五二九話 覚醒への道標
数分前……
四条貴虎と戦うゼロは全身に灰色の稲妻を纏いながら彼と戦っており、真助はゼロを援護するかのように小太刀の霊刀「號嵐」に能力「狂」の黒い雷を纏わせながら貴虎に斬撃を放つが、貴虎は真助の斬撃を止めるとゼロの攻撃を防ぎ、その上で二人を突き飛ばしてしまう。
「くっ……!!」
「くそっ……!!」
突き飛ばされたゼロと真助は体勢を立て直すと構え直し、二人が構え直す中貴虎は二人の力に何故かガッカリしながら言った。
「……オマエらの力は想定内だ。
データを超えるような変化もなければオレの力を上回るようなこともない。
これ以上は無意味だ」
「この野郎……ナメやがって!!」
『ゼロ!!』
貴虎の言葉にゼロが苛立っていると彼の右手首につける黒いブレスレットから精霊・ティアーユの声が響いて来る。
『ゼロ、マスターがタキオン・ドライヴを発動させます!!
新型のクロス・リンクで何とかして私をベースとしたクロス・リンクを纏ってアナタも発動させてください!!』
「……ヒロムのタキオン・ドライヴを利用して倒せってのか?」
『時間がありません!!
急いでください!!』
「……分かった」
ゼロはティアーユからの言葉に従うように魔力でライフルとショットガンを作り上げるとそれを武装に変えて身に纏い、ヒロムが纏ったティアーユとアウラと「クロス・リンク」と同じ装いの武装を纏うと真助に向けて言った。
「真助!!
全身に纏え!!」
「オッケーだ!!」
ゼロが言うとそれに従うように真助は黒い雷を全身に纏い、ゼロは青い輝きを纏いながらショットガンを構える。
「無駄なこ……」
二人が構える姿に貴虎は呆れながら言おうとするが、彼の言葉の途中で突然全ての動きがスローモーションに変わっていく。
「な……に……!?」
異変に気づいた貴虎。
ヒロムの発動させた「タキオン・ドライヴ」。
その影響によって超高速で動くヒロム以外はスローモーションのようにゆっくりとしか動けない。
貴虎もその影響を受けているのだが、ゼロと真助は違う。
ヒロムが「タキオン・ドライヴ」を発動させている「クロス・リンク」と同じものを身に纏うゼロは纏う「クロス・リンク」の恩恵によりヒロムと同じとはいかなくとも普段と変わらぬ動きが可能であり、真助は能力「狂」の力によって「タキオン・ドライヴ」の影響を受けていない。
能力「狂」、その力は触れた能力や魔力を断ち切る力。
つまり真助の纏う黒い雷が触れた魔力や能力の効果を物理的に無効化にするのが「狂」の力だ。
それぞれが各々纏う力によって安定して動けるようになっている中貴虎だけが自由を奪われており、ゼロは十二基のキャノンビットとショットガンを構えると魔力を収束させ、真助は黒い雷を強く纏うと小太刀に纏わせて刀身を鋭くさせる。
「こ……これは……」
体が動かぬだけで意識はある貴虎は何が起きてるのか探ろうとするが、その貴虎を倒すべくゼロと真助は攻撃を放つべく力を強くさせる。
「ゼロ、船への被害は最小限に抑えるぞ!!」
「ならオレが決めるから先手は任せる」
「任された!!」
真助はゼロの言葉に応えるように言うと地面を強く蹴って加速しながら貴虎に接近し、貴虎に接近した真助は彼を蹴り上げると宙に打ち上げられた貴虎に連続で斬撃を放っていく。
「くらいやがれ!!」
放たれた斬撃を防げぬ貴虎はその身に受けてしまい、斬撃を受ける貴虎に狙いを定めるとゼロは収束させた魔力を解き放つ。
「ぶっ飛べ!!」
ゼロが魔力を解き放つとキャノンビットとショットガンから次々に収束された魔力が撃ち放たれ、放たれた魔力は全て貴虎に命中して彼を吹き飛ばしていく。
吹き飛ばされた貴虎は勢いよく船室の壁に激突し、激突するとともに壁を突き破って外へと飛ばされていく。
「よっしゃ!!」
「油断するな真助。
この程度で終わるなら楽な相手だがヤツはそうじゃ……」
貴虎を倒したことに喜ぶ真助に対してゼロが話していると「タキオン・ドライヴ」の影響を受けていた周囲のスピードが元に戻っていく。
何かあった、そう感じたゼロがヒロムの方を見ると……ヒロムは負傷して倒れており、イヴナント!!ヒロムを始末しようと迫っていたのだ。
「あのバカ……!!」
「どうするゼロ?
助けに行くか?」
「当然だ。
真助はまだ生存してるアーミーを潰しつつノアルたちを助けろ。
ヒロムはオレに任せろ」
ティアーユとアウラの「クロス・リンク」と同じ力を纏っていたゼロは元の姿に戻ると稲妻を纏いながら走っていく。
「……世話の焼ける野郎だな、オマエは」
***
そして現在……
イヴナントの迫り来る攻撃からヒロムを守ったゼロは拳を構えながらイヴナントを睨んでおり、ゼロの出現にイヴナントは動きを止めていた。
『……』
「……どうしたデカブツ?
来ないのか?
来ないならオレからいくぞ」
『……』
「返事無しか……。
上等、潰してやるよ!!」
ゼロは全身に強く灰色の稲妻を纏うと走り出し、イヴナントに接近すると連続で拳撃を放っていく……が、ゼロの拳撃を受けてもイヴナントは仰け反ることも苦しむことも無く平然としていた。
「この野郎……余裕って言いたいのか?
