五二一話 スクランブル・ビーツ
敵の接近を聞いたヒロムたちはパーティー用の衣装から戦闘用の衣装に着替え、ヒロムのもとに集まったガイたちはヒロムの指示を受けようとしていた。
「敵艦と敵機接近までの時間は残り少ない。
どう足掻いても戦闘は避けられない」
「敵の狙いはこの船なのか?」
「この島が特殊機構に守られて衛星にも捉えられない点を理解して攻めてくるのならオレたちの唯一の移動手段であるこの船を狙ってもおかしくない」
「船を守りながら敵を倒す。
簡単そうで難しいな」
「しかも今回は戦闘機も飛んでるんだろ?
上と下から来られるのはこれまで無かったしな」
今回の戦闘の難点に悩まされるシオンとイクト。
そんな二人のそばからゼロはヒロムにある提案をした。
「敵がこの船を狙ってるのならいっそのことこの船を乗り捨てて向かってくる軍艦一隻を奪えば脱出出来るし敵を乱せるかもしれないぞ」
「ダメだ」
「何?」
「この船からユリナたちを避難させても島は完全に安全だと保証できないし、その軍艦を奪われることを想定して何か仕込まれていたら手遅れになる。
今必要なのは確実に敵を倒す術とユリナたちに被害を出さないようにするための策だ」
「甘いことを言うなよヒロム。
ただでさえこっちは包囲されたも同然の中で船も捨てずに狙われたままどうやって戦えってんだ?
理想を語るのは結構だが少しは……」
「現実を見た上での言葉だ。
それに不可能じゃない」
ゼロの言葉に反論するヒロムは何やら考えがあるような言い方をし、そしてその方法について話していく。
「戦闘機に関しては撃ち落とせばいいだけだから射撃が得意なソラに任せれば戦闘機は対応出来る。
軍艦の方は砲撃射程距離にこちらが入らなければいいのならば足止めをする」
「どうやってだ?」
「まず戦闘機の足止めをソラが行っている間にシンクは軍艦に接近して軍艦の周りの海面を凍らせて欲しい。
進路の先に氷があればさすがの軍艦も進めないはずだから時間は稼げる。
その時間を稼いだ間にゼロノートの背中に乗ってガイとシオン、ギンジ、カズマ、夕弦が軍艦まで移動して乗り込んで敵を迎え撃つ」
「おい待てヒロム。
なんでオレが外れてんだよ?」
ヒロムの作戦の提案に対してゼロは不満があるようにヒロムに言い、それを受けたヒロムはその事について説明した。
「軍艦と戦闘機を引っさげて戻ってきたとなれば向こうが何かを隠してる可能性が高いってことだ。
その可能性がある中で「天獄」の数少ない戦力の大部分を軍艦の制圧の方に回すのはリスクが高すぎる。
ゼロ、真助、ノアル、イクト、セイナはオレと一緒に敵の援軍に備えながら船を守ってもらう」
「敵を倒せば済む話だろ?
