五二四話 斬れぬ謎
真助を吹き飛ばした貴虎はヒロムを倒すべく走ってくる。
「大将、援護するよ!!」
「ああ、頼むぞ!!」
イクトは大鎌を構えるとヒロムとともに走り出し、走る中でイクトは自身の影を操作して無数の影の拳を生み出すと貴虎に向けて放つ。
放たれた影の拳は貴虎を倒そうと迫っていくが、貴虎は次々に手刀で影の拳を軽く叩き潰してしまう。
「背中がガラ空きなんだよ!!」
イクトの影の拳を叩き潰す貴虎の背後から吹き飛ばされたはずの真助が小太刀の霊刀「號嵐」を構えながら接近して斬撃を放つ……が、放たれた斬撃を貴虎は左腕で止める。
斬撃を止めた腕、その腕には一切の傷がなかった。
「はぁ!?」
「ウソだろ!?」
「斬撃を受けて……無傷だと!?」
斬撃を放った真助、貴虎の防御の結果を目の当たりにしたイクトとヒロムは驚きを隠せなかった。
斬撃を腕で止める、通常ならば斬撃を直で受ければ腕など斬り落とされるか重傷を負う。
なのに貴虎は真助の斬撃を腕で止めても何のダメージも受けておらず、それどころか何も無かったかのように平然としていた。
「野郎……何しやがった!!」
真助は自身の能力「狂」の黒い雷を小太刀に纏わせて斬撃を放つが、貴虎はそれをも腕で止めて無傷で終わらせる。
「なっ……またか!?」
「鬼月真助……オマエのデータは既にラーニングされている姫神ヒロムのデータを下回っている。
故にオマエがオレを苦しめるような要素はない」
「なっ……ふざけたことを!!」
事実だ、と貴虎は冷たく言うと真助を蹴り飛ばし、さらにヒロムとともに走ってくるイクトに狙いを定めると音も立てずに彼に接近して勢いよく殴り飛ばす。
「がっ……!!」
「イクト!!」
「黒川イクト……オマエの力もデータ上は姫神ヒロムに劣っている」
「オマエ!!」
ヒロムは白銀の稲妻を全身に纏うと目にも止まらぬ速度で連撃を放つが、放たれた連撃を受けても貴虎はビクともしなかった。
「なっ……」
「言ったはずだ。
オマエの力はラーニング済みだとな」
「ラーニングだと?
まさかオマエ……その力……」
貴虎の言葉から何かに気づいたヒロム。
だがヒロムが気づいた時、貴虎は彼に一撃を食らわせて仰け反らせると勢いよく回し蹴りを放って蹴り飛ばす。
蹴りを受けたヒロムは蹴り飛ばされるも何とかして受け身を取って立て直し、真助とイクトも立ち上がって構えていた。
貴虎を倒そうと構える三人。
構える中でヒロムは貴虎に対して質問をした。
「オマエ……どうしてオマエがカリギュラのデバイスシステムのアップグレードと同じことをやれる?
オマエはどうやって……」
「どうして?
そんなことを知って何になる?
