五二五話 紅翼、妖しく舞う
「きゃぁぁ!!」
戦いの場から避難しようとしたユリナたちの邪魔をする敵兵・アーミー。
彼女たちの避難の手助けをしようと駆けつけていたセイナは敵を彼女たちに近寄らせぬように撃退しようとするが、数が多く一人ではどうにもならないのか苦戦していた。
「はっ!!」
無数の光の剣を出現させるとセイナはそれを用いて次々にアーミーを攻撃していくが、光の剣の一撃を受けたアーミーは怯みはするものの倒れる気配はない。
それどころかアーミーはセイナの攻撃を受けながらもユリナたちに襲いかかろうと少しずつ足を進めている。
「くっ……このままでは……!!」
止まる様子のないアーミー、ユリナたちとアーミーの距離が徐々に徐々に近づいていく中で危機感を感じ始めるセイナ。
そんな時だった。
「はぁっ!!」
危機感を感じ追い詰められそうになっていたセイナを助けるかのように精霊・フレイとディアナとの「クロス・リンク」に身を包んだヒロムが双剣を構えてアーミーの行く手を阻むように現れると斬撃を放ち、放たれた斬撃がアーミーを吹き飛ばす。
「ヒロムさん!!」
「悪いなセイナ!!
遅くなった!!」
セイナへ謝罪するとヒロムは双剣に白銀の稲妻を纏わせて更なる斬撃を放ってアーミーに追撃を食らわせ、その一撃を受けたアーミーは倒れていく。
アーミーが倒れるとヒロムは構えていた双剣を下ろしてユリナたちの無事を確かめる。
彼女たちにケガはなく、アーミーに襲われることも無く済んだようだ。
「ヒロムくん!!」
「……間に合ってよかった」
「大将!!
まだ終わってない!!」
ユリナたちの無事を確認したヒロムが安心していると彼の後を追って走ってきたイクトがヒロムに向けて叫ぶ。
彼の叫びにヒロムはふとアーミーの方に目を向け、ヒロムが目を向けると彼が倒したはずのアーミーは何も無かったかのように一斉に立ち上がっていき、立ち上がったアーミーはどこからか短剣を出すと手に装備してヒロムに襲いかかろうとする。
「コイツら……どうなってやがる!!」
迫り来るアーミーの短剣を双剣で防ぎながら反撃するヒロム、そのヒロムを助けようと走ってきたイクトはノアルとともにアーミーを攻撃していく……が、三人の攻撃を受けてもアーミーは倒れず、それどころか攻撃を受けてもなお立ち向かってくる。
「何なんだよコイツら!!
大将やオレらの攻撃受けてんのに……何で倒れねぇんだよ!!」
「不気味だな。
ゼロが骨を折って動きを封じても何も無かったかのように平然と立ち上がってたし……コイツらは普通じゃないのかもな」
「そんなの見りゃ分かる!!
問題は……」
「落ち着けイクト。
今揉めても何の解決にもならないだろ」
ノアルの言葉に強く当たるような言い方をするイクトを宥めるとヒロムは双剣でアーミーを次々倒していき、倒しても起き上がるアーミーを見ると双剣を一つに合わせて大剣に変形させる。
そして大剣に白銀の稲妻を纏わせるとアーミーの一人に急接近して大剣を振り下ろして斬撃を食らわせる。
「武装したコイツらの中身が人間かどうかを確かめる方が手っ取り早い」
ヒロムの放った斬撃はアーミーの一人に見事命中し、斬撃を受けたアーミーの纏う黒い装甲を抉り壊し、装甲の下へとダメージを与えていく。
ヒロムの一撃、それを至近距離で受けたアーミーはこれで倒れても当然おかしくないのだが……ヒロムの一撃を受けて装甲の壊されたアーミーは倒れる気配もなく、血を流しながらもヒロムを倒そうと迫ってくる。
「なっ……!?」
「大将の一撃受けたのに……動けんのかよ!?」
「イクト!!
