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レディアント・ロード1st season   作者: hygirl
天醒乱舞編・覇乱
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五一八話 ショー・イズ・パーティー

 

 パーティーの準備が終わり、一同がそれに相応しき装いに着替え、そして……


 夜になってパーティーが始まった。


 七瀬アリサ主催のパーティー。

 ヒロムたちだけの参加だというのに豪勢な料理が用意されている。


 この日を楽しみにいていたユリナたち、そしてこれまで戦いの続く日々の中にいたイクトたちはこの一時を楽しむべく他のことなど忘れてパーティーに参加していた。


 ……が、ヒロムは違った。


「……」


 普段ジャージしか着ないヒロムもユリナの説得によって今回だけはパーティー用に用意されていた黒いスーツを着用しているが気苦しいのかネクタイは緩めており、そして全体的に着崩されている。


「……」


 ユリナたちがパーティーを楽しむ様子を離れて壁にもたれかかって見守るかのように立つヒロム。


 パーティーに参加しようとせず、ただそこに立っていたのだ。


「……」


「楽しくないのか?」


 ヒロムが一人で立っているとノアルが彼のもとへとやってくる。

 ヒロムと同じように黒いスーツを着用し、ヒロムとは異なりネクタイもしっかり締めて綺麗に整えていた。


 その彼の手には料理が盛り付けられた皿が持たれており、ノアルはそれをヒロムに渡そうとした。


「食べてないだろ? 良かったら……」


「いいよ。気が向いたら食べに行く」


「……オマエが嫌いな魚とかは避けておいたんだがな。仕方ないか」


 ヒロムに渡そうとした皿を受け取ってもらえなかったノアルは残念そうな顔をしており、ヒロムの横に並ぶように立つと皿に盛り付けられた料理を食べていく。


 そんなノアルにヒロムは何気ない質問をした。


「……少しはこの環境に慣れたか?」


「ん?」


「オマエと出会い、オマエがオレたちの仲間になってから半月くらい経つけど、少しはこの生活に慣れたのかなって思ってな。人とは何かを知りたいってオマエは言ってたから、今はどうなのかって聞きたくなったんだ」


「……そうだな。ヒロムの仲間に入れてもらってから色んな人間を見てきた。ヒロムのように無茶する人間や、ソラやガイたちのようにヒロムのために戦おうとする人間、ユリナたちのように誰かを強く想う人間……「八神」や「竜鬼会」のような負の面を持つ人間ばかりを見てきたオレには新鮮で眩しいものばかりだったよ」


「そうか」


「けど……同時にオレは人の脆さを知った。「竜鬼会」のゼアルの襲撃の時、ヒロムは必死になって敵を倒して被害を増やさぬように頑張った。なのに街の人はヒロムのことを悪者扱いだ」


「別に気にしてねぇよ。どうせ嫌われるのは昔からだしな」


「あの事件を終わらせたのはヒロムだ。賞賛もされなければ蔑まれるかのように冷たい扱い、それが人の一面だと言うのならオレには受け入れられない」


「…… 」


「何もしなかった人間が何かをして守ろうとした人間を否定する、これまでの中でそれだけが許せなかった。ここ数日のテレビもそうだ。ヒロムのことをよくも知らないヤツらが知ったふうに話している……それがオレには許せないんだ」


「好きに言わせておけばいいさ。

 オレは別に万人に受け入れられたいわけじゃないしな」


「だとしともオレは許さなかった。まぁ……それだけの話だけどな」


「そうか……そういやノアル、オレはオマエのこと詳しく知らないんだけどよ。もしよかったら今話してくれないか?」


「今話すのか?」


「せっかくだからな。パーティーの雰囲気よりもオマエの話の方が興味あるしな」


「そうか……。なら……どこから話せばいい?」


「話せるところからでいいよ。オレはオマエについて知れるならそれでいいからな」


「……なら始まりから話すか」


 パーティーで盛り上がる会場の片隅でヒロムに促されて自分の馴れ初めを話そうとするノアル。

 彼はまず自分の出自について話し始めた。


「オレの親はどこの誰かは分からない。物心ついた時にはこの「魔人」の力のせいで化け物と呼ばれるようになり、気づけばオレは貧民街に捨てられた。貧民街のゴミ溜めの中に捨てられたオレは飢え死にを免れようとするホームレスがゴミを漁る中にいた幼いオレはわけも分からず真似て食える物を探し、次第に食える物が無くなってきた時にはオレは道端にいた虫やらカエル、それにネズミとかに手を出した」


「ネズミなんて食えるのか?」


「……「魔人」の影響なんだろうな。あらゆるものをとにかく食べようとしていたし、口にしたものが毒を含んでいようが「魔人」の力の前では効果もない。そのせいか蛇とか食べても何ともなかったしな」


「そんな生活によく耐えられたな……」


「耐えてはいないさ。生きることに必死だったし、幸いなことにカエルとか蛇に手を出したらホームレスやら周りの連中はオレに喰われると勘違いしたのか逃げたから生活自体も楽だった。

 それに……捨てられてからしばらくしてファウストに拾われた」


「ファウスト?」


「一条カズキや鬼桜葉王と行動してるマッドサイエンティストだ。あらゆる実験に精通しているあの男とたまたま出会ったオレは「魔人」の力の実験材料として拾われた。それを聞きつけた鬼桜葉王はオレの力を利用していたんだが……あとはヒロムが知ってる通りだ。輸送されるところを何とかして脱出したオレはヒロムと出会い、そして今に到っている」