所詮オマエらは何も知らずに倒される。
そのオマエらには関係の無いことだ」
「そうかよ……。
なら力づくで聞き出すまでだ!!」
ヒロムは稲妻を強く纏うと駆け出し、イクトと真助もヒロムに続くように貴虎を倒そうと駆けていく。
が、貴虎は三人が動き出しても動こうとしない。
それどころか……攻撃する様子も防御しようとする様子も見られないのだ。
「野郎……ナメやがって!!」
「その余裕……叩き斬ってやる!!」
貴虎が何もしない様子を前にして真助とイクトは倒そうとやる気になり、ヒロムよりも先に貴虎に向かおうと二人は加速して接近すると小太刀と大鎌で斬撃を放つが、放たれた斬撃は貴虎の体に触れるとそこで止まってダメージを与えられずに終わる。
「な……」
「どうなって……」
「無駄なことを……ふん!!」
真助とイクトの攻撃を「無駄」の一言で終わらせると貴虎は二人に掌底突きを放ち、放たれた掌底突きの衝撃が二人の体を襲う。
「がっ……!!」
「ぐっ……!!」
「オマエらでは話にならない」
貴虎は二人をそのまま突き飛ばすとヒロムを睨み、二人が突き飛ばされるとヒロムはフレイの武装である大剣を装備して貴虎に向かっていく。
「……」
(何かカラクリがあるはずだ。
でなきゃ真助とイクトの斬撃を無傷で止めた説明ができない)
「何かした……それをハッキリさせる!!」
貴虎の体に何かある、そう判断したヒロムは即座に大剣に白銀の稲妻を纏わせながら敵に接近して渾身の一撃で大剣を振り下ろす。
が、貴虎はヒロムの大剣の一撃を素手で止め、大剣を止めた彼の手は一切のダメージを受けていなかった。
「……」
「……どうした?
オマエの本気はこんなもんじゃないはずだぞ、姫神ヒロム。
オマエの本気……オレに見せてみろ」
「悪いがそうはいかない。
オマエのその謎を解き明かさなきゃ何も始まらねぇからな!!」
ヒロムは貴虎を蹴ると軽く後ろに飛び、後ろに飛ぶと同時に大剣を分割して双剣に変形させるとそれを両手に装備する。
双剣を装備したヒロムは全身に白銀の稲妻を強く纏わせながら走り出し、そして貴虎に攻撃を放つその瞬間に音も立てずに消えると目にも止まらぬスピードで貴虎の周囲を縦横無尽に駆けながら斬撃を無数に放っていく。
無数に放たれた斬角は次々に貴虎に襲いかかっていくが、貴虎はそれを避けようとも防ごうともせず全て体で受けていく。
斬撃に襲われる貴虎、無数の斬撃を体に受けている貴虎だがその体にはダメージと呼べるような傷は一切なかった。
「……」
(どうなってる……?
あのラーニングってのがカリギュラのアップグレードと同じだとしてもアイツは生身だ。
生身の人間がどれだけ力を増してもその根底にある人間としての肉体の強度には限界があるはずだ。
まして斬撃を受けても無傷で済むなんて……一体……)
「どうした?
動きが悪くなったぞ」
貴虎の体に一切のダメージが無いことについて考えるヒロムの動きが考えながら動いているがために一瞬悪くなるとその隙を突くように貴虎はヒロムに一撃を放ち、放たれた一撃はヒロムの顔に命中する。
「!!」
顔に攻撃を受けたヒロムの動きは止まってしまい、怯んだヒロムを確実に仕留めようと貴虎は連撃を叩き込んでいく。
「ぐっ……!!」
「どんなにオレが強くなってもそれを上回る……みたいなことを言っていたな?