オマエの影の腕でコイツらの動きを止めろ!!」
「……わかった!!」
ヒロムの一撃を受けてもなお動くアーミーに恐怖と驚きを隠せないノアルとイクト。
ヒロムは即座にイクトに指示を出し、指示を受けたイクトは自身の影を広げると無数の影の腕を出現させてアーミー全てを拘束させ、そして腕や足、首の関節を砕くように影の腕を操ってダメージを与えていく。
「これで倒れ……」
腕や足、首の関節を影の腕によって砕かれたはずのアーミーはイクトの思いを裏切るように力任せに体を動かすと影の腕の拘束を振りほどき、関節を砕かれたはずのアーミーは何の痛みもないのか構え直すとヒロムたちに襲いかかろうとする。
関節を砕けば本来は動けない。
だがアーミーはその本来の形すら無視するように動いているのだ。
「マジかよ……!?
確実に関節砕いたのに……まだ動けるのか!?」
「ヒロム!!
コイツらは人間じゃない!!
動きを封じようとしてもオレたちが不利になるだけだ!!」
「……やるしかねぇ!!
イクト!!ノアル!!
さっさと終わらせるぞ!!」
「「おう!!」」
ヒロムが大剣を構えながらアーミーを倒すべく指示を出すとイクトは大鎌を強く握り、ノアルは全身を「魔人」の力で黒く染めて両手の爪を鋭くさせながら黒い鬼のような姿へと変化していく。
完全な戦闘態勢となった三人は人の域を脱しているアーミーを確実に止めるべく走り、接近すると同時に動きを封じるのではなく息の根を止めるべく攻撃を放っていく。
「だぁっ!!」
「はぁっ!!」
「ざりゃっ!!」
ヒロム、イクト、ノアルの三人の命を奪おうとする攻撃を数人のアーミーが受けて吹き飛ばされ、吹き飛ばされた数人の中の一部は体を大きく抉られたり貫かれたりされたことにより完全に動けなくなったのかそこで止まってしまうが、攻撃の入りが浅かった残りは再び立ち上がる。
が、ヒロムは立ち上がるアーミーを倒すべく大剣に白銀、紫、赤、青、黒、緋色、桃色の稲妻を纏わせていく。
「……エンシェント・ギガブレイズ!!」
七色の稲妻を纏った大剣をヒロムが勢いよく振ると七色の稲妻を纏った斬撃が放たれた、放たれた斬撃は再び立ち上がったアーミー全てを容赦なく襲うと吹き飛ばし、敵の体を大きく抉るとそこで動きを止まらせる。
ヒロムの渾身の一撃ともいえる斬撃を受けたアーミーたちは全身を大きく負傷し、倒れると出血しながらそこで立ち上がる様子もなく止まり、それを確認したヒロムたちは安心したような様子を見せかけた。
が、ユリナたちの行く手を阻むように現れたアーミーたちを倒したヒロムたちのもとへと先ほどゼロが倒したのに再起したアーミーたちが増援とも言わんばかりに攻めてきたのだ。
「ちっ……まだコイツらが残ってたか!!」
「大将、どうする?」
「どうするも何も無い!!
コイツらも……」
ヒロムがイクトとノアルに指示を出そうとする中、突然何かがノアルを吹き飛ばし、吹き飛ばされたノアルは慌てて受け身を取って立ち上がる。
何が起きたのか、ノアルはもちろんヒロムもイクトも気になっていたが、その正体は自らヒロムたちの前に現れた。
「……やはり手こずっていますね」
ヒロムとイクトの前へと静かに現れたのは一人の女だ。
仮面をつけて素顔を隠し、長い銀髪の女はメイド服に身を包み両手にガントレットを装備していた。
女の登場、その女が敵だと直感で判断したヒロムとノアルはアーミーが迫る中で女も倒そうと構えるが、イクトはその女を見ると大鎌を強く握って真っ先に攻撃を仕掛けていく。
「オマエか!!」
女に向けて強い敵意を向けて斬りかかるイクトの攻撃を女は簡単に避け、攻撃を避けられたイクトはすぐさま影の腕を放って女を捕らえようとするが、女はガントレットに魔力を纏わせると影の腕を殴り消し、影の腕を消されたイクトはヒロムに向けてこの女について伝えた。
「大将!!
