撃波を防ぐとともにキリスが叫び、キリスの言葉に応じるように人型の機械兵器……ドレッドギアのモノアイが怪しく光り、モノアイを光らせながらドレッドギアはヒロムたちを倒すべく動き出す。
「大将、ここは任せて避難しててくれ!!」
「……いや、やれる」
負傷したヒロムに避難するようにイクトが言う中ヒロムは銃剣を構えながら戦う意思を見せ、そしてフラつく体で構えながら戦おうとする。
「大将、体は……」
「リュクスのせいで葉王の因果律の操作による負傷の結果の操作が効かないからこのままだ。
けど、ドレッドギアとかいう機械兵器を潰すくらいは出来るさ」
「……分かった。
真助、ノアルは大将を援護してくれ」
「了解だ」
「イクト、オマエは?」
「オレは……葉王に加勢する!!」
真助とノアルに指示を出すとイクトは大鎌を構えるとキリスとバローネの相手をしようとする葉王に加勢するべく走っていく。
そして……
イクトと入れ違うかのように人型の機械兵器・ドレッドギアがヒロムたちの方へ向かってくる。
「来るぞ!!」
真助は黒い雷を纏い、ノアルは全身を「魔人」の力で黒い鬼の姿へと変化させてドレッドギアを迎え撃つべく動き出し、負傷しているヒロムは二人を援護すべく銃剣を構えるとドレッドギアは狙って炎の弾丸を放つ。
が、放たれた炎の弾丸をドレッドギアは全て避けてしまい、さらには真助とノアルの攻撃すら簡単に避けていく。
まるで彼らの攻撃がどこに放たれるかを事前に予測してるかのような動きで避けるドレッドギア、そのドレッドギアの動きから敵兵器の機動性の秘密をヒロムは見抜いた。
「コイツら……流動術を使えるのか!!」
(正確には流動術を使ったオレのデータが組まれてるのか!!
どっちにしろ機械特有の演算能力による後付けのシステムで流動術を再現してやがる!!)
ヒロムはドレッドギアが自身の考案した流動術を何らかの形で使用していると考えながらも炎の弾丸を放って真助とノアルの援護をしようとするが、ドレッドギアはヒロムの炎の弾丸の軌道を読んでいるのか全てを簡単に避けてしまう。
真助とノアルの攻撃も同じように簡単に、全て手に取るように分かるかのように避けていく。
「ちょこまか動きやがって!!」
「ヒロムの流動術と同じ力なら厄介だぞ!!」
攻撃を避けられて苛立つ真助にノアルは冷静に言うが、冷静に言ったところで状況は変わらない。
攻撃を先読みされ、その先読みによって命中するはずの攻撃も放つよりも先に回避行動に移行されるせいで命中しない。
一体だけなら問題ない。
だがヒロムたちが相手にしようとしているドレッドギアは複数体。
複数体が同時に流動術に似たシステムで回避行動を取って彼らの攻撃を回避している。
「どうすれば……」
「簡単な話ですよマスター」
ドレッドギアをどう倒すか思案するヒロムの前に紅い炎とともに長い銀髪の少女の精霊・テミスが現れ、現れると彼女は両手に銃剣を構えながらヒロムに言った。
「敵が演算でこちらの動きを予測する流動術を使うのならそれを上回る攻撃を放って演算を阻害すればいいだけです」
「出来るのか?」
「出来ますよ。
今の私なら!!」
ヒロムの言葉に強く答えるとテミスは両手に持つ二本の銃剣でドレッドギアに向けて炎の弾丸を次々に撃ち放っていき、ドレッドギアは放たれる炎の弾丸を避けていく。
先程までと変わらない、そう思えたが……
「……そこか!!」
テミスが放ち続ける炎の弾丸を避けるドレッドギアの動きを見きったのかヒロムは銃剣を構えると炎の弾丸を放つ。
放たれた炎の弾丸はテミスの炎の弾丸を避けた直後のドレッドギア一体に向かっていき、ドレッドギアはヒロムの放った炎の弾丸を避ける余裕もなく直撃を受けてしまう。
直撃を受けたドレッドギアは負傷し、動きが悪くなった所へ真助が黒い雷を纏わせた小太刀で斬撃を食らわせて破壊する。
「まずは一つ!!」
「マスター、この調子でいきましょう!!」
「そうだな。
けど……もう少し効率を上げるぞ。
ティアーユ、アウラ、アルカ!!」
テミスの言葉にヒロムは言うと三人の精霊の名を叫び、ヒロムが叫ぶと精霊・ティアーユとアウラ、そしてオレンジ色の髪の少女の精霊・アルカが現れ、現れた三人の精霊は自身の武器であるライフル、ショットガン、拳銃を構えるとドレッドギアに向けて次々に弾丸を放っていく。
「テミス、これを使え!!」
ヒロムは二丁のショットガンを生み出すとテミスの方へ飛ばし、テミスは首に巻くマフラーに炎を纏わせると二本のサブアームのように変化させ、マフラーを変化させた二本の腕にショットガンを持たせて四つの銃器を構えながらドレッドギアに炎の弾丸を放っていく。
放たれる炎の弾丸を避けていくドレッドギアだが、加勢した三人の精霊の銃撃が加わったことにより演算能力の処理が間に合わなくなったのか回避する動きが急激に鈍くなり、そして彼女たちの放つ弾丸をドレッドギアは次々に受けていく。
「やれ!!
真助、ノアル!!」
「任された!!」
「任せろ!!」
ヒロムが叫ぶと真助とノアルは身に纏う力を強くさせ、力を強くさせるとそれぞれ一撃を放ち、放たれた一撃がドレッドギアを次々に破壊していく。
真助とノアル、二人の放った一撃によってドレッドギアは潰滅し、敵の壊滅を確認するもテミスたちも銃撃を止める。
「何とか倒せたな……」
「ヒロムの精霊が機転を利かせてくれて助かった。
おかげでイクトの加勢に……」
「それは不可能だ」
敵を倒し次なる行動を取ろうとするノアルの言葉を遮るようにヘヴンは言い、先程葉王に吹き飛ばされたはずのヘヴンが何も無かったかのように真助とノアルの相手をしようと歩いてくる。
「オマエは……」
「久しいな、鬼月真助。
あの時はオマエの介入は想定外で苦戦させられたが……今回はそうはいかない」
ヘヴンは魔力の大剣と槍を武装に変えて変化させた細身のフォルムの鎧の姿で武器を構えながら真助に向けて言い、真助は小太刀を構えるとノアルに伝えた。
「二人でやるぞ。
ヒロムには……一歩も近づけるな」
「もちろん、分かってるさ。
その為なら……手を貸す!!」
「なら……さっさと終わらせるぞ!!」
真助とノアルは互いの考えを合わせるように確認をするとヘヴンに向けて走り出し、ヘヴンに迫ると二人は攻撃を放とうとした。
しかし……
「遅い」
攻撃を放とうとする真助やノアルよりも速く動くとヘヴンは二人の攻撃よりも先に一撃を食らわせ、ヘヴンの攻撃を受けた真助とノアルは大きく仰け反ってしまう。
「「!?」」
「初めに言っておこう。
シンギュラリティにすら到達していないオマエたちでは相手にすらならない、とな」