 自身について語るノアル。

 そのノアルの表情は真剣そのものであり、そしてその口から語られる言葉には嘘偽りなどなかった。


 元々ノアルは嘘をつかない。

 だとしても今の話を聞けば一部の人間は疑うかもしれない。

 だがヒロムは違う。彼の話を真剣に聞いたが故にそれを信じ、そして彼の生い立ちを聞いたことで彼はノアルのことを今までよりも知ることが出来たのだ。


 そんなヒロムはノアルに対して今について訊ねた。


「ノアル、後悔はないのか?」


「後悔?」


「こうしてオレたちの仲間になって日々を過ごしている。あらゆる方面から狙われるオレと一緒にいて戦いが続くことに後悔は……」


 ないさ、とノアルはヒロムの言葉を最後まで聞かずに答え、答えると続けてヒロムに自身の意思を伝えた。


「戦いの中にあるのは昔と変わらない。

「一条」に捕まってた時は毎日のように実験材料として色んな人間と戦わされてた。けど今と昔は違う。あの時は何も考えないで戦ってたけど……今は何かのために戦えるのなら喜んで戦いたいって思っている。彼女たちやヒロム、それにガイたちと接するうちにこの時間がオレにとっての居場所になっている。今のオレにはそんな居場所と守りたいという心の叫びが戦う理由になっている」


「ノアル……」


「……少しカッコつけすぎたな。でも、今話したのはウソなんかじゃない」


「そんなのは話を聞いてれば分かる。オマエが真剣にそう考えてるのが分かる」


「ありがとう。オレの話ばかりもつまらないだろうからオレからも質問させてくれないか?」


「別にいいけど……なにか気になるのか?」


 突然改まったような言い方をするノアルにヒロムは不思議そうな顔をし、ノアルはそんなヒロムにある事……今彼らの中に起きている問題について訊ねた。


「シンギュラリティについてどう思う?アレは……必要だと思うか?」


「シンギュラリティの能力者のことか?」


「ああ。鬼桜葉王がそれについて話したことでオレたちは知り、カリギュラと呼ばれる敵も知っているそれだ」


「必要だと思うかって質問の意味が分からねぇんだけど……どういう意味なんだ?」


 ノアルの質問の意味がよく分からなかったヒロムは彼に聞き返してしまい、聞き返されたノアルはヒロムが分かるように言い直した。


「ヒロムが鬼桜葉王を追い詰めたその要因はシンギュラリティによる成長だと考えることも出来る。現にオレや真助が手も出せなかったあの男をヒロムが一人で追い詰めたからそう言いきれるわけだが、同時にそれはオレたちを惑わしてる気がしてな。

 ついさっきまでシンクやカズマ、それにガイやゼロはパーティーの前なのに特訓していたからな」


「アイツらが?」


「おそらくシンギュラリティに到達するためだろうな。ソラが強引にその領域に達したのが引き金になったのかアイツらは死にものぐるいで何とか到達しようとしてる。それにイクトとシオンもだ。鬼桜葉王の話の通りなら二人は「竜鬼会」の戦いのときにはすでに到達していたことになる。だが実際は「竜鬼会」を束ねていたゼアルはヒロムが倒した。シンギュラリティの話を聞いた後だからかその結果に納得いってないらしく二人も隠れて特訓している」


「そうなのか……」


「さすがにパーティーに顔を出さないわけにはいかないってことでひとまず特訓はやめてるようだが、ゼロとカズマ、シンクは交代で敵の接近がないか見張りながら特訓しようとしてる」


「……けどシンギュラリティの到達によって敵を退けてるのは事実だしな」


 そこなんだ、とノアルはヒロムの言葉に言及するように言うと続けて自分が疑問視する点を言った。


「オレたちは何もシンギュラリティの到達のために戦ってるんじゃない。それなのに今のアイツらはシンギュラリティという到達点の分からないゴールに向かって闇雲に走ってる。オレはそれが何かのきっかけで悪い方に発展しないか気になってるんだ」


「なるほど……オマエはシンギュラリティに到達したいと思わないのか?」


「……オレと真助はシンギュラリティのことは考えないように決めたんだ」


「真助と?」


「鬼桜葉王の話を間近で聞いていたせいかオレも真助もシンギュラリティの能力者に関しては疑心暗鬼な部分もあるし、真助は意識してなれるものじゃないなら気にしないって言ってる。オレは今も言ったように戦う理由がそこにないって考えがある」


「つまり二人はシンギュラリティの能力者に関しては反対なんだな?」


「そうだな。それに……真助が言ってたんだ。鬼桜葉王はなにか行動を起こすときにヒロムの前に現れて重要なことを告げるってな」


「まさか……」


「そう、鬼桜葉王は……」


「ここにいたか」


 ノアルがヒロムに何かを告げようとした時、ゼロがヒロムのもとへとやってくる。


 スーツが用意されていなかったのか彼は着替えておらず、ゼロはヒロムのもとへ来るなり彼に訊ねた。


「アレのやり方を教えろ」


「何をだ?」


「ヘヴンから学び応用したクロス・リンクのやり方だ」


「何だよ急に?アレはオレが……」


「アレはオマエのためのクロス・リンクじゃない。だからオレによこせ」



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