コイツはリュクスに仕えてる女だ!!
ジャスミンって野郎で二年前にキキトを倒そうとするオレの前に現れたんだ!!」
「何!?」
「コイツがここにいるってことはリュクスも近くにいる!!
つまり……四条貴虎やカリギュラの二つにはあの男が関与してることの裏付けでもある!!」
「……だとしたらその女を倒して誘き出すしかねぇな」
「その必要は無いよ」
イクトの言葉を聞いてやる気を見せるヒロムに対して何者かが言葉を発し、その言葉と共に仮面をつけたメイド服の女……ジャスミンの前に紅い髪の男が現れる。
黒いコートに翼を模したような赤い装飾をつけた男、その男をヒロムとノアル、そしてイクトは知っていた。
「……リュクス!!」
「やぁ、姫神ヒロム。
また会ったね」
「会いたくもねぇのにオマエが現れたんだろうが。
けど……この間の借りは返させてもらう」
「借り?
キミに何かした覚えはないけど?」
「オマエのせいでオレの中の偽りの存在が暴れた。
そのせいで悲しまなくて済む人間を悲しませた。
オマエが引き金になったも同然だ」
「クロムのことか?
あれのおかげで強くなれたんじゃないのか?
少なくともキミはあれのおかげでシンギュラリティに達している。
結果オーライだろ?」
「そうか、それがオマエの言い分か?
なら……倒すだけだ!!」
「待ちなよ。
オレはキミからある物を返してもらいたいだけだ。
むだにあらそうきはない」
「何の話だ?」
「イレイザーの残骸から装置を回収したろ?
あれを返せ、あれはオレのだ」
断る、とヒロムはリュクスに対して冷たく告げ、ヒロムの答えを聞いたリュクスはため息をつくと首を鳴らしながら彼に言った。
「……立場を理解しろよ。
こっちは別に暴れまくっても損はしない。
けどキミたちは無駄に傷つけたくない彼女たちという人質つきだ。
それでまともに戦えるのか?」
「……ユリナたちに手を出してみろ。
オマエのその首を切り落としてるよ」
「怖いねぇ……。
威勢だけはいいようだね。
けど……彼女には通用しない」
「あ?
ジャスミンとかいうその女か?」
「違うよ。
キミの相手はジャスミンじゃない……彼女だ」
ヒロムの言葉を訂正するようにリュクスは言うと一枚のカードを取り出して天井に向けて投げ飛ばし、投げられたカードは光とともに何かを放出する。
「なっ……」
「何だよこれ……!?」
「これは一体……!?」
放出されたもの、それを見たヒロムたちは驚きを隠せなかった。
紫色の巨大な機械兵器。
二~三メートル、下手したら四メートルはあろうそれは大きな翼を持ち、大型の爪を有した巨大な腕は膝まで長さがあり、ドーム状の装甲に守られた頭からは赤色のツインアイが怪しく光りながらヒロムたちを見ていた。
「オマエはこんな機械兵器まで生み出してたのか……!!」
「カリギュラの技術を借りたのさ。
それにただの機械兵器じゃない」
ヒロムの言葉に返すように話すリュクスが指を鳴らすと突然紫色の機械兵器の胴部分の装甲が展開されていく。
そして……
「!!」
「識別コード『GX-ZX』、名をイヴナント。
カリギュラのアップグレードと四条貴虎の軍事力を集結させ、人を乗せることで無限に変化し続ける生命兵器となったのさ!!」
紫色の機械兵器……イヴナントの装甲の開かれた胴部分の中から無数のケーブルに接続されたヘルメットを被る女が無数のケーブルを全身に巻かれるように拘束されてヒロムたちの前に姿を見せる。
その様子を……リュクスは狂気を秘めたような表情で話していく。
その様はまるで……