そのセリフは今も聞けるのか?」
「この……!!」
貴虎の言葉に反応してかヒロムは双剣を強く握ると貴虎の連撃の一つを双剣で止め、すかさず反撃の一撃を放とうとする……のだが貴虎はそれよりも先に更なる一撃をヒロムに食らわせて彼を吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁっ!!」
吹き飛ばされたヒロムは勢いよく飛んでしまうと共に倒れてしまい、貴虎は右手に魔力を集めるとヒロムを手刀で倒そうと迫っていく。
「これが現実。
甘い理想だけのオマエでは現実に生きるオレは倒せない!!」
「くっ……」
迫り来る貴虎とその攻撃を何とかして阻止しようとヒロムは慌てて立ち上がろうとするが、ヒロムが立ち上がろうとするのを貴虎が待つ訳もなく攻撃は迫ってくる。
このままではやられる、ヒロムがそう感じた時だ。
突然貴虎とともに現れた兵士・アーミーの一人が貴虎に向けて勢いよく飛んできて彼の行く手を阻み、それによってヒロムに放たれようとしていた攻撃が止まってしまう。
「……!!」
「ずいぶんと楽しそうにしてるなぁ……。
オレも混ぜろよ」
アーミーが飛んできた方からゼロがゆっくりと歩いてくるなり貴虎に言い、彼は貴虎を冷たい眼差しで見ていた。
よく見れば彼の後ろには貴虎とともに現れた全てのアーミーが倒れており、ゼロはヒロムに状況を報告した。
「雑魚は倒した。
セイナには女どもを避難させる手伝いに向かわせたが文句ないよな?」
「あ、ああ。
大丈夫だ……。
まさか一人で倒したのか?」
「数人はノアルとセイナが倒したが残りはオレが全部潰した。
殺してはいないが骨は数本折っといたから動けないなずだ」
「多少の加減はしてるようだな。
ならいいけど……」
よくねぇよ、とゼロはヒロムの言葉に被せるように言うと続けて彼に言った。
「ヤツが連れてきた雑魚を倒すのに時間をかけすぎた。
そのせいでヤツを一気に仕留めるタイミングを失ってオマエが追い詰められてんだろ?
もっと素早く雑魚を倒してオマエに加勢すれば確実にヤツを止められたはずだ」
「過ぎたことは気にしてても仕方ない。
それなら今は……」
「待てヒロム!!
あれを見ろ!!」
ゼロの言葉を受けたヒロムは立ち上がるなり仕切り直そうとするが、アーミーを倒していたノアルは彼のもとに駆けつけると何故か止めて倒れるアーミーたちを指さした。
ノアルが指さしたアーミー、ゼロたちが倒して戦闘不能にはなったはずのアーミーは一斉に立ち上がり、全身に電流のようなものを流し込むと構えてヒロムたちに攻撃しようと動き出す。
「何!?」
「ゼロ!!
動けなくしたんじゃなかったのか!?」
「たしかに骨は砕いた!!
なのに何で……」
「……四の五の言っても終わらねぇ!!
とにかく今は四条貴虎と周りの敵を何とかするぞ!!」
ヒロムは双剣を構えながら指示を出すと動き出し、敵を迎え撃とうとする中でユリナたちの方を見た。
ユリナたちは七瀬アリサとゼロの指示で避難を手助けするように受けたセイナが誘導して戦場となっているこの場から立ち去ろうとしていた。
「ユリナたちの避難が終わるまでは……」
ユリナたちを無事に避難させようと考えるヒロム。
だがそのヒロムの考えを潰すかのようにユリナたちが避難しようとしている先にある入口からアーミーが数人現れ、現れたアーミーはその入口を破壊してしまう。
「きゃあ!!」
「ユリナ!!」
入口がアーミーたちに破壊され、さらには目の前に敵が存在することによりユリナたちは避難が不可能になり、この最悪の展開にヒロムは思わず動きを止めてしまう。
そのヒロムを見兼ねたゼロはヒロムに指示した。
「ヒロム!!
オマエはノアルとイクトと一緒に女を助けに行け!!」
「……そっちは任せるぞゼロ!!」
ヒロムはゼロの言葉を受けると稲妻を纏ってユリナたちを助けるべく向かっていき、ゼロのヒロムへの指示を聞いていたイクトとノアルもヒロムの後を追うように走っていく。
三人がユリナたちのもとへ向かったことにより、ゼロと真助だけとなった。
この状況に落胆したのか貴虎は呆れながらゼロに言った。
「……オマエではオレは倒せない。
いや、オマエでは相手にすらならない」
「そうかよ。
なら試してみるか?
オマエとオレ、どっちが強いかをよ」
「無駄なこと……。
どうせすぐに終わる事だ」
「なら……やってみろ!!」
ゼロは全身に魔力を纏いながら貴虎に向けて走り出し、貴虎はそれを迎え撃つべくゼロの方へと動き出す……