なのに守れってのか?」
「この船は戦闘艦じゃない。
防衛手段がないこの船は戦闘が始まれば無防備になる。
だからこそ守らなきゃならない」
「……そうかよ」
「けど大将、万が一の時のために姫さんたちには避難する用意だけでもしてもらった方がよくないか?」
「それもそうだな……。
七瀬アリサ、アンタはユリナたちがすぐに避難出来るように用意させてほしい」
「分かりました」
「真助とノアル、ゼロは敵をいつでも迎撃できるように待機。
オレとイクト、セイナは船を守りながら状況に応じて援護だ」
「大将、オレ援護向きじゃないんだけど……」
「文句は言うな。
臨機応変に対応出来る能力だからそうしたんだ」
「了解……」
ヒロムの指示に不満のあるイクトは多少納得いかぬまま返事をし、イクトが返事をするとガイはヒロムに質問した。
「ヒロム、軍艦を攻撃する方の指示は?」
「……暴れろ。
好きなだけ暴れて少しでも多くの敵を引きつけて船に近づけないで欲しい」
「分かりやすい指示だな」
「その方がやりやすいな」
軍艦への攻撃を指示されたガイとシオンはヒロムの指示を受けると明快な指示に納得し、カズマやギンジも頷いていた。
「……仕方ねぇな。
船に向かってくる敵を倒せばいいなら我慢してやる」
「とか言ってヒロムに無理させないように気にしてんだろ?」
「ゼロ、優しいんだな」
ヒロムの指示に文句を言いながらもゼロは指示に従う意思を示し、真助とノアルは素直じゃないゼロに対して茶化すようなことを言うが、二人を注意でもするかのようにヒロムは咳払いをすると全員に告げる。
「相手はカリギュラ……テロリストだ。
何の罪もない人間を巻き込むように攻めてくるようなヤツらに容赦はしなくていい。
ただ一つ……向かってくるヤツらが仕掛けてくるのなら迎え撃て!!」
「「おう!!」」
「キリスとヘヴン、あの二人が現れた時は単独で挑もうとするな。
可能なら援護しあって……」
ヒロムが指示を出そうと話す中、突然パーティーの会場となっていたクルージング船の天井の一部が爆発する。
「!?」
突然の爆発、それを前にして緊張感が一気に高まり、爆発によって開いた天井から誰かが降りてくる。
「狙われる身でありながらパーティーとはな。
危機管理能力がないのか余裕なのか……どちらにしてもふざけているな」
爆煙が広がる中天井より降りて現れた男。
その男の姿を見たヒロムは驚きを隠せなかった。
「何で……オマエが……!?」
「数日ぶりだな姫神ヒロム。
あれから……少しは強くなったのか?」
「何で……何でオマエがここにいる、四条貴虎!!」
男の名を叫ぶヒロム。
名を叫ばれた男……四条貴虎はヒロムのその叫びに何か言うでもするでもなく首を鳴らし、そして冷たい眼差しでヒロムのことを見ていた。
貴虎がヒロムを見ている中、四条貴虎という人物と初めて対面するガイとソラは武器を構え、彼を睨んでいた。
「オマエが四条貴虎か……!!」
「何故ヒロムを狙う!!
貴様ら「四条」はヒロムとは何の関係もないはずだ!!」
「……喚くな雑兵」
ガイとソラが貴虎に対して強い敵意を向ける中、貴虎は二人のことを一括りにするように「雑兵」と呼び、続けて彼は二人に向けて言った。
「オレの目的とオマエらの戦う意味は違う。
それと同じように姫神ヒロムはこの世に生まれた時から狙われるか守られるかの両極の中に存在している」
「そうさせたのはオマエら「十家」のせいだろ!!」
「間違えるなよ。
姫神ヒロムを貶めたのはそいつの親自身だ。
「十家」のせいに仕立てて全てを企てて死んだそいつの親こそが元凶なんだよ」
「テメェ……!!」
「……貴様らと無駄話をするつもりは無い。
姫神ヒロム、大人しくオレのもとに投降しろ。
そうすれば手出しはしないで終わってやる」
「断ったら……?」
「こうするだけだ」
貴虎の言葉に聞き返すようにヒロムが言うと貴虎は指を鳴らし、貴虎が指を鳴らすと爆発で開いた天井の穴から次々に何かが降りてくる。
黒い装甲を武装して鉄仮面をつけた兵士、それが貴虎のもとへと十数人現れたのだ。
「コイツらはアーミー。
「四条」が誇る軍事力の一部を叩き込まれた戦闘兵器だ」
「人間を道具扱いかよ……。
やはり「十家」の血筋なだけはあるな」
「所詮人間は道具だ、氷堂シンク。
貴様が八神トウマを利用して力を蓄えたように人は必ず他人を踏み台にする。
アーミーはその過程でその全てを「四条」に捧げることの代わりに戦闘兵器としての力を与えられている」
「目的のためなら命も捨てるってか……?」
シンクの言葉に対して貴虎が得意げに話しているとその話を聞いたカズマが拳を強く握りながら抑えきれない怒りを爆発させてしまう。
「オマエみたいなヤツらのせいで失わなくて済む命が何度も失われたんだぞ!!