だったら……これでどうだ!!」
ゼロは右手に稲妻を集めるとそれを斧に変化させ、斧を装備したゼロはイヴナントの頭を胴から切り落とすべく大きく振るが、イヴナントは翼を大きく広げると羽根を放出し、放出された羽根はビットとなって自在に動くとゼロが振る斧の軌道上に介入して斧を止めてしまう。
「!!」
「ゼロ……!!
そいつは……ビットを使う……!!」
「……そうかよ。
なら……こうする!!」
ゼロは左手に稲妻を集めるとそれを瞬時に槍に変え、さらに魔力の翼を広げると翼から魔力の羽根を放ってイヴナントを真似るようにそれをビットにして操作して対抗していく。
ゼロの放った魔力の羽根のビットイヴナントの羽根のビットを翻弄するように動きながらイヴナントを攻撃しようとするが、イヴナントは肩の装甲を展開すると小型の魔力のミサイルを発射してゼロの魔力の羽根のビットを破壊し、イヴナントの羽根のビットは自身の行く手を阻むゼロのビットが消えるとゼロに襲いかかり彼の体に突き刺さっていく。
「ぐっ……!!」
「ゼロ!!」
「黙ってろヒロム!!
こんなもん……!!」
ゼロは自身の体に刺さる羽根を引き抜くと斧を投擲してイヴナントに当てると距離を取るように後ろに飛び、後ろに飛ぶ中でゼロは稲妻を強く放ってイヴナントの動きを封じてヒロムを立ち上がらせると離れさせようとした。
「一度立て直す。
オマエはひとまず下がれ。
オレが何とかして……」
「待てゼロ。
オマエさっき二人で倒すみたいなこと言ってなかったか?」
「……予定変更だ。
コイツ相手に手負いのオマエは足でまといでしかない」
「……」
「分かったら下がってろ。
オレがなんとかして……」
ダメだな、とゼロの言葉を遮るように葉王が言うと彼はゼロの前に現れ、現れると葉王はゼロの額に指を当てる。
「?
何……」
「黙ってろ。
一瞬で終わる」
「?」
葉王の行動と言葉に疑問を隠せないゼロは彼を見つめていたが、葉王を見つめていたゼロの体が一瞬何やら光を発した。
「!?」
「……インプット完了。
ゼロ、数秒だけ精神世界に潜れ」
「何でだ?」
「オマエの中の精神世界にある物を入れた。
姫神ヒロムを……この状況を打破するためのものをな」
「……信じろってか?」
「姫神ヒロムを殺したいなら信じなくていい」
「……いちいちヒロムの名前を出しやがって。
そこまで言うなら従ってやるよ」
葉王の言葉に渋々従うように言うとゼロは瞳を閉じ、ゼロが瞳を閉じると葉王はヒロムに手をかざすと彼の体の傷を消そうとした。
「因果律の操作に不可能はない。
姫神ヒロム、オマエの傷はイヴナントの攻撃が命中したという事実が無くなれば……」
葉王は話す中で右手をヒロムにかざして光を発し、発された光がヒロムの体から傷を消そうとした。
……が、葉王の発した光は何故かヒロムの傷を消そうとしない。
いや、違う。ヒロムの全身の傷が何故か治ろうとしないのだ。
「……何?」
「ハハハハハ!!
残念だったね葉王!!」
ヒロムの全身の傷が消えぬことに戸惑う葉王の反応を面白おかしく笑うリュクスは彼にある事実を告げる。
「イヴナントの魔力には外部干渉を拒むように細工してあるのさ。
今回のようなキミがオレのやる事に邪魔を出来ないように保険として用意していたけど……そのおかげで姫神ヒロムを追い詰めキミが手出し出来なくできたから大成功だ」
「オマエ……最初からオレの能力の対策を……!!」
「キミが何やら嗅ぎ回ってたのは知ってたからね。
貴虎とカリギュラの面々にキミの能力を明かしたらイヴナントの魔力に細工してくれたよ」
「オマエ……!!」
「それに……もうイヴナントにも干渉出来ないよ」
「何?」
リュクスの言葉に葉王が何を言ってるのか分からないという顔をしているとリュクスは指を鳴らし、リュクスが指を鳴らすとイヴナントは悲鳴にも似た叫び声をあげるとともに全身から闇を放出していく。
放出されていく闇、それを目の当たりにした葉王は舌打ちするとリュクスを睨みながら彼に言った。
「オマエ……!!
ネガ・ハザードのデータまで流用したのか!!」
「元々「八神」のデータを利用してたキミに指図される筋合いはないし、データをどう使おうがオレの勝手。
偉そうに説教するなんて考えるなよ?」
「ふざけたことを……!!」
「ならオレが試してやろうか?」
リュクスの言葉に葉王が苛立っているとゼロが瞳を開けて葉王に言う。
「オマエが言う「あれ」については把握した。
この状況を打破するためのものってのは間違いないらしいな」
「出来るか?
オマエが「あれ」を再現できるかどうかで全てが変わる」
「多少の誤差とアレンジは許容範囲で見逃せるなら可能だ。
ただし……ぶっつけ本番で安定しないだろうから持ってせいぜい三分が限界だ」
「十分だな。
それだけあれば何とかなるはずだ」
「ならやるか……。
ヒロムを頼むぞ」
任せろ、と葉王はヒロムに肩を貸して彼を支えると少し離れるように後ろに下がり、ヒロムと葉王が下がるとゼロは深呼吸して黒いブレスレットに左手をかざした。
そして……
「……ディヴァイン・ドライヴ、アクセス!!」




