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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
能力邂逅編
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五三話 日情


町にあるパン屋「相馬ベーカリー」。


相馬の名からわかるかと思うが、ここは相馬ソラの家が経営する店であり、ソラの家でもある。


近所の評判も良く、店内にはイートインスペースも完備、コーヒーも販売されているのだが、そのコーヒーの美味さも評判の良さの一つでもある。


夏休みということもあり、ソラは朝から店の手伝いとしてレジを行っていたのだが……


「……」



「ふふ……」


ソラの前にはイクトがおり、ソラはそんなイクトに対して嫌悪感を露にしている。

イクトはイクトで店に来たということもあって、しっかりとパンを買おうとしている。


「モーニングコーヒーひとつで」


「……オマエに売るコーヒーは置いてない」


「あっ、客に対してその言い方はないだろ?」


「そう言いながらオマエ、オレが店にいる時狙ってきたんだろうが。

それが腹立つんだよ」


ソラは慣れた手つきでレジを操作し、そして嫌々モーニングコーヒーの準備をする。


「でも何やかんやでやってくれるんだよなぁ」


「……金払ったら帰れ」


「お腹すいて死にそう」


「死神が何言ってやがる」


たしかに、とイクトは笑いながら代金を支払うとソラからコーヒーを受け取ろうとした。


しかし


「ちょっと待て」


ソラからコーヒーを受け取ろうとしたイクトは何かに気づいたらしく、それについてソラに確認した。


「なんでホットなの?」


「何も言わねぇからホットにしたんだよ」


「ええ!?

オレが飲みたかったのアイスコーヒーなんだけど!!」


「知らねぇよ……」


ソラはため息をつくとイクトにさっさと行くように睨むが、納得のいかないイクトは動こうとしない。


そんなイクトの姿を見たソラは思わずイクトの頭を叩く。

「痛!!」



「クレームは聞かない派なんだよ、オレ」


「なんて悪い店員なんだ!!」


「つうか用がないなら店の邪魔だから帰れよ」


「酷……オレは……」


後ろ、とソラが呟き、イクトもそれに従うように後ろを確認した。


後ろにはパンを買うためにレジを待つ他のお客が並んでおり、そのお客の視線はイクトに集まり、そして冷たかった。


「……わかったか?」


「すいませんした〜……」




***


酷いねぇ、とイクトはイートインスペースにて買ったパンを食べ、ソラの淹れたホットコーヒーを飲んでいた。


が、この夏の時期、正直に言えばアイスコーヒーが良かったとイクトは思うのだった。


「……せっかく親友が遊びに行ったのに」


「誰が親友だ」


するとソラがやってくるなり隣に座る。


仕事が終わったのか、はたまた気を使ってなのかはわからないが、わざわざやってきたのだ。


「親友だろ?」


「バカ言うな。

オマエとはそんなに仲良くねぇよ」


照れんなよ、とイクトは苦笑いをするが、それを妨げるようにソラがイクトに尋ねた。



「……どこかで戦闘してきただろ?」


「え!?

なんでわか……まさか服汚れて……!!」


「やっぱりか。

なんかそんな気がしたんだよ」


「……バッツと「ハザード・チルドレン」だよ」


「また、か」


昨日に続いて今日も現れたのか、とソラは思った。


詳しく聞かなくてもなぜ現れたのかは昨日の件で想像ができてしまう。


「また戦闘データの回収か?」


「そんな感じだな。

それに……バッツの強さもわかった」


「アレが戦いに参加したのか?」


ソラからするとバッツが戦闘に参戦したというのは意外だった。


いや、あれほどの鎧に身を包んでいるなら戦闘する力はあるのは間違いないが、昨日は傍観者に徹していた男がなぜ参戦したのか気になってしまったのだ。


「強かったのか?」


「強かったよ。

ガイの「修羅」を防ぐし、オレの「影騎死」の自動防御の弱点も把握されてたし……マジで謎だよ」


「オマエの自動防御の弱点が把握されていた?