オマエらのその傲慢な思考のせいで……オレたちの大事なものがどれだけ奪われたと思ってんだ!!」
「オレたち……?
それは今この場に人間のことか?それとも……利用されるだけされて殺されたオマエの下っ端のことか?」
「アイツらを……!!
アイツらのことをそんな風に言うんじゃねぇ!!」
貴虎の言葉に感情が抑えられなくなったカズマは走り出そうとするが、真助は彼の前に立つとそれを止めた。
「おっと、行かせるわけにはいかないな」
「どけ、真助!!」
「どかしたかったらどかせ。
その代わり……オレはオマエを殺してでも止める」
「何?」
「忘れんなよカズマ。
たとえアイツらが死んだとしてもアイツらの意志は残ってる。
オマエはその意志を守るために戦ってんだろ?
だったら道を間違えるな」
「アイツらの意志……」
「オマエのやるべき事、今はそれを果たせ。
アイツは……あの男はこっちで何とかする」
「……分かった」
「ヒロム!!
指示を!!」
カズマを説得して落ち着かせると真助はヒロムに指示を求め、それを受けたヒロムは貴虎を視界に捉えた上で全員に伝えた。
「ゼロ!!
オマエが指揮を取ってあの周りのヤツらを倒せ!!
ソラ!!
外の敵はオマエらに任せる!!オレたちがヤツらを足止めしてる隙に何としてでも外に出て迎え撃て!!
七瀬アリサ!!
ユリナたちのことは任せるぞ!!」
「ヒロム、あの男はどうするつもりだ?」
「四条貴虎は……お望み通りにオレが相手になってやる!!」
「……了解だ!!
真助、イクト、ノアル、セイナ!!
派手に暴れろ!!」
「「了解!!」」
ヒロムの作戦の意向を聞いたゼロはどこか嬉しそうに微笑むと指示を出し、指示を受けた真助たちとともにゼロは貴虎のもとに現れた兵士・アーミーを倒すべく走り出す。
……が、その様子を貴虎は黙ってはいなかった。
「抵抗するのなら容赦はしない。
オマエらの意思もよくわかった。
ここで消してやる……やれ!!」
ゼロたちの動きに貴虎は抵抗の意思があると判断してアーミーに指示を出し、指示を受けたアーミーは向かってくるゼロたちを倒そうと迫っていく。
「よしっ!!
オレたちも行くぞ!!」
ゼロたちとアーミーが戦闘に突入するとともにその隙を狙ってソラは戦闘機と軍艦を迎え撃つべくガイ、カズマ、シオン、シンク、ギンジ、夕弦を連れて外に向かおうとする……が、貴虎はそれを黙ってはいなかった。
「逃がすつもりは無い。
貴様ら全員にはこの船とともに沈んでもら……」
「黙れ」
貴虎がソラたちを止めようと動き出そうとしたその瞬間、ヒロムは貴虎が反応出来ぬ速度で接近するとともに蹴りを放ち、放たれた蹴りが貴虎の顔面に直撃する。
「!!」
「四条貴虎……。
戦士としてのオマエの強さは認めてやるよ。
けどな……無関係な人間を巻き込もうとするオマエのその考えはここで否定してやる!!」
「ヒロム!!」
「行け!!
コイツはオレに任せろ!!」
「……頼むぞ!!」
ヒロムの言葉、それに応えるようにソラたちは外に向かっていき、ヒロムはソラたちが行くのを確認すると貴虎を睨んだ。
顔面を蹴られた貴虎は口の中が切れたのか軽く出血しており、血を手で拭うとヒロムを強く睨んだ。
「数日前苦戦してたオマエが強気なものだ。
今回も……オマエを苦しめてやるよ」
「言ってろ。
今のオレはオマエじゃ止められねぇ!!」