昨日初めて使ったのにか?」



「影騎死」、ソラはイクトとの特訓で何度か見ているからこそ弱点を知っている。

が、バッツは昨日が初見。


つまり、弱点を知るには情報が少ないはずなのだが……


「それでもバッツはわかってたよ。

「影騎死」が近接向きじゃないってことを」


「……逃がしたのか?」


「まぁな。

ヒロムが追い詰めたんだが、あの野郎受けた傷を全部回復しやがったんだよ」


「煙に自己再生……。

能力が二つ、となると厄介だな」



「そっ、厄介だろ?」




たしかに厄介だ。


だが、ソラがそう思ったのは能力が二つあることに対してではない。


むしろ、それとは違うことに対してそう思ったのだ。


「厄介だな……。

能力を使うセンス、相手の技量を見抜く洞察力、そして判断力。

どれも強者に欠かせないものだ」


「だから厄介……」


「だが、こっちが何も出来ないわけじゃない」


ソラの言葉、それは何か考えがあり、それによりバッツをどうにかできるという自信を感じられる。



それが何なのかが気になったイクトは思わずソラに訊いた。


「何か策があるのか?」


「策と呼べるものではないが……オマエの話から推測できることはある」


「例えば?」


「自己再生だが、それは中身ではなく鎧の方の能力の可能性がある。

ガイの「折神」や鬼月真助の「血海」のような異質な武器があるんだから自己修復の類の力を持つ鎧でも不思議ではない」


「じゃあ鎧を壊せば……」


「可能性の話だがな。

どうなるかはわからないが、オレたちにとってヤツが自己再生を有しているという情報は大きい。

それに……壊すだけなら方法はある」



「本当か!?」


「ああ、少し手間がかかるが、間違いなく破壊できる方法がな」



***


屋敷に戻ったヒロムとそれに同行するガイ。


だが、屋敷に戻ると二人とも予想していないことになっていた。



別に敵が現れたわけではない。


どちらかといえば、能力者云々は関係のない話だ。


「……」


屋敷の門をくぐり、邸内に入った二人の目の前には頬を膨らませたユリナがおり、普段優しいあの姿でありぎがらも少しの怒りを感じ取れる。


今ユリナが何を思っているのかはヒロムはわからないが、何となく想像出来てしまったガイは申しわけなさそうに頭を下げると、一歩後ろへ下がった。




「……オレはどうにもできねぇことだ」


「どういう……」


「どこ行ってたの?」


ユリナはヒロムに歩み寄るとヒロムをじっと見つめながら問いかける。


さすがのヒロムもユリナのその言葉でなぜユリナが頬を膨らませているのか理解し、何とか誤魔化そうとした。


「散歩だよ、散歩。

気分転換に……」


「服汚れてるよ?」


「ジャージだから少し運動したんだよ」


「いつも面倒だって体育休むヒロムくんが?」


過去にユリナが何か言ってもヒロムが冷たくあしらう場面はあったが、今は逆にヒロムが追い詰められている。



誤魔化そうとしても真相に近づこうとユリナは確信に迫ってくる。


「……敵と戦ってました」


これ以上は無理だと思ったヒロムは正直に答えた。


いや、このまま誤魔化そうとしてもユリナはヒロムの表情などから思考を読める。


それをされたらすべて嘘だとバレるのは時間の問題、ならば先に折れた方がマシだとヒロムは思ったのだ。



「本当はカルラに会ってすぐ戻る予定だったんだが……敵が現れたからさ……」


言い訳にも似た言葉を並べるヒロムに対してユリナは右手で軽くヒロムの体を叩いた。


「……バカ」


「ユリナ……」


「心配したんだから……」


「……悪い」


涙をその瞳に浮かべるユリナに対してヒロムは一言謝ると、ユリナの頭を撫でた。


それで何か変わるわけではないが、なぜかそうしてしまった。


ユリナも突然のことで顔を真っ赤にし、そのまま硬直してしまう。


「…………!!」


「ん?」


「ああ!!」


するとリサとエリカがこちらの姿を確認すると大きな声を出すとともにこちらに向かってくる。


かなりの勢いで迫ってくるなり、二人は自分の頭を指さしながらヒロムを見つめる。





「……何?」


「頭、撫でて」


「いや……なんで?」


「いいから。

ユリナだけずるい」


リサとエリカ、二人の突然の行動にヒロムは困惑するしかなく、それを見ていたガイはヒロムの戸惑う姿を見て笑っていた。



「……何かおかしいことしたか?」


「そうだな……。

オマエにしては余計なことだったかもな」


「?」


「ま、オレとしてはオマエが少しだけでも変わってることに関しては嬉しく思うよ」


「何が言いたいんだよ……」


はやく、とガイとの話に気を取られるヒロムを急かすようにリサとエリカは頭を撫でろと要求してくる。


何とかして助けを求めようとユリナに視線を送るが、未だに顔を真っ赤にして硬直しているユリナはそれに気づく気配がない。



ガイを見たところでガイも目を逸らして反応してくれない。


こうなったら、と奥の手を使おうと決意するヒロムだが、それよりも先にリサが右手を、エリカが左手を掴む。


「!!」


振り払おうとすれば何とでもできそうだが、この抵抗がどういう結果を招くかを考えると出来なかった。


「早く撫でて!!」


「なんでだよ!!」


「いいから!!」


「訳わかんねぇよ!!」


執拗に迫る二人に何が何なのかわからないヒロムは思わず助けを求めるように叫ぶ。


そんなヒロムの姿を見るガイは今のヒロムの姿を面白そうに見る反面、不安そうな眼差しを向ける。


「……」


ガイが今思い出すのはヒロムが自分の口で語ったヒロム自身の真相について。


それは想像を絶していたものであり、同時に今のヒロムへの心配も大きくなる。


だが、ヒロムは何の問題もなさそうにしている。

何も言わない、それはつまり大丈夫ということなのだろう。


「……無理だけはするなよ」


「どうしたの?」


独り言のように小さく呟いたガイにようやく硬直の解けたユリナが心配そうに顔色を伺ってくる。


聞こえてしまったのかと気にはなったが、ユリナにそれを悟られないようにとガイはヒロムに一つ頼み事をする。


「ヒロム、地下の部屋借りていいか?」


「ああ!?

好きにしろ……てかこの状況を……」



「あと、精霊を二人ほど借りたい」


「別にいいけど……

誰でもいいのか?」


そうだな、とガイは少し考えると、すぐにヒロムに要求を告げる。


「エリスとアリアを借りたい」


「……わかったよ。

とりあえず、これどうにかしてくれれば力になるよう伝える」


「そこは自分で何とかしろって」

(そう……ユリナたちのことはオマエに任せる。

だからオレが全部終わらせてやる!!)

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